互いに片思いをしているにも拘らず、揃いも揃って鈍感が天然の皮をかぶっている為にまったく進展の無い二人。
アルケミ君とクルセ君。

そろそろ運命の女神様もそんな二人に呆れ果て、別の恋人達の縁結びに精を出した方が良いのではないかと思い始めた今日この頃。
そんな中、そんな女神様の退屈しのぎとして選ばれたのは、二人がいるギルドのギルマスとアサシン君であった。


前回ギルマスと一夜を過ごしてしまったアサシン君が部屋を出てこなかったという所で話が終わったのだが、ここで一つ訂正しなければならない。
アサシン君は確かにドアから外には出なかった。だが、2階の窓が空いていたのである。
ギルマスとの問題の朝を迎えたアサシン君はなんとそこから消えていたのだった。

ベッドの上にたった一つの意味深な置手紙を残して。



『探さないで下さい』



そんなわけで今回はちょっとメインの二人から外れてアサシン君とギルマスが中心の話なのである。









ECO〜アルケミ君とクルセ君その4〜








「本人の同意も無しだったのか?あんたらしくも無い」

置手紙に絶句したのは何もギルマスだけではなかった。
プリーストは三行半ならぬ一行分の置手紙をまじまじと見て、ため息をついた。
その背後に更に難しい顔をしたクルセ君も立っていた。
「・・・・・・・・・・・・・・一応、OKは貰った」
探しに行く所を二人に引き止められたギルマス。振り切らず取調べを受けてるところを見ると、自分が悪いということはわかっているらしい。だが焦っているのか、その指が机を叩いている。
ほかのメンバーはとっくに捜索に出ているのだ。
カプラさんに頼めば空間転送など簡単にできるため、その範囲は全世界に渡っていた。
何せ耳打ちもギルチャも拒否されているのだから足で探すしか方法が無いのだ。
「一応?」
昨夜酒に潰れたアサシン君はギルマスの担がれて部屋に戻ったはずだった。そんな彼がどう返事を返せたのだというのだろう。前後不覚に陥っていた可能性の方が高いのだ。
それにそれが同意であればアサシン君が出て行く理由は何処にも見当たらない。
「結局は我に返ったアサシンが、お前の事が嫌で逃げたというのが一番妥当なんじゃないか?」
ぐさり。
プリーストの言葉の剣に突き刺されたギルマスは、目に見えて真っ青になった。
「そうだと思うか?」
「そうじゃないと言えるのか?」
疑問を疑問で返すプリーストの言葉には容赦が無い。
ギルメンが消えたアサシン君を探しているのはギルマスの為というよりは、自主的な要素が高い。皆アサシン君のことを心配してるのだ。この場合多少の言葉の棘は勘弁してもらいたい。
がっくりと肩を落とすギルマスに、プリーストは呆れたように頬杖をついた。
「あんたがあいつの意向も無しに手を出すとは思わなかったな。酒で箍が外れたか?」
ギルマスが前々からアサシン君に思いを寄せていた事は周知の事実。なにより、アサシン君をこのギルドにナンパしてきたのはギルマス本人だったのである。
知らぬは当のアサシン君ばかり。鈍感を体現しているようなアルケミ君とクルセ君でも気がついている秘密だった。
だが無理に告白する事も無くそれなりに親しい間柄で来ていたのだ。それなのにここに来て急に話が進んだかと思った挙句にこの騒動。失態と思われても仕方が無い。
「・・・・・・・・・・というより、『焦った』かな」
少し黙り込んでそう言ったギルマスはちらりとクルセ君を見た。
クルセ君はといえばその生来の潔癖症ゆえなのか非難の目を隠そうともせずにむっつりと口をへの字にしていた。
ギルマスの視線に怪訝そうに片眉を上げる。
「もう良いだろ、おれも行くぞ。確か町は皆が探してくれてるんだよな。じゃあ、俺はあいつと回った事ある所を当たってみる」
ギルマスが腕まくりして出て行こうとするのをクルセ君が引きとめた。
「捕まえてどうする気なんだ?お前がどういう気だったのかは知らないが、アサシンはショックだったから消えたんだろう?・・・・・・捕まえて、言い訳でもするのか?酒の上の過ちだったとでも?あいつを更に傷つける気でいるのなら協力は出来ないぞ」
「・・・過ちじゃない」
クルセ君と相対するようにして、射抜くような真剣な視線を向ける。
何と言われようとも譲れない領域というものがある。

「俺はあいつだから抱いたんだ。好きだから欲しかったんだ。過ちだなんて言って欲しくないね」

「・・・・・・・・・」
瞠目したクルセ君の横を通り過ぎざま、鎧の上から肩を叩く。強かに何かを企んでる顔で、ギルマスはそれよりと口元を上げた。

「・・・・・俺より先にあいつを見つけてくれたら、アルケミにあの告白は誤解だと言ってやろう。どうせまだ言ってないんだろう?」
「!!!?!!!!????!?」

目的の為なら手段を選ばない男、ギルマス。

「・・・・・・協力、してくれるよな?」

手段を選ばないどころか、それを取引材料に出来るとは・・・・・気に恐ろしきは恋心である。








一方。アサシン君に繋がらない耳打ちを何度もしながらゲッフェンの町を走り回っているアルケミ君とフローラちゃん。
表通りから裏通り、彼が良く行く店なども回っていた。だが姿形も、彼の姿を見た者もいなかった。

諦めて別のところを探しているメンバーに連絡を取ろうと冒険者カードを懐から出そうとした時だった。
目の端に紫の服が急に現れた。空間転送してきた冒険者らしい。
その見覚えのある後頭部に、アルケミ君は声を上げた。
「いたーーーーーーー!!!」
『しゃげぇぇぇぇ!!!』
聞き覚えのある声に飛び上がらんばかりに驚いたのは、ぼーとしていたアサシン君だった。いるはずの無いアルケミ君を視界に認めて、急に町の外に向かって走り出す。その後を慌ててアルケミ君も追おうとした。
「まっ待ったーーーー・・・・ふぎゃ!」
『しゃしゃしゃげええっ!?』
「!!?」
追いかけようと走り出したとたん、道端の石につまづいて盛大に前に扱けた。 まさに顔からスライディングする事になったアルケミ君を、周囲の人は驚いたように見る。
それに吃驚したのはアサシン君も同じだったらしく、慌ててアルケミ君の所に駆け戻ってきた。
「大丈夫か!?」
アルケミ君を起き上がらせた。隣でフローラちゃんも心配そうにぴょんぴょん跳ね回っていた。
「いたたた・・・」
そのおでこと鼻の頭が赤く擦れているのを見て、アサシン君が布にしみこませた赤ポーションをそこに当てる。
「顔から突っ込むなんて・・・子供じゃないんだぞ」
他に怪我はないと判断して、ほっとしたらしい。アサシン君はアルケミ君の肩についてる埃を払ってやる。
不意にその手をつかまれた。
はっとしたが、もう遅い。
「捕まえた!」
『しゃげ!』
右に痛みに涙を浮かべたままのアルケミ君、左からアルケミ君の真似をしたフローラちゃん。両方から抱きつかれたアサシン君はあっけに取られたまま捕獲されてしまった。
「皆に連絡取るからちょっと待ってて」
「まっ待った!!それは止めてくれ!頼むから!」
逆に腕をつかまえて必死に訴えるアサシン君に、アルケミ君は驚いて口ごもる。
「で、でも。皆心配してるんだよ?」
「頼むっ・・・・・・見逃してくれ・・・っ」
「・・・・・・・アサシン君?」
何だかその言い方はもうギルドに戻ってこないかのように聞こえた。不審に思ったアルケミ君に、アサシン君は泣きそうな顔になって俯いた。

「・・・・・・ギルマスに合わせる顔が無い・・・。もう俺はギルドに戻れない・・・」

・・・・・・・・・・・・・・はい?
あの、それはどういうことでしょう。
あんた、ギルマスが嫌で逃げてきたんじゃないんですか?

どうやら話はもう少し違った方向に進んでいるらしい。

「・・・・・・・・・合わせる顔がないってどういうこと?」
アサシン君はアサシン君でギルマスに対して何やら負い目があるらしい。アサシン君を刺激しないように、ゆっくりした口調で聞くと、彼は肩を震わせて顔をゆがませた。目にはうっすら涙まで浮んでいる。
そして、いきなり自分の膝の上に顔を落とした。

「俺は淫乱なんだーーーーーーーーーー!!!」
「うわああああああー!!!!?????」

町の中央でそんな叫びを上げられて、アルケミ君は心底驚いた。
動揺し声を上げてアサシン君の叫びをかき消しながら周囲を確認してしまったアルケミ君は、すぐさま彼の手を掴んで走り出した。
明らかにギョッとしている人達を視界の端に捕らえながら「しばらくゲッフェンには来れない!」と泣きそうになったアルケミ君だった。
とりあえず、ぐずるアサシン君の手を引いてあまり人が来ないようなところまで引っ張って行った。そこで壁を背にして並んで座る。
アルケミ君はいきなりの全力疾走にはぁはぁと息を整えた。
問題発言をかました本人は基礎体力が違うのかたいして息も乱さず、膝を抱えて丸まっている。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

アルケミ君とアサシン君はごく最近知り合った。
ギルマスがアサシン君を連れてきてからだから、1ヶ月にも満たない。
だが、一緒に狩りに行ったりする事もあり、その強さと冷静で無駄のない言動にいつも感心していた。あまりしゃべらないけれどもそこはクールと言ってもいいくらい。アルケミ君は何時も彼の事を大人びた男だと思っていたのである。 それが、ここに来て一気にその印象が180℃変わってしまったアルケミ君だった。
「どうか、したの?」
普段冷静なアサシン君がここまで動揺するほどの何があったというのだろう。
アサシン君はそれに躊躇うような仕草をして、口を開いた。
「本当に。・・・・・・・・・なんと言うか、もう自分が情けなくて…」
「……もしかしていなくなったのは、ギルマスの所為じゃないのか?」
「え?」
ぽかんとなるアサシン君の顔に、あれれ?っと小首を傾げるアルケミ君だった。
ひりひりする鼻の頭を気にしながら、アルケミ君は隣で膝を抱えているアサシン君に確認する。
「・・・・昨夜の事・・・・・同意じゃなかったんだよね?」
「!!!!?」
驚いたアサシン君に、「皆知ってるよ」といえば更に目を見開いて真っ赤になった。そのまま逃げようとするアサシン君をフローラちゃんと二人係で押さえ込んだ。
「いやだ。逃がしてくれっ。もう俺はあそこに帰れないんだ!」
「皆気にしてないってばっ」
昨夜の事を知られているとわかったアサシン君は、また耳まで赤くなって膝を抱えて顔を埋める。
穴があったら隠れているかもしれない。
むしろ、フローラちゃんにしっかり腕をつかまれてなかったらハイドでもクローキングでもして消えていた事だろう。
「………あの・・・昨日何があったのか聞いていいかな?」
このままでは皆に連絡を入れるのが遅くなる。そんな負い目を感じながら、とりあえずアサシン君の説得にかかろうと考えたアルケミ君らしい。
「・・・・・・その前に・・・・何故皆昨日の事・・・知ってるのか・・・俺も聞いていいか・・?」
「あーえーと。それはその」
「あいつが言ったのか?」
「違うよっ。あの・・そのね。引っかき傷が」
「背中のか?服越しから分かるほどひどいのか?」
焦ったようにアサシン君が言うのに首を横に振る。
「いや、この辺に」
と、前の鎖骨あたりを指差すと、そこでアルケミ君とアサシン君がぴたりと止まった。

背中?

「あ、そっか、背中にもね・・・ああ。そっか。そうなんだ」
そうですか、背中にもあるんですか。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
自ら墓穴を掘ったアサシン君はますます小さくなっていく。
丁度その頃、ギルマスがプリーストに背中を叩かれて悲鳴を上げていたとかいないとか。
「とにかくね。帰っておいでよ。皆心配してるから」
それにアサシン君は首を大きく横に振る。
「・・・・・・あんな醜態さらしといて、どの面下げて戻れる」
「・・・・・・醜態って・・・・」
それってさっき叫んだ淫乱とか言う衝撃的な発言の事でしょうか。

「・・・・・・・痛く・・・なかったんだ」

「え?」
「だから、ぜんぜん痛みとか無くて。おかしいだろう!?あんな所にあんなもん入れてっ」
外ではっきり固有名詞で言われても困るとはいえ、あんなもん扱いですか・・・・。ギルマス聞いたら顔引きつらせて落ち込んでしまいそうですね。
「いくら酒が入っていたとはいえ、しがみ付いたり変な声上げたり・・・・気持ち悪いだろう・・・っ?あいつだって今頃は後悔してるに決まってるっ!」
「・・・・・・・・・・」

(そうかなぁ。むしろ嬉しげだったけど)
(この世の春といわんばかりに鼻歌まで初披露してくれていたけど)
と、アルケミ君は今朝のギルマスの顔を思い浮かべてみる。

「でもさ、どうしてそんなことになったの?」

そう言うと、アサシン君はしばらく考え込んだ。質問の意味が悪かったかなぁとアルケミ君が焦り出した頃に重い口を開く。
「・・・・・・あいつと・・・ギルマスと会って2ヶ月経つんだけど。・・・・あの日のようにあいつが告白された所は見た事が無くて…」
それはクルセ君がアルケミ君と間違ってギルマスに告白してしまった、例の事件の事でしょうか。
「そう言えば俺、あいつの事何も知らないんだなと思ってさ。そういうのって友達でもないんだよな。そういった事をあいつに言ったんだけど…そしたらあいつが『じゃあ、もっと深い仲になってみるか?』って言ったんだよ」
「うんうん」

なんという事でしょう。根性無しのクルセ君とアルケミ君にかまけている間に、そんなおいしい会話があった模様です!
リアルタイムで見たかったと運命の女神様も残念がっておられます。
自分も見たかったと思う方は、こちらまで電波を飛ばしていただければ幸いです。

「……どういう意味だと思う?」
「どうって…」
アサシン君は意味が分からなくて本気で困っているようだった。
アルケミ君はウーンと考えて口を開いた。

「やっぱりもっと深いっていうと『親友』の事だろ?」

「そうだよな。だから俺もそう思って頷いたんだ。…さ、酒が入っててうろ覚えなんだが…それから何がどうなってあんな事になったのか…」


…………………。


…………類友ですか。
そうですか。
このシリーズ、これ以上激ニブの人増やしてどうするって言うんですか。







「・・・・・・それを聞いたときな。正直動揺した」
一方。
こちらはモロクの乾いた風に吹かれながら、アサシン君の姿を探しながら走っているギルマス。コモドに行っているプリーストと耳打ちで会話しながら周囲を見渡していた。
「アルケミとクルセのように擦れ違いたくなかったんだ。あいつらの事最初から見てたからな。人のは面白いが自分であれをやられたらと思ったら・・・・・勘違いされたままで親友じゃ、俺は嫌なんだよ」
実に素直な男だと思ってしまいます。たしかに、自分であの擦れ違いっぷりをされたらたまったもんじゃないでしょうねぇ。
「あいつは一人であそこまで強くなった。親しい人間は殆ど作らなかったらしいし、人付き合いが苦手なところがある。・・・というか、あれは他人に興味が無いんだな。そんなあいつが、初めて俺の事を聞いてきたんだ。興味を持ってくれた。・・・・だから一気に欲が出た。・・・・・でも・・・あいつはもう俺の事許してくれないだろうか」
『知るかよ。とっととアサシン見つけて聞いてみればいい。それだけの事だろ』
「・・・・・・・そうだな。・・・・・・・・あー、でも難しいかもなぁ・・・」
『は?また、お前なんかあるのか?』
「・・・・・・・・・薬使ったし」
『はぁ?』
「メントが入った潤滑油があってな」
『・・・・お前』
思わず絶句したプリースト。
メントといったら一時的に痛みを消すという植物である。それが入った潤滑油など当然そこら辺で気軽に買える物ではなく。つまりそれが何を意味するかというと。

『・・・実は最初からやる気満々だったんじゃねーか!』
「いや、いつそうなってもいいように用意するのは当然だろう?」

・・・・・・・・・・・・・・。
アサシン君が淫乱だなんだと騒いでいる原因はここにもあったようでございます。





一方、戻ってアルケミ君とアサシン君。
「・・・・・・・・・俺は冒険者になって親しい人間とかあまり作ったことが無かったんだ。ギルドに入ったのも初めてで」
「うん」
「……あいつってギルマスだし、割と人の事見ていたりするだろう?だから誰からも信頼される。俺もあんな形でギルドに入ったけど、今はあいつの事は頼りにしてるし、出来たら頼って欲しいと思ってるんだ」
「………あんな形?」

「俺の名前のつづりが分からないと紙とペンを差し出された。それがギルド加入許可証で気がついた時にはもうサインしていて」


Σ(゚Д゚;)


「…………………そっ、そうだったんだ」

どうやら無理やり加入させられていたらしい。
というか、どうして気がつかなかったのか、それも不思議でならないのだが。
当然文句を言い撤回を要求したのだが、そのままなしくづしにあの家まで連れてこられてしまったのだという。そして、いつの間にやら馴染んでしまったと、そういうわけらしい。
なんというか、実はこの人騙され易そうな性格をしてるんじゃなかろうかと思うんですが・・・。 今までよく怪しげな通信販売やら押し売りやらに出会わす無事でいたものである。
だが一番立ちの悪い男(ギルマス)にはしっかりそこに付け込まれたらしい。
「あいつといるといつもそうだ。何でこんな事になるんだって何度も何度も・・・」
しかもだんだん難しい顔になっている所を見ると、まだなにやらあるらしい。それを聞いてみたい気はするものの、それよりも気になったことをアルケミ君は口に出してみた。
「でも、ギルマスの事嫌いじゃないんだね」
「・・・・・・・・・・・・・嫌い・・・・ではない」
「好きなのかい?」
「好っ・・・・!!!?」
微妙なニュアンスに動揺するアサシン君に、アルケミ君も何となく照れてしまう。
「だって意識の無い状態でそんなことになって怒って出て行ったんだと思ったんだけど・・・違うみたいだし」
「・・・・・・・わからない」
アサシン君は今にも泣き出さんばかりに顔をゆがませた。
「分からないまま頷いたかもしれないし・・」
「でも怒るわけでもないなんて、おかしくない?君が誰とでも寝る性癖を持ってるというなら別だけど」
「そんな事無いっ」
真っ赤になって否定するアサシン君に、アルケミ君は真摯に顔を向かい合わせた。

「だったら、ギルマスだったら良いの?」

思いもつかなかった事を言われて、アサシン君は何も言えずに瞠目する。


「見つけたっ」

「!!?」


タイミングよく背後から掛けられた声に二人は飛び上がらんばかりに驚いた。
なんとギルマスとクルセ君が走ってきていたのである。
アサシン君は今にも逃げようとするのを、フローラちゃんとアルケミ君が両方から羽交い絞めにする。さらにそれを引きずるようにして進んでいるとすぐに追いつかれてしまった。
「逃げるなっ!」
ギルマスがそんなアサシン君の腕を掴む。肩をすくめて下を向いたまま顔を上げようとしない彼に口を開いた。
「心配するから耳打ちだけは拒否るな!」
「っ」
びくっと体を振るわせ目を瞑ったアサシン君に、ギルマスがはっとして息を整えながらゆっくりと口を開いた。
心配したのは確かだ。だから思わず怒鳴ってしまったのだが、怖がらせるつもりなどはなかったのだ。何より原因は自分にある。
ギルマスは自分を落ち着かせるように、ほうっと息を吐く。
「・・・・・・頼むから、また一人に戻ろうとするな。俺たちを否定するような事はしないでくれ・・・」
「っ。違うっ!そんな事考えてないからなっ!?」
とたんに顔を上げて首を振って否定するアサシン君に、ギルマスの表情が和らいだ。
「俺はそんなつもりじゃなくてっ」
「・・・・・・わかってる。俺が悪かったんだ」
目の前にある存在にほっとしたように片腕を回して引き寄せる。
その後ろで蚊帳の外に追い出される形になったアルケミ君とクルセ君がほっとしたように顔を見合わせる。

何故ギルマスがここにいるかというと。
クルセ君が話し込んでいる二人を発見して連絡したのだ。
最初に見つけたのはアルケミ君だが、これで例の疑惑を晴らせるとクルセ君は胸を撫で下ろしていた。

アサシン君はまた俯き加減になりながら、搾り出すように口を開いた。
「・・・・・・俺、忘れるから」
「なにを?」
「何って・・・」
「昨日の事なら別に忘れる必要は無いだろう」
「でもお前っ。クルセとっ。つ・・・っ、付き合ってるんだろう?」
思わず横にあった壁にふらりと倒れこんでしまいそうになったクルセ君だった。
何処までその疑惑は突き進んでいくというのだろう。というか、加速がついている気がするのだが。
だがそれも今日まで。今日までなんだっ。
頑張れクルセ君っ!

「誤解だ」
はぁ、とギルマスはため息をついた。誤解?と小首を傾げるアサシン君に言い含めるようにギルマスが口を開いた。


「アレは冗談だったんだ。俺がクルセに弄ばれただけの事だ」


ガンッ


こんどこそ壁のレンガにひびが入るほど頭を打ち付けてしまたクルセ君の横でアルケミ君まで目をぱちくりとさせていた。
ギルマスはそんな二人など目もくれないで、目の前のアサシン君の肩を掴んだ。

「俺が本当に好きなのは、お前なんだ」
「!!!!????????」

目をこぼさんばかりに見開いて、アサシン君はぽかんと口を開いて固まってしまった。
そして、丁度三秒後。
ぼんっと音を立てて耳まで赤くなったアサシン君は慌てたように口をパクパクとさせた。酸素不足の金魚のようだ。
更に顔を近づけようとしたギルマスに、アサシン君は腕を振り払って逃げた。
ぱんっ。
その手が丁度ギルマスの頬を叩く形になった。これには叩かれた本人以上に叩いた人間の方が驚いてしまった。

「うっ・・・・え・・・・あ・・・・っ・・・・・・・・っく、クローキングっ」

急に姿を消したアサシン君。

「おっ・・・・・・・俺はっ、お前の事なんて好きじゃないからなああああああぁぁぁぁぁぁ・・・ーーーーー!!!!!!」

ドップラー効果付きで逃亡したらしいアサシン君に誰も反応できずにいた。
かなりショックを受けているギルマスはもちろん、アルケミ君とクルセ君もだ。
あっけに取られたまま一連の出来事をまとめて考えて、アルケミ君はクルセ君を見た。
「・・・・・・知らなかった。クルセ君って結構遊んでるんだね・・・・・・・」
「!!!!!!!??????」
『しゃげ〜〜』
さもありなんとフローラちゃんはしたり顔で頷いている。
思い人から遊び人のレッテルを張られてしまったクルセ君は今度こそ灰になって風に吹かれてさらさらと消えていこうとしていた。






あの後真っ白になったギルマスとクルセ君を引きずって家に帰ったアルケミ君だったのだが。
すでに戻っていたらしいアサシン君が緊張した様子で待っていた。
あのまままた雲隠れするのではなかろうかと思ったのだが、ギルマスが「自分たちを拒否するな」という言葉通りに回線を回復させていた。そして耳打ちが通るようになってからプリーストが説得してくれたらしい。
だがその目はまだ不安に揺らいでいる。

「・・・・・・・・・俺たち・・・・と、友達だよな?」

どうやら本気で昨夜の事は無かった事にしようとしているらしいアサシン君に、ギルマスの顔が少しこわばった。
ここで違うといえばアサシン君は本当にいなくなるだろう。そう思った。

「・・・な・・・?」

不安に泣き笑い状態になっているアサシン君の指先がほんの少し震えている。それに気がついてしまったから。

「・・・・・・・・違う」

「っ」

「親友なんだろ?俺たち」

だからなんでもないように笑顔を浮かべてそう言った。
泣きそうになったアサシン君の顔が笑顔になっていくのを、ほんの少し痛みを堪えた目で見る。それに気がついたのはプリーストだけだったけども。
「・・・・・・だよな」
こわばっていた肩を下ろして、アサシン君は何度も頷いた。
「なんだよ。やっぱ喧嘩したのか?めっずらしーの」
どうやらただの喧嘩だと思っていたらしいモンク君がフローラちゃんと肩を組んで笑った。
アサシン君は苦笑しながらモンク君を見て、そしてギルマスを見上げた。
「・・・・顔、痛かったろ・・・?ゴメンな」
どうやらさっき逃げる際に叩いた事を気に掛けていたらしい。
「ちょっとだけだ。気にするな」
口元を上げるギルマスに、アサシン君も表情を和らげる。あまり感情を表に出さない彼がここまで安心する事ができたのであれば。
これでいいのだとギルマスは思うことができた。
そのままモンク君に連れて行かれたアサシン君の後姿を見送るギルマス。そんな彼の横に立ったのはプリーストだった。
「一つ言って良いか」
「ダメだ」
即座に拒否するギルマスの言葉はアサシン君に向かっていたよりも容赦が無い。だが例によってプリーストの方がそれ以上に容赦が無い。

「・・・・・・・自業自得」
「うるさいだまれやかましいぞこんちくしょうがっ!しょうがねえだろ!この場合!!!他に方法があったなら教えてくれ!!!」

・・・・・・・・・ギルマス。
あんたそんな涙目になるくらいに、やせ我慢する事無いでしょうが。
はー男っていつも悲しい生き物ですね。





かくしてこちらの二人も長期戦突入のようでございます。
いや実に面白い・・・いやいや、退屈しない・・・いやいや・・・興味深いギルドです事。
ほほほほほほほほほほほ。







ではまた続きは次回のお楽しみ。
皆様それまでごきげんよう。













…AND CONTINUE?





+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



何事にもタイミングって大事ですよね。









Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!