ここに、どこにでも居るごく普通の二人の冒険者が居た。
一人は瓶底めがねを掛けた純朴そうなアルケミストの青年。
そしてもう一人は凛とした目が涼やかなクルセイダーの青年だった。

このごく普通の二人は、
ごく普通に出会い(同じギルドに所属)
ごく普通の付き合いをし(ただのギルメン)
ごく普通の交友関係を築いているように見えた。

しかし、このごく普通の二人は
ある時期を経て世間と微妙にかけ離れ始めていたのだ。


なんとこの二人、互いに相手に片思いをしてしまったのである。








ECO〜アルケミ君とクルセ君その5〜









とまぁ、この物語は天然ボケのクルセ君とアルケミ君が互いに片思いしているにも拘らず見事にすれ違っているというお話です。
その脇役とも言えるギルマスとアサシン君が一夜を共にしてしまって起こった家出騒動から数日後。
先日アルケミ君の部屋の重量でぶち抜いた2Fと1Fを繋いでいた穴もようやくふさがれ、アルケミ君も自室に戻って安眠できるようになった頃。
いつもの日常が戻ってきたかと思いきや、とある所ではやはりちょっとした異変が起こっているようで。


1Fのリビングに下りてきたプリーストは、そこでちょっと驚いたように目を見張った。
リビングの隅にある小さな椅子に座って、窓の縁に腕を乗せてもたれる様にしているアサシン君。そしてそんな彼に覆い被さるように身を屈めているギルマスの姿。
ギルマスはプリーストにすぐ気がついて振り返ると、指を一本立てて口元に当てた。
そこでようやくプリーストはアサシン君が眠っていることに気がついたらしい。
アサシン君がこんなところで昼寝とは珍しい事もあるもんだと思ったが、この陽気にでも当てられたのだろう。
暖かな日差しは、なるほど午睡に誘われる。

・・・・・・・・そしてそれを発見したギルマス殿は、何気にさり気なく『棚ボタ』でも狙ったのだろう。

「へー・・・ふーん」
まぁ、そんな体制ではせいぜい髪や頬にキスするくらいが関の山だろうが・・・。
それでも親友だと約束した相手にする行動ではない。
半目になって視線と小声ででちくちく攻めるプリーストに、ギルマスも居たたまれなくなったのか目を伏せてその視線を押しとどめるように手をかざす。
「内緒にしといてくれ」
「ま、いいけどな。・・・・・・こんなとこで寝てるこいつも悪い。おーおー、狙われてるとも知らないで暢気そうな顔で」
意地悪げに口元を上げながら、アサシン君の頬をつつこうと手を伸ばした。それをギルマスに押しとどめられる。
「寝かせてやってくれ。・・・・最近、夜寝てないみたいだから」
「は?」
寝てない?
そんなはずは無い。アサシン君は夕飯の後はすぐに自室に戻っていた。外に行ってる姿など見ていないのだ。
「何でまた・・・」
プリーストはギルマスが困ったように自嘲するその顔を見て事の次第に思い至った。
そうだ、ここの天井(つまりこの上はアルケミ君の部屋なわけで)が抜けた時、『部屋無き子』になったアルケミ君に自分の部屋を明渡したギルマスはアサシン君の部屋に転がり込んだのだ。
ならば二人が事の次第に陥ったのは当然彼の部屋のベットだったのだろう。
「・・・・・以外と細かい神経の持ち主だったんだな」
それくらいの事で眠れなくなるほどに。
本人が聞けば真っ赤になって否定するだろう事をけろっと言いながらアサシン君をそろりと見下ろす。
当のアサシン君は夢の中である。
「お前に強姦されても騒ぐわけでもなかったからもう少し図太いと思っていた」
「強姦言うな」
「本人の意思も関係なく無理やりヤっといて何を言うか。強姦魔」
それを言われるとちくちくと胸が痛むらしい。うっと息を詰めた。
した事は後悔してないが(厚顔無恥か・・・この男)、その事でアサシン君が傷付いている事をまざまざと見せ付けられるとなけなしの良心も痛む。
・・・・ほんの少しだけだが。

「・・・・・・・また同じ事繰り返す気かよ」

過去を思い出したようにプリーストが呟く。
その言葉に、ギルマスは深いため息をついた。
壁にもたれて寝息を立てるアサシン君を目を細めて見つめる。
労りと、切なさと同時に宿らせて。
「お前が今まで付き合ってきた人間と別れた理由ってその強引さと独占欲の強さだろう?真綿に包む様に腕の中で甘やかすだけ甘やかして、その手からちょっと離れようとすれば無理やり引き戻す。同じことの繰り返しだ。誰だって嫌気がさすね、そんな男」
確かに今まで付き合ってきた人間はそれがきっかけで別れてきたようなものだ。
だって不安になるのだ。
愛しいからこそ、愛しているからこそ。
自分だけを見ていて欲しくなる。そのための手段も時として選ばなかった。
今もアサシン君に触れたいと思っている。できる事ならどこかに閉じ込めてしまいたいと思っているのだ。
そんな自分を知っているのは同じギルドでも付き合いの長いプリーストだけだった。他のギルメンはこんな自分を知らないだろう。知って欲しくないと思う。それは、そんな自分が間違っているとどこかでわかっているから。
誰でも持っている独占欲ほど可愛いものではないのだ。自分のそれは。
それでも軽い付き合いだけの関係なら、恋愛などしてもしなくとも一緒だと思う。

だけど、・・・・・・アサシン君はこんな自分を恐れるだろうか。
今でさえ無かった事にしたいと言いつつ、それでも自分の部屋で寝る事も出来ないくらいなのだ。
これ以上迫ればアサシン君は今度こそ自分の前から消えてなくなる。
それだけはなんとしても避けたかった。

「だから暫くはこのままで。少しずつ時間を掛けてまた信用を重ねて行くさ」
「ああ、一度はお前が粉々にした信用をな」
「・・・・・・おい・・・お前・・・俺が傷付かん人間だと思うか?」

何をおっしゃいますか。この厚顔のギルマス様ってば。ほほほ。
そりゃあんた、それこそ自業自得って奴ですよ。

ドスの利いたギルマスの声に反応したのか、眠っていたアサシン君はぴくりと肩を震わせて次の瞬間にはがばっと体を起こした。アサシン君は視界に入ったギルマスを見て真っ赤になって椅子を倒して立ち上がる。実に寝起きの良いことである。
「よく寝てたな」
「!?」
プリーストまでいたことに目を丸くして、赤くなりながらごしごしと腕で顔を擦る。よだれの確認をしているらしい。
「・・・え・・・・あ・・」
「寝るなら自分の部屋で寝ろよー。こんなとこで寝てて誰かに襲われても知らんぞ」
ニヤニヤと口元を上げて揶揄るプリーストの脇をギルマスが肘でどついて無理やり黙らせる。
だがその発言の意味をアサシンは察したらしい。耳まで赤らめて2Fに行く階段の方へ逃げ出そうとした。
だがその通り道にいたギルマスが反射的に腕を出してアサシン君を片手で受け止める。
驚いたように見開かれた目と視線が重なる。
一瞬の間があった。
ギルマスは別に何かあって引き止めたわけではない。本当に反射だった。
だけど腕に伝わる重みはあの夜以来の事で。
「・・・・・・ギルマス?」
アサシン君の声に我に返ったギルマスは腰に回っていた腕をはずした。
「・・・・・・いや、なんでもない」
「・・・・・・?」
そのまま2Fに上っていくアサシン君の背中を見送る。そしてさっき彼の体を受け止めた片手を見た。
「・・・・やばかった」
ぼそっと呟いたのをプリーストは聞き逃さなかった。

・・・・・・・・・もう少しで抱きしめそうになった。と。






2Fに上がったアサシン君は自室の前で立ち止まった。
ドアノブに伸ばした手を躊躇うように引っ込める。
自室に入ることを諦めて向かった先はアルケミ君の部屋だった。
先日買ったのだという製造の書を読みふけっていたアルケミ君は、突然の来訪にも拘らず快く中に入れた。
改装当初は綺麗にされていた部屋もすでにアルケミ君の実験機材と本とで過去の異空間へと変貌してしまっていた。
その中で新しく入れたシングルベットが唯一お客様を座らせられる場所というのがなんともはやと言うか。
らしいといいますか。
それでも布団の上に散らばっている本を脇にどかしながらアルケミ君はアサシン君に笑顔を向けた。
「今日はどうしたの?ここに来るなんて珍しいねーお茶入れるからちょっと待ってねー」
温度計の入ったビーカーからこぽこぽと湯気が立っている。
そこに狸の葉で作られた茶葉をぶち込んで・・・・ああああ茹ってる茹ってますって。
本来なら火に掛けて煮出すたぐいの茶葉ではないのだが。
牛乳そこで入れますか。砂糖も!?この研究室の何処にあったんだそんなもん。
アルケミ君は慣れた手つきでビーカーを鉄の火バサミではさんで網を片手にマグカップに越し注ぐ。
実に大雑把に作られたお茶である。
・・・・・・・・それ以前にそのビーカーは実験用に使ってる奴では?
多少強張りながらも差し出されたマグを受け取ったアサシン君は香りの良いそれに恐る恐る口をつけた。
勇気があるな、アサシン君。
私がその立場なら口などつけないぞ。

「・・・・・・うまい・・・」

「ありがと〜」
冗談抜きでおいしいのかアサシン君が驚愕の眼差しを注ぐ。
なぜだ!?何故なんだ!?

底知れない人ですね・・アルケミ君・・・・。

「そういえばあのフローラはどこに行ったんだ?」
ようやくこの部屋にいつもいるアルケミ君べったりのモンスターがいないことに気がついたらしい。
「外でモンク君に遊んでもらってるんじゃないかなぁ。三段掌を覚えさせるんだってモンク君言ってた」
すっかり仲良くなった二人(?)は毎日なにやら特訓している様子だった。
そっかと頷きながらカップに口をつける。
それに何か人に聞かれたくない話でもあるんじゃないだろうかとアルケミ君は思ったのだ。
そしてそうなると話題はひとつに絞られてくる。
「・・・・・・ギルマスとなんかあった?」
瓶底メガネの向こうでちょっとだけ好奇心の中にも思慮深げな瞳を除かせる。ぎくりとしたアサシン君に気が付かない振りをするのもお手の物で。
前回消えたアサシン君を見つけて話してからというもの、アルケミ君はアサシン君がそれまでよりずっと身近に感じられるようだった。
何と言うか・・・・困っているアサシン君はまるで路頭に迷っている子供のようでほっとけなかったりする。
怒ると思うので本人には言えないのだが。

「・・・・・何にも無い」
「ふーん、そっかー。あ、甘いの平気だよね?クッキーあるよ、食べて食べてー」
研究の合間に摘んでいるのだろう。瓶いっぱいに詰められたクッキーをそのままアサシン君に渡した。
アサシン君は一枚取ったクッキーにかしっっと歯を立てる。
ゆっくりと租借してお茶で喉を潤す。
「・・・・・・・・本当に何もなかったんだ」
「うん。分かってるよ」
何がわかってるわけでもない。単なる相槌。
それでも聞いてもらっている事に安心したのだろう。肩の力を抜いてマグカップを両手で包み込んだ。
「それで良いんだな、きっと。俺にとっても・・・あいつにとっても、なかった事にするのが一番いい事なんだ」
ポツリと呟かれた言葉にアルケミ君は小首を傾げる。

・・・・・・・・何かおかしくないか?

アサシン君はギルマスに友人にと望み、それは果たされていると思う。ギルマスは必要以上にアサシン君に触らないし(アサシン君が気がつかないとこではどうだか・・・)それまでとずっと変わらない良好な関係を保っているように見えたのだ。
アサシン君の望み通りに。
だけどさっきの台詞はそれに落ち込んでいるようにも聞こえる。

(やっぱりアサシン君・・・・)

考えをまとめる前に、アサシン君が顔を上げて問題発言をした。

「アルケミは・・・クルセの事が好きなんだよな」



「エエエエエエエエエエエエエエ!!!!?」

アサシン君の突然の台詞に思わず声がひっくり返る。
まさか自分の感情に気付かれているとは思ってみなかったアルケミ君だった。さすが鈍感をまっすぐに歩いているだけある。
「スっ・・・・うあ、いや、あの。や、やだなぁ・・・・・はは歯羽ハはは・・は・・」
ごまかそうと思ったのだが、アサシン君の目に冗談は無く、静かに笑顔を浮かべているのでアルケミ君も最後には真っ赤になったまま頷いた。
「・・・・・・・軽蔑・・・する?」
「何で?本気で好きなんだろ?」
「う、うん」
「だったら羨ましいと思っても軽蔑なんてしない」
本当にそう思ってくれてるのがわかる。だからアルケミ君は肩を竦めて破顔した。
「ありがとう」
「クルセもお前の事好きなんだろう?付き合っているのか?」
「エエエエエエエエエエエエ!!!!!?????」
アサシン君の言葉に今度こそ心臓が止まるかと思ったアルケミ君だった。
「ち、違うよっ。クルセ君は!ぼ、僕の事なんて何とも思ってなくって!恋人でも無くって!!」
そこで何かを思い出したようにアルケミ君はがくっと項垂れた。

「・・・・クルセ君・・・・好きな人がいるんだってさ。俺じゃないよ、別の人」

・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?
なんですって?申し訳ありませんがそんなの初耳ですよ?
今度はどんな勘違いをしているんでしょうか、この人は。
皆様ご存知の通り、この話のクルセ君とアルケミ君は互いに片思いをしながらも見事なまでに擦れ違っている二人組み。
そりゃもう、運命の女神様がいくらチャンスを与えてもそれを生かすどころかマイナスにしてしまう激ニブの似たもの同士。
片方が告白してしまえばすぐにでもくっ付くのは分かりきっているのに、それを知っている周囲の者はハラハラしつつもこのスリリングさに二人の仲を見守るだけにしている。
そんな密やかな協定など知らなかったらしいアサシン君が吐いた台詞に「おや?これはもしや」と期待した自分がアホでした。

今度は何があったんですか。何が起こっても驚きませんよ。
さぁ、言ってごらんなさい。



それはつまりアサシン君とギルマスのすったもんだの翌日の事だった。
つまりは2日前まで話は遡る。
部屋の片付けをしていたアルケミ君にクルセ君が声を掛けたのだ。
だがなにやらクルセ君の様子がおかしい。

「あ、あの・・・」
こほっと咳をしてなにやら言いにくそうに口を開いた。
「き、昨日の事なんだが・・・・」
「昨日?」
「ギ・・・ギルマスが言ってた事なんだが・・・・・・あれは誤解だから」

!!!!!!!!!
なんという事でしょう!
物語も5話目にしてようやくクルセ君からのアプローチが!!!?
しかも何やら決意を秘めたものまでその目に浮かべている。
これはもしかするともしかするのか!?
ここでようやく片思いに終止符を打つのか!!?
まずは自分で誤解を解こうというその心意気や良し!!!
明らかに成長しているその姿に女神様もハンカチでそっと目元を拭いておられます。
思いはわが子の成長を喜ぶ母親の気持ちではないでしょうか。

「・・・・誤解?」
「・・・・・・・あ、遊んでいるとか・・・・・・そう言った事実は一切無いからっ!」
「う、うん?」
勢いはあるものの、妙に強張ったままの顔にアルケミ君も戸惑っている。
「えっと、ギルマスとは本気のお付き合いしてるって事?」
「違う!!!!」
もう何でこう、鈍いのか。
自分の事を棚にあげて、思わず勢いに任せてクルセ君は叫んだ。

「ギルマスと付き合った覚えはないし、俺が好きな人は別にいるんだ!」

「・・・・・・・・・・え」
ぽかんと口をあけたままのアルケミ君に、クルセ君は自分が言った言葉を反芻してパキッと固まってしまった。
どうやら、今まで反芻してきた告白の順番をすっ飛ばして結論とも言える言葉が出てしまったらしい。
本当ならアルケミ君が自分の事をどう思っているか聞いてから告白したいと思っていたクルセ君。
そのためにいくつものシュミレーションを繰り返してきた彼だったが、それが今ガラガラと崩れ落ちてしまった。
一方アルケミ君は体中から血の気が引く思いをしていた。
ギルマスとクルセ君が付き合っていると聞いた時より(そのような事実はありません)ショックを受けているのは何故だろう。
「やっぱり・・・・好きな人・・・・いるんだ」
いるというか、それどころかアルケミ君ご本人だったりするのだが。
クルセ君は自分でいった台詞にショックを受けて、耳まで真っ赤になったまま固まってしまって声も出せない。
ここで言うくらいの根性はまだ無いらしい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

このへたれが!
このへたれが!!
このへたれがー!!!!

電波に乗ってやってきた皆様の叫びを代弁しつつ、ドキドキしながら見守るのもここまで。
実に間の悪い二人がこれ以上どう会話を進める事が出来たのか。
その後何がどうなったのかアルケミ君は覚えていない。



「・・・・だから、俺じゃないんだ。たとえば・・・本当にたとえばだよ?俺のこと好きだったらその時言えた筈だし」
その時言えないのがクルセ君がクルセ君たる所以なのだが・・・、アルケミ君の中の理論としてはそうなるらしい。
まったく持って難儀な二人だ。
どうしてこうも擦れ違う様に出来ているのだろう。
「だから・・・クルセ君が好きなのは別の人・・・・誰かまでは知らないんだけど・・・でもたぶん同じギルドの誰かだと思うんだ」
ちょっと寂しそうに笑みを浮かべるアルケミ君にアサシン君は自分の痛みのように感じているのか顔を歪ませる。
「・・・・・・辛くないか?」
「んー・・・変かな。・・・・確かにショックだったけどさ。クルセ君がいなくなるわけじゃないし、好きだという気持ちが消えるわけでもないしね」
「・・・・・・・・」
アサシン君はそんなアルケミ君を羨ましそうに見て、はぁっとため息をついた。
「・・・・凄いな」
「?」

「そんな風に誰かを一途に思える事は凄い事だと思う」

褒められているのだろう。
だが、アルケミ君はそれよりも気になる事があった。
アサシン君の隣に座って顔を覗き込むように身を屈める。
「アサシン君は誰か好きになった事ある?」
「・・・・・・・・・ない」
やっぱり。
もしやと思っていたらやっぱりそうらしい。
「アサシン君って以外と奥手だったんだねぇ」
「う」

・・・・・・・アルケミ君に言われたらお終いかもしれない・・・。

運命の女神様が呆れ果てているとも知らずに似たもの同士の二人はお茶をすすっている。
「・・・奥手・・・なのだろうか・・・。自分ではあんまり気にしてないんだ。興味も無かったし、そんなんじゃ相手にも悪い。何よりめんどくさそうで」
「め・・・面倒って・・・」
「それにずっと誰かと一緒にいるのかと思うと息が詰まる気がする」
ぼそっと呟かれた言葉に絶句するアルケミ君。
好きな人と一緒にいたいと思うのは当然・・・とまでは行かないまでも、少なくとも大好きなクルセ君とずっと一緒にいられたら幸せだろうなぁと思っていたアルケミ君にとってその言葉はショックだった。
「こんなんじゃ相手にも悪いだろう。俺は面白い人間でもないしな」
「・・・・・・・・そんな事は無いと思うんだけどなぁ」
うん。むしろ自分とは全然違いすぎていて興味がわくというか。面白いと思う。
「・・・・・初めて言われた、そんな事」
「マスタとかにも言われない?いつも一緒にいるし、結構楽しそうに・・・・・」
はっと気が付いて言葉がつまった。
これは禁句だったのである。
あの出来事からまだ日もたっていない今は特に。
案の定オドロ線を背負って黙ってしまったアサシン君に、アルケミ君も引きつった笑みを浮かべたまま口をつぐむ。
アサシン君はじっとなにやら考え込んでいるようだった。
その心は本人にしかわからない。
だが、何だか寂しそうに見えたのは気の所為だったのだろうか。





こんこん。

「はぁい」
ドアをノックされて、試験管を持ったまま返事をするアルケミ君。心なしかその声が小さい。
ドアが開いて顔を出したのはクルセ君だった。
「ちょっといいか?」
「あ、まって。僕がそこまで行くから」
過去の異空間へと変貌した部屋はクルセ君が入ると身動きが出来なくなるというところまで代わりがない。
相変わらずかろうじて見える床面をひょいひょいと飛んでくるアルケミ君の向こう側を見て、クルセ君は困ったように眉尻を下げた。
それに気が付いて、アルケミ君も苦笑する
「何か疲れてるみたいだね」
部屋の奥の新しく買ったシングルベットの上。それも隅の方で猫のように丸くなっていたのはアサシン君だった。動かないところを見ると眠っているらしい。
「・・・・・・・・・困るな」
「え?いや。別に気にしてないんだけど」
「・・・・・いや」
そういう事ではないのだ。
何というか・・・・・・自分でも入れない部屋に入って、しかも自分が不可侵だと信じて疑わなかった場所で眠っているのが気になって気になって仕方ないだけなのだ。
別にアサシン君とアルケミ君との仲を疑っているわけではない。前回逃亡したアサシン君をアルケミ君が最初に見つけてから仲が良くなっただけのこと。
そう分かっていても胸のあたりがもやもやとしてしまうクルセ君だった。
「・・・・・・・・俺も精進が足りない・・・・・・・・」
いやあんたに足りないのは、『精進』ではなくて『積極性』である。
という、突っ込みが彼方此方から電波に乗ってやってきたところで話を戻そう。

「どうかした?」
「急で悪いんだが、これで白ポーションを作ってはもらえないだろうか?」
そう言ってクルセ君が掲げたのはおそらく白ハーブが入っているのであろう麻袋で。しかしその量たるや半端ではない。おそらく今まで倉庫にあったものを皆持ってきたのだろう。
「ポーション瓶も買ってきてあるんだが」
と、もう片手でごっそりと山ほどの瓶を掲げる。
「い・・・いいけど・・・結構あるねぇ・・・一日じゃ出来ないかも」
「4日後までに間に合えばいいから時間がある時でかまわない」
4日後?
きょとんとするアルケミ君にクルセ君が苦笑する。
「4日後ニルブヘルム王立探検隊に支給物資が送られるようになっているんだ。これはそこにいる友人に送ろうかと思っていて」
「そうだったんだ」
先日新しく見つかった町ニルブヘルム。それは大きなニュースになった。
だがその国交は未だ開かれておらず、今は調査のために騎士や聖騎士、プリーストや他の冒険者達で結成されている王立探検隊が送られているのだ。
だが未知の国であるからして、不安要素や危険要素は計り知れない。
「・・・・・・心配だね」
「そうでもない。あいつは強いからな。それに必ず帰ってくると約束してくれた。あいつは約束は必ず守る男だから。・・・・それに後2ヶ月もすれば帰ってくるらしいし」
「そうなんだ」
「・・・・・・・こっちで結婚するんだと言っていた。昔からの婚約者と」
まるで自分の事のように嬉しげに笑う。
そういった友人がいたとは初耳だったが、めったに見れないクルセ君の満面の笑顔を間近で見れてアルケミ君も釣られて笑顔になった。
「じゃぁ、無事に帰って来れるように。俺もがんばってすっごいよく効くポーション作るからね!」
「ああ、頼む」
そしてまた想い人の満面の笑顔に早速クラクラと来てしまっているクルセ君だった。
もう勝手にやってろと言いたくなる二人だ。
「ああそうだ。報酬はどのくらい・・・」
「いいよ、いいよ。君には何時もお世話になってるんだからっ。くれようとしても絶対受けとらないからね、僕っ」
「・・・・・・・・・・・そうか」
体の前で両手でバッテンまで作ってる愛らしいアルケミ君に、クルセ君も諦めたらしい。
むしろその姿に萌えているあたり、終わっている。

「・・・・・・・・・・」
「?・・・・どうかした?」
用事が終わっても帰る気配を見せないクルセ君。じっと見つめられて不思議に思ったアルケミ君がもしや顔に何かついているのかと自分の顔に手を当てる。
「ああ・・・・・・・いや、その」

クルセ君は考えに考えて、決めた事があった。

親友が戻ってくる時までにアルケミ君に告白しようと。
今まで言えなかった思いを伝えようと。

(人に頼ろうとするからここまでこんがらがったのだ。自分でどうにかしないと先には進めないような気がする)

頭の栓が外れてるんじゃないかと思うほど鈍感なクルセ君だが、さすがに今までの事に学習機能が働いているらしい。
それに・・・・・前に『好きな人がいる』と口走ってしまった時のアルケミ君の反応がずっと気になっていたのだ。
彼はショックを受けていたように見えた。
その時、もしかしたらと思ったのだ。
そう思ったら色々と今までの不思議の思ってきた出来事が自分の都合のいい解釈ができそうな気がした。
そして思ったのだ。
もしかしたら、自分達は遠回りをしていただけかもしれないと。

(それに、これ以上アサシンと仲良くなってもらっても困った事にもなりかねないしな・・・)

などと見当違いの事まで真剣に考えているあたりさすがである。
運命の女神様も背後で含み笑いをしている。

駄目かもしれない。
自分の勘違いかもしれない。
だけどできることならば結婚する親友に自分の大切な人を紹介したかった。

共に剣士時代をすごし、競うように聖騎士の称号を取った。誰よりも自分を知っていると互いにいえる相手である。
きっと驚くだろうが、彼は祝ってくれるだろう。
愛しい人を見つける事ができた奇跡を。


「・・・・・・・・君に、伝えたい言葉があるんだ」


「うん?」

「俺は・・君が・・・・・・・・」

そこで言葉が止まった。
クルセ君は不思議そうにその続きを待つアルケミ君の方へゆっくりと手を伸ばした。

「・・・・・・・・・?」

「好・・・・」

ドバーン!!!!
クルセ君の声を、下から玄関をけたたましく開ける騒音がかき消した。

「ニュース!ニュース!!!」

「!!!!!????」
飛び上がらんばかりに驚いたクルセ君とアルケミ君は顔を見合わせて階下に向かった。
「どうかしたのか?」
何かと思えはモンク君とフローラちゃんが帰ってきていたのだ。
「大変なんだよ!」
「だからなんだ。落ち着いて話せ」
ギルマスが持ってきた水を一気に飲み干して、モンク君はコップをテーブルに叩き付けた。

「ニブルヘルム王立探検隊が全滅したって!!!今町中がこの噂で持ちきりなんだよ!!」

「・・・・・・・・・え?」

クルセ君とアルケミ君は目を見張ってその報を聞いた。
ニブル王立探検隊。それは先ほど話しに上がったばかりの・・・・。


(全滅・・・・・・・?)






「特別な存在」には何種類も「名前」があって、何種類もの「形」として表される。
それは家族であったり、友人であったり、恋人や伴侶だったりもするのだけれども。

それでも変わらないものは。

それが消えれば深い喪失感に世界が暗闇に覆われるという事。



それを思い知る事になろうとは、思っていなかった。









…AND CONTINUE?






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シリーズ化してしまった地球にやさしいECOシリーズですが、いよいよ終盤に入りちょっぴりシリアスに。
二組の片思いがうまく実るように最後まで見守ってやってください。











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