その日。
プロンテラでは激しい雨が降った。
風もなく、ただ振り落ちる、涙雨だった。
まるで人の心を写し取ったかのような黒い雲の下、鎮魂の鐘がなる。
新しい国交を開く為に散った勇者達を送る鐘が厳かに鳴り響く。

国をあげての葬儀が始まった。

死者52名重軽症者は168名にのぼり、王立探検隊被害としては過去最高に上げられた。
双子の鷲の下、物言わぬ白い棺が並び、それを一つ一つ親しい人達が囲む。

あちこちで嗚咽のようなものが聞こえる。
そのひとつ、貴族の家紋らしき紗の掛け物をした棺にすがりつくようにして泣いている女性がいた。
「どうして・・・・っ」
頬には涙とも雨ともつかず、雫が零れていた。
使用人らしき女性が傘を差し掛けるが、彼女は雨に濡れるのもかまわず、故人となった婚約者を棺越しに抱いていた。
その手には身に付けられる事の無いヴェールが握られていた。

「帰ってきてくれるって・・・っ。きっと帰ってくると・・・・そう、言ってくれたのに・・・・っ!」

そう言って堪えきれなくなった様に顔を伏せた彼女を、痛ましげにクルセ君は見ていた。
目を逸らす事無く、その姿を。









ECO 6話(最終話)












「次の探検隊に参加する!!?正気か!?お前!!!」

ばんっと机を叩いて身を乗り出すようにして講義したのはプリ−ストだった。
その先には覚悟を決めた目をしたクルセ君がいた。
興奮するプリ―ストの横で腕を組んでいるギルマスも難しい顔をしている。
クルセ君が改まって自分達だけに話があると聞かされてから嫌な予感はしていたが、それでもこれは最悪だ。
「選抜されるのは独身者からと決まっているからな。まだ正式な指令は受けてないが、おそらくそうなるだろうと思う」
「やめちまえ、そんなの」
プリ−ストが簡潔にそういう。
「指令が降りたとしても拒否する意思はない。・・・・知りたいんだ。あいつが最後に見た風景を」
だがただ静かに、そう言って口を閉ざしたクルセ君に、プリ−ストも臍を噛んだ。
自分が何を言ってもこの頑固者は自分の意志を曲げないだろう。
それがわかるから。
だから、ギルマスも何も言わすにいるのだ。
それでも、プリ―ストはこの友人を危険だとわかる場所になどやりたくは無いのだ。
誰だってそうだろう。
親しい人間を好んで死地になど赴かせたいと思う人間がどこにいるというのだ。
「そんなの国交が開かれてからでもいいだろうっ?それにっ、アルケミの事はどうするんだよ!!まだ好きだって言ってないんだろう!?あきらめるのかよ!?」
その言葉に痛みを感じたかのように目を細め、視線を下に向ける。

「・・・・・・今となっては、言わずにいて正解だったのかもしれないな」

その言葉にプリ−ストが目を見開く。
「・・・・・それは・・・・・」
諦めるというのか、この男は?
長い間培ってきた思いを。

クルセ君は雨の中泣き崩れていた親友の婚約者の姿を思い出していた。
その姿がずっとアルケミ君と重なっていた。
あんなふうに泣かせたくは無かった。好きだからなおさら。
「泣かせるだけだ。きっと。・・・・もしかしたらとかも思ったけど、言ったとしても互いに辛い思いをするだけだろう」
叶うかもしれない。
叶わないかもしれない。
それでもどちらにしても別れは来るのだ。
アルケミ君は優しいから、きっと悩むだろう。
告白が断られるのだとしても、自分を傷付けないように言葉を選んで。
未来の見えない道に向かう男を気遣って。

「それは、死にに行く人間の言葉か?傲慢だぞ、それは」

「生きて帰って来れる保障なんてどこにも無いんだ。待たせるだけ待たせて、帰れなかったとしたら・・・・そんな残酷な事ってあるか?」
その問いにプリーストも黙り込む。

「・・・・・・・・・・・おれはもう、好きだとは伝えない。それでいい」

一度は伝えると決めた言葉だっただけに、自分で言って置きながらその言葉の重さに体が押しつぶされそうだった。
祈るように指を組んで、その上で目を閉じる。
「近いうちに辞令が出ると思う。決まったら・・・皆にも知らせる」
その姿からプリ−ストは視線をそらせた。
変わりにギルマスが閉ざしていた口を開いた。

「俺は・・・・言わずにいていい言葉なんてないと思う。心が求める言葉を隠したまま、それでお前はこの世界から消えても後悔は無いと言えるのか?」

しばしの沈黙の後、クルセ君は微かに口を動かして呟いた。



―--------神に誓って。



それはまるで自分に言い聞かせるかのようだった。












「・・・・・・・・え?」

「正式に辞令が来た。次の探検隊に参加するから、この間頼んだ白いポーションの製造を引き続き頼みたい」
アルケミ君の部屋の前、手土産代わりの甘いお菓子をアルケミ君に渡す。
突然の事に絶句してこわばった表情のままようやくといった様子で口を動かした。
「辞令って・・・・っ。だ・・・、だってニブルヘイムって危険な場所なんでしょ!?」
「危険だからこそ誰かが行って調査しなきゃいけないんだ」
「でも・・・・っ」

行くなと言いたかった。

しかしアルケミ君はその言葉を言えずにいた。
その言葉はただのギルメンとしての言葉を超えている気がしたのだ。
それは自分が彼に特別な思いを抱いていたから余計にそう思ってしまったのかもしれない。

行くな。
行かないで。
ここにいて。

だが変わりに出てきたのは別の言葉だった。
「・・・・帰って来れるんだよね・・・?」
「・・・・・・・・わからない」

戻って来ると約束する事は簡単だ。
だけど、親友の婚約者の姿がどうしても脳裏に浮かんで消えないのだ。
彼も帰ってきたかったはずだった。
それでも、死神の鎌からは逃げられなかった。

自分もそうならないと、だれが言える?

アルケミ君は渡されたキャンディーの瓶をぎゅっと抱えてクルセ君と視線を合わせた。
今にも泣きそうな目で必死に何かを伝えようとするが、それでも肝心な言葉は出てこなかった。
「・・・・・・」
それでも、心は伝わったのか。
クルセ君は反射的に両腕を伸ばしてアルケミ君を抱きしめた。
突然の行動に驚いたアルケミ君も、黙ってそのままにされていた。
すぐに近くで感じる鎧越しの感触におかしくないようにと思いながらも身を寄せた。
震える体は泣くのを堪えているせいだった。
だが、クルセ君はそれを恐れだと勘違いしていた。
「すまない・・・・・少しだけでいいから・・・・暫くこのままでいさせてくれないか」
逃がさないように力をこめても、その束縛は何処までも優しく。
それは腕越しのアルケミ君の感触を心に刻もうかとするようだった。


クルセ君は頬にあたるアルケミ君の髪のぬくもりを感じていた。


(君に伝えたい言葉があった。
でもそうするには遅すぎたのだ。
もう少し早く伝える事ができたら、何かが違っていただろうか?
君を・・・・諦めずにすんだんだろうか?)


アルケミ君は首にかかる微かな空気の温もりを感じていた。


(好きだって言いたい。
だけど、そう言ったら、きっと君の心に鎖をつけてしまうんだろう。
きっと僕が何を言ってもこの人はニブルに行ってしまう。
どうしてこんなことになったんだろう。
もう少し早く伝える事ができたのならなにか変わっていたんだろうか。
・・・・・・・・引き止める事ができたんだろうか?)




『もし・・・・君に好きだと伝える事ができていたのであれば・・・・』



しかし、本人達が知らないところで、もう期限は来てしまっていたのだ。
二人はその事を知っていた。
クルセ君は清涼な香りの中、近くにあるぬくもりに顔を埋めた。
「っ」
アルケミ君の首に暖かいものがふれた。次いでピリッとした痛みを感じて首をすくめる。
驚いてクルセ君を見るが、クルセ君は今にも泣きそうなほど目を細めて、笑った。

「すまない」

なぜ、クルセ君が謝るのかわからなかった。
ゆっくりと自分を包んでいたぬくもりが消えていくのを感じた。
それに心細さを感じてつい伸ばそうとしたアルケミ君の手は、それでもクルセ君を捕まえる事ができなかった。
「出発は3日後だから・・・・ポーション、頼む」
それだけ言って背を向けるクルセ君の後姿を、アルケミ君は見るしかできなかった。
引き止める言葉すら出せなかった。

首筋に走ったむず痒い痕に手を当てる。
アルケミ君は夢から覚めたような錯覚を覚えながら物憂げにそこをゆっくりととなでた。

「・・・・・・何だったんだろう、今の」


Σ( ̄□ ̄;)


・・・・・・どうやらアルケミ君、今起こっていた事をまったく理解していないようだった。
その足元をすくう鈍感ぶりはもうさすがというしかない。
わくわくしてみていた女神様まで脱力させる、げに恐ろしきはその鈍さ。
だが、そうだったのは女神様だけじゃなかったらしく・・・。

がたんっと背後から何かが壁にぶつかる音がして、「ばかっ」「〜〜〜〜」「押すな」などと声がする。
「誰!?」
吃驚したアルケミ君が振り返った先にはアサシン君の首根っこを掴んで逃亡しようとしていたプリーストが固まっていた。
ギルマスまでいる。
「・・・・・・よ・・・・よぉ」
人様の濡れ場(?)を盗み見してしまった気まずさなのか、さすがのギルマスも片手を上げたまま言葉に詰まっている。
だが偶然通りかかったのだろうと好意的なものの考え方しかしないアルケミ君は、ほんのり頬を染めて目を据わらせる。
出かけてた涙をぐっと堪える。
「いたんなら言ってくれたらよかったのに」
「いや、それは・・・」
人様の秘め事を邪魔できるわけがないのだが。
見つかったんなら仕方ないとばかりに先に開き直ったプリーストが頬をかきながらぼそっと呟いた。
「で、・・・・・どうするんだ?」
「え?」
「・・・・・・・・出発、3日後だって言ってたろ」
「・・・・・・うん・・・・・」
どこかぼんやりと空を見ながら頷くアルケミ君にプリーストが
「いいのか?・・・・・・何か言いたい事・・・あるんじゃないのか?」
「・・・・・・うん・・・・・」

一気に現実に引き戻されたきがして、きゅっと唇を噛む。
ありはするのだけど・・・・。
だけど、それは・・・・・・。

アルケミ君は痛みの消えた首筋に指で触れる。
後でわかる事なのだが、それは小さく鬱血した痕になっていた。
堪える事ができていたはずだったのに、ほろりと零れた涙にアルケミ君は驚いて三人に見えないようにぬぐった。
「ごめん」
「い、いやっ」
せき切った涙が止まらなかった。
プリ―ストが差し出したハンカチに顔を埋めて引きつる嗚咽を堪える。
「・・・・・・っ」
なんだか冷たい雨の中置いて行かれたかのようだった。
心細くて、寂しくて・・・切ない。
苦しくはない。
ただ、いなくなると思ったら、胸が痛くて仕方なかった。
壁に背中を預けて吐き出すように呟いた。
「言いたい言葉がある。だけど今言ったらきっとダメなんだ。だって自分はきっと引き止めてしまう。遠くで無事を祈ってるだけなんてそんな事できないよ」
確かな繋がりがあれば待つこともできるだろうか。
それとも、それでも許されなかったのだろうか。
もう思考すらまともに働かず、あるのはただ千路に張り裂けそうな思いだけ。
それを痛ましげに見ていたプリーストが苛立った様にがしがしと頭を掻いた。
「・・・・・・・・・・あのな・・・」
これを言った方が良いのか悪いのか判断がつかない。
だが・・・・・・・・・。
「クルセな・・・・・あいつお前の事が・・・・・・・・」
「やめろ」
それをアサシン君が止める。
驚くプリーストにアサシン君は首を横に振る。
アサシン君にはわかっていた。さっきの事でなおさら。
この間はアルケミ君は勘違いだといったけど、クルセ君はアルケミ君の事が好きなのだと。
だけど、好きだからなおさら言えない事があるのだと。
それは相手の事を思うからこそであって、それは自分も抱えている思いだったから尚更。
事実を知ったとしても、今のアルケミ君ではそれに潰されるのではないかと思ったのだ。

「・・・・・・・・好きだから・・・、言えない言葉も確かにあるんだ」

その言葉にギルマスは彼の心のうちが見えた気がして目を見開く。
プリーストも同じだったらしく、視線を彼に向けたまま固まった。

「・・・お前」

「だけど・・・だったらアルケミはどうしたい?」
アサシン君はじっと彼を見た。
「お前はもう諦めるのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

すんっと鼻を鳴らしてアルケミ君は顔を上げる。
今まで泣きそうだった表情を改めて、三人に向かい合う。

「・・・・・三人に頼みたい事があるんだけど・・・・」







そしてクルセ君の出発当日がやってきた。
身の回りのものを詰めたリュックを足元に置き、心配そうな顔をしているギルメン達に寂しげな笑顔を向ける。
ギルマスをはじめ、ほぼ全員がそろい、クルセ君を見送る事になった。
「今まで世話になった」
「何今生の別れみたいな不景気な顔してんだよ。お前の部屋は開けといてやるから、いつでも帰って来い。ギルドから抜ける事になっても仲間だろうが」
探検隊はその特異性から小隊ごとにギルドで分けられる。
当然クルセ君もそれに入るため、今日を持ってこのギルドを脱退する事になっていた。
それでも仲間だと言ってくれるこの男に、クルセ君も頷いた。
「そうですよ〜。早く国交を開いて私達も行ける様にしてくださいね。皆で遊びに行きますから」
「・・・・・ああ」
大勢で遠足のようにわらわらとやってくる姿を思い浮かべてしまってくすりと笑う。
「アルケミは?どうしたんだ?」
モンク君が姿をあらわさない最後の一人に玄関の方を見る。
中にいる事は判っているのだが、すぐ来るからといってそのまま出てこない。
「・・・・・・・・」
クルセ君は目を細めて玄関をじっと見た。
もしかしたら先日の事を怒っているのかもしれないと思った。
ここ数日彼は外に出かける事が多くなった。
それに自分を避けているようにも感じたのだ。
原因はあの日・・・アルケミ君を抱きしめた事しか考えられなかった。
「・・・・・・・・・・」
あの日アルケミ君の首筋につけた赤い印は、未練の証のようなものだった。
初めて腕の中に抱きしめた彼に、尚更愛しさが募った。
その想いに耐え切れず馬鹿なまねをしたと思っている。
諦めると決めたくせに、なんと不甲斐ないのだろう。

(もしかしたら、もう出てきてはくれないのかもしれない・・・・)

もうすでに消えたであろうその跡をもう確認する事はないだろうが、せめて最後に一目だけその姿を見たかった。
「呼んでこようか?」
もうそろそろ城にまで行かねばならない時間だった。
気を利かせたモンク君に、クルセ君は頷く事も首を横に振ることも出来なかった。
だが、その時、家の中からなにやらばたばたする物音が聞こえてきた。
「お待たせー」
ドアの向こうから明るい声と共にやってきたアルケミ君にクルセ君は目を丸くする。

「・・・・・・・・なんだ?その荷物は」

クルセ君が驚くのも無理は無い。
アルケミ君の花のカート一杯に積んだ荷物の量が半端ではない。
いかにも無理やり積みましたといわんばかりのそれは積載量というものを考えているのだろうかと疑いたくなるくらいで・・・・。
引越しでもするのだろうかとクルセ君がそう思ったくらいだった。
それに加えて肩に担いだバッグまであったが、アルケミ君はそれをクルセ君にどんっと渡す。
「あ。はいっ、これ!頼まれていた白P!沢山あるから気をつけてねっ」
「え?あ・・・・ありがと・・・うっ・・・・」
どんっと手渡されたのはアルケミ君印の白いポーションの山で、不意をつかれたクルセ君はその重さに足元がふらついてしまった。
「大丈夫?半分僕が持ってようか?」
「え?」
いや、持って貰っても仕方ないと思うのだが。
「まだ手前の方に空きがあるから心配しなくて良いよー」
とか何とか言いながらカートに半分のポーションを積み込んでいく。
「ああ、いや・・・・どうせここで・・・」
別れるんだからと思ったクルセ君だったのだが、アルケミ君には聞こえてなかったらしい。
積み込みが終わったアルケミ君は勢ぞろいしているギルドのメンバー達に向かって頭を下げた。

「今までお世話になりました!」

「は?」
なんだ?やっぱり引越しかとクルセ君が混乱しているのをよそに、ギルマスとプリーストとアサシンだけはうんうんと頷いている。
「向こうでは生水に気をつけろよ」
「食いもんにも気をつけるんだぞ。ちゃんと火を通して食えよ」
「体には気をつけて」
だが他のメンバーはクルセ君と同じように呆然としている。
「・・・・・・あの・・・・・・、これはどういう・・・・」
大事なアルケミ君のことだからか、呆然としつつもしっかり口を挟んでくるクルセ君。
アルケミ君はそんな彼に向き直り、にぱっと笑顔を向けた。

「僕もニブルの王立探検隊に入る事になったんだ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだって―――――――!!!!??????」


しんっと静まり返った間に目と口をゆっくりと開いてクルセ君は叫びと共にがしっとアルケミ君の肩を掴んだ。
「ダメだ!!!!君は何を言ってるかわかっているのか!!??そ、それに、行こうと思って行けるものではないんだ。昨日今日で決まる筈がっ」
「探検隊の中には傷薬を作れる人材が必要だからギルドには話はあってたんだよね。後は辞令あった人見つけて変わってもらっちゃった。ギルドにもちゃんと話を通すのに昨日の夜まで掛かったけど。君と同じ辞令での派遣になるから隊も一緒になると思うよ」
ここ、二三日家にいなかった理由が今更になって理解したクルセ君だった。
だがしかし、まさかこんな事になろうとは予想だにしてなかった。
「えっ。う、うそだろっ。アルケミまで行っちゃうのかよ!」
最初に口を開いたのはモンク君だった。
アルケミ君の後ろにいるフローラちゃんをぎゅっと抱きしめる。
「だって俺っ、こいつにまだ阿修羅教えてないのにっ」

いや、それは・・・・・・・。

皆が突っ込みたいと言う顔をしたものの、一人だけまじめな顔をしたアルケミ君がフローラちゃんの頭をなでる。
「えっとね、向こうはどうも光がささない世界みたいだから・・・・・・光合成するフローラちゃんは連れて行けないんだ。だから・・・ギルマス達にもお願いしたんだけど・・・・・・ギルドのみんなに預かってて欲しいんだ。大丈夫、ちゃんと帰ってくるからさ」
『しゃげぇぇぇぇぇ・・・・・・』
前もって説得されていたのだろう、フローラちゃんはこの別れに見るからに肩ならぬ頭を落としていた。

どうやらギルマス達は前もってこの事を知っていたらしい。
思わず眩暈まで起こしてしまったクルセ君だった。

「だ・・・・ダメだ。・・・・・・・・どうしてそこまでして君が行かなければいけないんだ。未知の世界に行きたいというのなら、他の機会でもいい。頼むから・・・・・・今回は参加しないで欲しい」

蹲って頭を抱えてしまうその姿に、アルケミ君も頬を掻く。
驚くだろうと思ったが、ここまで反対されるとは思わなかったのだ。

「頼む・・・・っ」

精神的に追い詰められていたのか、それとも時間が無いからなのか。
吐き出すように呟かれた言葉に、アルケミ君は一瞬驚いたように目を見張り、そして自分も蹲って俯くクルセ君を下から覗き込んだ。

尊敬と再確認した思いをこめて微笑む。

ああ・・・・そうだよね。
反対するのは、自分の身を心配してくれるから。
それは君の優しさなんだよね。


「クルセ君はすごいなぁ」


「・・・・・・・・・・・・え?」
微笑を浮かべるアルケミ君にクルセ君は唖然とする。

「あのね・・・・僕は言えなかったんだ。行かないで欲しいと思っても、言う事ができなかったんだ。」

「・・・・・・・・」
視線が重なった。
その瞳を見てアルケミ君は柔らかく微笑んだ。

「勇気が足りなかったんだ。本当は・・・・言ってもいい言葉だったんだって、思わなかった」

今ならわかる。
言ってしまったら遠くにいる君を縛りそうだとか、そんなのは建前で。
・・・・ただ、断られて自分が傷つきたく無かっただけなんだ

縛る事なんて無かった。

言ってもきっとクルセ君は探検隊に参加しただろう。
だって彼の強い意志も堅苦しさも自分が愛しいと思うところなのだから。
だけど。

『お前は諦めるのか?』

あの時、アサシン君から言われてそれでも諦められないのだと自分は思った。
それにただ黙って待つ事もできない。
たとえ、彼に好きな人がいるのだとしても、かまわないと思った。
3日前彼の腕の中で感じた一つの核心もあったのだけど、それよりむしろ抱きしめてもらえるほど好意を持たれているのであれば、それだけでも十分ではないかと思った所為でもある。

そう思ってアルケミ君は自分の気持ちに気がついた。
彼を好きになったきっかけはたしかにその顔や体の黄金率の素晴らしさであったのだけど、今はそれだけではないこと。
彼を歪ませてまで欲しい思いなんかじゃない。
だったらどうすればいいのか。

アルケミ君はだから、選んだのだ。


「え・・・・と、ね。何も言わずに聞いて欲しい。・・・・・・・・・・・僕は君が行くから行くんだ」

「・・・・・・・・え・・・・・・」

「だって、やっぱり言いたかったから。君に伝えたい事があったから、こうしようと決めたんだ」

「?」

クルセ君が怒りや焦りまで忘れてぽかんとアルケミ君を見た。
その顔がおかしくて、正確にはそんな顔にさせた自分を褒めたくなって、アルケミ君は笑った。

(例え片思いでも良いや)

見てて毒気の抜かれるほど、幸せそうな笑顔だった。
そしてそれはこの晴れた空の下にとても眩しく写ったのだった。


「やっと君に言える」




女神様はそっと立ち上がり、そしてここにはもう自分は必要ないのだとおっしゃいました。
それはそうですよね。
運命の女神様を本当に必要としているのは、片思いをしている人たちなのですから。

女神様を必要としている人達は今ここにいなくなるのです。
微笑みひとつ残してふわりと裾を翻し消えた女神の軌跡が、これから先の幸せを象徴しているように見えました。


「あのね」









「僕は君が、好きだよ」






行く先はまだ見えなくても、君と一緒なら歩いていける。

そんなアルケミ君とクルセ君を太陽の暖かな日差しが照らしていた。


















END






++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

クルセ君は最初から自制の強い人で。
アルケミ君は最初から手段を選ばない人だったので。

こんな二人でしたが、なるようになりましたv

この物語は二人の片思いの話だったので、両思いになった時点で終わらせようとずっと思っていたのですが、読んでる人のこっからだろー!という電波が心地よく聞こえてきそうな・・・・・・。

続編・・・・・は考えてませんが、あえて書くならギルマスとアサシン君の話を踏まえた後日談かなぁ・・・。
恋人になったらなったでいろいろありそうな二人ですが(キスしただけで鼻血吹きそうだと言われてましたしねぇ)多分結構幸せかと思います。

というわけで、こんなアホ話を最後まで読んでくださった皆様に感謝。
ありがとうございました。




トナミミナト拝





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