トキ殿とゲフェンで別れた拙者はモロクに来ていた。 手には先ほど街中で渡された推薦状。拙者はそれがどんな目的で渡されたのか調べに来たのだ。 砂にけぶる赤茶けた町並みを見ると中央に大きな城があった。モロク城と呼ばれるそれはこのモロクの中でシンボル的な意味が強い。 周りはオアシスで囲まれ、時折冒険者達がそこで涼を取る。 しかしプロンテラのような活気は無く、どこか寂れた雰囲気があった。それは昔から変わらない。 だが何故だかモロク城は以前来たよりも雰囲気が変わったような気がした。 何か・・・・・・薄気味悪い気配が城から街中に漂っているかのようだった。気のせいと言われれば頷けるほど微弱なものだったが、拙者は妙にそれが気になっていた。 だがはっきりとしたことがわからず、視界に入るオアシスに目を止めた。 「・・・・・・・・・・・・・・」 自分はここで生まれ育った。 そしてあのオアシスで背を切られ一度は死を覚悟した。 拙者は無意識に顔を覆う仮面に触れた。戦闘中でも外れることの無いようにしてあるそれは確かにそこにある。 「・・・・・・・・・・・・・」 拙者はモロクの左側にある酒場に向かって歩き出した。 推薦状に書かれた場所は意外なことにギルドではなく地下酒場だった。 このモロクで一番情報が集まる場所。真実も虚実も入り乱れたそこで自分が欲しがる情報を手に入れることが、冒険者としての一流かそれ以下を決めるといっても過言ではない。 トキ殿がこのモロクで死神を見たのはついこの間だ。拙者は周りを気にしながら酒場への入り口をくぐる。 薄暗い地下に続く階段を足音を立てずに下りていくと、中ほどで下から上がってくる気配に気がついた。向こうも足音を消していた。 灰がかった装束は階段に灯された松明に暗紫に見える。骨を象った装甲に赤黒いマフラー。だが金に光る髪が拙者に気がついて揺れた。 そこには数日連絡が取れなかった弟の姿があった。 「・・・・ヨタカ・・・・・・っ?」 立ち止まりこちらを見上げる蒼い目が見開かれる。 更に階段の下からドアを開ける音。ぞろぞろと誰かが上がってくる足音にハヤブサは弾かれたように駆け上がり拙者の腕を掴んだ。 「こっち・・・っ」 「?」 ハヤブサの尋常ではない態度に拙者は抗わずついていく。 また外に出て、モロクの街中を建物の影に添いながら走り出す。 5年前は自分がこの手を引いていたはずなのに。 あの小さかった姿が今大きな背中になって目の前にある。 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 拙者は不意に再会した日のことを思い出した。 あの時、解毒薬を出そうとしなかったハヤブサに発した言葉の意味を知り、拙者は自分に歯噛みした。 最高の片想い 「何でヨタカあんなとこに・・・・・・・・っ?あそこギルド関係者だけじゃなくて、たまに『死神』も出入りしてんだからな!!!!さっきはいなかったけどマジ危ねーんだからっ!」 モロクの端、酒場とは正反対の場所にある建物の一室に拙者は連れてこられた。初めて入るこの部屋は一人用らしく、ベットと小さなテーブルがあるだけで家具らしい家具はなかった。あとは端に武器や防具などが積まれているだけだ。 おそらくハヤブサの部屋なのだろう。 ハヤブサが顔を引きつらせて怒鳴るように問いかけてくるのに、拙者は端に詰まれた武器を見ながら答えを返した。 「ちょっと気にかかることがあったゆえに。あそこで情報を集めようと」 「・・・・・・情報?」 拙者は推薦状をハヤブサに見せた。中身を見ずともその用紙だけでわかったのだろう。ハヤブサは舌打ちした。 「・・・・・・・・・・ヨタカのとこにも行ったのかよ・・・」 「これが何か知っているのか?」 「たいしたことじゃない。ギルドがダンデリオンとかいう組織からの依頼を受けたとかで、それを一般の冒険者に手伝わせてるんだよ。・・・・でも最近それがきな臭い方向に行ってるらしくてさ。俺は関わってねーからわからないけど・・・・・・・なんかモロクの魔王を復活させようとしている奴がいるとかなんとか・・・・・だから今モロク全体が殺気立ってるんだ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ここ数日でよく聞くようになった『モロクの魔王』という単語に拙者は目を細める。 モロク城は街の要であると同時に、魔界への扉を塞ぐ役目があるのだという。 そしてその礎には人の命を使っている。母の機転が無ければ自分かハヤブサがその礎にされていたのは間違いない。 ・・・・・・・・・・避けて通れぬ道なのだろうか。 拙者は以前イカル殿と話したことを思い返す。 だが、進んで通りたい道ではない。 「ハヤブサは何ゆえあの酒場にいたでござるか?」 「だからそのしゃべり方は俺嫌いなんだってっ!俺の前では素でいてくれよっ!!!」 「これが拙者の素でござる。ハヤブサ、何ゆえにあの酒場に?」 「・・・・・・・・・・・『死神』のことを調べてた」 ハヤブサは顔を引きつらせて唇を噛みながら、後ろめたいことがあるかのように顔を背けた。 それは、トキ殿から聞いた5年間のことが関係しているのだろう。 「トキ殿から聞いた」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 ハヤブサもわかっていたのだろう。怒りも罵りもなかった。 ただ、拙者の言葉を待つかのように肩をすくめて俯く。拳を作るその手が震えていた。 自分と同じ高さにあるハヤブサの頬に手を当てて顔を上げる。 きつく閉じられた瞳のふちを指でなぞる。やがて薄く開いた蒼い瞳は痛みと恐れに彩られていた。 「・・・・・・・・・・・・・軽蔑・・・する?」 「何故」 何を軽んじ、侮蔑すると言うのだろう。 拙者がいなくなった後のハヤブサのことを考えると胸が詰まる。後悔と謝罪でいっぱいになり、思うように言葉にできない。 どう謝ったとしてもハヤブサの身に起きたことは消えることは無い。 「拙者のせいで辛い思いをさせた・・・・すまぬ・・・ハヤブサ」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 唯一言、そう呟けばハヤブサの瞳が揺らめいた。その手が拙者の腕を掴む。 ハヤブサは潤んだ目で拙者の身体を抱きしめた。 「・・・・・・・ヨタカが生きててくれて・・・よかった・・・・・・・・っ」 かき抱くような抱擁に背がしなる。 苦しくはあったがそのままハヤブサの腕の中にいた。 柔らかい金の髪が目の前に見える。拙者はその髪に指を入れてくしげた。5年前そうしたように。 ハヤブサの腕の力が強くなる。 そうしたところにあの弱かった弟の成長を感じた。 「・・・・・・・もう会えないと思ってた・・・・・。俺は・・・死神に汚されたから・・・・・もうヨタカのいる天国には行けないんだって・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・」 「だからどうせいつか死ぬならヨタカの仇を討つんだって・・・・。俺達を引き離した死神を殺してやりたいって・・・・それだけを思ってた」 身を裂かれるかのような思いで、弟の震える背中に手を回す。 5年もだ。 拙者は自分勝手な想いの為に5年もハヤブサを苦しめ続けたのだ。 それを目の当たりにして胸が潰れるほど痛んだ。 ハヤブサは拙者を確かめるように抱き直した。そして込み上げるものを押し出すかのように呟いた。 「・・・・・・また・・・・会えるなんて・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 どうして再会した後に拙者はすぐにハヤブサと話し合わなかったのだろう。突き放すだけでハヤブサのことを知ろうも思わなかった。 トキ殿を襲ったあの所業も元を返せば拙者のせいだ。 なのにあの後明るく振舞っていたハヤブサの裏にこうして傷ついた姿があったことも気づかずにいた。 自分勝手で、長く辛い思いをさせたことにも気づかずに・・・・・本当にどうしようもない兄だ。 見えないとげのような痛みに顔をゆがめる拙者をハヤブサは切なくなるような声で呼んだ。 「ヨタカ・・・・・」 いっそ罵られた方が楽だった。 ハヤブサの純粋な気持ちは拙者に重くのしかかる。 だが、そんな拙者に気が付かないハヤブサは震える声を抑えるようにして言った。 「あの時、俺のこと守ってくれて有難う・・・・・」 目を見開く拙者からは、肩口で囁くハヤブサの顔は見えなかった。 「ヨタカがいなくなってやっと気がついたんだ。ヨタカはずっと俺の為に生きてくれていたんだって。冒険証の名前も髪の色を変えてくれたのも・・・・・俺のためだったんだって、俺・・・・馬鹿でごめん」 だが、その頬が濡れていた。 言葉も出ない拙者に気がついたのだろう。ハヤブサは腕の力を抜いて顔を上げた。 「・・・・・・・・ずっと・・・・・俺を守ってくれてた。・・・でも、俺は甘えるばかりで・・・・・何も出来なかった・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 拙者は小さく首を横に振る。 違う。 違うんだ。ハヤブサ。 守られていたのは拙者も同じ。 お前が拙者の名を呼んでくれるだけで、お前がそこにいてくれることだけで拙者は救われた。一人ではないのだと思えた。 たった一人の愛しい大事な弟。 辛い孤児院での生活で、お前の笑顔に救われていたのは拙者の方だった。 「でも俺、強くなったよ。だから・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・」 ハヤブサは凛々しくなった顔立ちに、昔のような優しい笑顔を浮かべた。 氷のように冷えていた瞳が溶ける音を聞いた気がした。 「今度は俺が・・・・ヨタカを守る」 大人びた微笑はまだ涙に濡れていた。だが、誇らしげなその言葉はいたく拙者の胸に響いた。 子供なのはどちらだったのか。 成長できていなかったのは拙者の方だ。 いつまでも弟から離れられずにいた。弟を自分のもののように思ってきた。 再会した時ですら、拙者は無意識に言っていた。解毒薬を出し渋るハヤブサに『嫌いになるぞ』と。それが脅しになるのだと、ハヤブサは自分の言葉には逆らわないのだと・・・・・思ってなければあんな傲慢な言葉は言えないだろう。 今も成長したハヤブサに寂しい思いを抱いていた。 もう、自分の助けの手は必要ないのだとわかって。 だけど、それでいいのだ。 拙者達はもう別の人間なのだから。 今、それをようやく実感として感じた。 『ヨタカ・・・・。ハヤブサと話してくださいね。ハヤブサは貴方に嫌われているのだと思い込んでいたから』 トキ殿の言葉を思い出す。 トキ殿の言う通りだ。話してよかった。 トキ殿はわかっていたのだろうか。本当に離れがたかったのは拙者の方だということに。 拙者はハヤブサの首に腕を回すようにして抱きしめた。いきなりの拙者からの抱擁にハヤブサがうろたえながら固まった。その耳が赤い。 「拙者は果報者だ・・・・・」 拙者が間違っていたのに・・・・そのせいでお前には辛い思いをさせたのに。 それでもお前は拙者を守るといってくれるのか。 「本当にすまなかった・・・・。お前がこの世界に生きていてくれてよかった・・・・ハヤブサ」 感謝と共にそう呟くと、ハヤブサは上げようとした腕を躊躇うように止めた。それが逆に違和感になる。 「・・・・・・あいつから言われたんだ。ヨタカと俺は別の人間でもう一緒の道を歩くわけには行かないんだって」 「・・・・・・・・・・・」 いつか拙者がトキ殿に言った言葉だった。 「ヨタカが・・・・また俺の身代わりになるのはイヤだ。でも俺まだその意味がよくわからない。・・・・・・・触ってもいいの?」 今更だろうが、まるで子供のような問いかけに拙者は含み笑いをする。 「ああ」 「抱きしめても・・・・いい?」 「うん」 笑みが声に出てたかもしれない。 拗ねたように力の込められた腕でされたのはさっきまでとは違う優しい抱擁だった。懐かしい安堵感に満たされる。 ハヤブサは甘えるような声で耳元で囁いた。 「・・・・・・キスしてもいい?」 「だめ」 即座に答えるとハヤブサは拙者の肩口に顔を埋めながら頬を膨らませた。拙者は身体を離しながらハヤブサの頭を撫でる。 「そういうことはこれからは本当に愛しい人としよう。ハヤブサ」 「・・・・俺、ヨタカ好きだもん・・・・」 子供のように不貞腐れたハヤブサに笑みがこぼれてしまう。 大人になっても甘やかすとすぐにその先をねだる我侭なところは変わらないらしい。 「『俺』も好きだよ。・・・・・・・でも、それとは違う好きなんだ。お前にもいつかわかる」 拙者はトキ殿のことを想っていた。 こんな拙者のことを知ってもなお好きだといってくれたプリースト殿。 かけがえの無い大切な人。 出会いはとてもありきたりなもので。共に狩りに行き、話をし、親しくなった。本当に楽しい日々だった。 トキ殿がいつから拙者のことを好いてくれたのかわからない。 自分の存在を隠し続ける拙者にこれからもそうするのかとトキ殿は問いかけた。 無関係な冒険者を殺した罪を告白した時、共に背負いたいと言ってくれた。 隠し続けたものを見せても、トキ殿は共にありたいと言ってくれた。 死神に会ってなお、共に戦ってくれるのだと約束してくれた。 自分を大切にしろと。 拙者に何かあったら悲しいのだと。 そう言われて拙者がどれだけ嬉しかったか。 『・・・・・・・・大事な人を守る力が欲しくなりました』 それは自分のことなのだろうかと自惚れるほどに。 その後のトキ殿の言葉はまるでプロポーズのようで拙者は危うく勘違いしそうになったものだ。 『だからその時はまた・・・・僕と新しい人生を一緒に歩いてくれませんか』 歩けたらいい。 戦女神の元で転生すると、それまで培ってきた修練は消えるのだという。失う物は大きい。 だが、それを取り戻して余りある経験をトキ殿となら得られる気がした。 だがその前に、やらなければならないことがある。 死神の影はすぐ傍にあるのだから。 その時だった。 ぶつっと何かが切れたような感覚に拙者は身を震わせた。 「・・・・・・・・・・・・・・・っ?」 「ヨタカ?」 拙者は焦りつつ冒険者証を取り出した。表示されたパーティ機能が切れている。トキ殿がリーダーで作られたはずのパーティが解体されていた。 あの律儀なトキ殿に限って拙者に何も言わずにこんなことをするはずが無い。 以前、ハヤブサがトキ殿を襲ったときのような嫌な予感がした。 何かあったのかと、焦る拙者の脳裏に悲鳴のような声が響いた。 『ヨタカっ!ヨタカ!ヨタカ!!!返事して!!!!』 「カモメ殿っ!?どうしたでござるかっ!?」 『トキが・・・・・っ!トキがっ!!!!!』 カモメ殿は半狂乱でひとつの名を叫ぶばかりで、拙者は即座に蝶の羽を握りしめていた。今までに無いほど走ってたまり場に向かった拙者が見たのは、頭を抱えて震えるカモメ殿と、彼女を落ち着かせようとしていたカラス殿の姿だけだった。 いつも気丈としているカモメ殿がこのような状態になっているだけでもただ事ではない。 「何があった・・・」 さっきまでここにいたはずのトキ殿の姿が見えない。 これからマスターのイカル殿と狩りに行くのだと言っていた。だが、それで行ったのだとは言いがたかった。 トキ殿が座っていた場所には、彼がいつも持っていた聖書が落ちていた。違和感を感じて拾い上げた聖書には、血と思しき赤い滲みで文字が書かれてあった。 『モロク城にて待つ』 時が止まるかのように感じた。 感情が千路に乱れて思考がまとまらない。 この血は誰のものだ。 どうしてトキ殿がここにいない。 「どうしたんだ」 あとから追いついてきたハヤブサが立ち尽くす拙者とカモメ殿たちを見た。 青ざめた顔をしたカラス殿が言った。 「闇のような漆黒の髪と目をしたアサシンがいきなり現れて、・・・・・・・・トキを連れて消えた」 「・・・・・・・・・・・・・・」 モロクの魔王の話をしていたのだという。 教会に行って自分も調べると言ったトキ殿をその男は掴み留めた。そして情報の交換をと言った。 トキ殿が知りたがったのはモロクの魔王の情報。 そして、男が知りたがっていたのは・・・・・・・・・・。 『・・・・私も知りたいのだよ・・・・・・・・私が殺したはずのあの子供が何故今もなお生きているのか』 まるで、ベンチの向こうに今もその姿が見えるかのようだった。 湧き上がる感情に耐え切れず、拙者はベンチを殴っていた。背凭れが砕けたが、拙者は痛みなど感じていなかった。 「ヨタカっ!」 ハヤブサが拙者の腕を掴む。それを振り払って、拙者は肩を震わせながら感情を押し殺す。 怒り。焦燥。憤り。 どれもこれもアサシンには必要も無いものだと幼少の頃に教えられたはずなのに、今の自分にはそれを止めることができない。 冷静であれ。機を見ろ。 頭でわかっていても、感情がそれについていかない。 沸き起こる不の感情を腸を焼くような思いで押し隠す。 怒りに赤くなった視界が蘇り、耳が小鳥のさえずりを漸く聞く。 振り返ったその先に、こちらを見て青ざめるカモメ殿がいた。 彼女を怖がらせたのは、あの男だけじゃないのだと・・・・その目が教えてくれた。 冷水を浴びせられた気がした。 「・・・・・・・・・・・すまぬ。拙者のせいだ・・・・・・・トキ殿は必ず取り戻す」 いたたまれず背を向ける拙者は、どさっと何かが落ちたような音にもう一度足を止めた。 「待ちなさいよ!!!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」 振り返った先で、カモメ殿がベンチから落ちて座り込んでいた。綺麗な足に擦り傷をつけて。 目に浮かべた涙が落ちて地面にしみを作った。 「どういうことかわかんないわっ!わかんない!何でトキがあんな化け物みたいな気を発するやつに攫われなきゃいけないのか、ぜんぜんわかんない!でも、あんたのせいだっていうんだったら・・・・っ!!!ちゃんと取り戻してよっ!!!トキをここに連れてきて!!!!」 それは仲間を想う願いだった。 人一倍仲間を大事にする彼女らしい言葉に胸が痛んだ。 「・・・・・・私、待ってるんだから。皆が無事に帰ってくるの、たとえおばーちゃんになってもここで待ってるんだから。だからあんたも一緒にいつもの馬鹿面で帰ってきなさい・・・・っ!トキが帰ってきた時、隣にあんたがいなかったら承知しないんだからね!!!帰ってこなかったら鞭でしばいてやるんだから!!!!」 カモメ殿は毎日のように拙者がこの場所に来るたび「おかえり」と迎えてくれた。 この場所がこんなにも居心地がいいのは彼女のおかげだ。 「・・・・・・・・・・・それは怖いでござるなぁ・・・・」 荒っぽく怒鳴りつける声の中に彼女の優しさを感じた。 拙者は呟きながら不思議と自分の中の怒りが宥められていくのを感じた。 「・・・・・行ってくるでござるよ」 拙者は微笑み、そして飛ぶように走った。 その背後をハヤブサもついてくる。 カモメ殿は拙者の姿が見えなくなってから顔を両手で覆った。気遣うようにカラス殿が寄り添う。 「・・・・・悔しい・・・・私、待つことしか出来ないわ」 「俺もだよ」 「足手まといになんかなりたくないものっ。今の私じゃここで待つことしか出来ない。・・・・・・・無力だわ。力があっても、レベルが高くてもみんなを守れなかったら、それは無いも同然じゃない・・・・・っ」 カモメ殿はそう言って震えるだけで動かない自分の足を殴った。死神の気に当てられ、立ち上がることも出来なかった。 「・・・・・・・今は待とう。きっとみんな無事で帰ってくる」 カラス殿はカモメ殿を気遣いながら、視線を離れたところにある建物に走らせた。 そこには青いマントを翻す影があった。 「だから頼むぜ・・・・旦那」 カラス殿はカモメ殿に気取られぬように口の中で呟いた。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 次回、決戦 |