桜咲く

君の心に
僕の心に










春爛漫〜はるらんまん〜









青い空を覆い隠さんばかりの枝ぶりを誇る桜の木たちは、今まさに春爛漫と咲き誇っていた。

幻想的なまでに咲き誇る桃色の木々は、この時期首都や山岳の町でもよく見られるものだ。
だがやはり本家本元、この天津の桜は一味違う。
一年中見られるとは言っても、さすがにこの季節は花の数が多く町中に花弁が舞い散る。
その桜を目的に観光に来た人々も少なくなく、あちこちで露店も出て天津は賑わいを見せていた。

そんな人ごみから外れた町の端。
一人の騎士が桜並木の中歩いていた。
年の功は20代前半。闇を溶かしたような髪にスイートジェントルを乗せて、片目を眼帯で隠していた。
ひょろりと高い背を猫背にして歩くさまは、漂々とした雰囲気とあいまってどこかとぼけた印象を人に与える。
片手に桜餅と竹筒を2個持ってもう片手に団子のセットを3つ程。
店先でもらったわらびもちを租借しながらてくてくと歩いていって、一本の桜の木の下でぴたりと止まる。
ここまで奥に来ると人の気配はほとんどない。
風がさわりと漂うように吹いていく中、花びらが積もる音が聞こえるだけだった。
「・・・・・・・・・」
目の前には花びらの小山があり、騎士はその前にしゃがみ込んだ。
「まだ死体の真似事か?」
小山に話しかけると、それはもぞりと動いた。
花びらが落ちて中からプリーストの法衣が見えた。どうやら騎士に背を向けたらしい。
「朝からずっとそうやってて、いい加減腹減らないか?」
「・・・・・・・・・・」
この桜の山は横たわっていたときに積もってしまったものだったようで、だが騎士の言葉にプリーストは黙したまま騎士の方を向こうともしなかった。
しかし、甘い匂いをかぎつけた体は正直だった。

ぐぅぅぅぅぅ

見事なまでにタイミングよく鳴った腹の虫に、桜の山が慌てた様に膝を抱えて小さくなる。
思わず噴出しそうになった騎士は、口に手を当ててぐっと堪えた。
ここで笑おうものならこのプリーストは空間転移でもして消えてしまうだろうから。
だが、気配は伝わったのだろう。
恨みの念が桜の山から伝わってきて、騎士はやれやれとそこに胡座を組んで、持っていた竹筒を地面に置いた。
「団子と桜餅と買ってきたんだ。付き合えよ」
そう言って持ってきたものをがさがさと開いていく。
「団子はなー。みたらし、あんこ、塩、うぐいす、笹団子。磯辺焼きに柏餅、ぼた餅。ああ、わらび餅をもらって食べてみたがうまかった。さすが大黒屋だな」
「・・・・・・・・・・・・」
次々と自分の好物を上げられ更に自分のお気に入りの店の名前まで出てきて、葛藤していた桜の山はやがてむくりと起き上がった。
うすい桜色の髪に緑色の目をした線の細いプリーストだった。
警戒したように黒猫耳を伏せて騎士を睨み付ける。
桜のような外見の繊細さとは裏腹に目が強く輝き、まるで若武者を思わせる。
プリーストは、騎士に敵意を持った目を向けて懐から出した金を投げるように騎士に渡し、その手から団子のセットを全部奪い取った。
どうやら「施しは受けないぞ」という意思表示らしい。
プリーストが動くたび、髪や肩に乗ったままの花弁がはらはらと落ちる。
桜の香りまでふんわりと漂ってきそうな風情だ。
まるで桜の精だと騎士は思った。
プリーストはそんな事を思われているとは露ほども気づかず、ずり下がって2メートルほど離れた所に胡坐を組んだ。
思い出したようにそこら辺にあった木で二人の間の地面に一文字に線まで引いた。
まるでそこが境界だと言わんばかりにだ。
「ガキじゃないんだからよ・・・」
むっすりと団子を頬張るプリーストに聞こえないように呟いた。
甘味はすべて取られてしまったので竹筒のお茶をちびちびと飲む。
どうせ、甘いものは好んでまで食べようとは思わないし、甘味好きのこのプリーストの為に買ってきたものだから良いのだが。
「・・・・・・しかし良く食うな・・・・」
騎士はプリーストの手元から団子やもちが消えていくのをいっそ感心したように眺めた。
甘党とは知っていたが、よくもまぁ、三人前も四人前も一人で食べれるものだ。
自分が居ることで不機嫌な顔は隠さないが、眉間の皺は8割方取れていた。
最後の一個を租借し茶で喉を潤したところで、プリーストは顔を反らしたまま口を開いた。

「何の用だ。俺を笑いにわざわざここまで来たのか」

凛とした伸びやかな声に思わず聞き惚れる。
「・・・・・聞いてるのか?」
それにようやく騎士は自分の目的を思い出した。
「そこまで暇じゃない。俺はただ約束を守ってもらおうと思って来た」
「約束!!?」
プリーストは声を張り上げて騎士を睨み付けた。

「約束は守った!ギルドも解散させたし、俺はもう二度とギルドは作らないし二度と攻城戦にも参加しない!」

泣きそうな顔でそう言って、エンブレムがあった片腕を掴む。
消えたエンブレムはギルド解散の証だった。
何よりそれは、自分が作り育て上げ、・・・・そして昨日消したもの。

それは、この男とした約束の結末だった。

この騎士はプリーストのギルドと敵対関係にあったギルドのマスターだった。
いわばこの二人は敵対ギルドのマスター同士。
幾度と無く繰り返された攻城戦では合間見えた事も一度や二度ではない。
勢力はややプリースト側が有利ではあったものの、この騎士側の作戦に何度も煮え湯を飲まされてきた。


攻城戦の前日。
それぞれ副ギルマスまでの立会いの元での極秘会談の席で、「そろそろはっきりさせよう」と話を持ちかけてきたのは騎士の方だった。
次の攻城戦で負けた方がギルドを解散させようと。
「下同士の小競り合いも多い。互いに勢力も大きくなり教会の目も光るようになってきた。これ以上もめる前に、ここらでいい加減けりをつけよう」
たしかに騎士側のギルドとの敵対関係はかなり根深いものになっている。 下からの声も強い。いずれ暴走するかもしれないという危惧は持っていた。
この騎士が何かたくらんでいるという事は予測できたが、それ以上に自分のギルドに自信もあった。
プリーストは副ギルマスと視線を交わし、騎士に答えた。
すなわち、是と。

今までの勝率はプリースト側に軍配が上げられていた。
その油断があの約束を交わさせたのかもしれない。
ただプリーストのギルドの方が有利かと思われていた攻城戦も、蓋を開けてみれば騎士側の勝利という結末に終わったのだ。
これまでの経験と勝率の高さ。そして油断が生んだ惨敗だった。



命より大事だと思ったギルドメンバー達の最後の顔が忘れられない。
すべてが終わった後で深い後悔の中、ギルドは解散された。



「途中ヒヤリともしたがね」
「負けは負けだ。約束は守った。俺にもう用は無いだろう!?」
「後一つ、守ってもらってないことがある」
「・・・・・・・・なんだ」
不機嫌もあらわに聞き返す。
この騎士がここまで言うのであれば、自分が聞き逃していたのだろう。
だが他にどんな約束をしていたというのだろう。

「ギルマスに限り、負けた方は勝った方の言うことを何でも聞くと・・・・言ったろ?」

一瞬思案げな顔をしたプリーストは、思い出したのか猫が鳥肌を立てるような勢いで表情を引きつらせた。
頭の黒猫耳までピンっと立っている。
「な?思い出したか?」
騎士がにこにこと言うのに、頷く事も出来ずぐっと息を詰める。
確かに極秘会談の後、帰り際にそんな戯言を売り言葉に買い言葉で交わしたかもしれなかった。
「・・・・・・・」
思えばかなりまずい約束をしてしまったのではないだろうか。
騎士はにこやかな笑顔を浮かべる。それがまた胡散臭いとプリーストは思うのだ。
「まさか、約束を破るようなまねはしないよな?仮にもギルマス・・・責任を負う立場の人間だったんだもんな」
「・・・・・!!!!!わかってる!男に二言は無い!さっさと言え!」
屈辱に顔を赤らめながら怒鳴るプリーストの方に身を乗り出した。
一文字の境界を超えて、更に手を伸ばす。
思わず身を引こうとするプリーストの髪に触れ、絡まっていた桜の花びらを取った。

「俺と付き合ってほしい」

花びらを口元に寄せ微笑んだ。
とたんに、プリーストはまるで宇宙人に会った様な不可思議な顔をする。
とっさにその意味を考えたらしい。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『どこに?』とか言ってすっとぼける気ならこの場で犯すぞ」

先手を打ってきた騎士にぎくりとしながらも、プリーストは騎士からずり下がろうとした。
「お前・・・・・ホモだったのか・・・・」
「自慢じゃないが女に不自由したことはないし、男と付き合うのは・・・・まぁ、成り行きぐらいで」
「両刀かよ!!!!余計タチ悪いじゃねぇか!!!」
「博愛主義者なんだ」
「万人に手を出す事を『いいかげん』というんだ!」
「今日から恋人になるというのに手厳しいな。もっと優しくしてくれてもいいだろ?」
「付き合うなんて言ってないぞ!」
「約束。何でも言うこと聞くといったよな?」
そこで絶句してしまったプリーストは、ふと何かに気がついたように口を開いた。
「・・・・・・・・・・・・・そうか・・・・・そうだったのか・・・」
「?」
今度は何だといぶかしむ騎士にびしっと指を刺す。

「そうやって逆らえない俺を負け犬として笑いものにしようと言う魂胆だな!!?なんて野郎だ!!!お前がそこまで下衆だったとは!!!!」

「・・・・・・・・・・」
また盛大に勘違いしているプリーストに、がっくりと肩を落とす。
しかも下衆とか言う言葉をこの男の口から聞くと、ショックもひとしおで。
「そうやって自分のギルドに引き込んで俺を更に辱めようと言うんだろう!!!?」
「ち・が・う」
更に悪化しそうな思考を止めようと片腕を差し出す。
怪我をしたのか手には白い包帯が巻かれていた。
騎士は包帯を解いて、手の甲を見せる。
そこには騎士のギルドエンブレムが彫り込まれていた。
突入の合図に何度も見てきたものだった。
掲げた手を振り下ろす度、何かが起こる。そのギルドエンブレムを見るたびに忌々しさと共に妙な昂揚感を覚えた。
それはいつも戦闘の始まりを告げるものだったから。
だが・・・・。
プリーストはそれを見て驚いた。

「ギルドは解散した」

ギルドにとって大事なエンブレムは無残にクロスに切り刻まれていた。

「これ・・・・どうしたんだよ」
あまりにひどい傷跡に思わずその手を取る。
反射的に癒そうとするのを騎士は止めた。
敵側でも癒そうとしてくれるその姿に思わず笑みがこぼれる。
「俺の勝手で解散したからな。これくらいしないと皆に示しがつかなかった」
自分で刻んだのだと言ったのを、信じられないように見た。
「・・・・・・・なんで解散なんて・・・・」
「目的は達成したから」
「目的?」
プリーストに顔を近づける。
動けずに居るプリーストに触れないように、顔を覗き込んだ。
触れずに感じる熱と吐息に固まったプリーストの様子に、騎士はそのままの姿勢で呟いた。
「勝っても負けても解散する気では居たんだ。ギルドを作ったのは、お前との接点が欲しかったからだ。だが、接点どころか障害にしかならないのなら、もういらない」
「・・・・・・お前・・・何言って・・・」
あそこまで大きいギルドを作り上げる苦労をプリーストは自分でもわかっていただけに、あっさりと手放したこの騎士が理解できなかった。
しかも手放した理由は自分だというのだから、余計に信じられない。
「だが交戦中のお前を見るのも、挑むように見られるのものゾクゾクするほど気持ちよかったな。攻城戦が終わって、お前を思いながら何度抜いたかわからない。でも、もうそれだけじゃ満足できなくなった・・・・」
「っ」
さすがにその意味がわかったのか、プリーストは悪寒を感じてずり下がる。
騎士がにまにまと笑うのに、ここで話を反らさないと何だか望まない方に進みそうで顔を引きつらせた。
「おっお前はっ。そんないい加減な理由でギルドを作るなんて!ま、まさかっ。あの約束も全部企みだったのか!?」
「・・・・・・」
騎士は一瞬表情を改めて、黙ってにやりと笑った。
「どっからっ!!?」
まさか、今までの勝敗すらもこの男の計画の内ではなかったのか。
そんな気がして、プリーストは真っ青になった。

「・・・・・・・もし、俺が勝ったらどうする気だったんだ?」

プリーストは騎士がまた唇を寄せてくるのを顔をそむける事で拒絶する。
本当なら聞くのも怖いが、気になってしかたなかったのだ。
ここまで計画していた男が、失敗した後の事を考えて無かったとは思えなかったのだ。

「・・・・・・・その時はギルド解散させてお前を攫った」

「!!!!!!!」

「お前のとこは殆どお前の親衛隊だったもんな。知ってるか?あいつら俺の気持ち知ってて邪魔しようと必死だったんだぞ。そんなとこにお前を置いたままでいられると思うか?俺が」

いっそそうしてくれた方がどんなに嬉しかったことか!

選択の余地は無いと言われたも同然の、なんとも自分勝手な言葉にプリーストも頭に血が上る。
騎士の顔に向かって拳を振り上げようとした。
何でもないようにその腕を取り、騎士は圧し掛かるようにプリーストを押し倒す。
辺りに桜の花びらが散って、目の前が桃色に染まる。
だがそれはすぐに闇に覆われた。

「―――――っ」

息が止まる。
いきなり襲われてキスされるとは思わなかっただけに、衝撃はかなりのもだった。

こいつマジで変態だったのかっ!!

死に物狂いで騎士をどかそうとして、ぽたぽたと落ちる雫の音に気がついた。
血の匂いが濃くなる。
「!」
傷口が開いたのだろう。
騎士の手の甲から血が伝い地に落ちた。
「・・・・・・っ。お前っ。血がっ」
「良いから・・・」
騎士はそのままプリーストの顔を撫でた。
ぬるりとした感触に総毛立つ。
プリーストの白い肌が血で汚れる様を、ふっと笑みを浮かべて見下ろした。
その表情にプリーストは、えも知れぬ恐怖を感じた。
さっきまでの騎士とは違う、狂気じみた何かを感じたのだ。
「気持ちわりぃっ。やめろ!」
騎士は暴れるプリーストを押さえ込んで、さらに聖衣の開いてるところから手を差し込み、血に濡れた指を這わせる。
自分の血で清廉潔白なプリーストを汚す行為は、まるで何の後も無い積雪の中足を踏み入れるような昂揚感を覚えた。
それと同時に湧き上がる征服感の心地よさ。
「いやだってっ!!」
逃げようとするプリーストの腕を掴み、地面に押し付ける。
やがて、血の匂いに気持ち悪くなったのかそれとも諦めたのか、プリーストはぐったりとしながら目を伏せた。
その目の縁をも汚していく。
首に鎖骨にと走った血の跡は、妙に扇情的な風景だった。
自分の血だと思えば尚更に。
乾いた血は赤黒く残り、プリーストが手の甲でこすってもまだ残った。

「気持ち悪い・・・・っ」

嫌悪を含んだ睨み上げてくるその目に、騎士は心地よさを感じた。
目尻の血をぬぐうように舐める。
そして不意を付く様に重ねた唇に鉄の味を感じたのか、プリーストはぐっと息を詰めた。
動揺したまま何も出来ずに居たプリーストの口内に強引に舌を入れようとする。
「!!!」
「っ」
思わぬ反撃に顔を離す。
「あっぶねー・・・」
「家宅進入罪で訴えるぞ!」
騎士の舌を噛み切れなかった悔しさにそう怒鳴る。
その威勢のよさに不意をつかれたのか楽しそうに笑う騎士を、プリーストは睨み付けるように見上げる。
「・・・・・・・・・・・・やっぱり・・・・いくら汚しても変わらないか・・・・」
騎士は残念そうに・・・、それでもどこか安堵を含んでそう言う。
「・・・・・こんな事で変わるかよ・・・ってか、なんでこんな事すんだよ!!!!気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いぞ!!ゴルァ!!!」
威勢のいい叫びも騎士にとっては毛を逆立てた猫の威嚇程度にしか感じない。
「自分の跡をつけてみたかったんだ。マーキングみたいなもんさ」
「お前は犬か」
「ははは」
さっき前の得体の知れない男の姿は消え去ったようだった。
プリーストはそれにほっとした。
一筋縄でいかない男だとは思ったが、もしや気印の人だったりするのかと真剣に怖かったのだ。

「・・・・・・・・・」

落ち着いて漸く、今のこの体制に我に返った。
桜が振るように落ちてくる。
もう既にかなりの量が落ちているというのに、花はまだその花弁を降り注ぐ。
それでなくても二人桜に埋もれるように重なっていた。
プリーストはまるで柔らかなベットの上に居るかのようで落ち着かなくなった。
「・・・・・・どけ。重い」
「いやだね。漸く何の壁もなく触れるんだ。堪能させてくれ」
「ぎゃーっ!!!!」
抱きしめられて身の危険を感じたプリーストが暴れる。
それに合わせて花びらが舞い上がる。
まるで、別世界に居るような錯覚すら覚えるほどに視界が遮られた。
無駄に暴れて体力を使い果たしたプリーストを花ごと腕の中に閉じ込めて。
騎士はその桜色の髪に顔を埋める。
こんなに近くで騎士の顔を見たのは初めてだった。
結構男前なのだなと思う。笑うと子供のようだった。
いつも気に障るような笑い方しか見たことが無かったので新鮮に思った。

「好きだ」

そう言われて、プリーストの頬が朱に染まる。
真剣に言われたわけじゃない。
ただ。嬉しそうに、子供のように笑って言うので、呆れてしまっただけだ。
それに好意を持った相手に普通ここまで出来るものだろうか。
わざわざギルドまで作って、好きな相手の敵に回る神経がわからない。
本気で自分の事が好きでここまでしたのか。
だとしたらかなり屈折してるといえる。

「・・・・・お前馬鹿だろ・・・。正真正銘の大馬鹿」

「そうかもしれないな。自分でも結構驚いている」

何で自分をそこまでして欲しがるのか理解できなかった。
だがここまでして求められた事など今までなかった事だった。

「・・・・・・・・・・・俺は嫌いだからな・・・・」

忌々しそうにそれだけ返す。
不思議と気持ち悪いとは思わなかった。

「俺は絶対お前なんか好きにならねぇ」

「ああ。お前が俺を好きになるよう俺が努力するから、無理に好きにならなくてもいいぞ」

そんな事を本気で言う騎士を心底殴りたかったのだけれど。拘束されたままではそれもままならない。

すべてを受け入れるわけじゃないけれど。
こんなくだらない約束と行為で本当に自分を手に入れただなんて思われたくないけれど。
だけど。
自分を手に入れるためだけに、手段を選ばずに挑んできた。そして自分からギルドも生き甲斐も全部奪ったこの男。
仕返しに、自分に逆らえないくらいメロメロしてやって、最後にぼろくずのように捨ててやろうかなどと柄にも無く考える。
人の心を弄ぶのは抵抗があるが、この男だったらかまわない。
第一やられっぱなしなんて性に合わないのだ。
一矢報いなければ男が廃るというものではないか。



「俺から全部奪った事・・・・いつか絶対後悔させてやるからな」


「楽しみだ」





それでも。



触れられた箇所が妙に熱く感じるのは。

きっとこの幻想的な空間と高揚するほど濃い血の匂いの所為なのだと。

そう思うことにした。






さぁ、戦いはまだ始まったばかり。



















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桜散る=物事の終わり
桜咲く=物事の始まり
というイメージで書いてみました。







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