一人寝の、しかも狭いベットから足を投げ出して、馬鹿みたいに二人転がっていた。
しかも俺はまだ上半身裸で。下だけはちゃんと元に戻したが。

部屋の中に篭っていた熱は、余韻だけを残して何も無かったように消えていた。
俺はぼんやりと天井を見上げたまま、コールの言葉を聞いていた。

「俺、あいつの事そんなに嫌いじゃないんだわ」

「……そうか」

「何かさ。犬っころみたいじゃん?俺、一人っ子だったから弟が欲しかったんだよね」

「そうか」

「…最後にひどい事言っちゃったからさ、様子見てきてくれない?あの兄貴とか言う奴、ちょっと気になったんだ。ほら、あいつ俺達に孤児だって言ってたろ。それに普通兄貴に『さん』とかつけたりしない。腹違いとか言ってたしさ、今頃苛められて泣いてるかも。俺はちょっと取りに行きたいものがあるから、一緒に行けないけどさ。
…ネイティスさんの墓の前にいる。お前に話したい事があるんだ」

「………お前、墓の場所知ってるのか?今まで行った事無いだろ」

「あ、知らないや。どこ?」

「共同墓地の左から入って奥、L-19」


「そっか。……ああ…そうか…そうだよな…やっぱもういないんだよな」


夢から覚めた事を確かめるような呟きが気になって顔をコールの方に向ける。
それに気がついたコールは、苦笑いを浮かべて手で目以外の部分を覆い隠した。


「何?…俺に見惚れてんの?いやんv」


次の瞬間には俺がこいつをベットから蹴り落としたとしても、抗議する奴はいないだろう。











a bolt from the blue...4-2









「ひっでーっ。カーティス、お前な、その足癖悪いのどうにかしろよ」
「今の所役にしか立った事が無いが、どうかしたか」

ベットの端に腕を乗せてそこから目だけを覗かせるようにして、ベットの上に座る俺を見上げる。
こうして顔を隠すのは、うまく自分を偽れない時にこいつが良くやる手だった。
あれだけ醜態を晒しておいて、今更と思わないでもなかったが。
それに、醜態を晒したのはこっちも同じだ。
何が悲しくて、同性の…しかも友人にイかされなきゃいけないんだ。

……いや、まぁ……。

ま、いっかとか思ったのは事実だし。
抱かれても構わんとか流されたのも覚えているんだが、…今こうしているとはっきり言って雰囲気に流されたとしか思えない。
……恐ろしい。
我に帰った俺は、怪我の所為でまだ少し熱の高い頭を抱えていた。
もう一度やれといわれたら俺は憤死するぞ、マジで。

「……さっきまではあんなに可愛かったのに」

可愛い?
こめかみがぴくぴくと痙攣した。
それが何を示すのかも分かったが、俺はあえてこいつの挑発には乗らずにいることにした。
ベットに座ったままだから、自然とコールを見下ろして

「安心しろ。もうあんな事は無い。正真正銘、最初で、最後だ」

「はぁ?何で」

「さっきまでの俺は俺じゃないんだ。忘れたか?俺は死の寸前までいたわけだ。走馬灯も三途の川も見えないほどあっさりと逝きかけたんだぞ。それが昨日だ。つまり俺の精神状態はまともじゃなかった訳だ。おまけに熱に浮かされていた。雰囲気に流されても仕方ないだろう。心神喪失状態で何をしようとも、それは俺の意思じゃない」

「うわ…詭弁だ……」

「やかましい」

半目で頬を膨らませるコールを尻目に、ベットから下りて壁に掛けてあった新しい法衣に袖を通す。

「俺はな、男と寝る趣味は無いんだよ。……お前等が真剣なら尚更な」

今まで何度も言ってきた言葉を繰り返す。

真剣だったからこそ、まぁ良いかと思った事は棚に上げて置こう。
こいつが知ったらまた何してくるかわかったもんじゃない。

だから、何度も言うがさっきまでの自分は自分ではないんだっ。
心神喪失状態だったんだ。責任取れるか!!

「……ぶー…」

「……それでもまぁ、一度死んで拾った命だ。これからは俺もお前等の事真剣に考える。お前等が他の人間に目を向けるようになるまではな。でももう、こんな事は無いからな。」

「……そういう真剣に考えてくれちゃう所が好きだったりするわけなんだけどね」

「?……何か言ったか」
襟を正していた所為で、届かなかった声に振り返る。

「カーティスって自分が思ってるより隙多いんだから、気をつけろよ?本当……弱い人間にはとことん弱いんだから。悪い人間に騙されないかお兄さん心配だよ…」
近所のおばさんが食事の心配をするような口ぶりで、コールがふうっとため息をつく。

何の心配をしてるんだと思いつつ、
「とりあえず、お前とエリックだけ気をつけてれば問題は無い」
きっぱりしっかり釘を刺して身支度を整える。


「……だと、いいんだけどね」


ぼそりと呟かれた言葉は、俺の耳には届かなかった。













プロンテラ大聖堂。
ミッドガルドで一番大きな教会であり、数いる聖職者達の総本山を前に俺はその建物を見上げた。
放心状態だったエリックを連れて行く時に、エリックの兄だと言う男が用があればここにと伝言を残していたらしい。
「…そこら辺にいる人間に聞いてみるか」
そう思ったが、表には冒険者が多い。エリックがいたという孤児院の方に回ってみるかと、奥に繋がる渡り廊下に向かって歩き出した。ここの孤児院には俺もいた事があるので行けば見知った先生がいると思ったのだ。



もうすぐ院に入ると言う所で、一人の騎士が向こうから歩いてくるのに気が付いた。
緑色の髪を短く狩り揃えている、27・8くらいの男だった。
こっちに気が付いているのだろうが目も合わさずに無愛想なまま歩いてくる。
見れば歩き方に隙がなく、目を見張るような存在感は感じられないがそれが逆に只者じゃないと思わせるに十分だった。
表にいたような自己流の冒険者ではなく、正式に団などで剣を習っている正規の騎士だ。
何でこんな所に?
いぶかしんだまま何も無かったようにすれ違った。
けして広くは無い渡り廊下ですれ違いざまに感じた空気の流れに神経が行く。

…やけに印象に残る騎士だな、と思った。



孤児院で、世話になった先生に懐かしいわねお茶でも飲んで行きなさいなどと誘われるのを、急用だからと辞退してエリックの事を聞いた。
さて、どの子だったかしらと思い出そうとする彼女に『ディオという兄がいるらしい』と言うとすぐに思い当たったようだった。俺はエリックとのここ一年の話をして、昨日の俺の大怪我に責任感を持ってしまったエリックに会いに来たのだと言うと、彼女はその怪我の心配をしつつ口を開いた。
「ディオ様ね。…そう、エリック君もしかして正式に認知されるのかしら」
「……何の事ですか?」
ここだけの話ねと前置きして
「…エリック君はこの教会のお偉いさんの落し種で、その人って言うのがディオ様のお父君なのよ。今まで認知はされてなかったんだけどね」
「……そのディオ…様って?」
思いも寄らなかったエリックの話に加えて、言い馴れない言葉に戸惑いつつ聞いた。
あのプリーストが様を付けられるほど高い地位にいるのだろうか。

「3年前からあのお年でモロクの教会で司教長を勤められてね。その時の評価が良くて最近こっちに呼び戻されたのよ。何でも重要な任務を任されるとか。血筋もよろしくて、あのモロクで何の問題もなく司教長を務められるほどのお力を持ちなんですもの。いずれ高官におなりになると思うわ。それにご本人もとてもお優しい方ですよ」

モロクは、教会と裏で敵対しているアサシンギルドのある町だ。
小さいながらも、いろいろな問題のあるあの街の教会とは、表立った対立こそ無いもののくすぶった火種で何度も司教長が入れ替わっている所でもある。
あそこに送り込まれたと言う事は、実質左遷だと言われるほどだ。
それが何の問題もなく教会の長である司教長を3年も務めあげ、プロンテラに戻ってきた。


……相当優秀か…、それとも……。


まだ話したり無さ気な先生にディオのいる場所を聞いて、礼を言って早々に切り上げた。







ノック二回で、ドアを開けた。
執務室だと言うそこは小さいながらも立派な机が置かれていて、その上には今にも崩れそうになっている書類の山が器用に積み重なっている。

「やぁ。もういいのかい?昨日風穴開いたばかりだと言うのに、もう歩けるとはたいしたもんだ」

その向こうから顔を出して、俺を確認するとすぐに人好きのする笑顔を浮かべたのは、あのぼやけた視界の向こうにいたディオとか言うプリーストだった。
茶色の髪を跳ねさせて、横長のメガネの奥にはライトグリーンの瞳には優しげな色を浮かべている。
自分よりちょっと年上ぐらいに見えるこの男に、やけに中性的な印象を覚えた。

こんな外見で、あのモロクの教会の司教長だったって?
とてもじゃないが、こんな優男に勤まるもんかというのが第一印象だった。

「昨日は助かった。礼を言う」

互いに簡単な自己紹介だけして。早速、俺の命を助けてくれた事に関しては確かに感謝はしなければと思って礼を述べると、ディオはカラカラと笑った。

「いや、何。あれもまた聖職者の務めさ。散らかっていてすまないね。何せ、プロンテラに戻ってきたのは3年ぶりで、色々と引継ぎで慌しくしてる」

「…そんな中で、アマツ観光か」

不思議に思った事がポツリ出てしまった。その言葉に、ディオがぴくっと片眉を上げた。
何気ない言葉に反応してきた事に気が付いて俺もその表情から何かを感じ取ったのだが、それが何かわからない。
聞き様によっては遊んでいるのではないかと皮肉る言葉に、不機嫌になるわけでもないのが気になった。
だがすぐにディオはいつもの人を食ったような笑顔を向けてきた。

「それで、君は私に感謝の言葉を伝えるためだけに来たのかい?」

「……エリックに会いに来た。『耳打ち』も届かないんでな」

「ああ、じゃあ、会いたくないんだろう。君が来た事は伝えておくよ」
お帰りはあちらとばかりに左にあるドアに向かって手を差し伸べる。
反射的にそっちに視線をやって、目を見開いた。

ドアの横に、渡り廊下ですれ違った緑髪の騎士が腕を組んで立っていたのだ。

ここに入ってくるまで確かに存在しなかったはずなのに。
その姿を見るまでまったく気が付かなかった。
しかも、ディオはこの騎士がいることを当然のように受け止めている。

今は目を閉じて黙っているが、俺が何かする気ならこの騎士はその剣を抜くだろうと思った。


だがここで帰れば二度と会えないのではないかという不安が俺の足を止めさせる。


「……あの子の事は、どこまで知ってるのかな」

帰ろうとしない俺に一つため息をついて、ディオは静かに口を開いた。
さっき、孤児院の先生に聞いた話を思い出したが、それもエリックから聞いたわけじゃないしな…。


「好きな食べ物は一口ケーキ。嫌いな物はねばねばしたもの。べと液から逃げ回る様は見ていて面白いぞ」


あえて本題からそらした答えを返すと、ディオは吹き出した口元を抑えて笑い出した。ツボにでも入ったのか肩を震わせている。

「いや、君は面白い奴だな。そうか、あの子はねばねばしたものが嫌いなのか」

それに俺は眉を潜めた。
……兄弟といっても互いを良く知ってるわけではないのか?

「それであんたはあいつの何を知ってるんだ?」

「私?…あの子の出生と、あの子の初体験の相手が私の許婚だったということぐらいかな」

笑顔でお返しとばかりに爆弾を振らせてくれた男は、俺の顔が強張るのを面白そうに見ている。

「勘違いはしないでくれ。その事でエリックを恨んでいるとかそういうのはないんだよ。彼女がそうしたのは何と言うか…まぁ、私とエリックに繋がりを持たせたかったようなものでね。面白い女性だったんだ」
思い出し笑いをしているディオは、笑いを収めて俺に視線を戻した。


「サングラス。似合ってるけど、外してくれないか?話す時は人と目を合わせて話したいタチでね」


どうやら話をしてくれる気になったらしい。
俺は黙って、サングラスを外し、法衣の前に引っ掛ける。
その俺の顔をジロジロと見ながらポツリと呟く。
「なかなか男前だね。エリックとはもう寝たのかい?」
「何でそういう発想にいくんだ!!?」
どいつもこいつも!最近の流行なのか、それは!!?
脊髄反射のように怒鳴ると、ディオは驚いたように目をくりくりとさせながら

「だって、あんなに可愛い子が君の事を好きだといってるんじゃないか。食わないなんて…君…もしかして不能か?」

心底気の毒そうに言うこいつの目は恐ろしい事に真剣だった。

「俺はノーマルだし、不能でもない!!!!」

あらぬ誤解に血管が切れそうになった。
男の股間…もとい沽券に関わる事まで誤解されるのだけは許せない。
しかも逆に俺があいつに襲われそうになっているんだなどとは余計に口が裂けても言えやしない。

「………そうか。ふーん…今時珍しいくらい生真面目な人間だなぁ…。通りで、私が流し目送っても気が付かないわけだ」

一体なんの為に男に流し目をする必要があるっていうんだ?なんて、今までの会話を思い出す事もなく……眉間に皺が寄った。
通りでさっきからやけに珍妙な視線を送ってくるわけだ。

「お前等の血筋には余計な遺伝子が入ってるんじゃないか?」

「やだなぁ。僕もエリックも博愛主義者なだけじゃないか。…ま、たしかにこの血族にはろくな人間はいないけどね」

「……」

「俺達の父親は……名前言った方がいいかな?」

「生憎、教会の中の事には興味がない」
必要ないと片手をふると、ディオはおかしそうに笑った。

「そうか。まぁ、教会でも割と重要な所にいる人間でね。だがこれがまた子作りが趣味みたいなろくでもない男なんだ。奥さん妾と両手だけでも足りないくらいいるわけ。子供も正妻であるうちの母親が生んだだけでも4人。認知してるだけでも13人。後は……泣かされた女性は数え切れないくらいいるわけだから、当然外にも子供はいる。エリックもそのうちの一人でね。写真を見た事があるんだが、これがまた父の若い頃にそっくりなんだよ」

「……あいつを連れ戻すのか?」

もしそうなら、俺には何も出来ない。
…あいつの問題だ。
お偉いさんだか何だか知らないが、純粋な聖職者の家系ならエリックの為にはなるのかもしれない。俺なんかが関わるより確かだろう。

だが帰ってきたのは否定の言葉だった。

「まさか。父にその気はないし、俺も進言する気はないよ」

「………」

「でもそうだな。丁度使い捨てにできる部下が欲しかった所なんだ。使える人間は使うさ」

ざわっと血が登った。
自分の弟を、それだと知って使い捨てだと言い切るこの男の神経を疑った。

「あいつを何だと思ってる!!」

思わず踏み出して両手でディオの法衣を掴み上げる。
身長は同じくらいだった。
視線が重なり、目の前の男を殴るかどうか歯を食いしばって考えていた。
初対面で、しかもエリックの身内だということだけで、即座に殴るのは堪えた。もしここで俺がこいつを殴れば、エリックの立場が悪くなるのではないかと思ったからだ。

いつの間にか近寄ってきていた騎士が、俺の首に剣の刃を当てていたが俺は構わずに目の前の男だけを睨みつけていた。

「君は本当に真っ正直な男なんだな」

口元を上げてふいに身を乗り出すようにして顔が近付いた。
ちゅっと音を立てて唇に違和感を感じた瞬間、目の前の男を振り払うように後ろに引いた。
「…な………」
何の嫌がらせだと、視線に殺気を込めるが、ディオはくすくすと笑うだけだった。
騎士は何も言わずに剣を収め、定位置に納まっていた。

俺はここに来る前にコールが言っていた『自分が思ってるより隙多いんだから、気をつけろよ?』とかいう忠告を思い出して歯噛みした。

「これで二度目だね。君とキスするのは」
「は?」
今のをキスとしてカウントする神経も疑いたいが、その前に二度目ってのは何だ?
「あれ?覚えてない?リザかけたとき、君はショック状態で呼吸困難を起こしていてね。私は君の唇に僕の唇を重ねてこう呼吸を…」
「それ以上言うな。本気で殴るぞ…」
ぞわぞわぞわと鳥肌を立てて両手を拳にしたまま震わせる。
それにディオは子供のように唇を尖らせたが、すぐに表情を改めた。



「……私は。視線を合わせない人間が嫌いでね」

突然の話に、今度は何の事だと眉を潜める。
俺と言葉のやり取りをする気は無いんじゃないかと疑った。

「エリックの事も嫌いだったんだよ。あの子はいつも俯いておどおどと人の機嫌を伺う子でね。半分血が繋がってると思うと余計に苛立ちは増した。一言だって話した事も無かったんだよ。初めて話をしたのは、私の許婚が消えた時だった。目に涙を浮かべて『彼女をどこにやったの』って必死な目で私を真正面から見上げてきた。そして二度目は昨日。今度もまた俯く事無く私を見上げてきた。……おかしいかな、人の為に私を見上げてくる今の彼は昔ほど嫌いではないんだよ?」

…おかしいのはお前の頭だとそう毒付きたい想いに駆られたが黙っておく事にした。
これ以上、こいつと話していると頭がおかしくなりそうだ。
ここにきた本来の目的を思い出して俺は踵を返した。

「エリックはこの教会にいるんだろ?勝手に探させてもらうぞ」

「ああ、それなら第三礼拝堂だ。君の為に祈ってるだろうから行ってあげるといいよ」

「………」

「やだなぁ、また何企んでいるとか言いたげなその目。…本気で色々計画したくなるじゃないか」

うっそりと笑うその笑顔に空寒いものを感じて、俺は捨て台詞のような言葉を発してドアを開けた。

「とりあえず、命を助けてくれた事は感謝してる」

「気にしなくていい。あれは元々私を狙ったものだから。巻き込んだ形になってすまなかったね」

出ようとした足が止まって、思わず振り返った。
相変わらず何を考えているか分からない笑顔を浮かべていた。

……この男はさりげなく爆弾を放り投げることがお得意らしい。

「………」

あの時いた魔物の数は半端ではなかった。もしそれがこいつ一人を狙ったものだったと言うのなら、何の為に?
思い通りに俺が反応したのが面白かったのか、満面の笑顔を浮かべているディオは何でもないようにこっちを見ている。

「何故って顔してるね。私の命を狙う奴の心当たりは山ほどあってね。その最たる人間は3人の兄達で、誘拐や殺人未遂といった心温まる出来事は書き出したら本でも出来そうな勢いだ。もっとも今回のは別口だけどね」

だとしたらドアの横に黙って立っている騎士はボディガードと言う訳か。
しかも。こいつの兄達から命を狙われていると言うなら、教会とは関係ない私的な人間。
ここまで腕の立つ人間を個人的に拘束できる、ディオという存在。

「……あんた、こっちに戻ってきたばかりなんだってな。今は何の任務についてるんだ?」

モロクの時に買った恨みと言うのも考えたが、先生も言っていた事を思い出していた。
こっちで重要な任務を任されたと。そう言っていた。それは何だ?

ディオは驚いたように一瞬だけ目を見開いて、すぐに口元を抑えてくすくすと笑った。
どこか品のあるその仕草は、こいつが上流階級の人間だと再確認させる。
エリックとは違う。上からものを見る人間の目。

「君はよくも悪くも嘘をつけない人間だ。聞かない方がいい。でも私は君を気に入ったから、一つだけ忠告しておく。早めに今いるギルドを抜けた方がいい。出来るだけ穏やかに何でもないようにね。この事は他言無用。……君の兄のように、大切な人間をまた失いたくは無いだろう?」




誰をとは言わなかった。
あいつの本心がわからない。
エリックを嫌いではないといっておきながら、暗にその命を天秤に掛けてみせる。
しかもこの男とは昨日会ったばかりだと言うのに、俺の兄の事を知っている。

俺の事をあらかじめ調べていたのだ。

何の為に。
半分血の繋がった自分の兄弟に近寄る人間だから?

違う。
こう簡単に手放す気でいたのなら、そんな無駄な事はしない。

だとしたら…。

考えられるのは一つだけだった。
そしてその考えに吐き気がした。

モロクの司祭長を務めていただって。
ああ……この男なら、そつ無くこなしたろう。
ただの優男だというイメージは綺麗に払拭され、代わりに今まで会った人間の中で一番胡散臭い男だという形容詞を頭の中でこいつの名前の上につけた。




『コール』
第三礼拝堂に繋がるローカを走るように歩きながら『耳打ち』をする。
すぐに返答はあった。
『よう、エリックは?』
『今からだ。お前に聞きたい事がある。アマツで他のギルメンを見なかったか?』
『は…?』
『思い出せないか?』
切羽詰ったような俺の物言いに、コールは暫く黙った後『分からない』と答えた。
『溜まり場が砦に移ってから、俺達顔出してないだろう。メンバーも大分入れ変わってるって話だし、高レベルの奴らを引き抜いてる話も聞いた。今となっては見たことも無い人間の方が多い。あの時周囲を見てはいるけど、エンブレムまで見てなかった。…顔でも見れば思い出すかもしれないけどな』
『もう一つ。ギルドで今何してるか知ってるか?』
『何って……カーティス?何があった?』
さすがに不審に思ったのだろう。コールが不安気に問い掛けてくる。
『……ちょっと、気になっただけだ。大丈夫。エリック拾ってそっち行くから待っててくれ』
一方的に会話を切った。




目の前には第三礼拝堂の重厚な扉あった。
ここは、一般の人間が立ち入らない、聖職者が祈りを捧げるために使われる場所だった。

それを見上げながら俺は考えていた。




予め身辺調査をされていた事。

おそらくコールの事も合わせて調べられているのだろう。


俺を試すようなディオの問答。

最初何気なく言った言葉に反応した姿。

あの男を狙ったテロ。

終いには今入ってるギルドを抜けろといってきた。

おれがその意味をわかったとして、それを他のギルドメンバーに漏らせばエリックの命は無いと脅しまで掛けて。

もしかしたら、その為にエリックをこっちに戻すとでもいうのかと疑いたくなる。
……そうなのだろうか。俺をわざと怒らせて反応を見て十分脅しをかけられると判断した上での忠告だったとしたら。



他のギルドに入るのも面倒で、正式な脱退をしていなかった事もあの男は知っているのだろう。

最初は仲間内だけの枝祭り。
だんだん規模が大きくなってきたそれに付き合いきれんとギルドからは早々に半撤退した。
そのうちメンバーが入れ替わり立ち代り、ギルドはいつの間にか砦を持つまでになっていた。
一度も立ち入る事の無かったそこで、何が行われているかすら俺達は知らない。



俺は、法衣の左腕の部分に浮かび上がっているエンブレムをぎりっと握りつぶした。





Non credo il dio


(神は信じない)





それが俺達のいるギルドの名前だった。






俺は歯を食いしばって、小さく首を横に振った。

今は中にいる泣き虫アコライトの事だけを考えよう。
あいつの事だからどうせ、自虐的なことばかり考えてるんだ。

早く、会いに行ってやらないと。

あいつが泣いてるのを見るのは辛いから。






俺は、一度だけ深呼吸して、目の前の扉を開いた。














>>4-3に続く







+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

始めこそ前後編のつもりだったのですが、ついでにエリック君の事も絡めてもう一つの話にしてしまえと考え直してしまい、一気に大きなお話になりました。とりあえず三人の心境の変化をはっきりさせない事には続きがかけないので、かなり本来のラグナにはない設定が入ってますが勘弁してください。この話が終ればいつもの話に戻りますので。
そしてカーティスさん…、あれは本来の俺じゃないと言う所に落ち着いたようですが。それは問屋がおろしません。笑)
話的に新キャラの紹介と、繋ぎになるのでだらけてるかも…。うーん…自分文章苦手だと思うのはこんな時です。とりあえず次の更新でコールには一区切り付けさせたいと思います。
ちなみにモロクに教会があるかは不明。病院=教会のイメージで書いてます。だから一つの街に一つの教会があると思ってやってください。

カーティスさん達のギルドがきな臭い事になってますが、とりあえず、今はエリックの兄様ディオさんが攻に見えるか受に見えるかぐらいは聞いてみたいな。笑)



トナミミナト拝







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