「400年前にも今のように魔物が溢れ、世界の終末を知らせるヴァルキリーが現れた。そして資格を持った者達が転生を果たした」

ウイザードの衣装に身を包んだまだ20歳にも満たない美しい女性は、婀娜な笑みを浮かべる。

「・・・・それでも多くの冒険者が戦いに命を落とした。そして魔物の勢いが衰えるとヴァルハラに繋がる道も塞がれ、後は時間の流れがその当時の者達を伝承者と呼ぶようになったのさ」

タバコを指で挟んで紗に構えて懐かしむような目で宙を見る視線は老いを感じさせ違和感を感じさせる。
それもそのはずで、今この身体の中にいるのは間違えようのない400年前に生きていたという『カトリ』というウィザードカトリーヌの先祖に当たる人物だった。

「かく言う私もハイウィザードさね。この身体では使うことはできないが。カトリーヌに魔法を教えたのは私だよ」

黙って話を聞いていたエレメスはそこで隣にいたプリーストマーガレッタを見る。
こくっとマーガレッタは頷く。


「はい。私達に転生の存在を教えてくれたのもカトリなんです」














LOOP〜絆・セイレン〜











時間は少し遡る。


その日、セイレンは前日に来た一通の手紙を懐に忍ばせて朝早くから宿を出た。
プロンテラの路地には朝市が並んでおり、これから人通りが多くなるだろうと予測される時間帯。
その中を歩きながら、セイレンが目指すのはプロンテラ騎士団本部だった。
入り口に立っている門番は顔見知りで、まだ正規の入場時間ではないのだがセイレンが懐から出した手紙を見てすぐに中に入れてくれた。
手紙はプロンテラ騎士団の印が押してあるもので、その中身にあった名前を思い出してセイレンはため息をつきながら歩き出した。
冒険者では入れない奥に入りながら、セイレンはかつて何度もこの廊下を行き来していた自分を思い出していた。

プロンテラ騎士団は、国王近属の近衛騎士とは別にミッドガルドを守る正規の騎士団だ。
当然冒険者とは一線を引き、貴族や確かな強さを持った者達が選ばれる名誉職でもあった。
セイレンも1年前まではこのプロンテラ第2騎士団に在籍し、一時は副長の座に手が届くところまでいた。
「・・・・・・・・・・・」
今日セイレンを呼び出したのは、第2騎士団の騎士団長だった。
たどり着いた団長室の前でセイレンは立ち止まる。
どういった用で呼び出したかまだはっきりわからないところが戸惑いになる。
だが、いつまでもここにいるわけにも行かない。
「・・・・・・・・・・・・・」
セイレンは一呼吸おいて、身に纏った鎧や、使い慣れた剣に違和感やおかしなところはないか確認して、ノックした。

「セイレン=ウィンザーです」

本来ならここでどこの所属でどういった用件で来たのか言うべきではあるのだが、セイレンはもう騎士団を辞めフリーナイトになった身だ。
省略して名前だけ伝える。どうせ呼び出したのはこの中にいる人物なのだ。
「・・・ぉぉ・・・・」
中からくぐもった声がした。それが返事だと思うことにしてセイレンはドアを開けた。
入ってすぐに6人がけのテーブルとソファーがおかれ、その奥に重厚な机がある。
その机の上には書類と本が高く積み重ねられ、その奥から男の唸り声が聞こえる。

「セイレン〜・・・・・コ〜ヒ〜・・・・」

呼び出した上に、1年ぶりの会話がこれか。
セイレンは呆れてそう思いながらも、彼が朝コーヒーを飲まないとまったく動かないことをわかっているので何も言わなかった。
ただ部屋の角にあるコーヒーセットのところに向かって一人分を作って机に向かった。

「また徹夜ですか。あんたも若くないんだから無理せず下に任せておけばいいんですよ」
「うー・・・」

机の上に身を乗り上げるようにして寝ていた男は、唸りながら頭をかいて起き上がる。
まだ30代前半に見えるその男は実際は今年40歳になるはずだが、よだれで顔にくっついている書類をはがして、滲んだ文字を恨めしそうに眼鏡越しに見て放り投げる。
これでもプロンテラでも王族の遠戚にあたる上級貴族の当主であり、有数の剣の腕を持つ団長なのだから呆れることである。
プロンテラ第2騎士団長アドリール=バスラー。それが彼の名前だった。
アドリールは高い椅子にのけぞるように持たれてセイレンからコーヒーを受け取ると一口啜って眉間を押さえてもう一回唸る。

「使える奴がいね〜んだよ・・・・。せっかく育てた部下も1年前に出ていきやがったぁ・・・・」

さっそく出た恨み節に、元上司が全く変わっていないことに安堵する。セイレンは腰に手を当てて小首をかしげた。
「はいはい。それで恩を仇で返した元部下に何の御用ですか」
「あー・・・・あれだ。・・・・・・・・・・どこやったかな・・・・」
ずるずるとコーヒーを啜りながら机の引き出しをがたがたと引き出しては詰められているだけの中をまさぐって一枚の写真を取り出す。
そしてアドリールはそれをセイレンに渡す。
それはかわいらしいプリーストの少女がにっこり微笑んでいる写真で、セイレンはその少女に見覚えがあった。
「ああ、団長の娘さんですよね、この子。・・・プリーストになったんですか」
食事に誘われて何度か屋敷に行ったことがあり、その時に会ったことがある。
3男5女の末娘で、恥ずかしがりやなのか、セイレンが何か言うたびに赤くなって俯いていた少女。
あの時はまさしく貴族の娘でドレス姿が印象的だっただけに、冒険者になったことは驚きだった。
「惚れた男が冒険者になったもんでな。恋する女ってのは強くなるもんだな。まさか1年でプリーストになるとは思わなかったが、それだけ本気なんだろうよ」
「へぇ、団長も頭が痛いですね」
当時目に入れても痛くないほどに可愛がっていたことを覚えているだけにそう言って写真を返そうとした。
だがアドリールは受け取らずぼーっとしながらコーヒーを啜った。

「そうでもない。その相手がセイレン=ウィンザーだからな」

「・・・・・・・・・・・・・・」
セイレンはその言葉に自分が呼び出された理由がやっとわかった。
いや、もしかしたらとは思っていたのだが、まさか自分の娘まで引き合いに出してくるとまでは思わなかった。
アドリールは頭をかきながら視線を向ける。
「セイレン、もう一年だ。いい加減戻って来い」
「お断りします」
「早っ。早すぎだろっ。何だうちの娘が気にいらねぇのか。ああ?」
即座に断りを入れたセイレンに、アドリールはヤクザのような言い回しでその胸倉を掴む。
しかもどうやら騎士団に戻ることを断られたことより娘のことの方に重点が置かれているらしい。
娘命は相変わらずかと内心呆れながらも、セイレンはアドリールを見返した。

「そういうわけではないんです。・・・・・・・もう自分は国王に剣を捧げれない。俺にはやらなければならないことがあるんです」

「・・・・・・・・・・・・・・」
アドリールはセイレンの目を見る。
その目は1年前と変わらぬ強さと、一年前よりも確かな覚悟があった。
「それが終わった後でもいい。娘と結婚すればお前を馬鹿にしてきた者達も何も言えなくなる。いや、言わせない。お前には人をまとめる能力がある。冒険者でその能力を埋もれさせるな」
「こんな男に嫁いでも彼女が不幸になるだけですよ。俺はきっと彼女を愛せません」
それは若さゆえだとアドリールは思った。
「何とも思ってなくとも一緒に暮らしてれば情は沸く。・・・・・それともセイレン、お前惚れた女でもいるのか?」
「・・・・・守りたい人がいます」
ニュアンスは違いながらも迷い無く言うセイレンにアドリールは眉間に皺を寄せた。
じっと見返してくるセイレンを面白くなさそうに見て、舌打ちする。
「騎士団って言えば憧れの名誉職だぞ。それをあっさり捨てて冒険者になって、死に急いでなんになる」
「団長・・・・」
そういいながらもアドリールの声にはもうすでに諦めが入っていることがわかり、セイレンはそれを申し訳なく思う。
昔からセイレンという男の頑固さを知っていたアドリールはセイレンを部下に戻すための方法をいくつも考えていた。
その心を動かすために娘まで利用しようとしていたが、セイレンは迷いもしない。
考えていた他の手段もこの男の考えを動かすまい。
一年。ほとぼりが冷めるまで1年待った。だが、その一年は自分には短くとも、セイレンにとっては新しい生き方を選ぶには十分すぎたのだろう。

「セイレン・・・・。お前の腕なら騎士としていつか国の歴史に名を残せるだろうに」

掴んでいたセイレンの胸倉を突き放して、椅子にもたれる。
その姿は年相応に老けて見えた。
「・・・・・・・・・・」

父のように思ってきた人だった。もし、一年前に今の話を持ってこられたらきっと自分は迷うほどに慕ってきた。
でも、もう自分は騎士団をでて、そして自分でギルドを作っている立場の人間だ。

それにセイレンには何が何でも叶えたい願いがあった。
世話になった恩を返せないことは心苦しかったが、もう自分は選んでしまった。

「団長の手伝いをしたかった。俺に目をかけてくれてありがとうございました」

もう、この場で会うことはないだろう。
セイレンは腰から体を倒して頭を下げた。



アドリールは一人コーヒーを片手に窓辺に立った。
目下に広がるのは修練場で、騎士達が剣技を競い合っていた。
だが、それもアドリールから見れば遊戯にも等しい。
魔物たちがはびこるこの世界で冒険者達が活躍する中、平穏なプロンテラの中で鍛え上げられた騎士達はそれなりの強さを持ってはいたがアドリールの目から見れば半分は使い物にならない。まず覇気がない。
それは貴族出身者が多いことが原因だった。
アドリールからしてみれば性根から問題があると言える。
名誉職だからこそ息子達をこぞって騎士団に入れたがる貴族が多いが、それでいて危険な任務を嫌う。
街中で何かが起こっても冒険者の方が判断力があり行動が早い。
もはや儀礼にのっとって存在するだけの騎士団に何の意味があるのだろう。
だからこそアドリールはセイレンのように確かな腕を持つ者たちを部下に取り入れ改革を行おうとした。
だが、それを快く思わない者達も多く、そしてそのせいで犠牲者を出した。

以前、セイレンを副団長の任に命じようとしていた前日の話である。
プロンテラ近くの衛星都市イズルードにあるアリーナにモンスターがあふれ出したことがあった。守護石が破壊され多数のモンスターがそこに召還され、そして強いモンスターが弱いモンスターを召還し、その数はプロンテラに危機を感じさせるものだった。
プロンテラに在中していた騎士団員は殆どが召集され、その討伐の任に当たるはずだった。
だが、危険を減らすためにその時ですら冒険者達を前に出して、民と国を守るべき騎士団は半数以上が待機となった。
残り半数は下級貴族だったりセイレンのように庶民から選ばれた騎士。
多数の犠牲者や重傷者を出したものの殲滅することはできたが、アドリールにとって騎士団の存在を疑問視するほどに苦々しい事件だった。
そして自身も怪我を負いながらも怪我人を担いで帰ってきたセイレンは、その時待機していた騎士達と揉めてその一人を殴った。
その騎士は第一騎士団所属の大臣の息子だった。
もとから異例の大抜擢を受けるセイレンを快く思っていなかった男だ。
運良く大臣の息子が犠牲者に中傷とも取れる発言をしたと証言する者がいて、それを公にするわけにもいかずセイレンの命は助けられたが、そのまま騎士団に留めさせることはできなかった。
それまで数多くの中傷や嫌がらせも飄々と流していた筈の男が、切れて殴りかかったのは仲間のためかとそれを嬉しくも思いそして悔しくも思った。
有能な者ほど手元には残らない。
この組織を変えたくても変えるだけの人材が足りない。
それがアドリールの悩みだったのだ。

「・・・・・・・・ん?」

アドリールは急に騒がしくなった修練場に意識を戻した。見ればセイレンが5人の騎士に囲まれて入ってきた。
その5人の騎士はアドリールにも見覚えのある人物だった。
1年前セイレンを目の敵にしていた大臣の息子とその取り巻きだ。
セイレンは無表情ながらも眉間に皺が寄っている。この場に足を踏み出したのが彼の本意でないことは明白である。
恐らくこんなに朝早くに来たのは彼らに会いたくなかったからなのだろうに、その行動もムダになったらしい。
修練場で稽古をしていた騎士たちが場所を開けて中央にセイレンと取り巻きの3人を残して後は観客になる。
どうやら1対3で試合を行うらしい。

「馬鹿だな・・・・いらん恥をかくだけだ」

アドリールは覚めた目で大臣の息子を見る。
大臣の息子はにやにやと笑みを浮かべている。
だがその顔はそうしないうちに青ざめることになるだろう。

「セイレン=ウィンザーは強い」

彼とまともに戦えるのはそれこそ騎士団長クラスの者達だけだろう。
セイレンは剣を抜き大臣の息子に何かを言っている。
その声は聞こえないが、大臣の息子がかっと赤くなって怒鳴っている。
口元に笑みを浮かべたアドリールは、変わりにさっきこの部屋を出て行く前にセイレンと交わした会話を思い出していた。

『セイレン。お前のやりたいこととはなんだ?』

『・・・・・時を戻してでも、取り戻したいものがあるんです』

時を戻す。
それは普通の人間が聞けば不思議に思うことだろう。だがアドリールはその意味を正確に掬い取った。

転生。

それはまだ上部の人間しか知らない情報だった。
情報は漏れるものとしても、セイレンがそれを知っていることは驚きだった。
彼が取り戻したいと思ったものが何なのかわからない。
だが、彼はそれをやりとげるだろう。
それだけの力と覚悟をもっているのが感じ取れた。

「・・・・・あー・・ちくしょう・・・。なんだっててめーはそう頑固なんだ」

だがその骨があるところが自分は気に入っていたのだ。
身内に取り込んででもこれから先の騎士団の為に欲しかった逸材は、しかし自分の手の届かないところに飛び立とうとしていた。
その翼は強くしなやかで、羨ましいと感じてしまうのは自分がこの国に縛られているからだろうか。
セイレンならば騎士団で名を残すよりも、いつか冒険者の中で語り継がれる日が来るかもしれない。


剣を顔の前に構え目を閉じ立つセイレンの姿は、ここにいる誰よりも騎士然としていて、アドリールの脳裏に刻まれ長く残ることになる。







夜になっても帰ってこないセイレンに、3人は不審に思いながらも心配はしていなかった。
だが、一応とマーガレッタが冒険者カードを取り出した。
ギルド間で通じる回線を開き、セイレンの名前を呼ぶとすぐに返事が返ってくる。
どうやら騎士団の知り合いに捕まってて帰るのが遅くなるのだという。
それを聞いたエレメスは静かになった二階を見上げる。
さっきまで聞こえていたハワードの悲鳴が聞こえなくなったことが気になっていたのだ。
まさか息の根までは止めていないだろうが様子を見ておきたい。
「拙者は先に上がらせてもらおう。二人はどうする?」
「私はこれを飲んでから上がらせてもらいますから」
「私もまだ飲ませてもらうよ」
マーガレッタとカトリは上に上がるエレメスを見送る。
急に静かになった一角で、マーガレッタはゆっくりと紅茶を飲んだ。
その姿をカトリは目を細めて見つめる。

「・・・・・・・あんたたちもあと少しで修練をすべて修めることができるね」
「ええ。セイレンが先に到達して次はエレメスが。おそらく来月あたりには皆が資格を得ることになるでしょう」

そう言うマーガレッタの表情は嬉しさというよりは切なさが表に出ていた。

「私のせいで皆には苦労をかけてしまいました」

それは思いながらも口に出したことのない言葉だった。
カトリから転生のことを聞いた時、もしかしたらと思ったことがないと言えば嘘になる。
だが、それはあの時いなかったエレメス以外の者達すべてが思ったことだった。
強くなりたい。
それは共通した思いだったが、積み重ねた修練を奉げることになる転生に普通ならば躊躇するだろう。
新たなる生を受けても元の強さになるまではそれまで以上の修練をしなければならない。
かなりの苦労をすることになる。
だが、皆転生に迷いはなかった。
何も言わなかったがそこに自分の体のことがあることをマーガレッタは思い悩んでいた。

「あの日、あんたのおかげで皆死なずに済んだ。わたしゃ感謝してるよ。他の奴らもそうさね。でもそれを表に出すのが苦手な奴らが集まってるからね。態度で示さないと気がすまないんだ。皆あの時のあんたと同じ気持ちだよ。自分を救ってくれた恩に報いたいのさ」

「・・・・・・・カトリさん」

「だけどね、あんたのことだけじゃない。強くなりたいというのも皆の本当の気持ちなんだ。あんたは負い目に感じる必要は無いんだからね。案外あんたの体のことの方が二の次かもしれないよ」

カトリは茶化すようにそう言って話は終わりだと飲み干した酒の杯を掲げる。
「どうせセイレンを待つんだろ?もう一杯付き合っておくれ」
「・・・・・・・・・」
それにマーガレッタは控えめな笑みを浮かべる。
カトリはこの女性が仲間をどれだけ大事に思っているか知っている。
もし何かが起こった時、すぐに動けるように心がけている彼女。
その用心深さはあの日から始まったように思った。

そう、あの日。
聖女が起こした奇跡から。



「・・・・・・・・・・・」
エレメスは階段の影に立ったまま、カトリとマーガレッタの会話を聞いていた。
上に上がる途中で冒険者カードが無いことに気がついたエレメスは酒場に取りに戻ろうとした。
だが、二人の深刻な話に出て行くタイミングを失ってしまったのだった。

自分の知らない皆の過去。
それはマーガレッタと転生に深く関わることらしい。

エレメスは気配を消したまま二階に上がる。
どうやらセシルはとっくに自分の部屋に戻っているようで、壁にぐったりともたれて座り込んでいるハワードが生きていることを一応確認して自室に戻る。鍵は一応いつもの通り閉めておく。
ベットに横になったエレメスの頭の中はさっきのマーガレッタとカトリの会話が巡っていた。

『私のせいで皆には苦労をかけてしまいました』
『あんたは負い目に感じる必要は無いんだからね。案外あんたの体のことの方が二の次かもしれないよ』

強くなりたいだけではない。
自分が知らないところで転生にはもう一つ深い意味がある。
だがこれは自分が聞いてもいいことなのだろうか。

一晩考えたエレメスは翌朝戻ってきていたセイレンに聞いてみることにした。
セシルやハワードではなくセイレンを選んだのは彼がギルマスだからだが、マーガレッタのことでと小さく伝えるとセイレンは少し考えてエレメスを外に誘った。
丁度2階から下りてきたハワードとすれ違い、デートか何かと騒いでいたのに呆れつつ二人はカプラ嬢にアルデバランへの空間移動を頼んだ。

アルデバランは中央にある時計塔の周りにオープンカフェが数多くある。
二人は人通りのない端の方に座りオレンジジュースを頼んだ。
「昨夜は遅かったようだな、セイレン殿」
「騎士団に呼ばれててさ」
セイレンは苦笑しながらそう言う。
「騎士団に?何用で?」
「最後の挨拶をちょっとな。それですぐ帰るつもりだったんだけど、昔馴染みに捕まって試合申し込まれて。その後もあちこちに引っ張りまわされた」
「試合か・・・見てみたかったな」
冒険に出て魔物と戦うその姿はよく見てはいるが、試合とはまた別のものだろう。
どこか品のあるセイレンが儀礼に則ってする試合というものはいったいどういうものか。ちょっと興味があった。
「いや。面白いものではないよ?エレメスほど強い相手がいれば俺も面白かったんだけどね」
どこか疲れたように苦笑したセイレンを見ると、どうやら本位ではなかったらしい。
そこでふと思い出したようにテーブルに腕をついて身を乗り出した。

「マーガレッタから聞いたけどハワードがまた何かやったって?目に余るようだった注意してやるけど?」

何を吹き込んでるのだ。マーガレッタ殿。
エレメスは無表情ながらも口をへの字に曲げてうっすら頬を赤らめる。
セイレンに知られたことが恥ずかしいと思ってしまうのは、きっと自分が始めて認めた相手だからだとエレメスは思っていた。
妙ないたたまれなさと羞恥を感じる。
「注意して聞くタマではあるまいよ。ハワードは」
「あーまぁ、そうなんだけどなぁ・・・・。相違やエレメスはハワードだけは殿っていうのはつけないんだな」
「あの男につける敬称など持ち合わせておらん」
今気がついたとばかりに言うセイレンにエレメスも至極当然とそう返す。
だがセイレンはそれが面白くないらしい。
「いいなー。俺も名前で呼んでくれよ。な?」
「え」
「ハワードだけするいじゃないか」
「いや、それは。セイレン殿は一応ギルマスで・・・」
「いいからさ。堅苦しいの無しで。ほらほら」
自分を指差して子供のような顔で名前を呼ばれることを期待して待つセイレンに、エレメスは心底困った。
「・・・・・・・セイレン・・・」
「そうそう」
押し出すように呼ばれた名前にセイレンは嬉しそうに頷く。
一方エレメスは体温が上がっているのか喉が渇いて仕方がない。
たかが名前一つ呼ぶだけで何をこんなに緊張しているのか。
オレンジジュースを片手に頬杖ついている笑顔の秀麗な騎士と、俯き加減に頬を染めている長髪のアサシンに、通りすがりの少女達がなにやらくすくすと笑っているが鈍い二人は気がつかない。
もしここにハワードがいたら壁に隠れてハンカチの端を噛んでいたかもしれないほどの雰囲気だ。
だが当のエレメスはセイレンの視線に耐え切れなくなり話を変えることにした。

「・・・・・そういえばセイレンど・・・・・セイレンとハワードは昔から付き合いがあるのか?」

また『殿』と言いそうになってセイレンが口をへの字に曲げて恨みがましそうな表情になるのに、エレメスは慌てて言い直した。
そしてエレメスの質問に小さく頷く。
「俺がまだ剣士だった頃に臨時パーティで会ってさ。5年前かな。俺が騎士団に入ってからは疎遠になってたんだけど、辞めた後にプロで偶然会ってそれからだな。セシルやカトリーヌともその頃に会ったんだ。・・・・それからマーガレッタも・・・・」
何故か最後だけ物思いと共に呟かれた言葉。
それが気になった。
「そのマーガレッタ殿のことなんだが・・・」
エレメスは話の本題に入る。
「彼女は体をどこか悪くしているのだろうか?」
「・・・・・・・なんかあったのか?」

エレメスの言葉にセイレンが真剣な顔をして問いかけで返す。
質問しているエレメスの方が戸惑うくらいで、エレメスは昨夜聞いたことをセイレンに話した。
黙って聞いていたセイレンは納得がいったらしくほっとしたように椅子にもたれかかる。

「本人に聞くのも躊躇われてな・・・・・・拙者が聞いてはいけないことだろうか」
「・・・・・いや。エレメスにも付き合ってもらうことになるんだから、話しておこうとは思ってた」

そう言いながらもセイレンは頬杖をついてどこから話そうか迷っているようだった。
黙って待つエレメスに、セイレンは顔を上げて視線を合わせる。


「エレメスは、『レディムプティオ』って知ってるか?」








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アドリールさんは創作です。


















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