*この話は個人的に泣いてくれた人に笑ってほしくて過去に書いた駄作でした。前作の反響が大きくてすぐに取り下げたのですが、いまだに読みたいとおっしゃって下さる方々のお声を頂いていました。
そしてこの度、そろそろここを訪れてくれるのも常連さんだけかなと思い、書き直してこそっと出してみる事にしました。
ですがこの話は続編として他にアドレスを張っていただきたくは無いと思ってます。読みたくなかったと言う人もいると思いますから。皆様の良心にお願いします。(-人-)

*完全に蛇足ですので洒落の分かる方、うちのHPが身に合ってる方、「それでも読むぜ」と仰る猛者のみどうぞ。
全体的にプリーストの紹介ですから続編と言うよりは後日談、むしろパロディ、グリコのおまけ感覚で。


























目の前でマジシャンが地に伏せた顔をあげました。
血まみれの割には何だか阿呆みたいな笑顔です。
おそらく冒険者カードの生命維持装置が働いていて感覚が麻痺しているのでしょう。
「そこのプリさん〜…リザよろ〜♪」

「断る」

今私の横にいるプリーストは、
…そんな彼に満面の笑顔を浮かべて即答しました。











I WISH











始めましての皆様も二度目ましての皆様も、こんにちは。
私は騎士に仕えるペコペコと申します。

年はそろそろお嫁さん常時募集しようかという働き盛りのお年頃です。 ちなみに毛並みが綺麗で足首に色気のあるくちばしのふっくらした方が好みです。
…いえ、またまたまったくもって余談なのですが。
ですが私もお嫁さんが欲しいと思う今日この頃なので、よい方がいたら紹介してください。お待ちしております。

さて。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、まずは私の御主人をご紹介させていただこうかと思います。
私の御主人は一言で言うなら人が良すぎてボケボケしてて体だけは頑丈で素早さのない、攻撃はすべて受けまくる立派な受け騎士です。
このたびそんな一人身VIT騎士ツカサ様にめでたいことに相方が出来ました。
殴りも出来るプリーストで名前をリョウといいます。
今蘇生を頼まれて断ったのがそうです。
過去に少しだけ関わったことのあるアコライトだった少年が、私の仕えるこののほほん騎士の押し掛け相方になって1週間経ちました。

あれから御主人が人を助けるために自分の鎧を売った事を知ったこのプリーストは、事の次第に絶句していました。
事の重要性というものを、この人の良すぎるボケ騎士よりは分かっているのでしょう。

「あんたは人を助ける前に、自分を助けることを覚えろ!!!!」

まったく持ってその通りだと私も思います。
ですがプリーストの雷を受けても御主人にはこたえた様子がございません。
むしろ初めて出来た相方に怒られた事が嬉しそうでしたっけ。
こうして親身になって叱ってくれる人など今までいなかったため、それも仕方の無い事かもしれません。
ですがこうも嬉しげだと本気で頭が春にでもなったのではないかと、私は心配になってしまったのでした。

そしてプリーストは話を聞いてすぐにご主人の防具を買い戻しに行ってくれました。ですが、それももう既にどなたかに売り払われてしまった後でした。
プリーストはそれならばせめてもう少し精錬された防具を買おうと言いましたが、色々話し合った結果御主人が今来ている鎧をまた一から精錬していきたいという希望案を取りました。
御主人曰く、自分にとって身を守る大事な鎧だから買うよりも自分でこつこつ精錬していきたいそうです。
狩りに目標は必要ですし、私達はそんな訳でとあるダンジョンに足を踏み入れていました。
今はまだ昔話に花を咲かせているついでに狩りと言った具合なのですが、それなりに息はあってるようにも見受けられました。
鎧がみすぼらしいものでも、プリーストのエンジェライズがあると受けるダメージも大分違います。
支援も的確で、私は安心しておりました。

そして先に進んでいた所、死体一歩前のマジシャンに会ったのです。
で、…あの問題の冒頭に至ります。


「リ、リョウ君…あ、あの」

隣で私の御主人が慌ててプリーストに声をかけます。
ああ。
びっくりしすぎて私などはクチバシ開けっ放しで思考止めておりました。
「まずは人としての礼儀から覚えて来い、サル」
「リ、リョウ君……死にかけの人にそんな…あのSPきついなら俺イグ葉持ってるけど…」
御主人は私から降りて、もそもそと自分の懐から高価な蘇生葉を出そうとしました。ですがそれをプリーストが押し留めさせます。
「こんな奴に使う事はないですよ、ツカサさん」
「でもね…」
「ほっとけばカプラさんが回収に来てくれます。こんな奴はですねイグ葉使っても御礼一つも満足に言わないんですから使うだけ無駄です」
「てめぇ、それでも聖職者か!!?聖職者ってのは無償の愛を持ってるもんじゃねーのかよ!!!」
…しかしまぁ、こちらもよく喋る元気な死体候補の人ですね。
彼が怒りも露に罵るのをプリーストは鼻で笑いました。

「見も知らないあんたに無償の愛?は?何それ。聖職者だって人間でね。金が無いと生きていけませ〜ん。青ジェムだってな、ただじゃねーんだ。生き返らせりゃ今度はヒールよろ♪とか言いやがるんだろうが。精神力もかなり使うって言うのに、お前みてーな馬鹿で礼儀知らずの脳みそに偏りのあるサル頭になんぞに貴重なSP使って後でこの人に何かあったらどうしてくれるって言うんだ?ん?そん時にゃ、俺がてめーをぬっころすぞ?」

……実に楽しげに死体を言葉でいたぶります。

アコライトの頃にひねくれていた彼の性格は時間をかけて更に捻じ曲がっているようでした。
…人間って…聖職者って怖いです…。
こんなのがご主人の相方で大丈夫でしょうか?
安心したと言うさっきの言葉撤回しても良いでしょうか。
私はかなり心配です。
ちょっとご主人乗せて逃亡したいです。
思わず退路まで確認してしまいましたよ、私…。

「…リョウ君」
御主人はそんな聖職者を困ったように、じっと見上げます。
彼がアコライトの頃は御主人の方が高かった身長も、今ではプリーストの方が10cmほど高いのです。
よくまぁ、にょきにょきと育ったものです。
「俺なら大丈夫だからお願いできないかな…」
そんなご主人にプリーストは口ごもり…しかたなさそうにため息をつきました。
そしておもむろに死体の横に屈みこみます。
「2000z」
「金取るのかよ!!!しかも高いし!!!」
「何言ってやがる。良心的だろうが。どうせここでリザ頼むって事はお前復活地点は近くの町じゃないんだろ?そこからまた戻ってくるわけか、時間と金と労力かけて?ほ〜ご苦労なことだなぁ…」
そう言って鼻で笑います。
的を付いているのかマジシャンはぐっと息を詰めました。
「でも、生き返るだけでそれは高い!!」
「ヒール込みだヒール込み。不満なら吊り上げるぞ〜2100〜2200〜…」
「わ、わかった!!!!わかったから!!!」
「はい、2300zで毎度あり〜♪」
「ちくしょ〜変なプリに当たったよ…っ」
ぶつぶつ言うマジシャンにプリーストは青石を二つ取り出してサンクチュアリを開いた上で、リザをかけました。
マジシャンは一気に元気になります。
「サービス」
そう言ってマジシャンにブレッシングと速度増加、キリエレイソンまでかけてあげます。
何だかんだと言っていてもこういう所がまた憎めないのです。
これにはマジシャンも驚いたようで、何か言いかけた口をつぐんで腰の袋から金を掴んでプリーストの手に乗せました。
「サンキュー…ほい、御代っ!」
「毎度。またどっかで死んだ時はよろしくな〜」
「死んだとしてもてめぇにだけには頼まんわっ!」
そう言いつつ彼は走っていきました。
でもその声はあまり怒ってるようには聞こえませんでした。
むしろしてやられたという顔をしていた気がするのは私の気のせいでしょうか?

このプリーストは乱暴で口も悪いけど、あまり人に嫌われるような人間ではありませんでした。
何と言うか…常に浮かべてるシニカルな笑顔が、そう思わせるのかもしれませんが。

御主人はクスクス笑いながらその一部始終を見ていました。
そうして長い間に踏み慣らされた道の脇のほうに向かいます。
そうして御主人が人通りの邪魔にならない所に座り込んだので私もその隣に座りました。
プリーストはお金をしまった後、振り返ってきょとんとしています。
「ツカサさん?」
「ちょっと疲れたから休まない?」
もちろん嘘です。
結構なスローペースで狩りをしているだけで体力だけはある御主人が疲れるという事はありません。
これは、この不良プリーストを休ませるための方便でした。

このプリーストはアコライトの時、モンクを目指していました。
それをご主人の相方になるために途中方向転換してプリーストになった変り種です。
ですが元殴りなだけあってINTがあまり高くありません。
ここに来るまでにも速度や支援関連は欠かしてない上に、今のでもかなりSPを使っているはずです。
このプリーストは何でもないように振舞ってますが、ご主人は彼に何かがあったらいけないと考えたのでしょう。
プリーストもそれがわかっているようでした。
ほんの少し決まり悪さ気に、だけどちょっと照れたように苦笑して御主人を真ん中に私とは正反対の場所に座りました。
「青ジェムもったいなかったかな」
ヒールを最高レベルまで取っているリョウでもHPがかなりやばい相手にはサンクチュアリという聖域を使います。全体の事を考えると青ジェムは使いますがヒールを繰り返すよりこちらの方がSPの消費が少ないのです。
彼はきっと後々の事まで考えているのでしょう。
こういう所はかなり頼もしいと思います。
「さっきはありがとう」
「んー?……別に、あなたが礼言う事じゃないよ。ま、これも仕事だから」
プリ−ストは、もにょもにょと口篭ります。
…何となく気まずそうなのは、金を取ったからでしょうか。
「……誤解しないでね。俺別にいつも金取ってるわけじゃないよ?取るのはああいう礼儀知らずとかむかつく奴だけだから」
何、子供みたいな言い訳してるんでしょう。
このプリーストは。
「そういう所、昔から変わってないね」
御主人はくすくすと笑いました。
そういえば昔から割りと自分の正義感や意思を貫く子供でしたっけね。それを曲げてまで助けるには、それなりの理由を必要としたのでしょうか。
まぁ…。結構楽しげにいたぶっているように見えたのはこの際置いておく事にして。

んーっと息をついてプリーストはそのままご主人の肩に寄りかかりました。
「…ちょっとこうしてていい?もうちょっとしたら完全に回復するから」
「うん」
私も甘えるようにご主人に頬擦りすると、ご主人が肩のプリーストを揺らさないようにゆっくりとクチバシを撫でてくれました。
騒しく目の前をいろんなパーティの人たちが走り抜けていきました。

こうしていて。
自分達以外の人間がそばにいる事は人に安心感を与えるものだと私達は知りました。
ただ、ちょっと寂しくもあったりします。
このボケボケ騎士の事を一番よく分かってるのは自分だと言う思いが今までの私にはありました。
だけど、これからはこのプリーストがいます。
ペコペコの分際でそんな事考える事は不相応な事だと思います。
嬉しい事なのでしょうが、やはり不良プリーストにちょっとだけやきもちも焼いてしまったりするのです。
まぁ、フィールドを歩いてる時に彼を蹴り飛ばしたり、目の前にあったので頭を齧ったり、体を揺すって彼を羽根まみれにしたのはわざとじゃないですよ?

鳥の習性です。

まぁ、この間突然ダッシュしてプリーストを置いてけぼりにした事はわざとですが、敵もさることながら速度増加という技を持っているのでなかなかうまくいきませんし。

……いやー結構楽しい毎日を送らせて頂いてます。





「おや、リョウがいる」
「リョウだね」
ふと上から声をかけられました。
びっくりして顔をあげると何と同じ顔した魔術師が二人います。
双子でしょうか。髪の分け目が反対で、まさに鏡に映したように同じです。
「スケ、カク。何でここに?」
プリーストも驚いたように声を上げました。
「もちろん狩りだとも。ね、カクさん」
「新しい魔法を覚えたもので。ね、スケさん」
ぽんぽんっと二人向かい合って手を叩き合います。
「皆心配してるよ。『あの人に会った』とギルチャを送ってきてから一週間も音沙汰ないから。ねぇ?カクさん」
「『柄にも無く新婚生活に鼻の下伸ばしているんじゃないか』って大笑いだよ。ねぇ、スケさん」
「お前等それは心配してるんじゃなくて、俺をネタにしてただからかってるだけじゃねーのかよ!」
あからさまに機嫌が悪くなったリョウなど歯牙にもかけず、双子は屈みこんでじっとご主人を覗き込みました。
「あなたが、リョウの探していた人ですか…ふうむ…」
「話には聞いてましたがなかなかぼーっとした方ですね」
「…こんにちは」
ご主人は驚いたままそれだけ言いました。
ああ、そんなんだからボケ騎士だなんていわれるんですよ、ご主人。
それに二人は顔を見合わせご主人に握手を求めてきました。
「始めましてこんにちは。火念専門ウィズでリョウと同じギルドに所属してます。気軽にスケさんと読んでください」
「始めましてこんにちは。氷雷専門ウィズの以下同文です。気軽にカクさんと読んでください」
二人はご主人の両手をそれぞれ握り、上下に振りました。
「えっと。騎士のツカサです。よろしくお願いします」
「おまえらなぁ…」
プリーストがこめかみ辺りをぴくぴくさせながらいつ怒鳴ろうかと口元を引きつらせていました。
双子のウィズはそんなプリーストなどお構いなしで御主人の手を握ったまま会話を続けています。
「彼らがいるのならもう少し奥まで言っても良いかもしれないね、カクさん」
「そうだね。ここら辺は人が多いし騎士さんもいる事だし何ならもう一階下まで足を伸ばすか。スケさん。」
「え?」
「てめえら、何本人に許可も取らずに話し進めてやがる。俺らは今日はのんびり狩りなの。誰が付き合うかよ」
「聞いた?スケさん。この男、血も涙もないよ」
「聞いたよ、カクさん。ついでに情も良心も奉仕の精神も無いよ」
そこで二人は互いに頷きました。
「「分かっていた事だけどね」」
見事なまでに息がぴったりです。双子と言うのは皆こんな感じなのでしょうか。

「せっかく会えた彼に愛想尽かされないといいけどねぇ」
「おい、こら。カク」
双子の片割れの一人とプリーストが口げんかを始めてしまい、御主人が目を丸くしてるとスケさんの方がご主人にこっそり小声で耳打ちしてきました。
「余計な世話だと思いますが、リョウの事よろしくお願いします」
「え…?」
呆けたような御主人に、スケさんはにっこりと笑顔を浮かべて、
「彼はあなたを目標にしてきました。知ってますか?彼は組んだパーティで死人を出したことないんです」
ご主人も私も驚きました。
それがどんなに厳しいことか分かります。
特に彼はINT型ではないので支援にも限りがあります。
「あなたに会っていろんな事教えてもらったと言ってました。人の為に傷ついても、守れた事を誇れる強さを。職は違えど、あなたの志に恥じないよういつも頑張っていました。その分要求も多いのでこっちも苦労しますが頼れるプリーストです、彼は」
「・・・・・・・・・・・・・」
それに御主人はまだこちらに背中を向けたままのプリーストを見ました。
「・・・・・・・・俺の方こそ彼には昔からいつも大事なものを教えてもらっている気がします」
そう言って、顔をほころばせてスケさんに言いました。

「彼は俺の恩人であり、この子と同じ…とても大切な相棒です」

ご主人は私の羽を撫でて、本当に…本当にこんなに嬉しい事はないというくらいに笑いました。
私はその暖かさに不覚にも目頭が熱くなりました。
羽根を広げて御主人に嘴を擦り付けました。
ごめんなさい。
変にやきもちなんて焼いてしまって恥ずかしいです。
ああ、そんな風に言ってもらえて私はとても幸せなペコペコです。
御主人!
私はあなたに一生付いて行きます!


「あ、おい!!スケ!ツカサさんに何吹き込んでやがる!!」
スケさんと御主人が話しているのに気がついたプリーストは慌ててこっちに来ようとしました。
スケさんはにこっと笑って、また手を伸ばしてご主人の手を握りました。
「今度リョウと一緒にうちのギルドに遊びに来てください。皆歓迎します」
「……ありがとうございます」
御主人は微笑んでその手を握り返しました。
なんだか仲良くなった二人にプリーストだけが怪訝そうにしてますが、別に構わないでしょう。
大切なものは個人だけが知っていればいいだけの話ですから。





完全に回復した後、結局双子のウィザードを加えて私達が更に奥に行きました。するとあまり人が通らない筈の場所でまた人が倒れてました。
「あ…よか…げげげ!!?」
なんとまた、あのマジシャン君だったのです。
「何だお前っ!!!またかよ!!?」
プリーストはもう大笑いです。
すいませんつられて私も噴出してしまいました。
こんな何度も仮死状態になってるようでは、この狩場は荷が重いのでしょうに。命を粗末にする気でしょうか、この子は。

リョウがマジシャンの顔を覗き込むように蹲ります。
「ん?どうする?カプラさん待つ?それとも他のプリーストが通る頃には本格的にご臨終かな?」
…実に楽しそうです。
なんと言うか…ご主人の志を目標にしてきたというのは嘘ではないかと疑いたくなります。
「…うううう…すいません…よろしければ生き返らせてもらってもよろしゅうございますでしょうか…」
「敬語の使い方が違ってるけど、ま。良かろう」
えらそうに言ってプリーストは滂沱の涙を流している彼に蘇生の祝詞を唱えました。

あっと言うまに回復したマジシャンは、また懐からお金を出そうとしました。
ですが、プリーストはそれを押し止めさせました。
どうやら今度は受け取る気は無いようです。
プリーストが当初あんなに絡んだのは本当に頼み方が気に入らなかっただけのようです。
なんともまぁ、難しい男ですね。

「ここはマジ一人じゃ無理だろ。臨公するか他の狩場に移ったらどうだ?」
「別にいいだろ。助けたからってそこまで口出しすんなよな!一人だから何。そっちの方が気楽なんだよ!」
「つまり場所変える気は無いと」
「ああ!!」
きっと睨んでくる目の強さは、昔の誰かさんを感じさせるものがありました。ですが、この子の場合ほっとくと本気で死にかねないと思います。
その誰かさんは黙って少々眉を顰め、双子ウィズに視線を向けました。
「いいんじゃないですか?ヒルクリなら二人とも持ってますし」
「それに面白そうだし」
何がどうしたというのでしょう。
プリーストは申し訳なさそうにご主人の方に振り返りました。
「ツカサさん、守ってもらう人間増えてもいい?」
その言葉に、このプリーストはこのマジシャンを連れて行きたいのだと分かりました。
御主人は頷きましたが、これから行く場所が場所だけに少々困ったようにも見えます。

「ささ、行きましょうか」
「旅は道連れって昔から言いますからねぇ」
「は!?何!?ちょっと待てー!人攫いー!!!」
スケカクコンビに両脇を抱えられ、宙吊りになったままマジシャンの少年は足をばたつかせて叫びました。
「人聞きが悪いですねぇ。どうせ死ぬ気で来てるんだから、もっと面白いもの見せてやろうって言ってるんじゃないですか。メテオとか見たことありますか?落ちてくる隕石に当たったら痛いと思うまもなく蒸発しますからうまい事避けてくださいね。まだうまくコントーロールできないんで」
「マジシャンのうちにいろんな経験を積む事は大事ですよー。何事も勉強勉強。ちなみに君、ファイアーウォール縦置きは完璧ですか?」
「え……。は、半分くらい」
「駄目ですよー。一人でこんなとこに来るんなら、完全に出来るようにならないと。これはしごき甲斐がありそうだねぇ、スケさん」
「まったくだねぇ、カクさん」
「は!!?何!!?ちょっと待てよ!どおゆう事だよー!!!」
マジシャンの少年は噛み付かんばかりに叫びましたが、双子のウィザードは聞く耳を持ちません。むしろ馬耳東風よろしく素通りして楽しそうに笑っていました。
さすが、このプリ−ストのギルメンなだけあります。

やがて、話が通じないと分かったのか、マジシャンの少年はガックリと頭を垂れました。
「・・・・・あんたら・・・・デスペナとか怖くないわけ?俺たち一次職だって嫌がるのに、あんた等だってそれ以上じゃんか。こんな足手まとい連れて行ってさ。もし・・・・本気で死んじゃったりしちゃったらどうすんだよっ・・・・・!・・・・俺、もう自分の所為にされるのやだ。・・・・・本気で止めろよっ・・・・・」
泣きそうに吐き出されたその言葉に、この少年が何故一人でいるのか少し理解できました。
軽い少年だと思っていましたが、それだけではなさそうです。
プリーストはそんな少年の頭の上に手を乗せて、ぐりぐりとかき回しました。

「俺が死なせねーよ」

その言葉は驚くほど真摯で、マジシャンの少年は驚いたように顔を上げました。
それにいつものシニカルな笑みをうかべました。
「それが俺の役目だからな。ここにいる奴らがいれば一人くらい足手まといが増えても何とかなる。だから安心してお前は守られてろ。それでもって自分の出来る事やってみろよ。見ててやるから」

その言葉に私は何か思い出すものがありました。
壁はいやだと言って一人で殴っていたアコ君を御主人が黙って見守ったあの日々が、ふと思い出されたのでした。
一人でいるマジシャン君は、あの日のアコ君と重なって見えました。

ぞんざいな口調の中にもある優しさに、感じるものがあったのでしょう。
マジシャンの少年は泣きそうになりながらそれでもそっぽを向いて「変なプリースト」と言って黙りました。
とたんにプリ−ストから叩かれて、えらい剣幕で怒鳴り返してましたが、抵抗する気はもう無いようでした。
双子ウィズは彼を吊るしたまま、含み笑いを浮かべ先に歩いていきました。

御主人は黙ってプリーストを見上げていました。
「………?」
怪訝に思ったプリーストに、ご主人は心の底からの笑顔を向けました。
それは本当に見ている方が満たされるような笑顔です。


「あの時会えたのが君で・・・・本当に良かった」


あの時というのは、きっと死を覚悟したときの事なのでしょう。
それに、プリーストも気がついてあっけにとられた様な、なんとも言いがたい表情を浮かべました。
それはそうでしょう。本当ならこのプリーストがいうはずだった台詞なのですから。
御主人がこのプリーストにどれだけ影響を与えたのか・・・・、何故彼が自分を探していたのか考えた事があるのでしょうか。
ないでしょうねぇ…。
ご主人はそんな事を考えるほど器用ではありませんから。
まぁ、そういうところも好きなんですけどね。
ただ本当に嬉しそうに言うので、プリーストも言葉に詰まったようです。

「…やっぱり俺は…あんたには一生かなわない気がする…」

プリーストは難しい顔をしてそっぽを向きました。少しだけ赤くなった頬を隠すように掻いているのが私の方から見えましたがあえてからかう気も起きませんでした。

だって・・・ええ。
私も今彼と同じ気持ちですから。












後日。

すったもんだの挙句に双子ウィズを師としたマジシャンの少年は、立派なウィザードとして一人立ちしていきました。
もし彼に会う事があったら愚痴でもなんでも聞いてあげてください。

もしかしたらとんでもない双子の話や、その後の私達の話とかも聞けるかもしれませんよ?






それでは皆様。

これからもどうぞ楽しいROライフをお過ごしください。











THANKS.






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優しさは伝わっていくものだと思います。
むしろそうあって欲しいと思います。
綺麗事でも何でも、嫌な気持ちが伝染していくよりはいい。

えーそれとこの話はパロディですので誤解なきようにお願いします。(礼)

YOU WISHは書いた本人が驚くほど感想をいただけた作品でした。「頑張ってみようと思う」「いろいろ思い出した」等、皆様に本当に愛された作品でした。この場を借りてお礼申し上げます。

最後まで読んでくれて、本当にありがとうございました。




トナミミナト拝

















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