耳打ちが通じるようになって、プリーストがまず行ったのはアサシン君の安否の確認だった。
だがどうやらすでにギルマスが接触していたらしい。
ほっとしたのもつかの間、

『・・・・・・・・・好きだと言われた』

まるで好意を持った相手から『大嫌いだ』と言われたかのように落ち込んでいる声はアサシン君のものだった。
どうやら告白されたらしいが、様子がおかしい。

『あいつは・・・どうしたいんだろうな』

「・・・そりゃ、恋人にでもなりたいんじゃないのか?」

応援する気は無いものの、プリーストは事実だけを口に出す。
実際ギルマスであるあのはた迷惑なBSはその気である。
何で俺がこんな事をと思わないでもないが、あのギルマスが大人しくなるんだったらアサシン君には人身御供にでもなってもらおうなどと思っているプリーストだった。
なんせ大の男が何時までもうじうじとしているのを見せられるのはうっとうしい事この上ない。
『・・・・・・・・』
しばらく間があった。
もちろんアサシン君に男色の気は微塵もない。
それどころかプリーストはアサシン君がギルドに入ってから彼の周囲で女の影ですら見たことが無かった。
というか性欲というものがあるのかと疑いたくなるほどで。
ギルマスに言わせれば『他人に興味がない』。それはこういう所にも出てきているらしい。
だが食欲・睡眠欲・性欲は人間が誰でも持っている欲であると思うのだ。
プリーストが個人的意見で言うのであれば彼は人としての何かが欠落しているとしか思えない。
そこで一番親しく、なおかつ同じ男に犯されたのだから思わず逃げ出したくなる気持ちも何となく分かるのだが、それでもギルマスを恨まないところから察するにアサシン君だって少なからず思っているのだと思う。

耳打ちが切られたか?と思い始めた頃に、ポツリと小さな声が聞こえた。

『恋人って特別だって言う事だよな』

・・・・・・・・たしかに、愛しいと思う存在という事であるならばそうだろう。

『それじゃ・・・だめなんだ』

さっきまでとは打って変わって、やけにはっきりとした声でアサシン君が呟いた。



『あいつがそれを望む限り、俺はいつかあいつを裏切るだろう』











ECO 後日談〜ギルマスとアサシン君〜











不審な始まり方をしましたが、相変わらず運命の女神様も呆れるほど激ニブしかいないこのお話。
クルセ君とアルケミ君がニブルに行ってまだ間もない頃、一部地域では未だ消化不良を起こしている二人がいた。
クルセ君とアルケミ君がいたギルドのギルマスとアサシン君である。
前回クルセ君とアルケミ君が両思いになることによって去ろうとしていた運命の女神様であったが、そういえばこの二人もいたのだとちょっと留まった。
この二人もまた互いに思うところがありくっ付けずにいる二人だったりするのだ。
『運命の二人』とは違うので自分の管轄からは離れるが、これは最後まで見守るのが筋と言うものだろう。(デバガメでは何ていってはいけない)

それにひとつだけ運命の女神様には気になった事があった。
女神様にだけ見えるアサシン君の糸が不透明なのである。

人は誰もが糸を持っている。

その糸の先は長く伸びていて運命の人に繋がっているらしい。
ただそんな二人が自然と会って本当に恋に落ちれる確率は実はそんなに高くない。
相手が遠く離れた場所にいるのであれば、会う確立ですらがくりと減るからである。
だが心配する無かれ。
人が持つ糸は大変絡みやすくなっており、運命の相手といわないまでもそうやって絡んだ相手と添い遂げる事も多い。
むろん運命の二人であっても会ってすぐに恋人になれるわけではないことは、クルセ君とアルケミ君で実証済みである。
だから運命の女神様はあちらこちらと出向いては『運命の二人』をくっつけて回っているのだ。

そしてギルマスの糸ははっきり出ていてどこぞへ伸びている。それがアサシン君とではないことは自分だからわかることである。
しかしここでの問題は、アサシン君の糸が不透明になっている事だった。

女神様は不安気な顔をしていた。

前に何度かこういった糸を見た事があった。
糸が不透明になる時。
それはその糸の持ち主が相手への想いを諦めてしまったり・・・・持ち主が死んでしまったりする時なのだ。





その日。
ギルマスとプリースト、アサシン君とセージ子ちゃん4人組は一つのテーブルを囲んでいた。
プリーストがみんなの期待の目の中で朝届いたばかりの手紙の封を開く。
それはつい先日王立探検隊に入って新天地に向かったアルケミ君からの手紙だった。


『親愛なる皆様へ
お元気ですか?なにか変わった事はありませんか?
僕の方は結構元気にやってます。
クルセ君は・・・・・ちょっと元気がないかな?
僕を見るたびに、今にも泣きそうな顔をします。
よっぽど僕に来て欲しくなかったみたいです。
もうニブルに入るんだからしょうがないのになぁと思うのだけど、どうやらクルセ君は自分の所為だと思ってしまっているみたいで・・・・。
僕は好きでここにいるのに、うまく伝わってないようです。

先に書いたように僕達はウンバラを通り過ぎて、今ニブル手前にある世界樹にいます。
ここは珍しい草が一杯はえていて、ハーブ狩りには事欠きません。
僕にとっては天国のような場所です。
水も豊富にあって、滝に木漏れ日の光さすその光景はとても綺麗です。
いつか皆にも見て欲しいと思います。
ここに来るまで見たこともないモンスターとも戦いました。
探検隊は16人10隊に分かれていますが、僕が所属する隊の皆はとても強くて頼もしい人達です。
クルセ君が心配して普通に歩いている時でも僕にディボーションをかけるので迷子紐じゃないんだからとよくからかわれます。僕ってそんなに頼りなさ気に見えるのかなぁ』


「相変わらず何もない所で転んでたりしてるんじゃないか?」
まるで本人を目の前にしたような気軽さでギルマスが茶々を入れる。
「ありえますねぇ〜」
くすくすとセージ子ちゃんまで笑っている。
それでも、転びそうになったアルケミ君を慌てて支えに走るクルセ君がすぐに浮かんできて、4人でぷっと吹き出した。
『また手紙送ります』で締めくくられたそれを読み終わった4人は、もう一度読み直してリビングにあったボードに手紙を貼り付けた。
このボードは伝言板として活用されているのだ。
「こっちからも手紙って送れるんだっけ?」
「たしか、今回は1週間に一回連絡をかねて騎士団から補給小隊が派遣されるんじゃなかったかな。それに預ける事が出来たと思うけど」
「返事書くんだったら俺がまとめてそっち持っていくよ。さて、今日はどっか狩でも行くか?」
「あ、私友達と約束があります〜」
「俺もたしか教会の当番だったような」
セージ子ちゃんとプリーストがそう言った。
ギルマスの視線がアサシン君の前で止まる。
アサシン君は張られた手紙を読み返しているらしく、ギルマスの視線に気がつかない。だが少し元気の無い様子に見えた。
「どうする?」
「え・・・・・あ・・・・・」
不意をつかれあからさまにうろたえるアサシン君に、プリーストとセージ子ちゃんが視線を交し合う。
一瞬で意思の疎通が出来たらしい。
「いや、お、俺も用事があって・・・」
「あー行くってさ、ギルマス」
「あらあら仲がよろしい事。じゃ、最後に私が鍵をかけときますから、どうぞいってらっしゃいまし〜」
アサシン君の言葉をさえぎって、プリーストがアサシン君を立ち上がらせた。次いでセージ子ちゃんがアサシン君をギルマスの方に押し出す。
「!!?」
「じゃ、ちょっと用意してくる」
「おう」
何か言おうとするアサシン君の口を手で覆ったプリーストが片手を挙げる。
そして2階に上がっていくギルマスの足音が聞こえなくなった頃。
「・・・・・・何時までも逃げ回っているわけには行かないと思いますよ〜?」
指をあわせて、ぽそりとセージ子ちゃんが呟く。
プリーストもアサシン君を離して、頭を掻く。
二人が心配してくれての事だと知って、アサシン君は諦めたように肩を落とした。
「・・・・・・・分かってる。でも・・・どうすれば良いのか本気で分からないんだ」
プリーストは腕を組んだまま黙って聞いていた。アサシン君が家出をして戻ってきた時に『友達だよな』とギルマスに言った時からずっと思い悩んでいた事はわかっていた。
「友達だと言った。前と変わらないはずなのに、それなのに今の俺はあいつと前にどんな態度で接していたか思い出せない・・・・。話している時も傍にいる時もこれでよかったのかと思ってしまって、不自然な態度になってしまう。その度にあいつを傷つけてる気がして怖いんだ。二人きりになるのが怖い。おかしいよな・・・・友達だとそう言ったのは俺の方なのに」
しゅんと肩を落としたままのアサシン君を据えた目で見ていたプリーストが口を開いた。
「友達だとそう思ってるのはお前だけかもしれないぞ?」
その言葉より先に、声の冷たさにアサシン君は肩を振るわせた。
その言葉に胸に当てていた掌をぎゅっと握る。
「・・・・・・・・・・・でもあいつも何もしないし・・・もう飽きたんだと思う」
「・・・・・・あー・・・・」
アサシン君が気がついていないところで、そういった接触はされているわけなのだが・・・。
一度寝ているアサシン君にギルマスがキスしようとしていた場面に出くわした事のあるプリーストは顔を引きつらせて生ぬるい笑みを浮かべる。
だがアサシン君は気がつかずに俯いたままだ。
「まだ自分の整理がつかないだけなんだと思う・・・・・・・・こんな自分を好きだという人間がいるなんて思ってもいなかったから」
自嘲するアサシン君に二人はあっけに取られる。
そういえばアサシン君は自分というものを過小評価しすぎるきらいがあった。それは彼の過去にも関係しているのだろうが、そこまで突っ込んだ話すをする機会が無くて今まで来ていた。
ギルマスとの事だって、ギルマスが嫌だったから逃げたのではなくて自分が変な反応をしてしまって羞恥にかられて逃げたのだと聞いた。それも元を辿ればギルマスが変な薬を使った所為であるのだが、今でもアサシン君は自分が淫乱なのだと思っているに違いない。
加害者を憎む事無く自分が悪いと思うのは、このギルドに入るまで一人でいる事が多かった所為なのか。
変化を極端に嫌うからなのか。
それともギルマスに心許しすぎているからなのか。

「好きですよ?」

そう言ってセージ子ちゃんはにっこり笑った。目をしばたかせるアサシン君の手を取って、
「ここにいる人たちは皆貴方の事が好きですよ?だからあなたの事を心配するんです。私達の思う好きはきっとギルマスが言った好きとは違う好きですが、それすらも信じてはもらえませんか?」
「・・・・・・・・・」
アサシン君はそれに驚いた様子だった。
「きっとアサシン君は人と接する事に臆病になってらっしゃるだけなのですわ。アサシン君はギルマスの事が嫌いではないのでしょう?」
身を乗り出すように言われてアサシン君も思わずこくんと頷く。
「じゃ、余計な悩みはケセラセラです。あなたはそのままでいらっしゃったらいいのですよ。そしてそのままギルマスとお話してみてください。きっとなんでもないことですわ。まぁ、また泣かされたら私に言って下さいな。ギルマスなんてアブラカタブラでモンスターにして燃やしてあげますから」
「・・・・・・・・!!!?や、そ・・・それはっ」
セージ子ちゃんは無垢な笑顔で冗談だとウインクする。それにアサシン君は憑き物が落ちたように肩から力が抜けて、照れたように目を細めた。
そこでちょうどリュックを持ってきたギルマスが降りてきた。
「そろそろ買い出しもしとかないとだろ。帰りに買ってくるから・・・・どうかしたのか?」
「なんでもない。ほら、行って来い」
「さて私達も用意しないと」
セージ子ちゃんはアサシン君の手を一度ぎゅっと握って離す。
アサシン君は離れる温もりを感じながらも、気持ちを零さないようにぎゅっと握る。

・・・・・勇気をもらった気がした。

含み笑いを浮かべながらプリーストとセージ子ちゃんは二階に上がっていく。それを怪訝そうに見ながらギルマスから何かあったのかと聞かれたのだがアサシン君は首を横に振った。

大丈夫。
ギルマスは自分の事はもう何とも思ってないはずだから。
そんなことある訳ないから。


『きっとアサシン君は人と接する事に臆病になってらっしゃるだけなのですわ。アサシン君はギルマスの事が嫌いではないのでしょう?』


「・・・・・・・」

嫌いなわけじゃない。そんなわけがない。
ずっと一人だった自分の世界を広げてくれた人だ。
何があろうと嫌いになどなれない。

ただ怖いだけなのだ。

ギルマスは・・・・・・かけがえの無い・・・「友達」だから。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

・・・・・・・でももし。
プリーストが言うようにギルマスがまだ俺の事を・・・・・好きだというのなら。

また、好きだと言われた時は。

「・・・・・・・・・」




その時がきっと自分達の決別の日だ。








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