ベットの上に座った拙者は、同じようにベットに片膝を沈ませるトキ殿を見た。
艶のあるこげ茶色の髪が窓から差し込む月の光を反射する。

「・・・・・・・・」

わずかでも拙者が体を強張らせているのに気がついたのだろう。トキ殿の手が拙者の顔に添えられてゆっくりと口付けられた。
ぎしっとベットが鳴る。徐々に重みに沈む体にこれからのことを考えて顔に熱が篭る。
トキ殿に触れられたところが熱い。
きっと今、自分は耳まで赤くなっているに違いない。
離れる口づけが惜しくて、顔を上げて軽く唇を吸った。
目を開けた拙者の目の前でトキ殿が艶っぽく笑った。



これからのことを嫌だとは思わなかった。















最高の片想い













「・・・っ・・・・・・・」

ぴちゃ、と卑猥な水音に耳から犯されているかのように思った。自分の局部にトキ殿の顔があるというだけでも羞恥で逃げ出したい気持ちだった。
敏感な裏側を親指で撫でられ、先を口の中に含まれる。
ズボンを下ろされて上着だけの状態のまま、拙者はトキ殿の背中に覆いかぶさった。
「・・・・・っ!」
トキ殿の熱い口内に含まれて背中にぞくぞくとしたしたものが走り抜ける。
舌がなぞって行くのをトキ殿の黒と赤の法衣を両手で握り締めて堪えた。
「・・・・・・っ・・・・・・」
肩に掛けられていただけで袖を通してなかった法衣は拙者の手によって肩からずり落ちる。
法衣の下から現れたトキ殿の肌が窓から差し込む月の光で白くなまめかしく見えた。
思わず目を細めて現れた肩甲骨あたりに唇を落とす。トキ殿の体はしっかりと締まっていて手触りのいい弾力を感じた。
くすぐったいのか小さく反応を返すトキ殿の耳も赤くなっている。
自分だけが奉仕されているような状況が嫌で、法衣を完全に落とした背中に手を這わせて啄ばむように口付けを繰り返す。
そうしていると次第にトキ殿の指に容赦がなくなる。
自分の呼吸が荒くなるのを感じながら、トキ殿の立てる音はわざとなのだろうかと疑いを持ち始めた拙者は、太腿の内側を撫でる指に全身を強張らせた。
このままだとすぐ限界を迎えそうで、拙者はトキ殿の頬から顎のラインに手を這わせて顔を上げさせた。
「・・・・・ヨタカ・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
視線を合わせるトキ殿の頬は赤く染まっていて瞳は情欲に満ちていた。濡れた唇の奥に見えた舌にぞくりとキた。
この口が自分のものを咥えていたのかと思うと込みあがる熱に眩暈がする。

これが欲か。

トキ殿の脇を掬うようにして持ち上げてベットに押し倒す。上に乗り上げた拙者は食いつくようにトキ殿に口付ける。
舌先に感じる苦味は自分のものなのだろうが、構わず深く口付けた。
トキ殿の体に手を這わせて腰を引き寄せる。
「っ」
こげ茶の髪がベットに散る。枕が邪魔そうで掴んでベットの下に投げ捨てた。
痺れを感じるくらいに頭に血が上っていた。
トキ殿のズボンと下着をまとめて剥ぎ取ってそれもベットの下に落とした。多少乱暴にしたにも拘らず、トキ殿は足を抜くとき協力すらしてくれた。
トキ殿を跨ぐような形で組み敷く。
一瞬、ハヤブサに襲われた時のトキ殿を思い出したが、あの時とは違い熱い目で見上げてくるトキ殿の姿に霧散する。
トキ殿の両腕が上がって拙者の肩を抱く。
拙者の動きを制限しないようゆるく回された腕に、許されているのを感じた。
それと、トキ殿も拙者と同じように自分を欲しているのだと。

前にもこうして抱きしめられたことがある。
初めてトキ殿の告白を聞いた日。


『貴方が好きです』


あの時、自分はトキ殿の言葉に攫われるような気がした。
そして今と同じように思っていた。

――――この人のすべてが欲しい。

あの時は尊大で我侭な望みだと思った。
だが、今は違う。

全身からトキ殿の声を感じる。

自分もそうなのだと言ってくれてる。
そうわかったら止まらなかった。
半分立ち上がりかけていたトキ殿のものを手探りで探し当てて自分のものと合わせて握りこんだ。

「んっ」

トキ殿がびくっと顎を上げて反応を返す。
僅かに皺の寄る眉間に唇を押し当てて、手を動かした。トキ殿の唾液のせいか、それとも先走りの所為かそれはスムーズにできた。
完全に立ち上がるトキ殿の裏側と自分のものを合わせて腰を動かすとトキ殿の背が一瞬反る。
衣擦れの音が部屋の空気を揺らす。
荒い息を吐くトキ殿の頬から首筋あたりに汗が浮かぶ。
「トキ殿・・・・」
「・・・・・・・・・・・っ」
伝う汗を舐め取ると塩辛さを僅かに感じた。
二人の間で熱くなる空気は湿り気を帯びていて余計熱を煽る。
ぐちゅぐちゅと鳴る音が余計卑猥で欲を煽った。
たまらずトキ殿の首筋に吸い付く。僅かに体を強張らせたトキ殿は先走りの液を漏らす。
それを親指で撫で広げて指先で先を抉る。
その瞬間背に回されたトキ殿の指が背中に食い込んだ。
「んっ・・・く・・・・・・」
声を上げまいとしているトキ殿の喉の奥から押し殺したような声が漏れた。
吸った所を舐めると、そこに赤い痕が残る。
そうしてトキ殿の肌のあちこちに痕を付けていく。独占の証を印すかのようなその作業に拙者は夢中になった。
腰と手でトキ殿のものを一緒に擦りあげながら自分も限界を感じていた。
「ヨタカ・・・・・・も・・・・・・」
トキ殿も拙者の髪に指を絡ませて限界を訴える。
このまま一緒にと動きを早くすると、トキ殿の腰も揺れて更に快楽を引き出す。
仰け反るように反らされた顔が色っぽくて、見たとたんグッと腰に来た。

「・・・・・・・・・っ!」
「――――-っ!」

ぎりぎりまで溜め込んでいた熱が決壊する。一緒に吐き出した熱が交じり合って拙者とトキ殿の腹を汚した。
脱力するトキ殿は拙者の頭を抱くようにしてこめかみに口付けをした。
お返しにと同じところに口付けを落とす。
「・・・・・・・・・・・・・」
吐き出した熱と一緒に脳内麻薬も出て行ったのか頭が冴えていく。
「・・・・・トキ殿・・・・・・・・」
「・・ん・・・・・・・・・・・・」
多少冷静さを取り戻しかけた拙者がトキ殿の負担を心配していると、トキ殿は口元を上げて微笑んだ。
藤色の瞳が悪戯気に細められ、誘われる。
何を誘われているのかわかってぎくりと体が強張る。

これ以上。
これ以上となると。その。

とたんに躊躇った拙者に気がついたトキ殿が拙者に口付ける。
トキ殿の手が拙者の上着の襟を開いて片腕ずつ抜く。
舌を絡ませながらゆっくりとされる行動は続きを嫌がおうにも予感させる。

トキ殿が欲しい。
それは偽り無い気持ちだ。
だが、トキ殿を傷つけることになるのかもしれないと思うと身がすくむのだ。
一度吐き出して冷静さを取り戻したのも悪かったのかもしれない。

「・・・・・・・・・ヨタカが怖がることなんて何も無いですよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「好きな人とするなら嫌なことなんてないんですから」

「・・・・・・?」

拙者はトキ殿に跨ったままの体勢で、背を撫でるトキ殿の指が腰から下の割れ目にまでたどって行くのにギョッとした。

「ト、トキ殿・・・・・っ」

「もう少し体を上に、そう」

「そう、じゃなくて・・・・っ」

片手で尻を揉まれている間に、トキ殿のもう片方の手が腹の白濁を掬い取ってそこを辿った。
いや、その。そこを使うとはわかっていたが、自分がかと思うと顔に血が上って熱くなる。
きつく窄まるそこをトキ殿が触れていると思うだけで羞恥に死にそうだった。

「無理・・・・・」
「大丈夫ですよ」

引きつった顔でした涙目の訴えもトキ殿は優しく却下する。
マッサージするように液を塗り込められた後、僅かに指先が入り込む。
「・・・・・・・・・っ!」
だがそれはすぐにきつく押し返されて出て行った。
トキ殿が尻を揉んでいた手でベットサイドのチェアに置いていた白ポーションを掴む。
そして蓋のコルクを歯で噛んで引き抜いた。
珍しく荒い仕草にドキッとしているうちにコルクはトキ殿の横に転がる。
そして拙者が恐れていたように、トキ殿はポーション瓶を尻のところまで持ってきたかと思うと、割れ目に向かって少しだけ垂らした。
「っ」
冷たさにビクッとした拙者をトキ殿が下から見上げる。
「冷たいですか?」
「・・・・・・・少し」
素直にそう言えは止めてもらえるのではないかと淡い期待を持った拙者は、こうと決めたトキ殿の行動力をなめていたらしい。
トキ殿は白く僅かにとろりとした液体を自分の手のひらで受け止めて少し温めてから窪みに垂らした。
それだけではなく、指先がぬるりと入り込む。
「っ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
体内でトキ殿の指を感じる。
思わずシーツを掴んでその事実を耐える拙者に、トキ殿はゆっくりと指を抜き差しする。
過剰なほどのぬめりに助けられて、指はスムーズに動く。締め付ければ締め付けるほどトキ殿の指の存在を感じて身を震わせる。
息を荒げて耐える拙者は次第にそこにむず痒い熱を感じ始めていた。

「ヨタカ・・・・・わかってます・・・・?」

耳に入り込む掠れた声は色艶がある。

「・・・・・・・・・・・?」

「セックスって体を繋げるだけのものじゃないんです。ヨタカがさっき僕にしたこともちゃんとしたセックスなんですよ」

「・・・・・・・・・・・・・・っ」

そう言いながらトキ殿の指の動きは止まらない。

「・・・・・・・・・・・セックスって二人で協力しないと本当に気持ちよくなれないんです。でもね、すごく恥ずかしいでしょう・・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・」

返事の代わりに小さく頷く。
口を開けばあられもない声を出しそうだった。
トキ殿は胸元に頭をたれる拙者の髪に顔を寄せた。

「恥ずかしい思いをしても、痛くても、苦しくても、相手を許せると思うからできることですよね?・・・・・・・・・愛しいと思うなら尚更求めずにいられない。一つになりたい」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

拙者はトキ殿の言葉に顔を上げた。視線を合わせたトキ殿は眩しそうに拙者を見てキスをねだるように目を閉じた。
拙者はシーツについていた腕を動かして唇を寄せた。舌先を絡めるようなキスは吐息すら混じり合わせて熱を上げていく。

「指、増やしてもいいですか・・・・?」

「・・・・・・・・・・・」

カァっと頭に血が上る。嫌だと言えない空気だった。

「トキど・・・・・っ」

ぬるっと入りこんでくる二本目のきつさに息を飲んだ。だが根元まで入り込んだ指は暫く動かずに馴染ませているようだった。
自分も知らない体の中を不意にトキ殿の指が押し上げる。
襞のようなものがトキ殿の指を締め付けるのがわかる。自分でしようと思っているわけではない反射のような体の反応がどうしようもなく浅ましく感じる。
白ポーションを足されたそこが中まで濡れているのがわかる。それでもまだ追加される白い液体が太腿を伝ってシーツを汚した。
トキ殿の吐息が拙者の耳を打つ。
トキ殿も感じているのかと思うと少しだけ安堵した。
だが、不意にトキ殿が触れた場所から全身に何かが走った。
「っ!」
中からこんな反応を引き出されるとは思わず、拙者は驚いてトキ殿の腕を掴む。
「ト、トキ殿・・・っ!そこは・・・・っ」
「痛い?」
「いや・・・・・ちょ・・・・・っ」
最初は驚いたような顔をしていたトキ殿も、拙者が痛みを感じているのではないと知ると、さっき触れた箇所を探った。そしてしこりのようなところを撫でたところで拙者は息を呑んで体を強張らせた。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てながらしこりを二本の指で挟むように擦られて首を横に振る。
腰を上げて逃げようとする拙者の中に入れっぱなしのトキ殿の指が奥深くまで入り込む。
「っ!」
がくがくと震える足と手で体を支えられずにトキ殿の上に伏せかけた拙者に、トキ殿は上半身を起こして体勢を入れ替える。
開いた足を抱え上げられて腰が浮く。
体から痺れのようなものが抜け切る前に、トキ殿の熱を感じた。
十分に濡らされたそこはまだきつくトキ殿を押し返そうとしたが、先のところが括れまで入り込むと、そこから体を割り開くように熱が奥に突き進んできた。

「―――――――っ!!!!」

勢いに押されるようにシーツが襞を作る。もしかしたら悲鳴を上げていたかもしれない。
だが腕は無意識に求めるものに向かって差し出されていた。
気がついたトキ殿が、できるだけ拙者の負担にならないように体の角度を変えて顔を寄せてくれた。
手に触れたトキ殿の肩を引き寄せるようにしてその背中に腕を回す。
「うあっ・・・・・・・・・!」
痛みはあるとは思っていたが、案の定急に動いた所為で繋がっている箇所でぴりぴりとした痛みを感じた。
「ヨタカ・・・・」
きつく締め付けている所為でトキ殿も痛みを感じているのだろう。
凛々しい顔立ちを歪めて拙者を落ち着かせようと頬に唇を落とす。
「無茶しないで・・・・・」
トキ殿はこんな時だと言うのに拙者のことを気にしていた。
トキ殿の熱が拙者の中で脈打っているのがわかる。
詰まらせた呼吸を繰り返して体の力を抜こうと努める。
トキ殿を包むところがひくひくと蠢くのがわかった。熱くてむずがゆくて苦しい。

「・・・・・・・・・・・・トキ殿が言っていることを実感してみた・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・?」

拙者はトキ殿にすがりつくように腕の力を込めた。
中でトキ殿を締め付けていたものもきくつなったのだろう。トキ殿は息を詰まらせた。
僅かにうめき声を上げるトキ殿も辛いだろうが、拙者も辛い。

だけど、求めずにはいられない。

「繋がるということは、これだけ・・・・・・・距離が近くなることなのかと・・・・・・・」

実感できるなら。

呼吸に合わせて互いに身じろぎ始め、腰を揺らす。
ぎしぎしとベットが鳴る。トキ殿の熱に頭まで犯されているかのように感じながら、痛みと苦しさと僅かな快楽に目を閉じて確かに高まっていく熱に身をゆだねる。

「・・・・・う・・・・・あ・・・・・っああっ!」

正直苦しさの方が勝っているが、止めてほしいとは思わなかった。
息を荒げながらトキ殿の手が自分のものを擦るのを感じて体を強張らせた。箍が外れるように飛沫が上がる。
余韻にびくびくっと背筋を振るわせる拙者の奥でトキ殿の熱い飛沫を感じて甘い痺れにまた身を震わせた。















「で?・・・・・・・・3日もギルドチャットに出られなかった理由って何なの?」

「まぁ、ちょっと遠出してまして」
「すまぬカモメ殿。どうやら冒険者証の調子がおかしかったらしく」

ゲフェンのベンチ。二つのギルドのたまり場とも言うべき場所はカモメ殿しかいなかった。
3日連絡取らなかった拙者達を見たとたん、カモメ殿は呆れた顔をしていた。
つらつらと大嘘を並べる拙者達に、カモメ殿はため息をついて片手を振った。

「あからさまな嘘って萎えるわね。ああ、いいわよ。仲良くしてんなら。私、ちょっと狩りに出てくるから」

おそらくしっかり感づいているカモメ殿に拙者とトキ殿はコホッと咳をする。
カモメ殿は何故かトキ殿の腕をペチンと叩いた。
カモメ殿はこちらに背を向けてカプラ嬢のほうへ向かって歩いていった。
「カモメ殿はどうしたでござるか?」
「・・・・・・」
トキ殿は何か察したらしく口元を上げて笑う。
「内緒です」
「?」
納得しているトキ殿に小首を傾げながらも何も聞かずにいた。

「これからどうします?僕らも狩りに?」
「狩りは・・・・・・・ちょっと無理でござるかな・・・・」

拙者は腰を叩く。年寄りじみた行動だがしかたない。
いろいろと酷使しすぎた為、鈍い痛みが残ったままなのだ。
トキ殿はといえば、すでに自分で癒しているのか平気な顔をしている。

「癒しますよ?」

トキ殿は指先に癒しのオーラを浮かび上がらせるが、拙者は首を横に振った。

「いや・・・・・・。その、この痛みが消えたら・・・・あれも夢のような気になるような気がして」

「・・・・・・・・・・・・」

一瞬きょとんとしたトキ殿が頬を染めるのに、つられて拙者も赤くなる。

あの後、結果として3日ほど蜜月とやらを堪能してしまった拙者達は、家の食材が無くなりようやく家から出てきた。

体を重ねる。
休みの間にシーツ取り替えたりシャワーを浴びたり軽く食事をする。
その気になりベットに戻り、また求め合う。
ベットから出ようとした相手を逆に引き戻したり。
疲れて寝て、また目が覚めたら相手を引き寄せたり。
そういうことを互いにしていたら家を出ないまま夜を三回迎えてしまったのだった。

本当はそんなつもりなど無かったのだが、3日間の間で服を身に着けていた時間と言うのは本当に2、3時間だけだった。
服を着ても互いに付け合った情事の痕が見え隠れして、それを癒したり付け直したりしているうちにまたということもあった。
一日を過ごすのもベットの中だったことを考えると頭を抱えてしまう。
脳をゆするような快楽を感じ始めたら最後、理性がどこかへ行ったとしか考えられない。
なんという怠惰的な生活・・・・と、思わないではない。
しかし後悔とかそういう気持ちが欠片も無いのだから困る。
まぁ、その・・・・・・・・・・最後には拙者もトキ殿を抱くことが出来たし。
苦しそうなトキ殿を見るのは辛かったが、トキ殿が嬉しそうな顔をしてくれたから良かったと思えた。

「ヨタカ?」
「な、何でござるか、トキ殿っ」

あからさまにうろたえる拙者にトキ殿は怪訝そうな顔をしたが、すぐに意地の悪そうな笑みを浮かべた。
体を重ねてわかったのだが、トキ殿はたまに意地が悪い。拙者がうろたえるようなことを平気でしたり言ったりする。
案の定今回もそうだった。
「そろそろ僕も『殿』を卒業したいんですが?」
「いや、だからそれは」
「昨日はいっぱい言ってくれたのに」
「あれはトキ殿が・・・・っ!!!」
無理矢理というか、トキ殿と拙者が言おうとするのを見計らって動くものだから前半しか言えなかっただけなのだ。
耳まで赤くなっている拙者にトキ殿は顔を背け口を押さえて懸命に噴出すのを堪えていた。きっと拙者の機嫌を損ねないようにと思ったのだろうが、その様子だけで十分損ねた。

「ああああああああ!!!!!」

いきなり背後から聞こえてきた絶叫に拙者達が同時に振り返ると、こちらに向かって金髪のアサシンクロスが走ってくるところだった。
間にあったベンチをひらりと飛び越えたかと思うと、そのまま拙者に向かって抱きつく。

「ヨタカァァァァァァァ!どこ行ってたんだよ!心配したんだぞ!」
「ハヤブサ・・・・・・ちょっと・・・・」

腰っ。腰がっ。
ごきっと鳴ったようなっ。

腰の痛みに唸っていると、トキ殿が横から手を出して拙者とハヤブサを引き剥がした。

「何だよ。てめぇ、俺のヨタカをどこに連れていきやがった」
「誰が貴方のですか」

トキ殿とハヤブサがにらみ合う。
どうしてこの二人はこうも仲が悪いのか。
それは最初が最初なのでしかたないのだろうが、封印の間で我を失った拙者がトキ殿を石化しようとした時はトキ殿を心配する様子も見せていたと言うのに。

「同じ人のことを好きですからねぇ。それに僕らはどうも普通に話し合うより喧嘩しあった方が分かり合えるようで」

トキ殿の言葉にため息をつく。
そしてハヤブサがやってきた方向からやってくる人影に気がついた。プリーストのアトリ嬢とローグのカラス殿、騎士のセキレイ殿だ。
どうやらハヤブサを含めたこの4人でどこか行っていたらしい。

「ヨタカ、朗報だ。『The nest』が正規ギルドに認定された」

『The nest』のギルマスのセキレイ殿が拙者を見て晴れやかに笑う。
普段あまり表情を出すことの無い彼女なだけによほど嬉しいのだろう。

「・・・・・・・・・そうで、ござるか」

拙者もまた安堵したように微笑む。
仮面越しにでもそれは伝わったのだろう。セキレイ殿は手伝ってくれてありがとうと頭を下げた。

「拙者ができたことなど本当に微々たる物。セキレイ殿・・・・・・・これからも世話になる」

拙者もまた頭を下げた。

「でね!もう一つめでたいことがあるんだけどさ!」

アトリ嬢がそう言って取り出したのは一本の古木の枝だった。

「は?」

「てい!」

いきなりアトリ嬢はそれを折った。ギョッとした拙者とトキ殿の前に現れたのは銃騎兵だった。

「おっと」

アトリ嬢はニューマを唱え、銃騎兵の弾の弾道を自分から反らす。
そしてホーリーライトを連続で唱えた。
あっという間に銃騎兵が粉々になって崩れ落ちた。
そして同時に天使がアトリ嬢を包み込む。

「じゃーん」

アトリ嬢が人差し指を立てて天を指す。
達成者だけが身にまとう青いオーラを発したアトリ嬢に拙者もトキ殿も目を丸くした。

「お、おめでとうございます・・・」
「・・・おめでとうでござる・・・」

なんでっ。
なんでっ。
このたまり場の人間たちは人を驚かせるのが好きなのだ・・・・・っ!!!
しかもこんな大変なことを『なんとなく思いつきました』的な感じでっ!!!

顔を引きつらせる拙者達の背後に急に影が現れる。
驚いて振り返ると、いつの間にか190センチの巨体がそこにあった。

「マ、マスター・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

どうやら今来たばかりらしい。パラディンのイカル殿は目の下にクマを作り、なにやらやつれた様子だった。
「・・・・お疲れのようですね」
「まぁ・・・・今回のことで上でいろいろあってな・・・」
そう言いながらイカル殿はトキ殿に拳を差し出した。その手の中に何かがあるのを悟ったトキ殿が掌を上にして手を広げる。
トキ殿の手に乗せられたのは金色に輝く鉱物だった。

「・・・・・・・・マスターこれって、エンペリウムですよね」

「もらい物だ。どうするかはお前に任せる」

「・・・・・・・・・・・」

トキ殿はまじまじとエンペリウムを見る。
エンペリウムはギルドを作る際に使われるものだ。
この間ロードナイトと相対していた時、トキ殿が不意にギルドエンブレムの無くなった腕を浮かんでいた姿を拙者は見ていた。
頼るものを失ったかのようなその背中はいつもより小さく見えたのだ。
「トキ殿・・・・・」
心配する拙者の横で、アトリ嬢がポンッと手をたたく。
「どうせならトキとヨタカの二人で夫婦ギルドを作ればいいんじゃないかなっ!」
「いやそれは・・・・・」
拙者としては『The nest』に不満は無く、それにここにいなければならない理由もある。
トキ殿はエンペリウムを見ながら口を開いた。
「ギルド・・・・・作ってみようかな。ソロギルドになると思いますが」
マスターと呼ぶ人はイカル殿だけなのだと言っていたトキ殿。恐らく彼は他のギルドには入るまい。
だが、あの拠り所を失ったかのような背中をまたさせるくらいならそれがいい。
トキ殿はしみじみと呟きながら拙者を見て笑みを浮かべた。

「・・・・・僕も強くならないと」

「トキ殿がそれ以上強くなったら拙者はどうすればいいのだろう・・・・」

本気で太刀打ちが出来なくなりそうで怖い。
思わず出た本音にトキ殿がくすりと笑った。

その姿をイカル殿はまるで自分の子供を見守る親のような目で見ていた。
そしてその視線がハヤブサを見つけた瞬間、目がギラリと光った。どうやら今まで気がつかなかったらしい。

「クローキング!」

「ルアーフ!」

とたんに消えようとしたハヤブサを絶妙のタイミングでアトリ嬢が掘り出す。
姿を現したハヤブサは今度は背を向けて逃亡した。
まさに脱兎の勢いで逃げ出したハヤブサを、妙な重圧を背負ったイカル殿が戦車の勢いで追いかけていった。

「くるなああああああああ!!!!!」

ドップラー効果で遠ざかっていくハヤブサの声が聞こえなくなるまで聞いて胸の中で十字を切った。
どうなるかはわからないが、あの二人はあの二人でがんばるのだろう。

「さーて、転生するかな!今すればカモメと一緒に上げれるもんね!」

アトリ嬢は倉庫行ってくるといって走って行った。
カモメ殿の時何もできなかった皆も、今度こそは祝福をとその後を付いていく。

「・・・・・・・・・・・・・拙者達も、いつか転生しよう。トキ殿」

「ええ」

大変なことだとわかっていても拙者達はきっとやり遂げるだろう。

「トキ殿・・・・・・・。拙者これからもトキ殿にきっと苦労かけると思うが・・・・・・その・・・」

「一緒にいさせてくださいね」

「・・・・・・・・・・・・・・・こちらこそ」

にっこり笑って拙者が言えなかった言葉を拾ってくれるトキ殿に、得がたいと思っていたものを得たことを実感して幸福をかみ締める。
二人で並んで歩く。
公衆の場で手を繋ぐわけにいかず、だが気持ちは寄り添わせる。
体が繋がった所為なのか、前よりトキ殿を近くに感じた。

幸せだと思った。


一時は未来を夢にすら見ることが出来なかった。
それが今はこの手に確かな実感としてあった。

転生までまだ経験値は足りないが、そう遠くなく自分達はその時を迎えるだろう。

『だからその時はまた・・・・僕と新しい人生を一緒に歩いてくれませんか』と言ってくれたトキ殿の言葉を思い出す。

未来にはまだ問題が山済みであることはわかっていた。
モロクの魔王のこともタナトスのこともこれからの話なのだ。

それでも、大丈夫だと思えた。


何があろうと、この未来は消えない。
トキ殿とともにあるこの未来は。


青空を貫くかのようにそびえ立つ搭を中央に置くゲフェンの町。
そこにある仲間達と愛しい人の背中。
立ち止まり見つめる拙者はその光景を瞼に焼き付ける。



「ヨタカ」



立ち止まった拙者に気がついたトキ殿がこちらに向かって手を伸ばす。
とたんに足が軽くなった気がした。どうやら速度増加をかけてくれたらしい。

拙者は心まで軽くなった気がしてトキ殿に向かって走った。

「トキ殿っ」

「っ!」

拙者はふわりと飛ぶようにしてトキ殿に抱きつく。
倒れはしなかったが、驚くトキ殿に拙者は笑みを堪えながら呟いた。


「ありがとう」


トキ殿。
きっと拙者はトキ殿と出会わなければまだ闇の中にいた。
世界がこんなに綺麗なものだとは知らなかった。


感謝の言葉は何度言っても言い足りない。
溢れる想いそのままに、前にも伝えたことのある言葉を使って繰り返す。

あの時より深い愛しさを込めて。




「拙者、トキ殿と出逢えたことを・・・・・神に感謝する」















ありがとう。

貴方に逢えて、本当に良かった。


















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ご愛読有難うございました。






























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