一見見れば柳のようにしなやかで線の細い綺麗な外見をしながらも、その実活火山のような性格をしている魔術師ネオンはぐっとガッツポーズをした。

「スティルできる人がいると『黒猫の人形』の集まり易さが違うのよ!」







☆垂れ猫とネオン☆







「………いきなりニブルに強制連行してきたかと思えば……たれ猫か」

ネオンと同じギルドに所属する、MEプリのカイは腕を組んで深いため息をついた。
その隣でいまいち事情のわかっていないカイの相方兼恋人のクリアサのランが不思議そうに小首をかしげていた。
朝から珍しい顔を見たと思いきや、挨拶もそこそこにいきなり死者の国ニブルに連れて来られたのだ。
まだネオンの知り合って日の浅いランはその破天荒振りを良くわかっていなかった。

たれ猫とは、ロリルリというモンスターが落とす『黒猫の人形』やらなにやらを山ほど集めて作る実に面倒くさい…いやいやかわいらしい頭装備である。
どうやらこの魔術師は最近それを作り出そうとしているらしい。
(そういえば管理人も忘れていた設定だがそういやこの人重度の頭装備収集家でしたな)
そしてその人形をどうやらランに盗ませるつもりでいるらしい。
たしかに元々ドロップ率の低い人形だ。スティルで盗ませてチャンスを二倍にしようというのはわかるのだが。
だがしかし。

事情がわかってもカイは眉間に皺を寄せたままだった。
今日はランとゲッフェンダンジョンにでも行って見るかと決めていたのだ。
最近自分に対しては自分の感情をちらほらと見せるようになったランをカイは愛しく思っていた。だがそんな彼の戦っている姿は鋭利な刃物そのもので自分を見惚れさせるのだ。今日は思う存分そんな姿を堪能するかと思っていた。
だがそんな計画はこの魔術師のせいで水の泡。カイは不機嫌を隠そうともしなかった。
そんな黒いオーラを発している人間は無視してネオンはランの両手を握る。
「他の収集品は全部上げるから。ね?協力してくれない?」
「〜〜〜〜〜っ」
基本的に触れられる事が苦手なランは腕をとられたまま身だけを引こうとするが、がっしり掴まれていてそれもままならない。
「あなただけが頼りなのよー『うん』と言って頂戴〜」
「お前、あの知り合いのローグはどうした。盗みなら向こうの方が上だろうが」
カイはランをネオンから引き剥がす。お願いという形でもネオンの切羽詰った目が怖かったのだろう。ランはその腕の中で青くなってプルプルと震えていた。
「はぁ!!!!??後で何要求されるか分かったもんじゃない上に、あいつの顔を見るのも話すのもぜっっったい、いや!」
あのローグというのはネオンに言い寄っている銀髪のローグ、名前をガイアとかいったか。腕も立つし猫の収集には適任とも言えるのかも知れないが・・・、何せネオンはこの男の事を毛虫よりも嫌っていた。普段は目的の為なら手段を選ばないくせに、不思議なことにこの魔術師はあの銀髪ローグの事になるとこうなるのだ。
「あんな男に頼むくらいならジョカクリップ作って自分でやるわよ!!!」
「・・・・じゃあ、作って盗め」
「作るまで待ってられないのよ」
どーんと胸をはって断言する。
あきれ果ててもう何も言い切れない。

あんたは子供か。

「……………」
しかし連れて来られたものは仕方ない。
カイはこの魔術師が一度言ったら引かない性格なのはこの長い付き合いでよくわかっていた。
断ろうとどうしようと、この強引な魔術師が簡単に帰してくれるはずがない。
同じギルドにいるネオンと付き合いの長い製造BSに言わせると「ネオンに関してはあきらめが肝心ですよ」らしい。

それにPTバランスとしては悪いわけではないのだ。
何せWIZ・MEプリ・クリアサと揃っているのだから。
だからこそカイの脳裏に『乱獲・・』という言葉が浮んだとしてもおかしくは無かった。
そこでふとカイは自分の手荷物を見た。
「・・・・聖水が足りないかもな」
途中で作る気でいたので持ち合わせがない。
ああ、いや。なくなった時点で終わりにすれば良いいのか。
さくさく狩ってとっとと帰る、そうしよう。
良い考えだと思っていたら、ネオンがなにやらごそごそ自分の荷物をあさりだした。
「聖水ならたくさん用意してきたから使って頂戴!青ジェムもあるわよ!」
ネオンがどんっとカイに渡したのは持ちきれないほどの聖水と青石だった。
丸一日使っても余る程の量である。
「!!!!?」
思わず絶句するカイとランにネオンは背中を向けて目指す狩場を指差した。
どす暗いの空にきらりと光る星が見えたのは気のせいだったのだろうか。

「さーさくさく行きましょ!黒猫がまってるわよ〜♪」



「ひーふーみー…うんうん、大量大量♪」
かくして二人が開放されたのは夜もずいぶん深けた頃で、ネオンは山ほどの黒猫の人形をほくほくと抱えていた。しかし元気なのはこの魔術師だけで、カイとランは道端で肩を寄せ合って座り込んでいた。
休む暇もなく狩りをした成果がその隣でどっさりと置かれていた。これを運ぶのにも一苦労だった程である。
「やっぱりスティールあるといいわねー。今日はありがとう、二人とも。また明日もお願いねv」
「は!?」
「んー…この調子でいけば1週間くらいで溜まるわね」
一週間もこき使う気ですか!!!あんたは!!!
その笑顔は冗談などではないと物語っている。
疲れ果てた二人はまたがっくりと肩を落とした。
その頭の上にたれ猫が乗る日も近い事だろうが、その前にこんなのに1週間もつき合わされたらこっちが過労で倒れそうだ・・・。
と、その時だった。

「お、珍しい所で会うもんだ。あいかわらず美人だな、ネ・オ・ン」

「こ、この声はっ」
条件反射でもできているのか鳥肌を立ててネオンが振り返った先に、先だって話しに出てきていた銀髪のローグ、ガイアが立っていた。
「よっ」
「きゃー!!!!!!!」
ネオンが一点を見て悲鳴に似た声をあげる。これにはガイアも驚いた。
「おいおい、まだ俺は何もしてねぇがな。悲鳴をあげるのはそれからでも…」
「あっあんた!!!!あんた、その頭に乗ってるのは何よ!!!!」
ネオンが指差した先、ガイアの頭の上には脱力しきった黒い猫が乗っている。
「垂れ猫」
「見ればわかるわよ!!!!」
「何って言われたから答えただけだろ…」
そこでガイアもネオンの手の中の山ほどの黒猫の人形に気がついたらしい。
にやりと意地悪そうに口元をゆがめた。
「何だ、まだ作ってなかったのか?」
「!!!!!!!」
びしぃっとネオンの周囲の空気にひびが入る。
「なんならやろうか?こいつ。どうせ売る気でいたものだし」
「いらないわよ!!!!!あんたの頭に乗ってたものなんて!!!!」
くやしいー!!!
ガイアの笑みにわけのわからない敗北感を感じたらしい。
ガイアもそれがわかってあおってる節がある。
悔しがるネオンを見て楽しげに笑っていた。

その後ろで、カイは持ちきれないほどの収集品とランを掴んでその場を立ち去った。
君子危きに近寄らず。
触らぬネオンに祟りなし。

その日、一部地域に雷が落ちたとか何とか…。
今日も相変わらずの二人でありましたとさ。





お後がよろしいようで。


















*黒猫製作話でございましたとさ。













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