明らかに同意ではないとわかった。

彼のお気に入りの学生帽は遠くに飛ばされ、その口には布のようなものが詰め込まれていたから。
なにより殴られたのか顔が赤くはれていて、その顔が呆然とこっちを見ていた。
彼の聖衣は前の留め金を外された状態で腕まで落ちて、ズボンが白い片足に引っかかっている。
腕は背後で拘束されているのか、抵抗らしい抵抗も出来ないままに高く持ち上げられた足を広げたまま見知らぬ騎士に乗りかかられていた。

「何だお前はっ」

その声に我に帰った。
一気に血の気が引く。
そして疾風は手に握っていた弓を振り上げてそれで騎士をぶん殴っていた。

「俺の日方に触るな!!!」











LOVE DISTRUST 2









『もうすぐ臨公終わるから、清算広場で待ち合わせしようぜ』

そう相方のプリースト日方(ひかた)と約束した疾風(はやて)は、時計を気にしつつ店が並んでいる場所を見渡していた。
疾風は高レベルの2極ハンターだった。
優しげな風貌を彩る鈍色の長い髪は後ろでくくられ中性的な雰囲気をかもし出している。
相方の支援プリーストの日方とは2年来の付き合いになる。
だがそんな短くも無い時を一緒に過ごしてきた日方にも秘密にしている事が彼にはあった。
なんとこの疾風、天性のゲイだったりするのである。
性観念が薄かったからか結構みだらな青春時代をすごしてしまい、最近ではもう枯れたかななどと結構本気で考えていたりする御仁だったりする。
見目がいいだけに相手には事欠かなかったが、それも体だけの付き合いが多かった為短期間で別れる事が多かった。
普通の恋人のように社会的な確かな繋がりを持つ事が出来なかったからかもしれない。
別れるときも自分から追いすがったりした事は無い。
「優しいけど、心が無い」と関係を持った人間から面を向かって言われたこともあった。
疾風は人を好きになるということを良く知らなかった。
だからだろうか。疾風はふいに心が欲しくなったのだ。
普通の人間が、普通に愛せるように。確かな繋がりは作れなくとも、それでも一緒にいてもいいと思えるような人に出会えたらと。
それでもそんな日は来ないかもしれないと薄々自分でもわかっていた。
あるいはそれはそれまでいた世界に毒されていたからかもしれないのだけれども。

日方とは臨公で拾われたのがきっかけで仲良くなった。
だがそれは本当に友人としてで、彼の開けっぴろげな感情に心休まると思ったからだった。
喜怒哀楽の激しい日方の側は心地よかった。会ったその日に関係を持つことも珍しくない疾風にとって側にいるというだけで楽しくなるという事は初めての経験だった。
だから余計に自分の性癖に関しては黙っていた。
嫌われる事が怖かったのだ。

そんな二人は本日ギルドを作る事になった。
疾風も日方も今までギルドに入ったことがなかった。
誘われる事はあったものの、人の下につくという事が二人とも苦手だったのである。
しかし、高レベルになるにしたがって誘われる事が更に多くなってきた。それにいいかげんうんざりして、自分達で作ってしまおうかという運びになったのだ。
エンブレムは疾風がよさげなものをエンブレム屋から買ってきた。あとは日方が名前を決めてエンペリウムを持ってくればすぐにでもできる。
「・・・・おそい・・・かな?・・・」
彼の錆色の長い髪は一つにくくられて背中で不安げに揺れていた。
カウボーイハットの縁から視線をさまよわせるがお目当ての人物が見えないのだ。
たしかに大勢いる中から見つけることは難しいかもしれない。それでも見つける自信はあった。
それにさっきWISがあって結構経つ。
「迅雷、見てきてくれないか?」
頭の上で飛んでいた自分の鷹に声をかける。すると鷹は一声鳴いて更に高く飛び上がっていった。
日方のポタの位置は把握している。
だからこそ他の場所で精算をしているという可能性は低いように思えたのだ。
『・・・・日方?』
邪魔になるだろうかと躊躇っていたWisをするが返事が無い。
嫌な予感がして疾風はあちこちを見て回った。

ピィィィ

自分の鷹の声に空を見上げる。
建物が混在する場所の頭上で迅雷が円を描くように飛んでいた。
「日方!」
途中人にぶつかりながらも、目的の場所に向かう。
細い路地に弓が引っかからないように走りながら、胸に宿る嫌な予感に息を呑んだ。

そしてその間は的中していたのだ。

「俺の日方に触るな!!!!」

日方に圧し掛かる騎士をとっさに手に持っていた物で殴る。騎士が頭を抑えて昏倒したのを更に蹴り倒した。
ちらりと見た日方の下部の様子に、まだ挿入されるに至っていないとわかってほっとした。
だがしかし、このレイプまがいな出来事にこのプリーストがどれほどショックをうけたか。
どうしてもっと早く見つける事が出来なかったのか、疾風は顔をゆがめた。
そんな顔を日方に見られないように抱き起こして、彼の腕を拘束していたベルトを持っていたナイフで切った。
腕の中で強張った体ががくがくと震えていた。
日方の口を塞いでいた布も取った時、よろよろと騎士が立ち上がる気配に気がついた。
背後に庇うように立ち、その騎士と相向かう。
「それ以上前に出た容赦しないから」
これ以上傷つけてなるものかと騎士を睨み付ける。
おそらく日方の臨公相手だったのだろう、その男は疾風の気迫におされて下がった。
「なんだよ・・・じゃれていただけだろ。何もしてねぇよ」
卑屈に笑う騎士に吐き気がした。
こういう人間は何処にでもいるということを自分は知っていた。
いっそ殺意すら抱いて軽蔑の目を向ける。
「・・・・・・・」
不意に背後から手が伸びてきて、ナイフを持ったままの手を取られた。
それが日方だと判っていたが、疾風はその上から自分の手を重ねた。
ショックで自傷行為でもされたらと思ったからだ。
「・・・・・疾風・・・」
乱れた息の隙間からようやく漏れた声は、か細く震えていた。
疾風に手を捕まれたまま日方が立ち上がる。
白い足が黒い聖衣からちらちらと見えるさまに思わず目が引かれた。
それどころじゃないというのに、自分のものがずくっと熱くなるのがわかった。

「疾風・・・ナイフ・・・貸せ」

「ダメだ」
あるいはそれは自分の欲にいったものかもしれない。
「貸せ」
さっきよりはっきりと確かに呟いた声の強さと喉の奥から漏れる引きつったような音に疾風もなにやら日方の様子がおかしい事に気がついた。
「・・・・貸してもプリーストは使えないでしょ」
それなのにそこまでしてなぜ欲しがるのか。

「いいから・・・・」

顔を上げた日方の目は恐怖と悲哀に満ちていた・・・・・訳ではなく。
鬼人もかくやと言わんばかりの形相で、引きつった笑顔まで浮かべていた。
おかしいから笑っているのではない。ようするに日方は切れていたのだ。
その恐ろしさを間近で見てしまい疾風は思わず目を見開いて肩を震わせた。
日方は怒りに震える腕で疾風のナイフをもぎ取ろうとする。
それに殺意を感じて疾風はナイフを尚いっそう力をこめて握り締めた。この騎士を殺してやりたいのは山々だが、日方の手を汚させるわけには行かなかった。
「だ、ダメだってっ。・・・・下手したら資格剥奪される事だってあるんだよ・・・・?」
それに、とうとう日方が怒りのままに怒鳴りつけた。

「いいから早く貸しやがれ!!!!!資格剥奪されようが聖堂から追放されようとかまうかよ!!!!何がかわいいだ!!!!ああ、どうせプリーストは非力だよ!!!ろくな抵抗なんざできませんでしたよ!!!だけどな、ここまで好き勝手されて黙ってられるか!!!!!俺はこのホモ野郎の汚ねぇ×××ぶった切って重石つけて伊豆の海峡に放り込まなきゃ気がすまねぇんだっ!!!邪魔するようならてめえからぶっ飛ばすぞ!!!!」

「!!!!!!!」

天地を轟かす一喝に、疾風は心底おびえた。熱くなっていたものさえ一気に縮み上がったほどである。
その手からナイフをもぎ取った日方に、騎士は悲鳴を上げて逃げ出した。
「まて!!!逃げんな!!!!」
「っ!」
疾風はとっさに追いかけようとした日方を捕まえた。
「疾風!!お前どっちの味方だ!!!邪魔すんなっつてんだろ!!!」
「待て待て待て!!服!!お前そのままで街中走り回る気か!?」
そこでようやく日方は自分の格好に気がついて舌打ちした。しばらく悩んだ後、男が去った方角を射殺さんばかりににらみつけながらしぶしぶと落ちていたズボンを拾いに行く。
相方が殺人者にならなかった事に心底安心した疾風の耳に怨念めいた言葉が届いた。
「・・・・・・・・あのホモ野郎・・・今度見付けたら絶対ぶち殺す・・・何が何でもぶち殺す・・・簀巻きにして海峡に吊るしてやる・・・っ」
「・・・・・その時は俺がハリネズミにしてやるから」
冗談のように言いながら結構本気の疾風である。
身なりを整えている日方に背を向けて見張りをしてる振りをして赤くなっていた頬を抑える。
2年も清らかな生活をしてきたからだろうか・・・。
相方にまで欲情するようでは終わってる・・・と自己嫌悪になりつつも、さっき押し倒されていた日方の姿にぞくりとしたものを感じたのは確かだった。
「あーっ!!気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いっ!!!普通男の尻の穴に突っ込もうとするか!?信じらんねぇ!!!」
「・・・・・・・・・・」
ちょっと傷ついた疾風だった。
「うー・・・疾風。宿帰るぞ・・・俺、風呂入りたい。触られたところが気持ち悪いっ」
「・・・・ああ・・・そうだな」
「・・・・・・・・あー・・・・そだ」
日方はじっと疾風を見たかと思うと、その胸倉掴んで引き寄せた。
まだ持っていたナイフをちらつかせながら目つきを鋭くし、
「この事誰にも言うなよ?・・・・・言ったらわかってんだろうな・・・」
低い声で脅す。2年来の相方だろうとなんだろうと・・・いや、だからこそ疾風はそれが本気だと悟った。
「・・・・言わない」
「うし」
約束する事が当たり前だといわんばかりに頷いた。
そのまま開放されるのかと思ったが、日方はじっと自分の掴んでいるところを見るとおもむろにそこに顔を埋めた。
「ひっ、日方!?」
ぐりぐりと頭を押し付けられて疾風は驚いて声がひっくりかえった。
すぐ間近にある感触にまた背筋に電流が走った。これはやばいと思った。
「ちょっ・・・・日方・・・っ」
「へへーん。男に擦り寄られるという気持ち悪さをおすそ分けだっ」
偉そうにそう言って、にっと日方が笑って体を離す。
ナイフを返して踵を返して「あーまじ気持ち悪かった」などとぶつぶつ言いながら歩いていく背中を疾風は唖然と見ていた。
「・・・真剣に・・やばいから・・」
わかってる。日方は自分の性癖の事を知らないからこうやってなんでもないようにとんでもない事をしてくるのだと。
なのに欲情してしまった自分が浅ましく思えた。
「・・・・あんまり・・・そういう意味で好きにはなりたくないんだけどなぁ」
できれば友人のままがいい。
体の関係があると、見失うものが多すぎるから。
恋愛というものはとても不確かで、同性同士だとさらに形が見えなくなってしまう。
友人としての立場を確立して付き合っていけることの方がいっそ確かで安心できると思った。
そうわかっているというのに。

「・・・・・俺もまだまだ若いねぇ」

自嘲する疾風に日方がなにやら持って振り返る。
「おい、これ」
ナイフを出したときに床においていた弓を持っていた。
そのまま忘れていたのだとわかって自分でも驚いた。
命の次に大事な弓だ。それを今の今まで忘れていた事が自分でも信じられなかった。日方が拾ってくれなければ置いたまま帰っていたかもしれない。
「あ、ごめん。ありがとう」
「お前がぼーとしてるのって珍しいな。それに弓のしなりが変わるからって壁に当てるのも嫌がるのに、それであの男殴ったから吃驚したぞ・・・・・」
それを聞いて自分でも驚いた。・・・・そういえば確かに手に持っていたこれで殴ったような気がする。
「あ・・・慌ててたから・・・・」
もうそれ以外言える言葉が無い。耳まで熱くなってるのがわかった。
ああ、やっぱり自分はどうかしてる。
受け取った弓をざっと見たが、やはりかなりの調整が必要だった。

「まぁ・・・後悔はしてないけど」

どうしても許す事は出来なかったから。

「それにさー・・・・」

日方はなにやら言いかけて口をつぐんだ。間が開いたので不思議に思った疾風が小首を傾げる。
「いや・・・なんでもない」
なにやら考えていた日方は、ひらひらと手を振って歩き出した。
特に深刻でもないようだったので、気にはなったものの疾風は何も言わずに日方の後についていった。




日方は風呂上りの濡れた頭にタオルを乗せてその端をかんでいた。
仮の宿屋にソファなどというものは無く、ベットの上であぐらをかいていた。
そんな彼は聖衣ではなく風通しのいいシャツを羽織っている。
その襟から見える肌はタオルで擦られ過ぎて赤くなっていた。
口元や腕の傷はどうやらヒールで消してしまったらしい。

「ギルドの名前は適当にいくつか考えといたけどどうする?」

あえてさっきの話を蒸し返す気にはなれなかったらしい。日方の心情を察して、疾風もなんでもないように答えた。
「その中で一番気に入ってるものでいいよ。エンブレムはこれにしてみたけど」
きっちりマークとしても使えそうなそれに日方も頷く。
「さすが俺の相方。俺の好みわかってるなぁ」
「お褒めの言葉ありがとう。じゃギルマスは日方ね」
「うぎゃーっ。やだやだ、疾風の方が向いてるって!絶対!俺いいかげんだしさ」
「俺は人見知りするからねぇ。日方がギルマスじゃないと俺入らないよ?」
「んー・・・じゃあお前。ちゃんとサポートしろよ。俺一人じゃ絶対無理だから!」
「よろこんで」
むぅと口を尖らせる日方に疾風がおどけるように胸に手を当てる。
まるで騎士が貴族に取るような礼に『くさいくさいっ』と大笑いした。

「うんうん。じゃ、お前お母さんね〜」

日方は特別製の紙にがりがり必要なものを書き込んでいきながらそう言った。
「・・・・・は?」
いきなり出てきた単語に疾風が首をかしげる。

「だーかーらー。ギルマスって言うのはギルドの中ではお父さんだから、副マスはお母さんだろ」

「・・・・・・・・・・」

どうしてギルマスがお父さんなのだろうと思ったのだが、日方はそれが当然と思い込んでいるらしい。
黙っている疾風を逆にきょとんと見返していた。
それに副マスがお母さんだとする日方の理屈だと・・・・。

『それって夫婦・・・・?』

と言いかけて、その言葉を飲み込む。
言ったら恐ろしく怒られるのは目に見えている。
それに、例え擬似家族でもそう言った形で表してくれた事が嬉しかったのだ。
言って即離婚(ちょっと違う)になるのは控えたい。
「不満か?」
「滅相も無い」
「だよな〜『俺の日方に触るな』とか言うくらいだしー」
「・・・・・・・・・・は?」
疾風があっけに取られてるのに、日方が眉をしかめる。ペンの尻で頭を掻きながら
「なんだよ。さっき言ってたろうが。あいつぶん殴りながら」
「・・・・・・あ」
無意識で言ったものだったらしく疾風はすっかり忘れていたらしい。確かに言った事実を思い出して、さーと血の気が引いた。
「ちょっと吃驚した」
そりゃ驚くだろう。
だが疾風は今それ以上の衝撃を受けていた。

「あれは、俺の相方に触るなってことでだなっ?」

そう誤魔化そうとする疾風に、日方がいぶかしげに答えた。

「何慌ててるんだよ。それ以外に意味があるのか?」

「な、ない・・・・」

(よかった・・・。日方が純粋で・・・・)

心臓が止まりそうになった疾風だったが、ようやく動き出したそれがばくばくとまだ脈打っている。
無意識の中叫んでしまったのだろうが、だからこそそれが本音なのだとわかった。
一人の人間にここまで固執するのは初めてだった。
ほっとため息つきながら再認識している疾風の心境など知らない日方は、ちょっと嬉しげに口元を上げた。

「でも嬉しかったかな。お前文句とかあっても結構黙ってる方だし。口が足りないんだとは思ってたけど、俺の事ちゃんと相方と思ってくれてるのかなぁって不安だったんだ」

「・・・・・思ってるよ」
本当にそう思ってる。

「日方は大事な相方だって、ちゃんと思ってる」

疾風は心からの笑みを浮かべた。

だから、君に邪な感情で触れたりしない。
大事な大事な、心休まる場所だから。
歪んだ愛情や性欲なんかで汚したりしない。
君が好きだから。
始めて好きになった人だから。
友情として確立した関係だけでなく、家族として認められただけで疾風は満足だと思った。

「うわー・・・・・なんか改めて言うと照れるー。もうこの話なしな!なしで!」
「はいはい」
嬉しそうに頬染めて両手を開いて振る日方に、疾風も笑ってそう答えた。

胸に宿る暖かい何かを大事に感じながら。










それから1年後。

「あ・・・・っ。ちょっと・・・時雨っ・・・・やめろってば・・・」
「大人しくしてろ」
薄茶の髪をしたセージは、嫌がるモンクを腕の中で羽交い絞めにしていた。
「くすぐったいんだよっ。触るなっ・・・・」
「やはり心地いいな・・・。お前のここは」
「エロイ顔すんなよなぁ、お前〜っ」
かぁっと顔を赤らめるモンク・・・彼の名前は東雲という。
そんな彼を背後から抱きしめて頭を撫でているのはセージの時雨だった。

「てめぇら、いいかげんにしろ!!!今話し合いの最中だってわかってんのか!!?」
「・・・・・・・・・・・」

明らかにいちゃついてるとしか思えない二人を目の前に、怒りのあまりにプルプルと震えている日方を疾風はどう宥め様か考えていた。

「いいか、俺はお前らの関係を認めないからな!!!何がどうなろうともホモはいかん!」

「マスター・・・・」
モンクの東雲はしかられた子犬のような顔をして、ついで原因を作った背後の男を睨み付けた。
どうやら東雲は時雨との関係をあまり公にはしたくなかったらしい。だがこのセージは慎みとか人目を気にするという意識が欠けていた。
よってすぐにギルメンにばれたのであるが、それまでの二人の犬猿の仲を知っていただけに驚きはあるものの比較的興味津々と言った様子で許容されていた。
その中で唯一反対したのが案の定ギルマスであった日方だった。

「いいか、お前らには気立てのいい娘さんと幸せな結婚をしてほしいんだ。それでもって大きな犬とたくさんの子供達に囲まれて幸せな生活をしてほしいんだよ。何で世間から後ろ指刺されるような関係にわざわざ・・・・」
その結婚基準はどうやら日方の理想らしい。
そして時雨はというと、一つため息をついたまま黙って東雲の頭を撫でていた。
「時雨!」
それに目ざとく気づいて叱咤する日方に、ようやく時雨が口を開いた。
「許すも許さないも、互いに恋人としてもう成立した間柄は本人達の問題だろう。それにこいつはもう俺のなんだから何処をどう触ろうと俺の勝手だ」
「だからってさっきから何で頭触るんだよっ」
黙ってさっきから撫でられているものだからいっそ気色が悪いと東雲は眉間に皺を寄せる。
「この後頭部の辺りがな・・・手触りが良い」
「あーそうねぇ。髪が短いからなんかしゃりしゃりとして気持ち良いのよねぇ。東雲頭の形いいし」
と最初からいた皐月までおでこが出るほど短く刈られた青い髪を撫で出す。
ぐりぐりと押さえ込まれるように撫でられて東雲がまた逃げようとする。
「あまり触るな、これはオレのだ」
時雨が腕の中に東雲を確保する。
「これってなんだよ!俺はものじゃねーぞ!」
「突っ込みどころが微妙にずれてるわね・・・」
時雨があからさまに独占欲をもって東雲との関係を公言したも同然という事になるのだが、東雲はまったく気がついていないらしい。
殴りプリーストの皐月が呆れたように言えば、東雲の頭を触りながら時雨が頷く。
「阿呆だからな」
「なんだとこらぁ!時雨てめぇ喧嘩売ってんのか!」
「暴れるな」
「あらあら、いい子いい子されてよかったわねぇ、東雲〜」
「俺はガキじゃねぇ〜っ!」

「人の話を聞け!」

顔を真っ赤にした日方が怒鳴る。
そんな彼に疾風はお茶を入れて差し出す。
猫舌の日方のために作ったぬるめのお茶を勢い良く飲んで一息つくとまた捲し上げる。

「いいか!ホモってのはな。皆強姦魔なんだよ!!ケダモノというのも生ぬるい。人型ホモ属強姦魔!!!そんなものになるなんて、お父さんは絶対許しません!!!」

過去の事を考えるとたしかに日方がそう思っても仕方ないのかもしれない・・・・。だがすさまじい偏見に思わず頭に手をやってしまった疾風だった。
東雲は日方の言葉にカルチャーショックを受けたらしい。時雨まで眉をしかめている。
東雲の頭には先日時雨に強姦された事が脳裏に浮かんでいたのだが、日方と疾風は当然それを知るよしも無い。
しかしこのままでは話が進まない。
疾風は興奮する日方の肩を叩いて黙らせて、問題の二人を見た。

「・・・・二人は何で・・・、その、恋人になろうと思ったんだい?会えば喧嘩ばかりしていたから不思議なんだけど」

真摯な眼差しに東雲も恐縮するように姿勢を正した。

「・・・・・わかんない。こいつの事すごく嫌いなんだけど・・・でも、好きなんだ」

好きと言う言葉を言う事によほど勇気が必要だったのだろう。
耳まで赤くなって恥ずかしげに俯く東雲を見て、純粋だなぁと妙に微笑ましく思った。
言ってる事はめちゃくちゃなのだが、それでもその想いは伝わってきた。
「時雨は?」
聞いてもこの気難しい男は答えないかもしれないなぁとおもったが、時雨は神妙な顔をして顔を上げた。

「・・・・忌々しく思っていたのも確かだが・・・これほどに興味の沸く人間は他にはいない。これを好きだと言わないのなら、俺はこの先誰も好きになりはしないだろう」

その言葉に疾風だけじゃなく、誰もが言葉を発せずにいた。
やがて疾風が目を細めて口を開いた。

「でもそれは一時の気の迷いかもしれないよ」

それにあからさまに不安になったのは東雲だった。
だが、時雨は東雲を捕まえていた腕の力を入れた。
「ありえんな。俺は自分の感を信じるし、・・・それにこんな手間のかかる人間を一時の気の迷いで愛するのは無理だ。阿呆だからな」
「誰が阿呆だ!!!」
また始まった二人の痴話げんかを見ながら、疾風は正直羨ましいと思った。
自分はこんな風に求められたことも求めた事も無かったから。
ベットの中で使うその場限りの愛の言葉とは違う、純粋で若く力強い言葉。
青い春って書いて青春と呼んだのは誰なのかなぁとずれた事まで考えつつ、それでも疾風は羨ましかったのだ。
酸いも辛いも味わっているだけに正直反対した方がいいかもなぁと思っていた疾風だったが、この二人は自分が恐れているような事にはならないような気もしていた。
それは本当に夢のような自分の願望だったのだけれども。

「お前ら喧嘩するなら外でやれ!」

口喧嘩がつかみ合いの取っ組み合いになったところで、日方が切れたらしい。
結果追い出される事になった二人に皐月がついていって、疾風は日方と二人きりになる。
案の定むすーっと口を尖らせているその姿に疾風は思わず笑みが浮かんだ。
かわいいといったら怒られるだろうなぁ・・・などと思いつつ、口では意地悪な事を言ってみる。

「本当に許せなかったらギルド追放してもいいんじゃないのか?」

それに目をむいて日方が怒鳴る。

「ばか!俺は一家のお父さんとして更正を手助けしてやる義務があるんだ!追放なんかするか!」

そこまで言ってまた日方が恨めしそうに疾風を見た。疾風が笑っている事に気がついたらしい。
「お前・・・・何気に性格悪いよな。しかも俺にだけだしな」
「そうでもないよ?」
「・・・・・・・・・・」
むきになった事を恥じるように日方は椅子の背もたれに腕を組んでその上に顔を埋めた。
だがなにやら考えているらしいとわかり、疾風は彼が言葉を発するまで黙っていた。
「・・・なぁ・・・・・・俺、間違ってる?」
二人が真剣だという事を目の当たりにして、どうしたらいいのか迷っているようだった。
そんな彼の弱さを見られるのは自分だけだという思いが優越感になる。
「日方が納得できるようにすると良いんじゃないかな。・・・心配なんでしょ?いつかあの二人が傷付くかもしれないんじゃないかって」
そう言うと、日方は意外そうな顔をした。
「そんなかっこいいもんじゃない。お前、俺の事買いかぶりすぎだって」
「そうかな。俺の相方だもん。かっこよくて当たり前じゃないかな?」
笑顔でそう言った疾風に、日方は気恥ずかしげなものを隠すためになのか難しい顔をして黙り込んだ。
それがまた考えにはまり込んでいる様子に変わるまで時間は変わらず。
疾風はくすりと笑った。こういう風に真剣考えるところが好ましいと思う。

「でも正直否定してくれる存在は必要だと思うよ」

疾風がそう言うと、日方は意外そうな顔を向けた。
「言えば考えるでしょ。これでいいのか悪いのか」
「・・・・・・ん」
日方は声だけで頷いて目を閉じた。
それでも納得したのだろうとわかる。

それは同時に東雲と時雨には恨まれる事だとはわかっていたけど。

(でも俺にとっては日方の方が大事だしねぇ。『雨降って地固まる』って諺もあるし、二人には頑張って貰おう)

と心の中で合掌する。
でも本当に頑張って欲しいとは思ってるのだ。
彼らだったらどんな関係を築き上げれるのか見てみたかった。

「・・・・・・息子に夢を託すってこんな感じなのかなぁ」

「ん?」

疾風がぼそりといった言葉に日方が反応する。
「単なる独り言」と言って疾風はお茶を片付けに立ち上がった。
こんな楽しい家族をくれた愛しいプリーストに心の中で感謝の言葉を呟きながら。








…AND CONTINUE








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恋愛不信者シリーズ第二段。
主人公が変わってますがそこはお気になさらずの方向で。
いつもの事ですから。

この疾風という人物は案外食わせ物かも知れず。
こういうタイプの人間は書いた事が無かったので結構新鮮。
そしてこの二人、先の事を想像すると楽しげなカップルかと。

亭主関白なご主人と結構尽くす奥さん。でもカップリングとしてはきっと逆。(ニヤリ







トナミミナト拝






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