今日は最悪な日だった。



自己紹介が遅れたわね。私の名前はネオン。
職業は魔術師、年は、まぁ、20代後半くらいに見られることが多いかしら。
赤い髪を前髪だけ伸ばして片目を隠してる所がちょっとしたチャームポイントね。
趣味は頭に装備するものを集めること。

そして夢はかわいい女の子を捕まえて、結婚する事!!!!
将来は小さくても使い勝手のいい家で、かわいくて優しい奥さんと暮らすのよ。

あら、誰よ。
今引いたのは。
失礼ね。これでも男よ。
…でもねオカマなんて言ったらぬっころすわよ!?


「ネオンさんのことは好きです。お姉…お兄さんのように思ってました。でも私…ネオンさんの事それ以上には見れそうにありません…ごめんなさい」





…その日、私は97回目の失恋をした。







Deus ex Machina 2






「所詮この世に神はいないんだわ…いても不公平に贔屓してるのよ…」
町の端人気の無い建物の裏に私は一人ちょこんと膝を抱えて座りこんでいた。
恨みがましく指でつまんだ銀色のリングを見る。
今日彼女に渡そうと思って買っていたリング。
だがそれも必要なくなってしまった。

淡いピンク色の髪を二つに分けて結んだ笑顔のかわいいアコライトの女の子。
いつも笑ってくれたのに、最後にはその頬に涙を零させてしまった。

それを思い出して握ったままのこぶしを振り上げて遠くに指輪を投げ捨てる。
「…いいと思ったのに…今度こそと思ったのに……泣かれちゃ無理強いも出来ないわよね」
それを眺めてはぁっ…とため息を吐く。

「時には強引なのも男には必要だぜ?」

ふっと目の前に現れる気配と共に男の声が頭上から降ってきた。
その声にぞっと冷気が走る。
聞き覚えのある声だった。
この前とは正反対の場所にいたと言うのに沸いてくるなんて、下水道にいるゴキブリ並の感のよさの持ち主だわ。
相手の顔を確認する必要も無く私がしたことは口馴染んだ呪文を唱えることだった。
「ファイアーウォール」
「おうわ!」
呪文を唱えた途端に目の前に上がった火柱に男が後ろに引いたのを感じる。
「ソウルストライク」
「げっ」
あらやだ、この男また避けた。
相変わらず素早い男ね。
これは足を止めないと。
「フロストダイバー」
短い詠唱と共に氷柱が地面を走り男の片足を凍らせた。
「お、おいっ、マジっすかっ!?」
それを確かめて、私はうっすらと微笑んだ。
「さよなら。永遠に……ライトニングボルト!」
短く指で呪文を空に書いて発動させた雷は男に向かって一直線に迸った。
爆風と共に煙と氷が舞い散りそれをマントで遮りながら相手を確認する。
だが、止めを刺したと思っていた相手の姿はそこになく。
「いやー…会ったとたんに殺そうとするなんて過激な愛情表現だな。ちょっと髪が焦げちまったじゃねーか」
どんっと後ろから腕を回され顔を覗き込まれた。
「よ、久しぶり!」
男は20代前半。
日に焼けた浅黒い肌。シルバーの髪を短く刈り込んで、精悍な顔には太刀傷だろう――斜めに傷跡が走っている。
タバコを咥えたままにっと悪びれなく笑うその顔は間違いなく一週間前に私のブラックリストの上位に書き連ねた相手…。
ガイアとかいうローグだった。

「こんなところで会うなんてこれはもう俺の恋人になれっていう神様の思し召しだと思うんだけど?」
「生憎、今さっき神様なんていないと思い知ったところなの」
男の腕を振り払って5歩分の距離をとって相対する。
接近戦では力の差がありすぎる。
元々魔術師は遠距離を得意とするのもあって接近戦には弱いが、技とかそれ以前に体力が違いすぎるのだ。
先日のことを思い出し、忌々しさに歯噛みする。
「…そうだ」
一つ忘れかけていたことを思い出して、懐に入れていた金袋を取り出した。
それをそのまま男に放り投げる。
「1週間前あんたが忘れていったお金よ」
先日フェンクリップを私に押し付けるためにおいていった金だった。
また会った時の為に持ち歩いていたのだ。
「忘れていったわけじゃねーんだけどな。」
男は掌でそれをぽんぽん上に投げては受け止めていた。
その平々凡々とした態度に歯噛みする。
「反省の意思はまったく無いわけね…」
「反省?何が?」
本気できょとんとした男にかーっと頭に血が上る。
「人のこと強姦しようとしたくせに、すっとぼけようってのあんた!!!!」
そう怒鳴りつけてやれば、ぽんっと両手を叩く。
「いや、あれは単純にお近づきのしるしじゃねーか。ガキじゃあるまいしキスしたぐらいで目くじら立てなくても良いだろう?ネ・オ・ン」
「いきなり羽交い絞めにあった挙句に好き勝手触られまくって唇強盗にまであったのよ!!!怒るのも当然じゃないの!!!しかも私の名前を呼び捨てにするとは相変わらずいい度胸してんじゃないっ!三途の川の渡り賃も持ってるようだしこれで心置きなくあんたを殺せるわ…っ」
「いや、俺まだ死にたくねーし」
「あんたの都合は関係ない!」
「それにこの金はクリップの代金なんだからあんたのもんだろ」
人の話を聞かないとはこういう事を言うんだわ。
また放り投げてきた金袋を思わず両手で受けてしまう。
「…貰ういわれも無いのよっ」
それをまた投げ返す。
「あのフェンクリップ付けてんだろ?」
乱暴に投げ返した金袋を軽く片手でキャッチしてトンっと自分の胸の辺り――私がクリップをつけている所―を指してくくっと笑う。
その男くさい仕草は女性から見たら魅力的に見えるのだろうが、私にとっては腹立たしいことこの上ない。
何もかもわかってるようなこの態度。
「他に売ってる人がいたら即座に取り替えてるわよ!!!」
そう、おかしなことにフェンクリップを売ってる人がいなくて、自分が持ってるのを売り飛ばしたら手に入らないかもしれない事態に陥っているのだ。
ポタやカプラさんで他の町まで行って探すのもめんどくさくて、そうこうしているうちに今日振られた彼女に会って…、これだ。
ああ、やだわ。また思い出しちゃった…。

「…そうよ、今日はあんたに付き合う気分でもないの…今日は見逃してあげるからとっととどっか行って」
ガイアにしっしと犬を追い払うように手を振って背中を向けて歩き出す。
「つれないねぇ…ああ、何だまた振られたのか?」
ぴしぃっと体から漏れ出でた電撃が走る。

…だから…、デリカシーのかけらも無い無神経な男って嫌いなのよ…っ!!!

「何だ何だそんなめでたいことがあったのか。よし、じゃあ、飲みに行くか?この金で飲み明かすってのも楽しそうだ」
ぐっと襟首捕まれてそのまま後ろに引きずられた。
「え、ちょっと…っ。待ちなさいよコラー!!!!!」
私の必死の叫び声はガイアの笑い声にかき消された。









「あらやだ、流れ星が一杯ね〜」
「おいおい、ひとつも流れてねぇっての。大丈夫かよ…ったく」
ステップも軽く夜の歩道を歩く。深夜の町は月のせいでまだ明るかったが人は殆どといっていいほど歩いていなかった。
冷たい空気が火照った体に気持ちがいい。
月を見上げるように空を仰ぎながら歩く。
「ああ、いい気持ち。久しぶりに飲むとお酒もおいしいわ。まぁ、一緒に飲んだ相手には不満あったけど〜♪」
「…店一軒分一人で飲み干しといて何が不満だよ」

あれからまだ日の高いうちに一軒の飲み屋に入り、最初は抵抗こそしていたがおごりと言うことだしと自棄酒よろしく出された酒を飲み干してきた私である。
出会いは最悪だったがこのガイアと言う男、話してみれば聞き上手でしかもあちこち町を回っているとかで話のネタも事欠かない。むしろ合うと言っても良かった。
出会いは最悪だったが、友人としてなら付き合って楽しい相手だと思うのに時間はかからず。
だがこの男は未だ私を狙っているらしくて。

まさかここまでザルだとはとガイアがぶつぶつ言ってるのがおかしい。
この男も一緒になってかなり飲んだはずなのにうっすらと頬にその名残を表しているだけで歩みにふらつきが無かった。
「あら、やーだ。私潰して何しようっての?狼さん」
んふふふと笑って振り返れば、ズボンのポケットに腕を突っ込んだままガイアが片眉上げた。
「潰れた所で優しく介抱でもしてやれば、好感度が上がるかなってな。まったく当てが外れたぜ」
「そんな事言っといて襲うつもりだったんでしょうが〜」
そうにまにま笑えば、ガイアは自分の胸に手を当ててしれっと
「ま、酒は心を軽くするからな、あわよくばっていう気持ちも確かにあった」
やっぱりケダモノじゃないのよ。
「あははは〜。残念ねお生憎様。私これでも人と飲んで潰れた事って無いの」
「ああ、今日実感させてもらったよ…っておい!」
町にかかる大きな川、その橋の欄干にひょいっと飛び乗るとガイアが慌てて寄って来た。
その慌て振りがおかしくて上から見下ろしてケラケラと笑う。
「何慌ててんの。落ちないわよ、これでもバランス感覚はいいんだから〜」
「酔ってるっあんた間違い無く酔ってんだから、下りとけっ!」
「や〜よ」
欄干から下の川まで3メートルくらいか、川の深さは更に倍はあるだろう。
伸ばしてくる腕をひらりと飛び上がって避けて幅15cmの欄干の上に着地する。
「あぶねってんだろ〜が!!!」
「ほほほほほほ〜」
怒って手を伸ばしてくるのをひょいひょいと避けながら橋を渡っていく。
「何でそんなに身が軽いんだよっ。魔術師の癖にっ!」
「やだわ〜、あんたが遅いんじゃないの?あははは、捕まえてごらんなさいな〜の・ろ・ま・さ・ん・♪」
「このやろう……っ」
欄干の上を身も軽く走っていたが翻っていたマントを引かれた気配に体を引っ張られた。
それに身を捻って腕を払って、――足を踏み外した。
「あら?」
「あああああああっ!!!?」
ふらりと川の方に倒れこんで落ちかけた私の体に太い腕が回されてぐっと引き戻される。
そのままの勢いで二人橋の上に転がった。
衝撃があったが下になったのはガイアの方で私の方に痛みは無く、それがまたおかしくてくすくすと笑った。
「やだ、そう言えば橋の上だったのよねぇ〜」
つい、いつものように払ってしまって欄干から足を踏み外してしまったじゃないの。
肩を震わせてばしばしとガイアの胸を叩く。
「頼むから忘れてんじゃねーよ…」
呆れたような怒っているような声。
他人に心配されることが少なくて、粗雑な言葉でもどこか優しく感じた。
「あのなぁ。こんな寒い日に川に落ちてみろ、風邪引くどころの話じゃなく心臓麻痺でぽっくり逝くぞ」
「落ちなかったんだからいいじゃない。それに落ちかけたのはあんたがマントを引っ張ったからでしょう?あんたのせいじゃないのよ〜」
ガイアの腕に抱かれながら顔を上げて抗議すれば、頭を打ったのかがりがりと掻き毟ってるガイアがうんざりと口元を引きつらせた。
「……命の恩人に対してそういう事言うか」
「人のこと強姦しようとした人が何言ってんのよ」
「…本当あんたって…」
「まったくあんたって…」

「「唯我独尊」」


そう互いに言いつつ二人さっきから気配のちらつく方に目を向ける。
建物の影からぞろぞろと人が出てきた。
さっきから感じていた視線の主達だった。
「…おお、いちゃついてるところ悪いんだがな」
「ヒヒヒヒ」
「ちょっといくらか、俺たちにも恵んでもらえねぇかねぇ…」
ちっとも友好的ではない10人ばかり小汚い格好をした男どもがニヤニヤ笑って立っている。
思わずため息が出るのはしょうがないことよね。
「…あんたって、疫病神じゃないの?」
「…お前がトラブル引き寄せてる様な気がするんだが気のせいか?」
また二人で互いにそんな事を言いながらよっこらしょと立ち上がる。
「この町も物騒になったわねぇ…ここは大聖堂にも近いって言うのに…」
「まぁ、ここら辺は町の端だし悪事働いてもすぐ外に抜けれるからなぁ」
のんびりとそんな事を言ってると、男たちがいらだった様に刃物を出してくる。
冒険初心者が使うようなどこにでもあるナイフだった。
私達が酔っているのもあってこれで勝てると思っているらしい。
「この人数で勝てると思ってんのかよ」
思ってるに決まってるじゃないの。
炎で焼くわよあんた達。
レア、ミディアム、ハード、真っ黒焦げ、どれがお好みかしら。
思わず目が据わる。
「おい、ネオン」
「呼び捨てにしないでよ、ケダモノ」
「あのな…、魔法は使うな。一般人に使うのは禁止されてるだろうが」
思考を読まれていたらしい。
意外とまともなことを言うのよね、このローグ。

確かに町の中で戦闘魔法を使うことは禁じられている。
特に冒険者が一般市民に使って怪我でもさせようものなら冒険者証は剥奪。
最悪檻の中って事にもなりかねないのだ。
そこまではなくとも、冒険者にとってこの証がどれだけ大事か。
もっとも最たる理由は命の保障制度だろう。
冒険者になった時点で配布されるこの証となるカードを持っている限り魔物によって命を落としかけることがあってもこれに帰還の意を伝えればカプラ嬢によって記録した場所に戻ることが出来る。
冒険者レベルを上げるための経験値は削られるというリスクを負うことになるが最悪死ぬことは無いわけだ。
だが、証が無ければ話は別だ。
命の保障は無くなり、致命傷を負えばそこで終わる。
もちろんこのカードを紛失したり破ったりすればそこでカプラ嬢の助けは期待できなくなる。
他にも知人の登録やその他のサービスもこのカードを介して行われるため、冒険者にとって命よりも大事なカードといえた。

だけど…。

「ばれなきゃいいのよ、ばれなきゃ」
んふふと含み笑いを浮かべて前に出ようとした私の肩をガイアが掴む。
「だめだ。万が一冒険者証が取り上げられたらどうする」
その真面目に細められた目に、私も彼を見上げた。
青い目がじっと見下ろしてくる。
「…だったらどうするの?」
とても説得の通じる相手とも思えない。

「黙って俺に守られてみろ」

指を鳴らしてずいっとガイアが私の前に立つ。
「……………」
其れで格好つけてるつもりなのかしら。
まぁ…武器をちらつかせているような輩だから相手もたいしたことは無いでしょうしこの男だったら一人でも大丈夫でしょうけど…。


…それでも、私ってば単純に守られて喜ぶような人間でもないのよね。


しかも今日は97回目の失恋にあって。
こんな強姦魔と酒飲む事になって。
……まぁ、…それでもさっきまではちょっといい気分だったのよ。
そんな所で水掛けられたような感じになっちゃって。
で、まぁ…それで何がいいたいかというと。

「ちょっと…気分を害してるのよね…」

目を据わらせたままポツリと呟いた台詞にガイアが「ん?」と振り返る。
私はぱちんと前で止めていたマントを外してその間抜け面に投げかける。
「お、おい!!?」
「半分ね」
相手は10人。ガイアの顔も立てて半分で我慢してやるわ。
ようは魔法を使わなければ良いんだから。
「あんた、貧弱なくせして何言ってんだ!」
慌ててマントを腕に引っ掛けたガイアにまたぐいっと肩を捕まれたたらを踏む。
「貧弱って何よ!自分がちょっとガタイがいいからって!」
前進した分また後退させられて、その腕を振り払うついでに怒鳴る。
ああもう、邪魔しないでよ!
「だって、あんた…」
そこで、ガイアは黙ってじっと私の上から下までを眺めた。
何かしら。
そんなにしげしげと。
「…おい」
「…ああ」
なにかしら。
男どもまで。
「そっちの別嬪さんには、ちょっと付き合ってもらおっかなー」
「朝までフルコースってかー?」

げらげら笑うその理由に思い当たって私の中で何かがぶちりと切れた。

邪魔なガイアの肩に両手を付いて飛び越えるようにふわりと体を浮かせる。
「私はね…」
そのまま飛び蹴りよろしく男の一人に突っ込んだ。

「男には興味ないのよ―!!!!!!」

「ぎゃー!!!?」
「!!!?」
勢いがつきすぎたのか男を3メートルほど吹っ飛ばして、軽く着地する。
あら、やっぱりマントが無いから身が軽いわ。
そしてくるりと男たちを位置を確認する。
「何だ!!?こいつ!!」
魔術師からいきなり飛び蹴り食らうとは思ってなかったのだろう。
案の定、目が飛び出さんばかりに驚いている男達にほんの少し溜飲が下がる。
「『何だ』ぁ…?人に絡んどいて…何だは無いでしょ!!!」
軽くステップ踏んでくるりと回るように蹴りを繰り出す。
久々に足に感じる衝撃に血が騒いだ。
「ぎゃあああ!!!?」
すさまじい音と共に近くにいた一人がもう一人を巻き込んで吹っ飛んだ。
二人とも橋の欄干に頭を打って伸びる。
爽快感と相まってその間抜けな姿がおかしくておかしくて、ころころと笑いながら
「あ〜ら、ごめんなさいねぇ…?ちょっと加減がわからないみたい…ヒックっ」
あらやだ、動いたからお酒が回ってきたのかしら。
「てめぇ!!!」
「半殺しにしろ!!!!」
何よもううるさいわねぇ…。
「ば〜か、相手との力の差ぐらいわかりなさいな」
これでもね、私は冒険者レベルでいったら最高位をもらえる一歩手前なのよ?
最高者の証を纏うのが嫌で経験値をギルドに上納してなければもうとっくにその位置にはあったと思うけど。
男が飛び掛ってくるのを軽く避けながら隙のある首元に手刀を撃って気絶させる。
がんっと前のめりになって男が倒れた所でその背中を踏みつける。
ちょっと体がふらつくのは思っていた以上に酒が回っているからみたいで。
「おいおい…、こえーなぁ」
その横でガイアが飛び掛ってきた男たちを余裕で殴り倒して、両手に男たちの頭を掴んでは問答無用とばかりに川に放り投げていた。
あら、さっき川に落ちたら心臓麻痺で死ぬとか言ってたのは誰よ。
ま、こんな奴ら、死んだって世の中のためってものだけどね。
「こいつっ!」
「あらら?」
ガイアの方に気を取られているとぐっと腕を捕まれて背後から羽交い絞めに合った。
「てめえっ!動くなよ!!!」
喉に当てられたのは切れ味の良さげなナイフ。
あら、やだ…。油断してたわ。
「おいおい…」
ガイアが呆れたような、引きつったような微妙な顔をしている。
この男が最後の一人だったらしい。残りはのびたり川の中だったりでもうすでに戦闘不能に陥っていた。
「動くなよ!お前もだ!!!」
そう言ってナイフをガイアの方に向ける。
あまりにお粗末過ぎる対応にほうっとため息を吐いた。
「馬鹿ね、こういう時は人質からナイフは離さないようにするもんよ」
「うわぁ!!!」
男のナイフを持った腕に両手をかけてそのまま腰に男を乗せるように引いて地面に叩き付けた。
体重と勢いをつけ、ついでに胃の辺りにひじを入れたそれに、げふっと息と胃液を吐いて男は白目をむいて気絶した。
「それともう一つ、人を外見で判断しない事ね」
最も聞こえては無いでしょうけど。

あっという間に立っているのは二人だけ。
「だらしないわねぇ……、もうちょっとぐらい手ごたえ見せなさいよ〜」
気絶してる男たちの頭を足先でぐりぐりいじめてると背後からマントを肩に掛けられた。
「あら、ありがと」
それを前で止めずに片手で持ち直して肩に引っ掛ける。
「あ〜、久しぶりに動いたわ〜。は〜…いい気持ち〜!」
ん〜っと伸びをして、歩き出すと後ろにガイアが付いてきた。
「…質問してもいいか?」
「なぁによ」
「…あんたウィザードだよな?モンクとかいわね―よな?」
「私のどこがモンクよ。どこから見ても立派なウィザードじゃないの〜。何ならロードオブヴァーミリオン食らってみる?」
指先をぽっと光を宿らせて軽く詠唱呪文を書いて見せる。
「…いや、いい」
「ま、マジ時代は魔法より殴ってた方が多かったんだけど〜。魔物相手に立ち回ってきたのに、そこら辺の人間なんてポリン以下よ〜カスねカス」
そういってほほほと小指立てて笑って見せれば、ガイアががっくりと肩を落とした。
「…………詐欺だ…」
「なぁによ、弱弱しくて守りたいタイプがお好みなら、もう私に絡むのはよしなさい。せいせいするわ」
「ああ…まぁ…想像と違ってたことは違っていたんだが…」
「……?なぁによ」
急に黙り込んだガイアに立ち止まって振り返る。
思っていたより後ろに近寄っていて見上げるようになる。
そんな私の姿を上から下まで眺めて見せてうんうんと頷く。
そして私の腰からお尻までをするっと撫であげてきたのだ。
「いや、やっぱあんたの体、ぞくっとするほど色っぽい…特にここ辺りなんてな。体にそったその服はウィズみんな共通か?誘ってんの?」
その言葉とセクハラにがん!!!!とハンマーでぶったたかれたような衝撃を食らう。

さっきからジロジロ眺め回してるから何かと思えば…っ!!!!

一気に血液が頭に上る。
ガイアはうんうん頷きながらあの人を食ったいつもの笑顔で
「今夜のおかずは決まったな」
「何のおかずよ!!!この変っ態っ!!!!」
さっきまでの熱が散っていないせいか、手加減無しの回し蹴りを食らわせる。
私は体重が軽いものだから相手を蹴るときも衝撃が軽くなりがちなのだがそれを遠心力で補う。
肋骨ぐらいはイクかと思ったが、ガイアは其れを片腕で止めた。
「!」
そのまま横に流す用に前に出てきてそのままひょいっと腰を抱かれた。

身の軽くなった体。
重いマントが肩から滑り落ちてガイアの腕にかかる。
「…相変わらず…手の早い男ねぇ…」
本気の攻撃をかわされた事への驚きと、その優雅な身のこなしに目を見張る。
ガイアがただの無頼者ではと思うのはこんな時。
「褒め言葉と受けっとっておくかな」
片眉を上げて口元を上げて笑うその仕草は、男くさくても彼の自信が見えてひどく魅力的に移った。
青い目が、月に反射して光る。
「褒めてないわよ」そう毒付けば、くくくとおかしそうに笑う。
「………」
ガイアは屈むように晒された肩に口付けてきた。
そして、そのまま上がって顎の下に。
ちりっとした痛みに目を細めた。どうやらさっきのナイフで傷つけられていたらしい。
本当に戯れに触れるだけのそれ。
ガイアのその行為を眺めながら黙ってるのは、お酒が回ってるせいなのかしら。
冷たい風がさらりと肌をなでていくと言うのにそこだけ妙に熱かった。
「…抵抗しねーのか?」
ああ、何だかちょっと目の前がふらつくと言うか…。
「…?ネオン?」
やだわ、こんな男の前で気を失ったら何されるかわかったもんじゃないじゃないの。
ああ、でも何かちょっと限界かも…。
「……だから、呼び捨てにすんじゃないわよ…」
それだけ言ってふっと意識がとんだ。






明るい日差しと、小鳥の鳴き声。
爽やかな朝も今の私にとっては苦痛でしかない。
「…ああ…世界が回る…」
日の匂いのするお布団の中、スーツに包まりながらがんがんと鐘を打つ頭に目を閉じた。
「立派な二日酔いです」
眉を寄せたソラが氷で冷やしたタオルをぽんっと額に乗せてくれるのを感じてうっすらと目をあける。
ああ、…冷たくて気持ちいい…。
「まったく…子供じゃないんだから、酒量の限界ぐらいわかるでしょう?」
「だぁって〜…昨日はちょっといろいろあったんだもん〜」
「…そう言えば…橋の前で喧嘩が合ったらしいんですが、まさか巻き込まれては無いですよね…?」
「あ、ちょっと眠くなっちゃった」
「…ネ〜オ〜ン〜?」
「やだ、ソラ耳元でうならないでよ。頭に響くじゃない」
「もしもって事があったらどうするんですか!」
「きゃあ〜!!響く〜!!!」
そのまま逃げるように布団の中に潜り込む。

ここはソラの工房兼自宅だった。
ガイアが昨日意識不明に陥った私を担いでここまで運んでくれたらしい。
目が覚めたら剥かれているんじゃないかしらと心配していたのだが、どうやらそこまで飢えていた訳じゃなかったらしく私は綺麗な体のままここにいる。
どうしてここなのかと疑問に思ったが、その疑問をすでにガイアにぶつけていたのだろう。
「ネオンの宿は知らないし…何でも前にここに出入りしてたのを見かけたらしくて」とソラが答えてくれた。
馬鹿な男だわ。
人の体が目的みたいな事言っといて、気を失った相手に手も出さないだなんて。
それを期待してるわけじゃないけど、今まで近寄ってきた奴らとはタイプが違っててやりにくいったらありゃしないじゃないの。
目を閉じればあの人を食った笑顔が浮かんできた。
どこまでも悪びれないならず者。
気を失う前に優しく抱きしめられたまま肌に触れたあいつの唇を思い出す。

「…やっぱり、あいつ…殺しといた方が良いような気がするのよね…」

何だか嫌な予感がするのだ。
どこまでも人を巻き込んでいくようなああいうタイプ。
…自分もそう言われる事があるのは置いといて。
ああいうのに巻き込まれてしまえば後は…。

「ああ、やだわ。ものすごく悪い予感がする…」

頭痛を抱えながら私はそれ以上考えたくなくてもう一眠りするために目を閉じた。

私の好みはいつも微笑みを絶やさない可憐で清楚なほっそりした美少女なのよ。
暖かい空気、柔らかな仕草。
間違ってもごつくてでかくてむさくるしくていいかげんな男なんて論外よ!!!


そこまで考えてぴたりと思考を止める。
ふっと思いついたことがあって、もそもそと布団から顔を出す。
「…ねぇ…ソラ…あんた実は女の子でしたなんてオチ持ってないわよね…?」
だったら私の理想の殆どをこの人物が持っている事に今更ながら気が付いた。
「何言ってんですか。僕のどこが女性に見えます?」
そう腰に手を当てて胸を張るソラのはだけたシャツから除くそこは見事なまでに真っ平らで。
「何よもう、あんたが女だったら問答無用で結婚申し込むのに〜!!!!」
そう言って歯噛みしてると
「ああ、…でもそれは無理ですよ?」
「え?」
何が?と思って顔を上げて見せれば、ソラが自分の胸の前で何度も指を組み変えながら頬を染めて俯いた。

「だって僕にはバーン君がいますから」
「………………………」

バーンと言うのは…ソラの10歳年下の恋人で。
男だったりする。
今はこうして相手を想って幸せそうに笑える関係に治まっているけれど、こいつらがくっ付くまで紆余曲折があったことを私は知っている。
ソラは前にいたギルドのメンバーを全員亡くしていて、人当たりは良いけれども一歩踏み込んだ人付き合いというものに臆病な所があった。
案の定向こうからのアタックに精神的に吐く位に思い詰めてしまい、そこまで苦しむ彼にアドバイスしてみたこともあったし、偏見は欠片も無いし、当時は彼に大切な人が出来たことを心から喜んだけれど…。

だけどね…?


「…頼むから失恋したての人の前で惚気ないでくれない…?」


泣きそうなほど引きつった頬を枕に沈めながらこの私がそれだけしか言えないなんて。
この私がっっ。

…結局は天然には誰も勝てないのよ。
そういうもんなのよ。
ああもうっ、これも失恋って言うの?
98回目の失恋?
なんてこと、最短期間記録を更新したわ。

二日酔いの頭が更に悲鳴を上げた。





……ああ、神様。
いてもいなくても良いから祈らせてください。

日々を清く正しく慎ましやかに生きている私に
いつかこんな風に惚気れるかわいい恋人をどうかよろしくお願いします。





…ついでに幸せそうなこいつらに、嵐を一つ出前してやって。










…AND CONTINUE?



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

魔術師のマントって重そうだなぁ…でもって、中身細いよなぁ…などと考えてでいたこの話。しかしネオンさんの高笑いが聞こえてきそうですよ…。おかしい…ウィズはもやしっ子のはずなのに…。こう魔物ぶっ叩いているマジさんに一目惚れしたこともあるんですがね。いやはやいやはや…。ほらこのシリーズはギャグなんで。もう、おかしな人しかいないんです…。(遠い目)


読んで下さいました皆様に感謝。
では。

トナミミナト拝















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