まだ年若い騎士がゴーストリングに絡まれて倒れかけているのを見るに見かねて助けたのは偶然だった。
しかし当時シーフである自分が出来ることといえば取り巻きの意識をこちらに向けることが精一杯で結局二人で逃げることしか出来なかった。
「サンキューな。助かった」
「いや・・・・・」
「あーちくしょう。属性剣持ってたら・・・・っ!!!」
騎士は手の中の剣を握って悔しそうに言った。
いや、それでも無理だろう。
「じゃ、俺はこれで」
「あ、待った。命の恩人にちゃんと礼をさせてくれ」
騎士が俺の腕を掴んだ。それをわざと邪険に振り払う。
「いい。必要ない」

あまり人に関わることができなかった、当時の自分。
一度は絶たれた命を救われ、ギルドや死神から逃げるように暮らす自分は人との接触すら恐ろしいものに感じた。それはあるいは今生きていることへの後ろめたさだったのかもしれない。

だが死神に背を斬られ、切れたと思ったこの命の糸。
ギルドや死神に知られれば今度こそこの糸が切れるのは間違いない。
日々生きることはまるで死へ向かう道のようだった。

「・・・・・・なんか、その声・・・・聞いたことあるんだけど」
騎士への注意がそれていた。伸ばされた腕が俺のスマイルマスクの端を掴んだ。それに気が付いて身を引こうとした時、視界が広がった。
「あ。・・・・・・・やっぱり、お前ハヤブサ?」
「――――――-っ!!!!!??」
騎士は俺の弟の名を呼んだ。
自分と同じ顔を持つ、・・・・・・・・・・大切な弟の名を。
この男はハヤブサを知っているのだ。
弟と入れ替わりながら送った日々の中で、この騎士についての記憶は無い。となるとこの騎士は俺が消えてから会ったことある人物。
「髪の色変えたんだな。元気だったか?・・・・・・あー、もしかして俺のこと覚えてねーか?一ヶ月前一度臨時でパーティ組んだことあった剣士だよ。・・・・あれ?・・・・・でもお前、もうすぐアサシンになるって言ってなかったか?とっくになってるって思ってたのによ」
騎士は怪訝な顔をする。
騎士は疑惑を持ち出した。自分がハヤブサのつもりでうまく言い逃れればと思っていた俺はこのイレギュラーな出来事に体が固まり動けなくなっていた。頭の端で考えた。

ここで見逃せばいつかギルドや死神が気づくかもしれない。

あの夜。
闇の中で白刃が月の光を返した。その瞬間に背を斬られた。
乾いた空気も、落ちた水の冷たさもこの体が覚えている。
命を救われても何週間も生死の境を過ごした、あの苦しみも。
だが、それ以上に本能的な恐怖が全身を走り抜ける。
『死神』に見えたあの男を前にしたあの恐怖が、赤い闇となり視界を覆う。
脳裏で誰かが嗤った気がした。

体が動いたことすら気が付かなかった。

「・・・・・・・な・・・・・んで・・・・?」

ドサっと重いものが地面に落ちる音に俺は我に返る。
その視界に入ったのは裂かれた喉から赤い血を溢れさせて倒れている騎士の姿だった。うつろに空を見上げているその目に光は無い。

「・・・・・・・・・・・」

目を見開く俺の手の中には血に濡れたダマスカス。
その手にはまだ、人の肉を裂いた感触が残っていた。

「・・・・・・・・――――――――っ!!!!!!!」

こみ上げる吐き気に膝を突く。

―――殺した。
この手で人を殺した。
一度は自分の命すら投げ出した自分が、生きてしまったから?
だから、生きるべき人間を殺したのか。

「・・・・うっ・・・・・げほっ・・・・・・うあ・・・・っ・・・・・・・・う・・・・」

胃の中身が逆流して吐いた。
胃を締め付ける痛みと、喉を焼く痛みに嗚咽する。

苦しい。

どうして自分は生きてしまったのだろう。
どうして自分はあの時死ななかったんだろう。

自分で死ぬ勇気も無いくせに、今も必死に生にしがみ付いている。
なんて愚かしく、身勝手な人間。

死ねばいい。
こんな自分など死んでしまえば・・・・・っ!!!


『・・・・・・・なるほど。私と接触したことがきっかけだったのか』


苦しい。
呼吸すら間々ならない。

体が冷たい。
まるで氷の中にいるようだ。

体から指先から熱が消えていく。
何者かから後ろから抱かれている気がした。
背後にいる者が囁く。


『・・・・・・楽になりたいか・・・・?』


苦しい。苦しいんだ。
赤い闇の中で前が見えない。
体も動かない。


『今、楽にしてやる・・・・・・』


俺も、赤い闇に溶け込んだ。










最高の片想い











「・・・・・・・・・・・・・・・・」

赤い闇が薄れるように消えていった。
『俺』は背後から誰かに抱かれるように立っていた。

「いい子だ・・・・・・」

僅かに残る痛みが脳裏を痺れさせたが、それにひんやりと冷たい声が響いて心地いい。この声に逆らう気すら起こらなかった。
まだぼんやりとした薄い膜が全身を覆っている気がする。

「ヨタカ・・・・・・?」

耳障りな声が聞こえた。そちらに目を向けると、見知らぬプリーストが膝を付いてこちらを見ていた。こげ茶の髪に、藤色の瞳。今にも力付きそうな弱々しさの中で、その目だけが確かな意思を持っていた。

ヨタカと、俺のことを呼んだ。
ヨタカ。それが俺の名前なのか?

「ただの戯言だ。・・・・・・・お前に名は必要ない」

その声に、僅かな痛みを感じた。だが、それが何故なのかわからなかった。
ただ、この声に逆らう気すら起こらなかった。

「・・・・・・・お前にとって大切なものはなんだ?」

背後からかかる声に答える。

「・・・・・・・封印を、守ること」

頭の中には、急激に流し込まれたかつての戦の様子が駆け巡っていた。
400年前から現在にいたるまでの膨大な記憶。
400年前、『自分』はモロクの魔王と戦った。魔剣士タナトスと共に。
タナトスによって深い傷を負い逃げた魔王モロクをこの地まで追いかけて、数多くの冒険者と共に封印した。
血と硝煙。焼け付く魔性の気がこの地を砂に変えた。
それでもなお収まらない魔王の影響。
人々の目が絶望に変わっていく。希望が、生気が失われていく。
そんな中で世界を戦乱に追い込もうとする者たちもいた。魔王復活をもくろむ愚かな者達。
再び人々の中で醜い争いが始まった。
後から追いかけてくると言ったタナトスが現れないことも不安を煽った。

『タナトスは・・・・・こんな世界を望んだわけじゃない・・・・っ』

俺達はこんな世界を望んだわけじゃない。
ただ、人々が笑える世界を取り戻したかっただけなのに。
新たに城を建設し強化した魔王の封印が争いを喜ぶかのように空の青から血の赤に変わっていった。

・・・・・・・・愚かな人々。
(お前の微笑みすら今は遠い)

そんなに争いが好きか。
(声が聞きたい)

そんなにも命を軽んじるか。
(お前の意思を継ぐ者が必要と言うのなら)

ならば、私も鬼となろう。
悪魔に魂を売り渡さずとも、人でありながら人でない存在になることは出来る。

この封印を解こうという者は許さない。
タナトスの意志を覆す者は許さない。
すべて殺してやる。

暗殺者としての自分を誇らしく思ったのは初めてだった。封印の色が再び青みを取り戻してきたことを喜んだ。
人から遠ざかる自分を人々は忌み嫌ったがそれでかまわなかった。
だが、人の体の崩壊はきた。

魔王の影響を近くで受けてきたというのに、いっそ遅すぎた終焉。
しかし、この意志をまた誰かに受け継ぐ必要があった。
100年の間でギルドとモロク上層部との間で密かに研究を進めた方法はおよそ非人道的なものだった。
それでも・・・・・この犠牲で世界が救えると言うのなら。

『双子の絆・・・・・・それは私も感じている。・・・・・・・タナトス・・・・お前はまだ生きているな・・・・生きて、いるのだな。私の・・・・・愛しい魂の片割れ』

同じ魂を二分した弟の魂が闇に落ちているのが今ならわかる。
気づくのが遅すぎたゆえに起こった悲劇。
どうしてなのか理由はわからない。
お前の身に何が起こっているのかそれもわからない。

それでも・・・・・。
いつかお前を救いにいく。

『・・・・・・・・・・・私の遺志を継ぐものよ・・・・。魔王が復活する時、世界は終わる。タナトスが命を賭して守ったこの世界をどうか・・・・・どうか、守って欲しい。そして狂わしき弟に伝えてくれ・・・・・』


守ってきたはずの人々に裏切られた哀れな魔剣士へ。


『お前のしたことは無駄ではなかった。・・・・・・・・お前が守った世界は、今もここに在ると』


赤い闇の中でその言葉がまるで美しいもののように響く。
この言葉を守るために、自分は生きねばならない。
この魂を魔剣士に届けるために。

そして、封印を・・・・・この世界を守るために。

「ヨタカ・・・・・・・」

『初代監視者』の声にノイズが混じる。 プリーストが吐くその言葉がまるで雑音のように聞こえた。
隣にいたパラディンが福音を呟く。それと同時に地面から光が溢れた。力無く膝を突いていたプリーストが立ち上がる。

「あのプリーストは封印を強化するのに必要な存在だ。・・・・・どうすればいいかわかるか?」

背後からの声に俺は耳を傾ける。
そして手にしていたカタールを地面に落とした。

「・・・・・・・・・封印の礎に・・・・・」

「そうだ」

掌を見れば赤く溢れるオーラ。これは、封印のためのもの。本来なら青いはずの力は、魔王の影響を濃く受けていた。この色をまた空のような青に戻すのが自分の務め。
封印を守るため記憶と共に唯一受け継がれてきた魔力。
俺はこちらを見ているプリーストに向かって一歩近づいた。

「・・・・・・ヨタカ」

藤色の瞳はまるでモロクの夕日の色。
一日の終わりを告げる終焉の色。世界の終わりを感じさせるその色はなんて不吉で忌々しいのだろう。

手の中に魔力を込める。

この時代にもまた、魔王復活を目論む団体が現れたのだ。目が届かず行われた復活の儀式に流れた命。
地面の血はすべてこの場を汚す為に彼らがわざわざ連れてきた生贄の血だった。
このままでは魔王復活も近い。

それを防ぐためにもこの聖職者を封印を守る礎にする。


守ると、誓ったのだ。
この世界を。
それが、人の命を殺めた自分に出来る唯一の贖罪なのだ。


「ヨタカ。・・・・・・・・覚えていますか。初めてあなたが顔を見せてくれた夜のこと」

何のことを言っているのかわからない。
俺はパラディンが作る白いフィールドの中に足を踏み入れた。それでも変わらぬ俺の姿に、プリーストは悲しそうに目を細めた。

「貴方は僕と会えたことを神に感謝するといってくれた。僕も・・・・・・同じ気持ちです」

それはいったい誰のことだ。
このプリーストは何のことを言っている。

「貴方と会って・・・貴方のことを知るたびに、・・・・今ですらそう思う。・・・・・・・・くっ!」

プリーストの肩を掴む。そこから溢れた赤いオーラにプリーストは小さく悲鳴を上げて体を強張らせた。
足から徐々に石化していく。この体は壁の一部となり、封印を守るものになるだろう。

「ヨタカ・・・・・?わかってんのか・・・・そいつはトキだ。・・・・・・手が早い暴力聖職者だぞ・・・・。ヨタカ!しっかりしろよ!!!!そいつはトキだ!!!!トキなんだって!!!!!目を覚ませよ!!!ヨタカァァァァ!!!!」

隣から、半身を石化して動けずにいる俺の弟が叫んだ。
愛しい・・・・・・愛しい俺の弟。
後でその体もこの壁の一部にしなければならない。
双子の繋がりを使ったシステムはなにも、地上に生きる者からこの地下で生きる片割れに生気を送るだけのものじゃない。
逆だってありえる。

石化した片割れを使いこの体の時を止める邪法。
魔王モロクの影響を近くで受けるがゆえに初代『監視者』が生み出した『監視者』のみに行われる特別な方法だった。
俺もこの弟をこの手で封印しなければならなかった。

不意に腕を掴まれて我に返る。

「・・・・・・黒猫でたれ猫を作った後は、今度は老人の仮面の材料を集めにいきましょうか。合間に氷のダンジョンに行って・・・・・」

目の前には愚かしいプリースト。
その瞳は世界の終焉を示す闇に解ける藤の色。さっきから自分の気を逆撫でるもの。
だが、その体は半分がもうすでに石に変わっているというのに、その目には恐れなど無かった。

「・・・・・・一緒に、転生しようと・・・・・まだ見ない世界を一緒に見て回ろうと・・・・・」

俺を貫く真摯な眼差しが不意に潤んだ。一瞬たじろいだ俺にプリーストは叫んだ。

「どうか・・・・っ!・・・共に語り合った願いを・・・・・・夢にしないでください・・・・・っ!!ヨタカ!!!」

「っ」

掴まれた手の熱さに身を引いた。そこから焼け付くかのように全身に巡る熱が俺を苦しませた。

熱い。
苦しい。
これはなんだ。

「ヨタカ・・・・っ」

「その名で呼ぶな・・・・っ!」

動けずにいる聖職者から離れようとした。だが、掴まれた腕が外れることは無かった。

「貴方はヨタカです・・・・・。『監視者』になどさせない・・・・・っ」

「俺は・・・・」

俺は『監視者』だ。
この封印を守るもの。

「ヨタカ・・・・聞いて・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

聞いては駄目だと思った。
だがプリーストの叫びは耳を押さえようとした指の隙間から力任せに入り込んできた。

「・・・・・・あなたはあれだけ苦しんだと言うのに・・・・・・また、自分とは違う誰かの仮面を被る気なんですか!!!?」

叫びはまるで胸をえぐる剣のようだった。

「―――-っ!!!!」

そこから全身を焼け付く痛みが襲う。
頭が割れるかのように感じた。

「・・・・うっ・・・・・あ・・・っ!!!!!」


封印を守らなければ。
(タナトスが望んだ世界を)

その為にこのプリーストを礎にしなければ。
(守らなければ)

・・・・・・・・・でなければ、あの騎士は何のために死んだのだ。
(たとえ、この身が血にまみれようとも)


「・・・・・・・守なければ・・・・・・・」

「何を・・・・・・・守るんですか?」


プリーストの目が俺を見つめる。
偽りを赦さない瞳で。
その目を見た瞬間、フラッシュバックするものがあった。

まるで砂嵐の向こうに見える映像のように。


「・・・・・・・・・守る・・・・・・・・」


一瞬だけ見えた映像はすぐにかき消される。

守ると誓った。
何者にもかけがえの無いもの。愛しいもの。
たとえ何を敵に回しても、守ると誓った。
それがどんなに難しいことでも。

この世界を。


いや、―――――――――この世界が滅ぶことになろうとも。


頭の中で金切り声のような悲鳴が聞こえる。
それは、崩壊の音だった。

「ああああああっ!!!!!!」

割れるような頭の痛みに頭を抱える。
腹の底からの叫びによって 薄い膜のように意識を覆っていた赤い闇が千路に裂かれる。

「う・・・・・・く・・・・っ」

「ヨタカっ」

全身から力が抜けるかのような脱力感を感じた。体を操っていた糸が途切れたかのような感覚。急激な変化に足元から崩れそうになった体を支えてくれる腕があった。

顔を上げたその向こう見えたのは、夕日のような・・・・・・・・いや、世界を照らす朝焼けのような青紫。

まだ混乱しているためか、自分の名前すら理解できない頭の中にずっと繰り返される言葉を呟いた。


「守ると、誓ったのだ・・・・・・・『トキ殿』を・・・・・」


石化しかけていたトキ殿の体が再び生身に戻る。

「ヨタカ・・・・っ」

トキ殿の青紫色の瞳が涙で潤んだ。

そうだ・・・。拙者の名は『ヨタカ』なのだ。
もう二度と、この名を手放すことなどしない。トキ殿が呼んでくれる限り忘れることは無い。
もたれるようにして全身でトキ殿を感じた。
優しい腕が拙者を労わるように包み込む。

「ならば僕も力を貸しましょう・・・・・」

その声は泣きそうなほど切なさを込めた喜びの声だった。

「貴方を守るために」

まるで心から癒されるかのような声だった。

「だからどうか、もう二度と罪の重さから逃げないで・・・・・・」

拙者の中で騎士の死は今もなお重くのしかかっている。
こんな自分など死ねばいいと思っていた。
なのに自害することすら出来なかった弱い自分。
シシギにたまり場に連れて行かれトキ殿や皆の心に触れるに従って心温かくなった日々は本当に楽しかった。
だが、時が経っても、なお胸にある後悔は薄れることなど無かった。
そこを『死神』に付け込まれた。

だが、もう揺れることは無い。
自分以外の仮面はもう二度と被らない。

共に背負うと言ってくれる人がここにいるとわかったから。

トキ殿の法衣を握る。
この封印を守る理由になどそんな愚かしいことはしない。贖罪は拙者の意思で行わなければならないとわかったから。

一人、堕ちかけた拙者をトキ殿は命を賭けて信じてくれた。

「・・・・・・・ありがとう」

感謝の言葉を告げると、トキ殿は返事の代わりに拙者の肩を抱いた。



「・・・・・・・・・・裏切るのか」

空間を一瞬で冷やす声に体を強張らせる。
振り返れば『死神』が立っていた。前髪の向こうで赤い目が光る。

「裏切るか、我らを。モロクの意志に背くか」

拙者のカタールを掴み、こちらに向けて刃を飛ばす。
咄嗟に弾くものを見つけられず、拙者は身を挺してトキ殿を庇おうとした。
だが、この身を抉るものはなく、代わりに弾かれるような金属音が響いた。
振り返れば重圧な盾を構えた背中が守ってくれていた。

「・・・・・・・・・・・イカル殿」

トキ殿のギルドのマスター、イカル殿の存在にその時になって漸く気がつく。
どうしてここにとは思わなかった。
拙者はイカル殿と視線を交わす。イカル殿は小さく頷いた。
そして拙者は悟った。

時が来る。
時代の変革が。

双子と魔王モロクの封印の話を彼の口から聞かされた時に同時に聞いた言葉が現実になる。

イカル殿は死神に向かって懐から出した首飾りを掲げる。それは双頭の鷲を象ったもので神聖ミッドガルツ王国のゲオボルク王家の紋章だった。当然民間人がそれを模したものを作ることは禁じられている。
ましてや金色に輝くその首飾りが偽もので在ろう筈がなかった。


「私は正規ギルド「Viscum album」マスター、イカル=ガ。依頼を受け、プロンテラに籍を置く大聖堂、騎士団、聖騎士団、そして王家の総意を伝える」


低い声はこの空間に響く。

「『監視者』ならびに、今ここでこの話を聞いている者。そしてその姿を消している者」

イカル殿の声に反応するかのように、男女のアサシンクロスが二人現れる。まったく気が付かなかったその気配に拙者とトキ殿が目を見張る。ハヤブサが『死神』の言動を見張る為にギルドがつけたものだと教えてくれた。

「魔王モロクの封印は血に汚れもはや崩れかけている。新たに封印を施しても恐らくもちはすまい。・・・・・・・我らは魔王モロクの封印をあえて解くことを希望する」

「このモロクを再び焦土にする気か!!!!」

その声は女のアサシンクロスが発した言葉だった。
イカル殿はその声に一瞬だけ口を閉じた。だが再び言葉をつむぐ。

「400年前、当時のこの世界は戦力が足りなかった。戦乙女が舞い降りることがなかったあの時代、唯一タナトスのみが希望だった。だが、今は違う。世界の混乱を招くとき現れるエンペリウムは全土に広がり、それに呼応したかのように魔物は活発化し、この世界に再び戦乙女が舞い降りた。民営のギルドも力をつけ町を支える柱となっている。封印を解いてもそれに立ち向かえる者たちが生まれているのだ。我らはそれを機と捉えた。もうモロクのみが犠牲になる必要は無い」

「何様のつもりだ・・・・・・・・っ。本当に苦しい時に・・・・・手を伸ばすことすらなかったお前らが今更何を言ってるんだ・・・・っ!!!」

「止めろ」

男のアサシンクロスが女を止める。

「総意はモロクの上層部にも伝えられたはず。恐らく今ギルドでは議論されていることだろう。私は役目で『監視者』へ伝えに来ただけだ」

「伝言だけが役目ではないだろう。・・・・・・・・・私の抹殺もそれに含まれているのだろう」

死神は何のてらいも無く言った。
それにハヤブサが息を呑む。

「封印を解くと言うのだから、その監視者は当然邪魔でしかないからな」

『死神』は呟いた。

イカル殿は何も言わなかった。否定もしなかった。
それが答え。

「だが、お前を倒すのは私ではない」

イカル殿の声に反応するかのように、拙者は地に落ちたカタールを手にする。
片腕を上げてかろうじて残っていた魔力でハヤブサの石化を解く。
イカル殿が今なお続けている福音は状態異常を直すものらしくトキ殿の顔色も大分いいようだったが、ハヤブサの石化は通常のものとは違う。封印の一部を使ったものだったので『死神』と・・・自分しか解けない。
だが、ハヤブサを解いたところで身の中の魔力を感じなくなった。不意に感じた異変に掌を見る。

「・・・・・・・ヨタカ・・・・・目が・・・・・」

その声に顔を上げると、トキ殿が拙者の顔を覗き込んだ。

「元の蒼に・・・・・・・」

トキ殿の言葉に拙者は自分の目を覆うように手を上げる。
赤く染まっていた目が、今封印を前にして蒼に戻るという意味を悟り、拙者はトキ殿を見た。
目元に手を伸ばしたトキ殿が泣きそうな微笑を浮かべた。
拙者はその手を握る。

「・・・・・・・・・・・トキ殿。頼む。戦いの歌を・・・・」

「はい」

「ハヤブサ・・・・・お前にも頼みがある」

「何」

拙者たちを見て微妙に複雑そうな返事を返すハヤブサに頼みごとをした。
それにハヤブサは驚いたように目を見開く。
一方で、それを聞いたトキ殿が拙者の考えに同調するかのように頷いた。















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