世紀のイベントを明日に迎えようとしていた2月13日。 バレンタイン前日のことである。 いまここで一人のモンクが窮地に立たされていた。 彼の名前は東雲(しののめ)。 コンボ阿修羅に燃えるどこにでもいる青年である。 そんな彼が今人生最大と言ってもいいピンチに陥っていた。 東雲の目の前にいる学者帽にミニグラスが嫌味な程によく似合うセージは、彼が所属しているギルドのメンバーであり、短くない付き合いをしてきた相手でもあった。 「お前、俺の事が好きだろう?」 「は?」 いきなり呼び出してきた彼の切れ長の目が東雲を射抜く。 「……何言ってんの」 それは、あんまりにも突然の事で。 同時に正確に的を得た言葉に東雲は体が震えた。 そう、確かに東雲はこの男がそういう意味で好きだったのだ。 「好きだろう?」 セージ・・・時雨(しぐれ)はあんまりにも真剣にさも当たり前のように言う。 時雨は昔から唐突な人間で、東雲もそれにずいぶん振り回され慣れたつもりではあったけど、今回のこれには即座に返す事が出来なかった。 どうして?何故ばれた? 言うつもりなんて無かったのに。 仲がよかったなどとはお世辞にも言えない二人だった。 会ったばかりの頃から喧嘩ばかりしていて、今だってまさしく犬猿の仲だと互いに自負している。 時雨の事は確かに好きだったが、その性格には腹を立てる事は多々有るので顔をあわせれば嫌味の応酬は当然のように行われるそんな間柄。 付き合いは長いだけに情けないところとかもかなり見られていたし、俺はこれ以上弱みを見せたくは無かった。 それ以上にこの事で時雨に嫌悪の目を向けられることが怖かったのである。 東雲は息を飲んで、ぐっと胸をはった。 「嫌い」 「素直に好きと言え」 「はぁ?だから素直に言ってるだろうが。何だよお前、いきなりさ。今度は何の嫌がらせだよ」 震える腕に力を入れて、東雲はそう言い張った。 「いいから好きと言え」 「怒るぞ」 「東雲。お前は俺の事が好きなんだ。無論、友達としての好きではなくて恋人としての愛情の方だ」 まるで暗示でもかけられているような気がして、これ以上話せば本気でそうだといいそうになった。 さらにこの恥ずかしい会話をさっさと区切りたくて東雲は目の前の男に怒鳴った。 「だーかーらー!何だってんだ、お前。仕舞いには張り倒すぞ!!!」 するとこの男は俺より更に無調面でこう言ったのだ。 「素直になれ。でないと貴様の事が好きな俺が、かわいそうだろうが」 「・・・・・・・はぁ?」 最初は聞き間違いかとも思ったのだが、憮然として言い切ったその言葉を反芻してそれが間違いではないのだとわかると次に唖然とした。 ・・・・・・・ああ、そうですか。 俺じゃなくてお前がかわいそうなわけ? なんでそういう事にしろってか。 あくまでお前のために? ふーん・・・・・・・あ、そう・・・。 「・・・・・・・・・・・・・っ・・・」 東雲の頭の中で血管がぶちいっと音を立てて切れた。 同時にナックルをはめた拳を振り上げた。 「俺はな・・・・っ!お前のそういうところが大嫌いなんだよ!!!!!この傲慢男!!!!」 腹立つくらい真っ青な空の下、大好きな人に三段衝を食らわせた。 繰り返しになるが、それがバレンタインデーの前日のことだったのである。 LOVE DISTRUST 「何だよあいつは。あいつがあそこまで馬鹿な奴だとは思わなかったぞ。あんのー三高(さんごう)男!」 ちなみにさんごうっていうのは三高(さんこう)、いわゆる高学歴高収入高身長のことじゃない。 強情傲慢高飛車、時雨のために東雲が作った言葉だった。 「あははははっ。お、おなか痛い〜っ」 「皐月。笑いすぎ」 目の前のプリーストの少女は攻撃してきたヨーヨーを逆に抱き潰さんばかりに抱え込んで大爆笑していた。 彼女のカカオ狩りに付き合いがてら、さっきの愚痴を彼女に聞いてもらっていたのだ。 東雲と時雨、皐月は同じ時期にギルドに入ったいわゆる同期で、一次職のころからの長い付き合いがあった。 今でこそばらばらになることも多いのだが、昔は何処に行くにもいつも3人でだった。 気が長い方ではない東雲と、口を開けばむかつく事しかいわない時雨と、いつも明るくて朗らかな皐月と。 東雲と時雨が喧嘩してもここまで付き合ってこれたのは皐月という潤滑油があってくれたからだと思う。 それに、彼女はその感の良さで時雨に対する東雲の気持ちも知っていた。 「私が笑ってるのはねぇ、時雨の鈍さにだよ〜」 「はぁ?なんで俺が笑われるんだよ」 「だって、時雨に告白されたんだんじゃない」 「へ?」 そう言われて初めてつい30分前にあった会話を東雲は思い出していた。 どうやら時雨の言い方に腹を立ててそこら辺を考えてなかったらしい。 『貴様の事が好きな俺が、かわいそうだろうが』 確かに時雨はそう言った。 その前に恋人としての愛情とか何とか言ってたんだから、つまりはそういうことな訳で。 そこで東雲は盛大に口をへの字にまげた。 「・・・・でもあれは、告白とか言うか?普通好きな奴の前で腕組んでふんぞり返ってえらそうに告白なんてするか?『じゃないと俺がかわいそうだろう』とまで言いやがったんだぞ?」 でも告白されたのだ。 難しい顔をしたまま東雲はかぁぁぁと耳まで赤くなった。実にわかりやすい男である。 しかしわざと自分の気を奮い立たせるように鼻を鳴らした。 「からかわれたんだよ。あいつの奇行は今に始まった事じゃないしな」 (うそです、ごめんなさい。 本当はそうだったらいいなと思ってます。 でも、悲しきかな。俺は人一倍強がりなのです。とほほほほ) 「へぇ〜、私はそうは思わないんだけどなぁ。それに時雨らしいじゃないの」 にまにましながらそういう皐月に何か気になった。 「あいつお前になんか言った?」 「えー?んー・・・どうしよっかなー。教えちゃうのもったいないかもなぁ」 なにやら知ってるらしい皐月に詰め寄ると、最初から勿体つけていただけなのだろう。 すんなり口を割った。 「私ね、時雨が好きだったのよ」 「は!!!!!??????」 いきなり来た爆弾発言に東雲はあいた口がふさがらなかった。 「1年前に振られちゃってるんだけどね。『そういう意味ではお前に興味はない』って言われちゃったんだ」 「あいつっ」 もっと他に言い方があるだろうが!!! 人の気持ちなんてゴミ以上にも考えていないんじゃないだろうか、あの男は。 憤る東雲に、なぜか皐月は口元に笑みを浮かべた。 「その時ね『じゃあ、興味ある人は他にいる?』って聞いたら、時雨何ていったと思う?『忌々しいくらい腹立たしい阿呆なら一人いる。目の前でちょろちょろと気になってしかたない』って。あの時からもしかしてって思ってたんだ〜私」 「・・・・・・・・・・・・」 「それって俺のこと?とか聞いたらぶっとばすから」 指を鳴らしながら笑顔でそう言われて、東雲は思わず開きそうになった口を両手でふさいだ。 彼の短く刈られた髪からのぞくおでこをペンと叩いて、皐月は優しい笑顔で東雲を覗き込んだ。 「・・・・・・私が殴りプリになるって決めた時の事覚えてる?」 「う・・・うん?」 ある日いきなり皐月から「殴りプリーストになるから」と言われて、驚かされた日を思い出した。 「東雲もアコだったけど不器用でヒールくらいしか使えなくてさ。支援殆ど私の役目だったよねぇ」 「あ・・・・う、ごめん・・・」 「支援も嫌いじゃなかったんだよ?でもそんなこんなで支援プリーストになるもんだと皆思ってたんだよね。自分でもそっちがいいんだろうなぁと思ってたんだけど、でも前から殴りプリに憧れあったからずっと悩んでた。」 「・・・・・うん」 「ある日ね、時雨に言ったの。煮詰まってごちゃごちゃ言った私の言葉を最後まで聞いてくれてね。言ってくれたんだ。『人の意見に惑わされるな、自分の好きにしろ。後悔する時人のせいにする事が一番醜い』って。・・・・・・突き放したような言い方かもしれないけど、あのときの私はそれが嬉しかったんだ。気持ちがね、すっとしたのよ」 ついでに告白したら見事玉砕しちゃったんだけどねと、くすくす笑う。 東雲は黙ってそれを聞いていた。皐月の気持ちがよくわかるから。 人を人とも思っていない傲慢男の言い回しは、きっと真実と本心からくるものなのだろう。 だから彼の言葉には嘘はないのだと東雲は知っていた。 時雨を好きになったのは、彼のそういうところに惹かれたからなのだろうと思うのだ。 そして皐月が自分ではなく時雨に相談したのは正解だと思う反面、やはり彼女が辛い時に力になれなかった事を申し訳なく思った。 皐月がこんな話を持ってきた理由を悟って、余計に黙り込む。 「東雲は時雨の告白が気に入らないからって、なかった事にしてしまうの?皆時雨のせいにしてしまうの?自分は何も言ってないのに?」 「・・・・・・・・・・・だけど・・・・さ」 こめかみ辺りを撫でる彼女の手の平は温かくて、ほっとした。 それはまるで自分の頑なさを溶かしていくようだった。 東雲は彼女を姉のように親友のように思っていたから優しさしか感じなかったのだけど。 傍から見たらどう見えていたのか二人はまるで考えてなかった。 当然木の陰に人が隠れるように立っていた事なんて知らずにいた。 「好きなんでしょう?」 「・・・・・・・・好きだ」 自然と口についた言葉に東雲は自分でも驚いた。 だから二人はその後すぐに消えた影に全く気が付くことはなかった。 「両想いでいい事じゃないの」 そういって皐月は集めていたカカオを東雲に渡した。 「ちょうど明日は2月14日。絶好の告白日和じゃない!いい?ちゃんと時雨に言うのよ?」 「でも・・・・皐月はいいわけ?・・・俺と時雨が・・・その」 仮にも好きだったという男に、男が告白なんてして内心複雑ではないかと思うのだ。 しかも結果どうなるかはわかっているも当然で。 実際前に皐月が時雨の事が好きだったと聞いただけで東雲は動揺してたのに。 だが皐月は、がしっと逞しく東雲の肩を掴んだ。 「他の女に取られるくらいなら、東雲とくっ付いてくれた方が何万倍もいいとずっと思ってたのよ!それに見た目もいいしねー♪」 「・・・・・・あ、そ。そう・・・?」 女って・・・・・・・・・。 女って・・・・。なぞだ・・・・。 改めて女の逞しさに唖然とした東雲なのだった。 ギルドメンバーが集まって一つの家にすむ事は珍しくない。 そっちのが家賃も安いし、用件があってもすぐ伝える事が出来るからだ。 東雲と皐月も他のメンバーと一緒に一つの家で暮らしていた。 だが時雨はその偏屈さと「静かなとこじゃないと本が読めん」という理由で隣の小さな借家を借りていた。 運命の2月14日。 その家に立つ一人のモンクの上衣のポケットには青いリボンのかけられたチョコレートが入っていた。 まるで決闘でも申し込みに行こうかとするような気合の入りようだったが、内心逃げたくて仕方なかった。 「ええいっ!!!なるようになれだ!」 震える指で玄関を開けて中に入る。 「時雨ーっ!」 鍵が開いているという事は住人がいるという事だ。 となるといる場所は決まってる。東雲は書棚のある部屋に向かっていった。 案の定。机の上で本を開いているのか、こっちに背中を向けたまま時雨はいた。 東雲のことは気がついているのだろうに振り向きもせずただ一言だけ吐いた。 「出て行け、阿呆」 「!!!」 これには東雲の太くもない血管がぴしっと音を立てた。 これが昨日告白した人間に言う言葉か!?と思う反面、これが時雨たるゆえんなのかもしれないと思い直す。 「相変わらずだな、てめぇはよ!」 「うるさい。読書の邪魔だ、今すぐ立ち去れ」 「っ」 どうやら彼は最高に機嫌が悪いらしい。 肩に背負ったオーラは暗いどころか、ブラックホールのようになっていた。 君子危きに近寄らずとかなんとかいうし、本当は自分もきびすを返したいくらいだったのだけども。 東雲はポケットの中のチョコをぎゅっと握った。 多分ここで引いたら、また言う機会を失ってしまうのだ。 優柔不断というわけではないけれども、こんな機会がなければ素直になれない自分の性格ぐらいはさすがによくわかっていた。 「話があるんだけど・・・」 「話?」 「・・・・・昨日の事だけど」 一大決心をして言った言葉に、時雨はわずかに肩を揺らしたようだった。 「忘れろ。あれは一時の気の迷いだ」 「・・・・・・・・・・は?」 東雲は唖然として時雨の背中を食い入るように見た。 今言われた言葉が信じられなくて。 だが、たしかに忘れろと・・・・。間違いだったと、時雨はそういったのだ。 「・・・・・何・・・・何だよ・・・・。何だってんだよっ!お前俺の事馬鹿にしてんの!?」 「・・・・・・・・・・・・・」 「何とか言えよ!」 怒りもそのままに時雨の目の前で開かれていた本を払い落とした。 それが壁に当たり派手な音を立てた。 東雲の暴挙にさすがに顔を上げた時雨と目が合った。 そこにあったのは明らかに東雲に対する嫌悪の表情だった。 それに心臓を鷲掴みされて、思考が止まった。 「・・・・・出て行け」 冷酷なんてものじゃない。 いっそ殺意さえ感じた東雲は、一歩足を引く。 そしてその先にあったゴミ箱に引っかかった。 「っ」 やばいと思い足を引いたがすでに倒れてしまったゴミ箱から中身が床に散らばった。 だが、その先にあったものに気がついて、東雲は目を見張る。 鮮やかなオレンジのリボンの掛かったチョコの箱が出てきたからだ。 その視線に気がついた時雨が舌打ちした。 「・・・・信じらんねぇ・・・・」 自分が持ってるものと変わらない大きさそのそれは明らかに手作りチョコだった。 そんな思いの篭ったチョコレートをゴミ箱に突っ込めるその神経が信じられなかった。 そしてゴミ箱に捨てられたそれはまるで自分の姿のようにみえた。 告白されて勝手にその気にさせられて、いい気になって来た自分。 そして、捨てられてしまった。 「捨てるくらいならもらわなきゃいいじゃん!!!」 東雲は上ずった声で叫んでいる自分が情けなかった。 (捨てるくらいなら、好きだ何て言うなよっ!!!) 悔しくて悔しくて涙が出た。 頬を伝って落ちたものをぬぐいもせずに顔を上げる。 いきなり泣き出した東雲に時雨が驚いたように目を見張っていた。 「馬鹿みてぇ・・・・・・そうだよな。俺だって嫌いだって言ったもんな。興味なくなってる事に気がつかなかった俺が悪い」 「・・・・・・?お前・・・何を・・・」 遅かったのだ。 出来るなら昨日に戻りたかった。 好きだって言った時雨に、「俺もだ」って返せたら。 伝える事が出来てたら、何か違っていたんだろうか。 今となっては後悔だけが圧し掛かる。 「・・・・・捨てられる事には・・・慣れてるつもりだったんだけどな・・・」 ぼそりと呟いた言葉は小さくて時雨には聞こえなかった。 東雲のこれまでの人生は恵まれたものとは言えなかった。 生まれた時から親に捨てられて、親戚をたらいまわしにさせられていた幼少時代。 彼は純粋な無償の愛情ですら与えられたことがなかった。 皐月に懐いているのはそういうものを求めいてるからなのかもしれない。 捨てられることにはもう、慣れてると思っていた。 なのに何故今こんなに体が震えるんだろう。 期待感があっただけに余計にそう思うのかもしれないと東雲はどこか冷静に考えていた。 うまくいくと思った自分が恥ずかしかった。 「・・・・・お前・・・・」 「触るな!!!」 伸ばされた手を払う。 これ以上ここに居たくなかった。 「東雲!」 踵を返して去ろうとしたその腕を時雨が掴んだ。 その勢いでポケットから落ちたものに東雲は気がつかなかった。 「離せ!!!」 子供のように捕まれた腕を振って離れようとした東雲も、黙り込んで床を見ていた時雨に気がついた。 そこで初めてポケットに入れていたチョコが落ちていた事に気がついたのだ。 うそだろ・・・。 「・・・・・・皐月からもらったのか」 普段と違う声色に、ぞくっと背筋が凍った。 恐れを感じたのは、時雨の切れ長の目を見たからだ。 肉食獣が獲物を見つけたような・・・・そんな目だった。 「お前には関係ないだろ!」 何で皐月が出てくるのかと思ったが、東雲はそれどころではなかった。 チョコを拾おうとして慌てて屈もうとした東雲の目の前で、時雨の足がそれを踏み潰した。 「・・・・な・・・っ」 いっそ唖然として東雲は崩れるように座り込んで時雨の足元を見た。 自分の目が信じられなくて。 「・・・・・何で・・・・?」 「お前が悪い」 泣きそうになって見上げた先で、時雨が冷たい目で見下ろして言った。 『お前が悪い』 捨てられる時にいつも言われていた言葉。 トラウマになっていた過去。 もう、忘れられると思っていたのに。 「俺は悪くない!」 悲鳴のように叫んだ。 「俺は悪くない!!!」 「・・・・いや?」 時雨の手が閃いた。 かしゃんと音を立てた東雲の腕に手錠があった。 ぐいっともう片腕を捕まれて後ろ手にまた手錠が鳴った。 いっそ非現実的な状況に唖然としたまま時雨を見上げる事しか出来なかった。 「帰れといったのに、帰らなかったお前が悪い。俺は警告したはずだぞ?」 腕をとられて引きずられるように歩かされた。 隣室につながるドアを開け放たれた時、これは何の冗談だと思った。 明らかに寝室と思わしきそこに押し込まれて、ベットに突き飛ばされた。 腕を拘束されていた為に顔からベットに突っ込んでしまい、肩をついて起き上がろうとする。 「住人の許可なく家に入ってきておいての、不快な振る舞い。それに・・・・お前だって男のテリトリーに入ったら、どういうことをされても文句は言えないくらい判ってるな、東雲。・・・・・もしや・・・忘れていたのか?それとも・・・・幸せで脳が沸いていたのか?」 自分の上に覆い被さってきた時雨を信じられないように見上げた。 何が起こっているのか、わかっていても理解したくなかったのだ。 「・・・・・・・お前の心が何処にあろうとも構うものか」 何故。 この時心臓を止めてしまわなかったのだろう。 こんなに痛いのに。 「痛いっ・・・・・・・やめっ・・・・しぐ・・・っあああああっ・・・・!!」 上衣はそのままに、ズボンと下着だけ下ろされた状態で獣のように背後から襲われた。 ろくに慣らされなかった蕾は、時雨の進入を固く拒んだが、それ以上の激しさで進入してきた凶器に東雲は悲鳴をあげた。 傷ついた入り口からさらに奥まで時雨は入ってこようとする。 「やだぁぁぁぁぁっ」 半狂乱で逃げようとする東雲の細腰を掴んでさらに引く。 その衝撃にかんだ唇が切れた。 「・・・・っ」 時雨も辛いのだろう。痛みを堪えるように息をついて、舌打ちした。 「力を・・・抜けっ」 だが当然そんな事が出来るはずも無く、東雲は痙攣したままの体で子供のように首を横に振り泣きじゃくるだけだった。 初めて経験する痛みは、東雲から抵抗する力すら奪ってしまった。 動けば激しい痛みがひどくなるだけだったから。 やがて、諦めたのか時雨が腰を引く。 これで終わるのだと、東雲の体の力が抜けた瞬間また突き上げられた。 「うあっ」 また襲ってきた肉が切れる痛みと内部を押し広げられる気持ち悪さに吐き気がした。 太ももを流れるものの感触に、それが血だとわかった。 それで滑りを良くしたのか、時雨がぐっと奥まで突いてきて止まった。 「やだっ・・・・もうっ。やめてくれっ・・・・・・時雨っ!!!・・・・頼むからっ」 内部の時雨の分身はさっきよりさらに大きくなってる。 真剣に殺されると思った。 涙声で、プライドも何もかもかなぐり捨てて叫ぶ東雲の背中を時雨は押さえた。 肩にかろうじて引っかかっていた上衣を腕の辺りまで引き下ろす。 それは腕の辺りで溜まり、さらに東雲の動きを制限する。 「逃がさない・・・」 「・・・・ひあっ」 腰だけ上げられた状態で浅く突き上げられる。切れる痛みはまた一段とひどくなっていた。 「痛っ・・・・痛いっ・・・い・やだっ・・・・やっあああああっ!!」 意思などないその行為は、東雲に嫌悪感しか生まなかった。 時雨に・・・好きな人間から犯されているという事実がさらに、痛みを生む。 体だけじゃなく、心が傷つけられていった。 「・・・・っ」 次第に早くなってくるリズムに、時雨の限界が近い事を悟った。 「・・・・やだっ・・・・っ・・・時雨っ・・・・・・」 始まりが突然だっただけに時雨はゴムなんてつけてなかった筈だった。 「時・・・・雨っ。いやだっ・・・・!・・・・やだっ!!!」 東雲が何を嫌がってるのか感のいい時雨にはわかったのだろう。 喉の奥で笑った。 「中に出されるのが、そんなに嫌か?」 「やだ・・・・頼むから・・・・・」 「そうか」 時雨の声はいっそ残酷なほど優しかった。 それは彼が本当に怒った時だったのだと、このときの東雲は気がつかなかった。 「あああっ」 一気に激しくなった抽送に抗う事も出来ずに悲鳴を上げた最奥を更に抉られた瞬間。 マグマが弾けたかのような衝撃を受けた。 「うあっ・・・あっ・・・・」 何が起こったのか更にわからせようとするかのように時雨がゆるゆると腰を動かした。 くちくちと淫猥な音を立てる結合部から何かが溢れたのがわかった。 ただ泣きじゃくる東雲の短い髪に細くて形のいい指を差し込んで撫でる。 「いつもの元気はどうした?」 そんなものあるわけがない。 抵抗する気も失ってしまった東雲は、これで終わったのだとぼんやりと思った。 時雨は自分のものを抜いて、組み敷いた体を仰向けにする。 膝裏に手を当てて東雲の足を広げるように抱え上げる。 重そうなコートもそのままで、ズボンの前だけくつろげただけなのに時雨の姿はひどく扇情的だった。 そして時雨のものがまだ力を失わず空を仰いでいた。 「・・・・・っ・・・・」 信じられない様に目を見開いた東雲に、形のいい唇が皮肉気に上がる。 「これで終わりだと思ったか?終わらせるわけない・・・・・・・お前の中を余すところなく俺で満たすまで」 時雨がどうしてこんな事をするのか、東雲はわからなかった。 だけど、時雨は自分のことなどもう好きでもないし、むしろ殺意さえ持つほど嫌いなのだろうと思った。 出なければこんな嫌がらせをするだろうか。 もしや、あの告白ですら最初からうそだったのではないだろうか。 浮かれた自分を見て影で笑っていたのではないか。 とどめなく流れる涙は、壊された自分の想いがあふれたものなのだろうか。 「いや・・・満たした後も・・・」 「――――!!!!」 それはいっそ終わりのない拷問の予告なのだろう。 「殺せっ・・・・いっそ、殺してくれ!!!」 叫んだ東雲の声はすぐに悲鳴に変わった。 血と精液で更に進入しやすくなったそこに、凶器は躊躇わずに入ってきた。 「ああ・・・・殺してやるさ・・・」 世界一物騒な睦言に眩暈を感じながら、東雲は絶望で歪んだ視界を閉じた。 目の奥で鮮血が火花のように散った。 寝乱れたシーツの上で意識を手放した東雲を時雨は見下ろしていた。 首筋から下は愛撫というには痛々しいほど赤い花びらが散らされ、噛み跡はすでに青く変色していた。 その上に二人の精液が交じり合って伝っていた。 白い足の根元から伝う赤い筋はシーツに染みを広げていく。 何より痛々しいのは涙で濡れた顔。目の下は赤く腫れていた。 「・・・・・・・・・」 明らかに陵辱されたとわかる姿だった。 何度この体の中で果てたのか覚えていない。 だが、最後には声もかれた東雲が気を失わなければ、更にその体をむさぼっていただろう。 ・・・・夢にまで見たその肢体を。 濡れたタオルで東雲の体を丁寧に清めてやり、傷ついたところには薬をつけてやる。 一番ひどかったのは言わずもがなだが、時雨が思わず目を見張ったのは後ろ手にかけた手錠の跡だった。 必死に外そうとしたのだろう。 皮膚がめくれ、血まみれになっていた。 つまり・・・・それほどまでに嫌だったのだろう。 手錠を外してやり、そこに口付ける。 「・・・・・・・」 さっきまでの激しい姿からは窺い知れないほどに優しく。 シーツを変えたベットに東雲を寝かし直して時雨は部屋を出た。 本を読んでいた机に腰掛けて深くため息をついた。 やがて懐からカードを出し、ギルドチャットは使わずにWISの周波をあわせた。 『皐月・・・今いいか』 手放す事などできない。 この部屋に閉じ込めてでも自分のものに。 『話がある』 『珍しいわねぇ。でも用件は判ってるわよ?東雲の事でしょ?』 楽しげにくすくすと笑う皐月の声に何も感じなかった自分がいっそ滑稽だと思った。 東雲を何が何でも自分のものにする。 ・・・・・そう、思っていたはずだった。 だから抱いた。 それなのにこの寂寥感はなんだ。 抱いても抱いても満たされない心の闇。 ・・・・・・最後まで拒絶した東雲の姿に自分は・・・・ これですべてが終わったのだと悟ったのだった。 『・・・・東雲を犯した』 向こうで皐月が息を飲んだのがわかった。 それはそうだろう。自分の恋人が男に犯されたのだから。 『・・・・え・・・?』 『陵辱・・・・強姦という言葉の方がいいかもな。俺を殴ってもいい・・・・迎えに』 来てやってくれないかという言葉は彼女の声にさえぎられた。 『馬鹿ね。あんたなんて事したのよ!!!』 『・・・・・・・・・・』 『東雲はね!本当にあんたの事が好きだったのよ!!?なのにっ、何でそんな事!!!見損なったわよ!!!!』 『・・・・・・・・・?』 突然突きつけられた言葉に、時雨は絶句した。 『・・・・・・東雲は・・・お前と付き合ってるんじゃ・・・・昨日確かに・・・』 『何言ってるのよ!!!そんな事あるわけないじゃないの!東雲はね、ずっと前からっ・・・・なのにっ。何であんたは!!!!』 後半は涙声になっている彼女の声すら耳に入らないまま、時雨は唖然と立ち尽くした。 昨日見た仲睦まじい姿とともに確かに自分は聞いたのだ。好きだといった東雲の言葉を。 『あんたに好きだって言われて。自分も告白するんだって、嬉しそうに言ってたのよ!!!?』 がたんとどこかで物音が鳴った。 それが寝室からだと悟ったとき、時雨は走ってドアをあけた。 「東雲!!」 だが、ベットには誰もいなかった。 この部屋の何処にもいなかった。 「・・・・・どこに」 閉めていた筈の窓が開かれていた。 カーテンが、風に揺らめいていた。 魔法と鍛冶の町ゲッフェン。 その西にある展望台に東雲はいた。 あまり人の来ないこの場所は、三人が始めてPTを組んだ時に来た思い出の場所だった。 切り株にぺたりと座り込んでどこかぼんやりと空と湖の狭間を眺めていた。 「なんて・・・・悪夢だよ」 行為の最中下敷きになっていた上衣は使い物にならず、部屋にあったYシャツを羽織っていた。 襟のあたりをぎゅっと掴むが、それでも体に残った跡は隠しきれなかった。 それ以上に痛む体の節々に嫌がおうにもあれが現実だったのだと思い知らされるのだが。 『んあっ・・・・・ああっ・・・・あっ』 『・・・・・感じてきたのか?ほぉ、・・・・こんなに敏感で女を抱けるのか?・・・・・・淫乱』 愛情のかけらもないその行為は、ただの乱暴と言ってもいい。 たとえ好きだった相手からだとしても。 気がついたらあんな場所に1秒たりとも居たくなかった。 「・・・・・・もう、涙も出ねぇよ・・・・」 情けなくて、悔しくて。 ・・・・・・裏切られた気がして。 「・・・・・違う・・・・。裏切られたんじゃない・・・・最初から、期待した俺が馬鹿だっただけなんだ」 好きなのだと言う言葉を信じた自分が愚かだったんだ。 最初から何も期待しなければ傷つく事などない。 「何も感じるな・・・・考えるな」 呪文のように呟きながら、一つ一つ感情を消していく。 自分だけの世界は閉鎖的だが、それでも居心地はいいから・・・・。 昔そうして自分の心を守ってきたように、また東雲は一つ一つ消していく。 感情も。 思い出も。 「・・・・・?」 どのくらいの時間がたったのだろう。 日は山の向こうに消えかけて、夜の帳が落ちようとしていた。 「・・・なんで、俺ここにいるんだっけ?」 頭がぼんやりと霞がかっている気がした。 立ち上がろうとして、突如襲ってきた体の痛みにまた蹲る。 「・・・・?」 『何で』こんなに痛いんだろう? 東雲は不思議に思いながら痛みを堪えて立ち上がる。 「東雲!!!」 呼ばれても一瞬、それが自分の名前だと気がつかなかった。 「?」 背後から腕を捕まれてそのまま後ろから抱きしめられた。 それに恐ろしいまでの恐怖を感じて東雲は暴れた。 「うあああああああああああああっ!!!」 「東雲!暴れるなっ。傷が開く!!」 「いやだ!!いやだぁっ!!!!!」 東雲は半狂乱でその腕から逃げようとした。 なぜこんなに怖いのか自分でもわからなかった。 ただ漠然とした恐怖に襲われ男の手を引っかき、必死になって押しのけようとする。だが男の手は東雲を離さなかった。 「なぜ・・・・言わなかったっ」 「離せっ・・・・・」 「・・・・いや、違う・・・・。お前は言おうとした・・・・話があるとそう言ったのは、その事だったのだろう?」 「離せってば!!!だれかっ!!!!」 「俺が・・・・馬鹿だったのだ。・・・・くだらない嫉妬にお前を傷つけた」 この男は危険だと、本能が告げる。 自分が築いた世界を壊そうとしているのだと。 恐怖で震え動けない東雲に、もう抵抗しないと判断したのだろう。 男の腕の力が抜けた。 「・・・・・東雲・・・すまなかった。・・・・それともう一度伝える」 互いに向き直って東雲は相手がセージなのだと『始めて』知った。 この展望台は、ゲッフェンの魔法技術を駆使して作られたのだという。 宙に浮いた小さな島。 眼下には湖が広がっていたが、落ちたら死ぬ事もあるのだと。 『特にお前は危ないな、阿呆だからな』 ああ、そんなこと言ってた奴がいたな・・・・。 誰だか『覚えて』ないけど。 だけど、その姿が目の前のこのセージと重なるのは何故なのか。 男の口が開いた。 「・・・・・愛してる・・・・」 東雲は自然に腕を上げた。 セージの肩に手をつくようにして押した。 目を見開いた男がふっと下に消えて、遥か下で激しい水音がなった。 これで邪魔者はいなくなった。 不快な人間は消えたのだ。 「・・・・・いなく・・・・な・・・・」 最後に耳に入った言葉が今ごろになって言葉になった。 『愛してる』 「・・・・・し・・・・ぐれ・・・・・?」 驚愕に目を見開く。 夢の世界から一気に現実に引き戻された気がした。 同時に今自分がした事が信じられなくて、両手の手の平を見た。 そこに、時雨を押した感触が残っていた。 「うああああああああああああ!!!!!!」 自分が彼をここから突き落としたのだ。 「時雨!!!時雨!!!時雨!!!」 馬鹿のように彼の名前を叫んで島の淵に手をついて下を覗き込んだ。 その先に彼の姿がわずかでも見えることを信じて。 「何だ」 すぐ目の前で無調面の彼と目が合って、驚きで固まってしまった。 「・・・・・っ!!!!?」 「正気に戻ったか、阿呆・・・・しかし、本が落ちてしまったな・・・・過剰精錬していたのだが・・・・まぁ、いい」 浮遊島の端に腕を引っ掛けてそこから釣り下がっていた時雨は湖を見下ろし、そしてまた顔を上げた。 「限界だ。お前も付き合え」 何が限界かといえば握力だったらしく、時雨はもう片手で東雲の腕を掴むとそのまま島の端を捕まえていた手を離した。 すると、引っ張られた東雲まで浮遊島から引きずり落とされることになり・・・・。 本当に怖い時、人は悲鳴などあげないのだと思い知った。 「げほげほげほっ」 したたかに水に体を叩かれ、水を飲んだ東雲は自分の体を支える腕に必死になって抱きついた。 「しがみつくな!俺までおぼれるだろうが!」 そういいながら、時雨が乱暴に東雲の顔を上げて息をさせる。 「・・・っ・・・うぇ・・・」 咳き込みながら半泣きで必死で息をする。 足はつかないまでも、この泉は浮力がある。 一度体を安定させたらおぼれるような事はなかった。 「信じらんねぇ・・・人まで巻き込んで落とすか、普通・・・・・・・し・・・死ぬかと・・・・」 「あれくらいの高さで死んだらかなり器用だぞ。それに・・・・自分を殺せと言ったのは、お前だろう」 そんなことを何時言ったかと言い返そうとしたが、すぐに思い当たる。 「あれは・・そういう意味じゃっ」 「だが・・・・一人で死なせるわけにはいかんからな・・・・。だから俺もお前に殺されてやったのだ」 皮肉気に尊大に笑った時雨は、いつもの彼だった。 時雨が抵抗も見せずに落とされた理由がわかって東雲は言葉も出なかった。 殺そうとした自分をそんな言葉で受け止めようとする時雨に、だが東雲はまだ許すことはできなかった。 時雨の無事な姿に安心したのは確かだが、一度裏切られたという感情はそうやすやすと打ち消せるものではないのだ。 「だって・・・・それはお前がっ・・・・」 「ああ、俺が悪かった」 そう言って東雲の頬に唇を寄せる。それに、性的な意味合いを感じて東雲は時雨の顔を押しのけた。 「近寄るなっ!俺はまだ許しちゃいないんだからな!」 「ふん・・・・・残念だな。お前が許してくれるのを待ってるほど俺に余裕がない。お前の気持ちが何処にあるかはっきりわかったからにはな」 時雨はなにやら懐から出した。それがあのゴミ箱の中にあったチョコレートだと気がついた。 オレンジのリボンを解いて取り出したそれは、水の中にあったのだから当然びしょぬれで。 「さすがにこうなるな・・・・まぁいい。東雲、仕切りなおしだ。お前のチョコは後で食ってやるから、とりあえず俺が用意したものを受け取れ」 「は?」 まさか、それが時雨が用意したものだったとは思わず、東雲はあっけに取られた。 「何で・・・・捨ててあったんだよ」 「それも後から教えてやる」 ハート型のチョコを自分の歯で割って、そのまま東雲の唇をふさいだ。 口の中に押し込まれた冷たくて甘い欠片と、初めてのキスにくらりと眩暈を感じながら東雲は目を閉じる。 さっき抱き合った時ですら、時雨とは一度もしなかったから。 「・・・だって・・・お前っ・・・ん・・・・俺の事っ・・・・・嫌いなくせに・・・」 「・・・・・・愛しているといった・・・」 「・・・・んんっ・・・・ん。そんな事・・・・・いって・・・また・・・・」 「もう、二度と気の迷いなどとはいわない」 チョコだけじゃない、ぬめったものに口内を荒らされて東雲は息も絶え絶えに時雨にしがみ付いた。 一人だけではない熱が一緒にチョコを溶かしていく。 「・・・・・甘い・・・・」 熱に浮かされたようにそう呟く。 甘いのはきっとチョコだけじゃない。 心地良いくらい優しい時雨の声。 急に与えられた感情が涙が出そうなほど嬉しかった。 さっきまでの恐怖すら溶かされそうなほどに。 「・・・・・あんまり色っぽい顔をするな・・・・襲うぞ」 「!!!」 吃驚した東雲は慌てすぎておぼれそうになり、時雨にまた怒鳴られるようにして抱え込まれた。 「この阿呆が!」 「お前が変な事を言うのが悪いんだろう!!!!」 「変な事ではない。事実だ」 「・・・・・・・・」 真顔で言われて、東雲は顔を真っ赤にしたまま顔を背けた。 それに呼応したかのようにめまいに襲われた。 だんだん力抜けていく感覚は今まで体験したことのないものだった。 「・・・・・れ」 本気で体の力が入らなかった。 「・・・?東雲?」 不審に思った時雨の声も遠い。 激しい眩暈と動悸だけが東雲の体を支配していく。 (やべぇ・・・・、まじ死ぬかも・・・) 『ばか者!これくらいで死ぬか!』と遠くで時雨の声がして、本日二度目の気絶というものを東雲は経験したのだった。 あれから熱を出した東雲は3日間意識が戻らなかった。 当然それは強姦された後に湖にダイブなど、さすがに体に負担をかけすぎていたのが原因で。 それに精神的苦痛もあったのだろう。 4日目、目が覚めた東雲は皐月から「馬鹿馬鹿馬鹿」と泣きそうな顔で罵られてしまった。 そしてようやくベットの上で起きれるようになった東雲は、ようやく会うことを許された(皐月がむちゃくちゃ怒って面会謝絶を言い渡していたらしい)時雨に誤解や事の経緯を聞いて唖然としたのだった。 「・・・・・・そんな事で俺襲われたわけ?」 「冷静な俺も切れる事はある」 ふてぶてしいという言葉がぴったりなほど、堂々と言い切った時雨に東雲はがっくりと肩を落とした。 「大体素直にならんお前にも問題はあるだろう。俺が好きだといったのだから、その時頷いていればこんな事にはならなかったのだ」 「あんな告白が有るかよ!!!半分脅しだったじゃねぇか!!!!」 「脅しではない。事実を確認しただけだ」 「お前だって自分で悪かったっていったろ!勝手に勘違いして人のこと強姦して!!!覗き見するんだったらなぁ、最後までちゃんと見ていけ!!!」 「覗き見ではない。たまたま偶然お前らがいたのだ。・・・・しかしおかげで最悪の思い出になったな。だが安心しろ、すぐにでもめくるめく快楽の記憶にすり替えてやろう」 「ぎゃ――――――!!!!」 身を乗り出して覆い被さろうとした時雨に俺は叫んだ。 「・・・・何故抵抗する」 「ここで襲われたら、俺まじ死ぬから!!!!」 憮然とする時雨の顔を押しのけただけでも、まだあらぬとこがじんわり痛むのだ。 それに日も明るいうちから、いつ人がドアを開けるかわからない状況で襲われてたまるかというのが東雲の意見だった。 涙目になった思い人に、しぶしぶといった感じで時雨は体を起こす。 「しかたない・・・・直るまでは我慢してやろう」 「だから、何でお前はそう自分勝手なことをそうはっきり言えるんだよ・・・」 しかもなんでそんなお綺麗な顔して即物的なんだ、この男は!!!! 東雲は真っ赤になって布団を頭までかぶる。 「お前を手に入れたのだと実感したいのだ。俺は」 シーツからはみ出た額を冷たい指で撫でられる。 その優しさに眩暈がする。 「・・・・・東雲。お前俺の事が好きだろう?」 それはすべての始まりの言葉。 「・・・・・・嫌い」 うっとりしながらつい口に出た言葉に本人が気がつく前に、時雨ががしっとその頭を掴んだ。 「貴様はどうしてそう素直じゃないのだ!!!お前は俺のチョコを食い、おれも食ってやったのだ。互いに想いを確認しておいて、なぜにここでそういう言葉が吐けるのか、俺にもわかりやすく説明してみろ!」 万力のごとく頭を締められて東雲は情けない声を上げる。 「ぎゃー!!しらねぇよ!俺だってなぁ!お前がもうちょっと優しかったらとっくに好きだって言ってたんだよ!寄れば触れば喧嘩ばかりしていた相手に、いまさら好きだ何て言えるかぁ!」 もう告白してるも同然なのだけれども、東雲は必死でそれに気がつかなかった。 むしろその言葉に驚いたのは時雨の方だった。 「・・・・・・・・・・東雲」 万力の力が緩んで、引き剥がそうとした東雲の腕の力も抜けた。 「何だよ・・・・」 時雨の手に自分の手を添える形になってるのを、ちょっと恥ずかしいと思いながら首をすくめる。 時雨は呆れたようにため息をついて目元まで隠していたシーツを下に下ろした。 「お前実は恋愛不信者か」 「・・・・は?」 意外な事を言われてほうける東雲を見ながら、時雨はなにやら一人納得している。 「そうだな、確かお前は愛情を受ける事の少ない環境にいたのだったな」 「???」 訳のわからないことを言いながら頷いている時雨は 「今でさえ俺がお前を好きだという言葉ですら、お前はすべてを信じているわけではないのだろう?」 正確に的を射た言葉に東雲は目を見開く。 「疑ってるわけじゃ・・・・なくてっ・・・・・」 「ああ、それでどうという事はないから安心しろ」 今にも泣きそうになった東雲に、まるで子供に言い聞かせるように優しい声で言う。 「例えお前が阿呆でも、喧嘩早く猿より足りない脳みそしか持ちあわせていないのだとしても、俺はお前の事が好きなのだからな。焦ってもしかたあるまい。しばらくはお前のお子様ペースにあわせてやる」 「だからお前は!!!喧嘩売ってるのか、告白してるのか、どっちかにしろよ!!!」 東雲のしぼんだ気持ちが一気に怒りに代わる。 起き上がろうとした彼の頭をまた抑えるようにベットに戻して、時雨はその頭を優しく撫でた。 「だからお前も早く愛され慣れるように努力してくれ?」 「は?」 なにそれ。 疑問を浮かべた東雲に時雨はまた深いため息をつき、顔を寄せてきた。 「覚悟しろよ、いつか必ず好きだと言わせてやるからな」 時雨の言った言葉の意味を東雲はまだ理解していなかったのだけれども。 チョコより甘い口付けと、自分の望みでもあったその提案に彼は幸せな気持ちになりながら目を閉じた。 …AND CONTINUE? ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 愛される事に慣れてない人と愛する事を躊躇わない人の話。 時雨ってマニアというかコレクターっぽい・・・。東雲コレクター。 この日着ていた東雲の上衣とか使ったシーツとか(共に血と液まみれ)コレクションしてるわけですよ。 というあぶない冗談は置いといて。(いやでもしてる、確実) 正直二人の次の夜が気になるところです。 きっと大騒ぎだろうなぁ・・・・(*´Д`*)b そこらも萌と思う自分は十分腐れてるなぁと思う今日この頃。 最近服はだけたままっていうのはアダルトで(・∀・)イイネ!などとほざいてる私の頭をどうにかしてください。 聖職者系はもろに好みです。 |