バレンタインってのは残酷な祭りだなと思った。


まさに阿鼻叫喚と言うか…。
カカオを持つヨーヨー達に我先にと人々が群がっている姿はあらゆる意味で恐怖を誘う。

イベントの目的が目的なのでやはり女が多いが、男もかなりいた。
これは売るつもりで集めているのか、それともこの中にいる馬鹿二人と同じ目的なのかはわからないが、……皆目が血走っているのは気のせいではないはずだ。

「怖…」

目の前で虐殺されていくサル達に柄にも無く哀れみを覚えそうになりながら、地獄絵図の中呆然と俺は立ち尽くしていた。










a bolt from the blue...3.5
〜バレンタインの恐怖編〜











「カーティス!」
「カーティスさん!!」
二人に名前を呼ばれて我に返る。

俺の名前はカーティス。生粋の殴りプリだ。

この日男の俺が何故こんな猿山に来ているかと言われれば。
…今俺の名前を読んだこの二人にいきなり両脇を抱えられ拉致られるようにして連れて来られたのである。

一人は銀髪アサシンのコール。一次職の頃からの付き合いで、普段は気のいい頼れる奴だ。ただし、ホモでもある。
もう一人は茶髪のアコライトのエリック。半年前から俺の事を好きだと言って憚らない天然ヘタレ小僧。
こいつのせいで、何故だかコールまで妙な対抗意識を持ち出したからたまらない。
この半年、この男二人に取り合いをされているとしか思えない状態に俺はとうとう根を上げ、半分諦め状態に陥っていた。

しかもこいつら…何だかんだ言ってこの関係を楽しんでないかと思ってしまうほど息が合っているのだ。
特にこういうイベント事には。

…というか、早く冗談だったと言ってくれ。頼むから。
俺をからかって遊んでいるだけなんだろう…?

今なら一発殴るだけで勘弁してやるから、正直に言ってくれないか?


青白い顔をしている俺にエリックは可憐と言えなくも無い笑顔を振り撒きながら、
「カカオ揃ったからアルベルタのポタ出します!乗ってくださいね」
青ジェムを握り、神に祈りをささげ異次元への扉を開ける。
俺はコールにその中に押し込まれ、次の瞬間にはアルベルタへと連れて来られた。
もちろんエリックとコールも一緒である。
二人はそこら辺を歩いている女性を捕まえて職人の恋人を通してカカオをそれぞれ3つのチョコにしてもらう。

しかもそれをさらにプロンテラのデザート職人の所に持っていく。
同じように手作りチョコにまで昇華させた後、二人はどどんっとそれぞれ俺の前に出した。

「はい!僕の愛を受け取ってください!!」
「いや、俺のを先に食え!」

押し付けられたチョコはハート型でそれぞれに「LOVE」「愛」と白いチョコで書かれている。

…………………はっきり言って、寒い。

「質問していいか?」
手の中のそれらに視線を落とす。

「何でしょう!あ、僕の愛は本物ですよ!」
「何?言っとくが、俺のチョコの方が愛こもってるぞ」


いや。もうそこには突っ込まないから。


「何故俺を連れまわしたんだ?…こういうのは出来上がったものをくれるもんじゃないのか?」

こいつらの事だからチョコを用意する気満々だろうとは思っていたが、まさか作る最初の肯定からつき合わされるとは思わなかった俺は至極当然な質問を投げかける。

それにこいつらは互いを指差しながら、

「だって作ってる間にコールさんに攫われたらどうするんですか!!!変な薬かがされてベットの中であんな事やこんな事までされちゃって、あまつさえ口には言えない所にチョコを食べさせられたりしてもいいって言うんですか!!?」

「俺が作ってる間にエリックに攫われたらどうするんだ!力じゃかなわないからってベットに手足を括られて身動きできなくなった所であんな事やこんな事までされて、あまつさえ体中にチョコを塗られて丸ごと食べられちゃってもいいって言うのか!!?」

「…………」
チョコを渡すだけのイベントで何故ベットと言う単語が出てくるのか、簡・潔・に教えてくれないか?
しかも際どいセリフのように聞こえたのは俺の気のせいか?

絶句する俺から視線を外して、二人は顔を見合わせる。
向かい合って睨みあい、暫くして互いにふっと口元を上げた。


「なるほど。そこまでは思いつきませんでした。さすがコールさん」
「お前もな…。なかなかいい考えだ」


お前ら、実は仲良いだろう。


互いに何やら認め合ってる二人を置いて俺は踵を返す。

「あ、何逃げようとしてるんですか!カーティスさん!!」
「そうだぞ、カーティス!さぁ、俺たちの愛を食べてみろ!」

「コール…お前わかってて言ってるだろう…」

ドスの効いた声で呟き、ゆっくりと振り返る。
よく考えれば長い付き合いのこいつが知らないはずが無いのだ。

何だこれは、新手の嫌がらせだったのか!!?

ここでこの半年で鍛えらたと思っていた忍耐がブチブチと音を立てて切れた。

猿山からアルデバランを経由してこのプロンテラの街中までむせ返るような甘い香りに包まれていたのだ。
俺はこれにいいかげん腹を立てていた。
さっきから胸から込み上げて来る猛烈な吐き気を抑えるのに口を開くのも億劫になっていたがもういい。
こいつらは言わなきゃ分からねーんだ…っ。

8代目と書かれたハリセンを取り出して一気に振り上げた。


「俺は甘い物が大嫌いなんじゃ、ぼけ―――!!!!」


盛大な音を立てて一気に二人をしばき倒す。
ついでとばかりに押し付けられたチョコを二人の口の中に押し込んだ。
「……うっ」
ここで急に喉まで込み上げてきた吐き気を口を抑えて耐える。
そのまま慌てて適当に出したポタに乗り込んだ。
場所はどこでもいい。
この甘い匂いのしない場所ならば!!!


畜生…っ
バレンタインなんて…バレンタインなんて……

大っ嫌いだ―――!!!!!








そしてカーティスが消えた後。

「…こんなにうまくいくとは思いませんでした、僕」
モグモグとチョコを味わいながら叩かれた頭を撫でるエリックがぽかんとしたままカーティスが消えた跡を見ていた。
コールも同じように赤く痕の残る頬を撫でながらくっくっくと笑う。

「だって、あいつ短気だもーん。飴を目の前に出しても眉間にしわ寄せる程の甘い物嫌いなんだって、カーティスはv」

かっわいーっと二人が笑いあう。

「でも、カーティスさんからチョコを食べさせてもらえるなんて…幸せv」
ほんのり頬を染めて恥らっているエリックの横でうんうんとコールも頷いている。
「いやー、やっぱ好きな人から食べさせてもらうチョコってのは一味違うね!」

…歪んだ愛情を確かめ合っている二人。
そう。この二人…この目的の為だけにカーティスを引っ張りまわしたのである。


「でも、カーティスさんは、あげられませんからね?」
「やーそれは俺もだし?明日からはまた邪魔させてもらうから」
「それは俺のセリフです!」


こうして企みは密かに成功したかのように見えた。

だがしかし……。
二人はそれから2週間ほど、カーティスに一切口を利いてもらえなかったらしい。





















…AND CONTINUE?





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個人的プリ受け強化シリーズ。
第三弾。というか、番外です。

この二人、ライバルでありながら仲が良いと言うか。
結構この関係楽しんでしまう性格だなと思いまして。

ちょっと3人とも壊れてますが気にしないで下さい。






トナミミナト拝








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