君に言えない秘密がある。

誰にも言うつもりは無い。
墓まで持っていく覚悟がある。
だけど。
君が俺の事を綺麗だというたびに、胸に落ちるものが大きくなっていく。

あの日、凍らせた筈の罪悪感が蘇る。












ANGELIA








窓から昼前の柔らかい日差しが入り込む。

明るい室内に置かれたベットの上でランが体を起こしていた。
そのベットの端にはカイが、そしてもう一人。
BSのソラが椅子に座って二人に向かい合っていた。
「…じゃあ、ラン君は属性も含めていろいろな武具を持ったことがあるんですね。今まで使ったものの中で一番使いやすかったのは何ですか?」
「…ジュル」
「最近まで持っていたあれですか?」
ランがこくんと小さく頷く。
それにソラは目を細めて穏やかに微笑む。
これは、僕が武器を作る時には誰にでもお願いすることなんですけどと前置きを置いて掌を上にしたまま差し出す。
「ラン君、手を…貸してくださいませんか?」
だが、それにランは肩をすくめるようにしてベットに座ったまま後ろに引いた。
横に座っていたカイが何か言おうとするのをソラが目で制する。
「僕はあなたに危害を加える人間じゃない。でも味方でもない。今の僕は、君に武器を与えるだけの存在です。君は、武器が欲しいのでしょう?」
「………」
ランは黙ってソラを見る。
その目をじっと見ながら、ソラはさらに腕を伸ばす。

だが、いつまでたってもランは手を出さなかった。

先に根を上げたのはソラだった。
ふにゃんと笑って腕を下ろす。
「分かりました。今日はこれで帰りますね。今度はもう少しお話しましょう」
椅子から立ち上がってカイに視線を向ける。
その目に含まれたものに頷いてカイも立ち上がった。
「ラン、お昼持ってくるから。ああ、そうだ。これあげる」
持っていた卵孵化機にセットされているタマゴをランに渡す。
「……?」
「見たこと無い?後で説明するよ。すぐ戻ってくるから待ってて」
ランは両手で孵化機を抱いたままカイを見上げる。
その額にキスされて、肩をすくめた。
その目にはまだ戸惑いと恐れがあったのは見なかった振りをする。




部屋を出てすぐにソラがじっとカイを見上げた。

「カイ君。僕は手向けの剣は打ちませんよ」

「ソラ…」
「ラン君の心はここじゃない所にある。武器など欲しくないかのように……むしろ彼のあの目はまだ死を望んでいるようにさえ見えます」
「…………」
「属性武器を使った二刀流より既に型の出来てるカタールを望むのなら、商人として手配は出来ます。ですが、僕は彼には渡したくありません」
「…………」



ここ数日立て続けにランが逃亡を図るようになった。
首に掛けているクルスを頼りに、捕まえては引き戻しその理由を問いただすのだがなかなか口を割ろうとしない。
ただひたすらに震える声で元いた場所に戻りたいのだと言い続けた。
そこに何かあるのかと問えば首を横に振り、理由を問えば黙り込む。
あそこに何があるにしても、武器も持たないアサシンがフェイヨンになど命知らずもいいところだ。
ランもそれは分かっている。
むしろそれこそ望んでいる節さえ見えた。

押し留めても徐々に衰弱していく彼の様子にカイは焦りを感じていた。
逃げようとするものをいつまでも引き止めておく事は出来ない。
だからせめて武器をとソラに依頼した。

…そして結果がこれだ。



「…カイ君…焦ってもいい結果は出ませんよ」
ソラはカイの焦りに気が付いているかのように眉を潜めている。
カイはソラのこの目が苦手だった。
始めてあった頃から何もかもが見透かされているようで。
今回も視線をそらして俯く。
それにソラは小さく吐息をついた。
「…君にとって、ラン君はどういった存在なんですか?」
「…俺にとって…?」

ランは天使の姿をした子供だった。
金色の髪、朱玉の瞳。整った顔立ちは今だ無表情で人形のようではあったが、泣いている時にだけ人の顔に戻った。

ランは代々アサシンの家系の中で生まれた天才児だった。
幼い頃から2年前まで死というものすらわからぬままに何十人となく人を殺していたのだという。
そして、…ある日家に伝わっていたというトリプルクリティカルジュルに魅入られた。
妖刀の域にあったそれを半場自我を無くしたまま振るい、親兄弟その一族すら皆殺しにしたのだという。
そして町の中で彷徨っていた所で捕獲され、漸く自分に欠けたものがあるのだとぼんやりと知った時に下された裁断は「町からの追放と自決の禁止」。
大人達に囲まれ受けた誹謗中傷はまだ無垢な幼子の心に焼きつき、人を恐れさせるようになった。
裁決を下した人間はおそらく子供が町から追放されて一人生きてはいけない事をわかっていたはずだった。
要するに魔物になぶり殺しにされろというその裁断を下したのは教会だったのだと言う。
人に愛を説くその口で人を断罪する教会に吐き気を覚えるのはこんなときだ。

アサシンとプリーストの間にはその職柄上昔から水面下のいがみ合いが続いていた。
特にシーフやアサシンギルドのあるモロクで生まれ育ったランはプリーストへの嫌悪をあらかじめ刷り込まれていてもおかしくはない。
おそらく恐れと嫌悪の対象でしかないはずのプリーストの自分に、何故ランが神聖の眼差しを向けるのかわからずに話のついでのように紛らわせて聞いたことがある。

ランは自分でもわからなかったようで少し考えて、ふと戸惑うように呟いた。

「暖かかったから」

抱きしめられることも無く、ぬくもりと言うものを知らなかった子供は表情も変える事無くそう呟いた。


温もりを与えればいいのだと思った。
暖かさだけ与えていればいつか凍った彼の感情は溶けるのだと。
そう思って、彼が逃げるたびにひたすらに彼の体を求めた。
その行為の意味を教えた。

だが、…何度抱いても行為の最中にランの腕が自分に伸ばされる事は無かったのだ。



ガターン!!
部屋の中から何か落としたような大きな音がして我に返る。
「ラン!?」
驚いたカイがドアを開けた。

そして見たのは。
ベットの上で、暗器だろう…先の尖ったクナイを振り上げたランと、その先にいた子デザートウルフ。
ベットの下には落ちて壊れた孵化機と殻だけの卵が転がっていた。

ランの見開いた目の中に狂気の色が濃く淀んでいる。
フェイヨンで見たあの目だった。

「ラン!駄目だ!!!」

仔デザートウルフを守ったわけじゃない。
ただ、ランにこのまま武器を使わせたくなくて手が出たのだ。

「!!!!」

ズクっと掌を貫通する冷たい感触と衝撃を受けた。
視界には自分の掌の甲から突き抜けている血まみれのクナイが10センチほど見えた。
手の甲からクナイが生えている様な錯覚さえしてしまう。

「……っ!!!!!」

目を一杯に見開きランの唇が声にならない叫びをあげた。
何が起こったのか理解したその手がカタカタと震え出す。
おそらくアサシンとしての習性だろう。武器であるクナイは握られたまま固まってしまっているようだった。
カイは衝撃の後にじわじわと襲ってくる痛みに眉を潜めながら出来るだけ刺激しないようにランの手をその握られたクナイごともう片手で覆った。
口馴染みのある祝詞を唱えて、ランの手と一緒にそれを一気に引き抜いた。
「!!!」
「ヒールっ」
栓が抜かれたことで一気に溢れ出す血液が癒しの力によって徐々に治まる。
激痛はまだあったが奥歯を噛んで耐えた。
ここで声を出せば、ランが傷つく。
「…っ……っ!!!!」
自分が傷を受けても顔色一つ変えないランが今は真っ青になってがたがたと震えていた。
混乱しているうちに握られていたクナイを空いてる手で払った。
高い音がなって、クナイが地面を転がり部屋の端で壁に当たって止まる。
「!」
弾かれたようにランがもう傷の塞がったカイの手を握った。
そのままカイの掌の傷を自分の口元に持っていく。
自分からけして触れようとしなかったランが。
カイは目を見開いてそれを見ていた。

掌の傷の上を何度も生暖かい舌の感触がたどる。
自分の顔が血まみれになるのにも構わず必死になっているその姿は、どこか傷ついた獣が傷を舐めて癒すように見えた。

……ああ、そうか…ランにはこれが日常だったのだろう。
カイは目を細めた。
怪我をしても薬や魔法など必要とせずに。
ただこうして傷口を舐めることしか知らなくて。

「………」
部屋に入ってきていたソラに視線だけで外に行くように促す。
呆然としていた彼がはっとしたように頷いて出て行きドアを閉める。
部屋の中には二人だけになった。
「…ラン」
まだ必死になって傷口を舐めるランを怯えさせないように口を開く。
だが彼は聞こえていないかのようにその行為を続けている。
「ラン」
空いたもう片手でランの顔を隠す前髪を撫で上げると、びくっと弾かれたように肩が震えた。
「ラン、大丈夫。傷は塞がっているから」
そう言っても彼は首を横に振るだけだった。

きゃんっ

カイが間に入って来た事でベットから転がり落ちた仔デザートウルフがシーツに爪を立ててよじ登ってきた。
傷付けられそうになったのに怯えが無いのはきっと刷り込みのせいだろう。
またランの顔色が変わって服の中に仕込まれた暗器を出そうとしたのと抑えて止めさせる。
「大丈夫。たしかにこいつは魔物だけど魔気を祓って人のペットに出来るようにしたものだから。こいつは敵じゃないんだ」
おそらくこういったペットの存在すらしらなかったのだろう。
こいつに敵意は無いのだという事をランに知らせるためにカイは寄って来た仔デザートウルフの頭を撫でてやる。
気持ち良さ気に首をすくめるが、その目はランの方を向いていて本当はこっちに触られたがってるのが良くわかる。
どうやらこいつはランを自分のご主人と決めたらしい。
「ランはいつものように行動しただけだろう?魔物がいたから殺そうと思っただけだ。何も悪いことじゃない。話してなかった俺が悪かった。驚かせたね」
一句一句言い聞かせるように言いつつもう塞がったとわからせるようにシーツで血を拭って見せた。
うっすらと傷跡が残っているだけのそれにランは俺の手を離して俯いた…。

「……やっぱり…戻る」

「ラン?」

「俺はあんたのそばにいられない。いる理由が無い。それにいたらまた同じように…今度はあんたを殺すかもしれない…っ」

自分の首元あたりを服の布地ごと握り締める。
そこにあるのは先日彼に渡したクルスだった。

ランの頬を伝った雫がシーツに落ちる。
まるで祈りをささげているかのように見えた。

ランは過去の出来事を繰り返す事を恐れていた。たぶんカイが思っている以上にそれはランの中に深く傷を作っていたのだろう。
何よりもカイを傷つける事を恐れていたのだ。

「………死なないよ。ランはまだ知らないことが多くて混乱しているだけだ。俺が教える」
そういい含めてもランは首を横に降るばかりだった。
その体を抱き寄せて髪を優しく撫でる。

「それにね…俺は死なないよ」

どうしても、死ねない理由がある。

「俺にはどうしても殺さなければいけない奴がいるから」

「……」
ランの目が驚きに見開かれた。


……君に話そう。
それで嫌われても構わない。
君が離れようとしても構わない。
むしろそうであるべきなのかもしれない。

だけど、君と離れたくないという俺のわがままを貫きたかったらこうするしかない。
何を置いても君を手に入れたいと思ったのは誰でもない自分なのだから。


「12年前…俺は母を目の前で殺され、家を…町を焼かれ、何もかもを奪われた」

激情を抑えようとすればするほど声は冷たくなっていく。
一度だけみた姿を思い浮かべ奥歯を噛む。
紫のオーラと瞳を持った白髪の男。
明らかに人間ではないあのまがまがしい姿。
俺を見て確かに笑ったあの…魔物。

そう、すべてはあの白色の記憶から始まった。
それまでは本当に平凡で平和な町だった。
大きな町からそんなに離れていないのどかな宿場町。
日々冒険者達が訪れていたが、自警団もあって表面は何の問題もなく人々は暮らしていた。
だがそれは一瞬にして消えた。
白い火柱が何本も立ち、高温で焼かれた町は地面に黒いすすを残すだけ。
骨すら残らなかった。

町に使いに出ていた俺とバーンは町の残骸を呆然と眺め、…そして宙に浮くあいつに気が付いた。
熱の余韻で出来た陽炎の中で立っていた白髪の魔物。

人型を取ったそいつのマントの影に抱かれるように目を閉じていたのは自分の母親の首だった。

母はプリーストで町の病院を手伝っていた。
子供から見ても線の細い少女のようなあどけなさを持った人だった。
俺が守らないとと子供心に感じていた。

だが、それは叶えられなかった。



「そいつは、かなり強い力を持つ魔物で、でもどこにいるのかわからない。どこにも記録すらなく、名前すら知らない。もしかしたらまだ見つかっていない場所にいるのかもしれない。でも必ず探し出して殺すと誓った」


ランの目が見開かれ呆然と自分を見ているのに気が付いた。

「…がっかりした?こんな聖職者で…」
ランの血に濡れた頬を撫でる。
体温で乾きかけたそれはランの白い肌に良く映えた。
綺麗だと思う俺はもうどこかおかしいのかもしれない。
「おかしいよな…剣も使えないし、魔術師のような強力な呪文は殆ど無い。自分の身を守ることすら難しいというのに…それでも俺はこの道を選んだ」
それは、この血を否定するために。
そして、もし自分に流れる血が人じゃないものに寄った時に自分の手でけりをつける為に。

思わず漏れた自嘲にランが頬に添えた手を握った。

「だったら俺が…守るから」

強く握られたそれはまだ神経が鋭敏になっていて痛みが起こったが、黙ってされるがままにした。
ランは俺を見上げたまま震えていた。
濡れたままの朱玉の瞳に今までに無い強い意思を感じてカイは言葉に詰まる。

「…俺が、あんたの盾になる……剣になる…」

その朱玉の瞳が揺れる。

「そして…いつかそいつに会ったら、俺が殺すから…カイの手を汚させたりしない……」

血で汚れた頬を綺麗な線がまたたどって、シーツに散った。
ランに握られた手はどちらのせいなのか分からないくらい震えていた。

「…からっ……だからっ………そばにいて、いい…?」

小さい声で、必死に紡がれた言葉にカイは声を失っていた。





――――ああ、そうだったのか。

温もりを与えればいいのだと思った。
暖かさだけ与えていればいつか凍った彼の感情は溶けるのだと。
そう思って、彼が逃げるたびにひたすらに彼の体を求めた。
その行為の意味を教えた。

だけど、それだけでは駄目だったのだ。

彼は感情だけで動ける人間ではなかった。
感情で繋がる人との繋がりを知らなかった。
家族の無償の愛情すらなかったのかもしれない。
家族だから、恋人だからという理由の中で生きて来たわけではなく、ただ与えられる命令だけを純粋に消化していった。
それをこなす事でしか生きる意味を持たなかった子供。
彼にとって、ただ好きだという感情だけではその場所に留まる理由にはならなかったのだ。



カイに向ける好意と存在するために必要な理由付け。
ランは自分の中の矛盾に苦しみながら漸く答えを出せたのだ。


カイはランを胸の中に引き込みその髪に顔を埋める様にして力任せに抱き締めた。



俺は、きっと地獄に落ちる。

どこまでも純粋で、無垢な子供を自分の復讐の為に引きずり込もうとしているのだ。
いまさらながらその罪に痛みを感じた。

そしていつか…真実を知ったとき、ランはどう思うだろう。
まだ君に話せない事がある。

呪うほどまでに憎むあの魔物の血を俺が引いている事。
この体の中に確かに魔物の血を受け継いでいること。

初めて君を見た時、その剣先が血の流れるさまが美しくて見惚れた。
一緒に堕ちるなら君がいいと思った
もし、死ぬなら君に殺されたいと思った。

だから…、君の命を救った事。



ランの手が自分の背中に回された。
その時が来たらきっと俺は幸せな気持ちになれるものだと思っていた。

だが、実際胸に残ったのは罪の意識だけ。

それでもこの腕を離せない矛盾に胸が焼けた。




神様など信じてはいない。
だけど人はふいに誰かに祈りたくなるのだ。


自分以外の人の幸せを祈りたくなるのだ。








落ち着いてから、カイとランは1Fに降りた。
寝室の下は食堂になっていてそこからおいしそうな匂いと騒がしい笑い声が聞こえた。

まだ少し人の気配に警戒しているランの腕には仔デザートウルフが抱かれている。
足元で遊ばせていてもよじ登ってくるのだ。
恐る恐るといった具合で落とさないように抱いているランに、カイは優しい視線を向ける。

「お、来た」
二人が現れた事によって食堂の中に居た人間達の視線が集まった。
「飯もうすぐ出来るからさ」
鉄甲を外して何故だか鎧の上にエプロンをしているバーンは大皿料理をテーブルに乗せている。
それを手伝っているソラ。
そして見覚えの無い妙齢の女性達が三人、椅子から立ち上がって歓声を上げながらランの前に走り寄って来た。

「まぁ…本当におかわいらしいですわね」
頬に片手を添えてうっとりと微笑むのは青い髪を腰まで伸ばした20歳くらいの女プリースト。
頭には天使のヘアバンドをつけている。
「うっわー!フェイヨンで魔物殺しまくってたって言うからすごく怖いの想像してたんやけどなぁ。カイ兄がベタボレなのもわかるわー超美人さんやー!!」
まだ14・5くらいだろう。オレンジ色の髪を頭の両端でくくったアーチャー。
「ふむ。金髪に朱玉の瞳か。また高く売れそうな組み合わせだな。」
三人の中では一番年上25・6に見えるシルバーパープルの髪の一部を三つ編みにして垂らしてるアルケミスト。

その三人から眺め回され顔色が悪くなっているランは、後ろからカイにしっかり肩に腕を回されてなければこの場から逃げ出していたかもしれない。
腕の中の仔デザートウルフも耳を寝かせている。
「天使みたいだろ。ラン紹介するよ。俺が入ってるギルドのメンバーの三人。サクヤ、レイリン、アケミ」
前半だけ女性陣に言いながら、彼女らをランに紹介する。

「サクヤは性格がひねくれているからいじめられないように」
「まぁ、あなたには言われたくありませんわ」

「レイリンはダンサー目指してる」
「はいな。あ、兄って言ってるけどほんまもんの兄弟ちゃうから。これうちの癖なんよ〜」

「アケミには近寄らない方がいい。変な薬の実験台にされるから」
「昨日できたばかりの新薬食らいたいのかな、カイ」

「ま、…ダンジョンに行っていたり他の町に在住していて何人かいないけど」
そう言ってカイはランを見る。
「とりあえず一人でこの三人に近寄っちゃいけないよ。食べられてしまうから」

「「「あんたがいうな」」」
高い声が三人分綺麗にそろって、ランの髪にキスしているカイに突っ込みを入れる。

それをしっかり聞こえない振りしたカイは顔を上げてソラを見る。
「ソラ…」
カイの声に、ランもソラに視線を向ける。
そしてカイの腕の中から離れてゆっくり彼の前まで歩いていった。
「………」
ソラの前に立ったランは、ちょっと戸惑った後に片手をソラに向かって差し出した。

人をあんなに恐れていたランが。

カイは目を見開いてそれを見ていた。
それはソラも同じだったようで、だがすぐにランの言えなかった事を読み取ってその手を両手で優しく包み込む。
「わかりました。また後でゆっくりお話しましょう?」
そういって微笑むソラにランはほっとしたようにこくんと頷く。

武器を望まなかったランが、それを必要だと感じてくれたのは自分を守るためなのだろう。
カイはそれにどこか苦いものを感じながらも生きる意思を見せてくれたことに安堵した。


「ああ、そうだ…ラン、さっきも話してたんだけどさ。俺達のギルドに入る気は無い?」
バーンはエプロンの端で手を拭きながらランを見る。
その所帯じみた所がまた何故だかしっくり馴染んでいて笑いを誘う。
「ま、ギルドって言っても基本的に何もしないけどさ。砦が欲しいわけでもないし、みんな好き勝手してるし強制する奴も誰もいない。おれも押し付けられてマスターになってるだけの、ま、レベルもばらばらで気の合う奴だけ集まったギルドって感じなんだけど」
もう既にカイとバーンの間では話があっていたのだろう。
バーンが自分の懐から折りたたまれた一枚の紙を取り出す。
「一応ギルドマスターとして歓迎する。君が望むのならここにサインすればいいから」
そう言ってバーンはペンと一緒にそれを差し出した。
「………」
初めて聞いた言葉に戸惑いを隠せないランはそれに手を伸ばせずにいた。
ためらうように視線をカイに向ける。

「………俺は、カイと一緒にいたいだけ…。それでもいいのか?」

「………」
しんと皆の言葉が途切れる。

カイが黙ってぎゅうっとランを両腕で抱き締める。
ランの腕の中で押し潰されかけた仔デザートウルフが抗議のためか一声鳴いた。
「????」
ランはカイの腕の中で首を傾げている。

「かっ、かわええ〜なぁ…」
まるで小動物を賞賛するかのようなアーチャーのレイリン。
「いい感じに手懐けてますわねぇ」
頬に手を添えてうんうんと頷いているプリーストのサクヤ
「聞いてるこっちが恥ずかしくなってしまいますね…」
頬を染めてほうっとため息をつくBSソラ。
「うーん、興味深いな」
腕を組んでニヤニヤと笑っているアルケミストのアケミ。
「アケミ、頼むからランには手を出すなよ。カイから殺されるぞ」
普段からろくな目にあっていないだけに言葉に重みのあるバーンだった。





ランがギルド承認書の用紙に自分の名前を書く。
その字はほのかに光って紙に定着した。
「ん、これでオッケー」
バーンはそれ確認して頷いた。
「ギルドDeus ex Machina(デウスエクスマキナ)へようこそ、ラン」
「「「「ようこそ〜!」」」」

「エンジェライズ」

拍手と共に待ち構えていたかのようにタイミングよくサクヤの祈りが高まり、空に祝福の鐘が鳴った。
高らかになるそれと皆からの祝いの言葉に驚いたランがカイの腕を握る。

彼からの仕草にくすりと笑って笑顔を向けた。


「ラン…ここが今日から君の家だよ」











いきなりジジッと耳鳴りがして耳の中に直に声が流れてきた。
初めての事に驚いているランの肩をカイが抱き寄せた。
「大丈夫。ここにいないギルドメンバーからだから」
『あら?新しい子が入ったの?ああ、カイが連れてきた子ね。よろしくね、えーっと、ランでいいのかしら』
ギルチャで話し掛けてきたのは、女言葉を使う少し高めの男の声だった。
「ネオンさん?」
これは又珍しい人からだとバーンが驚く。
『丁度いいわ。挨拶がてら、そっち行くわね。ちょっと皆にお願いしたい事があるし』
「また厄介事じゃないでしょうね、ネオン…」
ネオンと長い付き合いであるBSソラは困ったように眉を顰める。
一次職の頃ネオンに拾われた事がきっかけで短くない付き合いのカイとバーンも内心もう既に断りたいと思っていた。
昔からこの高レベル魔術師の『お願い』はハイリスクハイリターンだと相場が決まっていて、ここにいるのはすべてそれに1度は巻き込まれたことのある人間ばかりだった。

『たいした事じゃないわ。ちょっと殺りたい奴が居るの。それで皆にギルド攻防戦に参加してもらえないかと思って』

「十分厄介事です!何殺人予告してるんですか!!!」


この場に居るメンバーの殆どが言葉を失い、ランだけがきょとんとしたまま首をかしげていた。















…Deus ex Machina3に続く。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

漸くここまで来た…。
一話考えたときはただのエロだったのになぁ…。
しかし、駄文ですいません…。自分の構成の無さにうんざりしてます・・・。
ネオンさんが合流してくれてほっとしたのもつかの間、今度は話移ってネオンさん主役のギルド攻防戦です。
ラン君武器もまだ無いのに…。(涙)
ANGELIAはまた普通に4人の話で進みます。


ネオンさんが殺したい奴というのは…、このカマ魔術師主役のお話を見たことある人は分かるのではないかと。
次回のお話ではついに死んでしまうかもしれないなぁ…(のんびりと)
さて、何をしたのやら…。




ここまで読んでくださった皆様に感謝。



トナミミナト拝

























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