オーク西の村。
この村はモンスターの中でも比較的人に近い姿をもったオークと呼ばれるもの達が集う集落になっている。
その端っこの藪の中で、寝転がっている6人の一次職がいた。

その中の一人の剣士が冒険者証についている緊急連絡コールを押して冒険者証を握ったまま手を地面に落とす。
冒険者証はその名の通り、冒険者であることを表すものであり、ノービスの時に修練場でもらうものである。
掌サイズのその一枚のカードにはいろいろな工夫がされており、レベルや能力表示だけでなくこれを通じて遠くの人間と連絡を取ったり、さまざまなカプラサービスを受けることも可能になる。倉庫に金を置いておけばこのカードが財布の代わりなども果たす。だが、最大の役割、それはこれが冒険者にとって最後の命綱である生命維持装置でもあるということだ。もちろん、体に受けた損傷がひどければそれも無理になるのだが、まだ意識があるようであればこうやって緊急連絡でカプラ嬢に助けを求めることも可能になる。
「今カプラさんに転送依頼送ったから・・・・」
パーティリーダーでもある銀髪に海の色を溶かした瞳の男剣士が乾いた笑みを浮かべた。
「まさかオークヒーローが出てくるとは思わなかったなー・・・・」
その横で、頑丈な鎧を着た緑髪と燈瞳の商人がぐったりとカートに寄りかかっている。
「ふん。取り巻き出てこなければ楽勝だったわよ」
強がりを言っているのはアーチャーの少女。オレンジの髪にきつめのこげ茶の瞳が印象的だった。
「だから拙者、逃げろと・・・・。なのに何ゆえ皆で飛び掛る・・・・」
最初に見つけて逃げろといったシーフの少年は、長い青紫の髪から覗く深柘榴色の瞳を細めて顔を引きつらせていた。
その横で淡い金髪に若葉色の瞳をしたアコライトの少女がくすくすと笑う。
「だって、皆殆ど反射でしたから」
実はこの六人はついこの間まで二次職だった。
修練を修めた彼らは、転生という荒業を駆使して生まれ変わりまたこうして一次職になっていた。
しかし体は若返っても記憶はそのままなので、大物を見るとつい体が反応してしまい、しかし実力はまだかの時代の半分にも満たないが故に返り討ちと相成った。
「・・・・・・・・・・あれ」
ブラウンの髪に深緑の瞳の小柄な美少女マジシャンは、何かに気がついたかのように指を指す。
少し高台になっているそこでオークたちが湯気の立つ大釜を用意して火をたいていた。
「・・・・・何だあれ?」
「・・・・・・・何って・・・・・もしかしてあれ煮込み鍋じゃねーの?」
「これから夕飯なのかな」
しかし、材料らしきものを放り込んでいる気配は無い。
もしかして見えないところにあるのかもしれないが、ぐつぐつ煮えたぎったそれの向こうで、何故だか雄たけびを上げているオーク戦士達。
そして彼らは斧を持って散っていった。
「・・・・・・・・・・・なんか探そうとしてるみたいね」
「夕飯材料をこれから探すってか。のんきだねー」
アーチャーのセシルに商人のハワードが答え、そこで皆の間で沈黙が訪れる。
そういえばオークたちの主食は肉ではなかっただろうか。

「・・・・・・もしかして、その材料って拙者たち・・・?」

シーフエレメスが冷や汗をかきながら皆の心を代弁してそう言うと、慌てて六人は身を寄せ合いカプラ嬢が助けに来てくれるのを今か今かと待つのであった。











LOOP〜手のひらの中の空〜










「あー・・・・・疲れたー」

かろうじてオークたちの胃袋に納まる前に助かった6人は、ゲッフェンの町で一息ついて西の大橋前の草原で横になっていた。
ここには襲い掛かってくるようなモンスターはいないのでのんびりと体力を回復できる。
時折興味深そうにやってくるポリンをゼロピーで釣りながらさわやかな風に体を冷ます。
若葉の絨毯は大変きもちがよくて、エレメスは陽気もあってか瞼が重くなってくる。
空を仰ぐと高く鳥が飛んでいた。
抜けるような青空に白い雲が漂っている。
それを穏やかな気持ちで瞼の奥に収める。そうすれば他の5人の気配を感じ取れた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
エレメスは周りにある人の気配が心地いいなんて思う日が来るとは少し前まで思わなかった。
転生を経て失ったもは大きかったけども、日に日に培われていく力と技を得るのはむしろ楽しみであった。
一人修練を重ねてきたかつてのシーフ時代とは違う。
こうして共にいてくれる者達がいることが嬉しかった。

まだ不確かな要素が多く研究中だった転生というプロセスは、こうして第一例をだしたことから国王から発表され、あれから自分達と同じように転生を果たした冒険者が数多く出てきたのだという。
会った事は無いが、それでも色違いの服にぎょっとされることは少なくなったように思う。

「あーあ・・・・」

木陰で用を足してきたらしいハワードが切なそうにふうっとため息をついて歩いてきた。
「どうした。ハワード?」
それに気がついたセイレンが顔を上げて聞く。
起き上がるエレメスをちらりと見て、ズボンの前を引っ張ってその中を見たハワードはまた深いため息をついた。

「体が小さくなったからかこっちも小さくなってんだよなぁ・・・・・・。こんなんじゃ、エレメスを満足させられねーぐはっ!?」

話の途中でいきなり飛んで来たこぶし大の石が額にクリティカルヒットして、そのまま後ろの川に背中から飛び込んだ。
浅瀬のそこでもいきなりのことに水を飲んだハワードは咳き込みながら体を起こす。
「いってーな、なに・・・・」
びしょぬれになったハワードが見たものは、グラディウスを握りながら青紫の髪の奥で深柘榴色の瞳に殺意を込めて見下ろしてくるエレメスと、弓を構えて並ぶセシルの姿だった。
「この下ネタ男を締めるの・・・手伝うわ、エレメス」
「感謝する」
二人の声は氷点下ものだった。
「感謝って・・・・・ちょっ。ぎゃあああ!!!?」
河辺で逃げ惑うハワードを追いかけるエレメスとセシル。
ばしゃばしゃと弾かれた水が運悪く集まってきていたポリンたちを襲い、怒ったポリンが一斉に河辺に飛び込み盛大な水柱を立たせる。
「うわっ」
「きゃっ」
「・・・・っ」
それをのんきに見ていたセイレンやマーガレッタ、カトリーヌまで襲った。
全身水浸しになり唖然とした3人の中で、カトリーヌが白い手をぴちゃんと河辺につけた。

「・・・ライトニングボルト」

「ぎゃあああああ!!!?」
小さな声が発した魔法に電撃が水を走り、走り回っている3人を撃沈させた。
ぷかーっと浮いている魚と一緒に、ハワードやエレメス、セシルが水に浮かんで恨みがましそうにカトリーヌを見ているが、ぷくっと頬を膨らませているカトリーヌには何も言えない。

やがて、河辺に楽しそうな水音と6人の笑い声が響くようになるまで時間は要らなかった。





それから世界を巡るごとにレベルを上げていった6人は次々に上位二次職の資格を得た。
そして今日、正式にアサシンクロスの資格を得たエレメスは、支給されたアサシンクロスの衣装を身に纏い皆の前に出た。
濃い灰紫の衣装に細身の肩当てと胸当て、赤いマフラーが印象的だった。
長い青紫の髪に深柘榴の瞳も相まってかなり目を引く姿だった。
「うん、いいんじゃない?」
スナイパーのセシルがその姿に手を打つ。
その横ではハイプリーストになったマーガレッタやハイウィザードのカトリーヌも頷いている。
これはなんとも気恥ずかしい。
「そうだな。エレメスに良く似合ってる」
「・・・そう、だろうか・・・?」
ロードナイトになったセイレンがそう言うと、エレメスは赤い頬をかきながらそれでも新しい衣装が気になるのか手甲を調節してみる。
そんなエレメスにタバコを咥えていたハワードが何かを差し出した。
「ほれ、転職祝」
「・・・・・拙者にもか」
ハワードがくれたのはベルトのバックルだった。銀で作られたそれは髑髏を象ったものだった。
エレメスが自分にもかと言ったのは、他の4人にもハワードは何かしら用意していたからである。
女性陣には細かな細工を施したブレスレットやリング、セイレンにもベルトのバックルをやっていた。
それらすべてハワードの手作りだった。
ブラックスミス時代、武器はあまり作らなかったようだが、こういった装飾や細工物などを器用に作るハワードらしいプレゼントだ。
今彼が身に纏っているのも丈の短いホワイトスミスの服で、がっしりと引き締まっている彼に良く似合っていた。
「ありがとう。ハワード」
がちっとベルトに付けれるようになっていたそれを感謝の言葉と共に嵌める。
ハワードと目を合わせると、彼にしては珍しく少し照れくさそうに笑った。

こうして転生を経た6人は、上位二次職になった。

しかしここからが難題だった。
何せ前に転生した者が出たのは400年前のこと。
当時の伝承者が使っていた技を復活させるだけでも大変な大仕事だった。
「こう・・・・弓を構えたら自然と出て来るとか、脳裏に浮かぶとかしてほしいわ・・・・」
ジュノーで伝承者について語る本を調べて大まかな技のイメージから自分で形を作るしかない。それは戦いのセンスに左右された。
頑丈なこの体だからこそできる技。それは今まで不可能とされてきた領域に踏み込むことにもなる。
唯一の例外はカトリーヌだ。彼女だけは400年前ハイウイザードだった『カトリ』という生きた(?)先生がいた。
他の5人にも助言はできるのであるが、こういった技だったというイメージの強化までしかできない。
こうなれば5人は他の転生者達とも連絡を取り合い技を磨くしかない。
現に先に転職したセイレンやセシルはかつての2次職の技をベースにそうやって新しい技を覚えつつあった。
そして今日転職したエレメスも自身が今まで覚えていたスキルから順に技を覚えなおしていくことになるだろう。


「・・・・・・・・・・・・?」
エレメスは自室のドアをノックする音に目が覚めた。
少し横になるだけと思っていたのだが、今日転職したばかりとあって疲れていたのかどうやらそのまま寝入ってしまっていたらしい。
外はもう暗くなっていた。
再びドアを叩く音に返事を返して、エレメスはあわててドアを開けた。
もしかしたら夕飯の誘いなのかもしれないと思ったのだ。
案の定、そこに立っていたのは満面の笑顔をしたハワードだった。
きらりと歯を光らせた彼はエレメスにこう言った。

「 や ら な い か 」

ばんっ!

思わず音を立ててドアを閉める。
そのまま鍵をかけようとしたエレメスに慌てたハワードがノブを無理やり回してドアを開けた。
「ちょっと、そりゃねーだろ。夕飯持ってきてやったって言うのによー」
ほらほらとドアの隙間から差し出された故郷の寿司の詰め折にエレメスも眉間の皺を薄めてドアを閉めようとした力を抜いた。
しかしなんというふざけた挨拶だ。
こめかみの青筋はそのままに、ハワードの背後を見るが誰もいない。
「皆は?」
「カトリーヌとセイレンはまだジュノーで他の転生者と頭つき合わせてる。セシルは知り合ったスナイパーと情報交換するって出て行ったっきり。マーガレッタは今日は教会に泊まるってさ」
それで、一人で宿に残っていたエレメスを気にしてやってきたらしい。
日本酒一本と寿司の詰め折を5つ持ってきたこの狼を部屋に上げていいものか。
一度体を重ねたとはいえ、あれから一次職を矢のごとき速さで過ごして来た故に毎晩疲れ果てて寝るのが日課のようになっていた。
もしハワードが時折セクハラめいた仕草の中に意味ありげな視線を送ってこなければ、エレメスですらあれは夢だったのかと思っていたかもしれない。
しかし皆の前でのそう言う行動があってかエレメスは余計気恥ずかしさを感じていてつい乱暴な態度を取ってしまうのだ。
しかし今は他の目は無い。
頭痛はしたもののハワードは我が物顔で入ってきておりベットの上に腰掛けるのにエレメスは不精という顔で容認した。
「食おーぜ。もう、俺腹が減って腹が減って」
やけに多いと思ったら、どうやらハワード分も含まれていたらしい。
寿司折を包んでいた紙紐をハワードが無理やり引き切ろうとしたのを慌てて止めて、エレメスはナイフで開ける。
「乱暴にするな。形が崩れるだろう」
「悪い悪い。ん、うまいな、これ」
さっそく手づかみで一つ口に放り込むハワードに悪びれたところはない。
エレメスはため息をつきながら、他のも開ける。
酒の肴に寿司というのもどうだろうかと思いつつ、それでも久しぶりに食べる故郷の味に舌鼓を打つ。
出てくる話は新しいスキルや町の噂。そして今日は寿司があるせいかハワードがやけにエレメスが天津にいた幼い頃の話を聞きたがった。
しかし思い出といってもあまり人に話せるような面白い話は無い。
しどろもどろに話すエレメスの話をハワードは笑顔でいちいち頷いて聞いていたが、とうとうエレメスが話が尽きたというところでハワードはエレメスのコップに酒を注ぐ。
「なーエレメスー」
「どうした」

「アルマイアなー。・・・・・やっぱジュノーの教会にいたらしいんだ」

何気ないように伝えられた言葉にエレメスはコップを持っていた手を止めた。
ハワードは俯きがちに手の中のコップの水面を揺らす。
アルマイア。
それは昔攫われたというハワードの妹の名前だった。
当時5歳だった彼女のことを目に入れても痛くないほどに可愛がっていたハワードは8年たった今でも多額の報奨金までかけて探していた。
エレメスもその手伝いで知人からかつて世間を賑わせていた神隠しにジュノーにあった教会が絡んでいたらしい話をハワードに伝えていた。そこから独自に調べていたらしいハワードは近所に住んでいた人物からの情報を集めていたらしい。
「国交が正式に開かれ、教会が撤退する時、中で働いていた人物の殆どは消息不明になってる・・・・。だけど、レッケンベル社の関係者が孤児院の子供だけを閉鎖後リヒタルゼンに連れて戻ってる。そしてその中にアルマイアによく似た女の子がいたらしい。医者がうなじに蝶のあざのある女の子のことを覚えてた。写真を見せて確認も取った」
「となると・・・・・彼女は・・・・」
「ああ。きっとリヒタルゼンにいる。どうして子供を攫ったのかはわからねぇ。だが、捕まえた後も何の要求も無く殺しもしないで病気にかかれば医者にも診せてる。そこまでやって他の国に連れて行ってるんだ。きっと・・・・・」

まだ・・・・生きている可能性はある。

もしかしたらと最悪のことを思ったことがないといったら嘘になる。だから、漸く得ることができた手がかりにハワードは笑みを浮かべた。
だが、現実問題として今はそこに行く方法がない。
国同士で国交交渉が始まっているとはいえ、冒険者の登録をしている以上無理やりに密航してもすぐに見つかる。そうなれば冒険者の登録は抹消され、更には投獄もありうる。そうなればギルドの他のメンバーにも迷惑を掛け兼ねない。
エレメスにはハワードの急く気持ちがよくわかる。
「リヒタルゼンとは近いうちに必ず国交が開かれる。・・・・その時は拙者も手伝うよ」
「・・・・・・・・・ん。ありがとな・・・・お前のおかげだ。エレメス」
ハワードは穏やかな笑みを浮かべてかつんとエレメスのコップに自分のコップを合わせた。そして、それをくっと煽る。
エレメスもまわすように揺らしていたそれを飲み干した。
「さーって、飯も食ったしな」
一転して明るく振舞うハワードは空になった折をごみ袋に放り込んでエレメスとの間をつめた。
思わずのけぞるエレメスの髪を掬ってイタズラな笑みを浮かべる。
「食欲が満たされたら次は性欲だな」
「・・・・・・・・本能に忠実なことだな」
ムードもへったくれも無い。いやムードを作られても困るだけなのだが。
しかしエレメスもこれにはさすがに呆れる。
部屋に入れてしまったのだからこうなることは考えられたこととはいえ、このまま流されてしまうのも面白くない。
エレメスはついっとそっぽを向いた。
「あれから何もしてこないから、もう飽きられたのだろうと思っていたところだったんだが」
「ちょっと、そういうこと言って・・・・・焦らせないでくれない?」
エレメスがわざとそう言っているのは百も承知とはいえ、さすがに聞いていて耳に痛い。
「俺はこんなに好きなのにさ」
ハワードは冗談めかしてそう言うと、エレメスの持っていたコップをベットの下の床に置いて押し倒す。
あまり広くはないベットがそれに軋む中で二人の唇が重なる。
「・・・・・・・どういうつもりか誤魔化す気なら、拙者にも考えがある」
首筋にひやりとしたものを感じて顔を起こしたハワードは、いつの間にかエレメスが握っていた短剣に顔をひきつらせた。
エレメスの目は据わっていて、ご無沙汰だった理由を言わなければ暖かな体を抱きしめるどころか冷たい体験で体を冷やすことになる。
「・・・いや、ほら。お互い忙しかったしさ」
「・・・・・・・・・・・・」
「エレメスも疲れてたろ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・あの・・・ちょっと、首のとこが寒いんだけど・・・」
ナイフの腹でハワードの首をぺしぺしと叩いていたエレメスは、本当にそれだけだろうかと疑っていた。
顔を引きつらせているハワードを見る限り、他に理由があると踏んでいるのだが。
「他に付き合ってる奴がいると言われた方がまだ納得も出来る」
「あのな、俺の命にかけてそれだけは疑うな」
エレメスの口をついて出た疑惑にさすがのハワードも眉間に皺を寄せた。
「だったら正直に話せ。・・・・・・・・あの日のことで・・・その気にならなかったんなら無理せずそう言えばいい」
そう言うエレメスは唇をかみながら羞恥で耳を赤くしていた。
確かにあの夜は自分でも思い出したくないくらいに乱れていた自覚はある。
だが、女ならともかく自分のような男が喘ぐ姿というのは気持ち悪いものではないのかと思っていた。
だからハワードも何もしてこないのだろうと。
それにハワードは今度こそ目を丸くして絶句してしまう。
夢のような一晩も間に時間を置いたことでエレメスの中で話が飛躍させられてしまっているらしいと知ってのことだ。
このままではエレメスの疑惑は加速度に大きくなるとわかってハワードは慌てた。
「だからさ、ほら。お互い体も小さくなってたじゃねーか。今はこうやって大分戻ってきてるけどさ」
転生を果たして若返った6人は、転職を経ることによって大分昔の体格を取り戻しつつあった。
それは不思議とかつての転職した姿と重なっていた。
「だから・・・・お前の前であんまり貧弱だった自分の体とか見られたくなかったっつーかな・・・・」
そういえば商人時代のハワードは自分と同じくらいの体格だった。
身長はもとより、鍛え上げられていた鋼のような体とは遠い体つきだったように思える。
そこでエレメスは前にハワードが言っていた言葉を思い出す。
『体が小さくなったからかこっちも小さくなってんだよなぁ・・・』
エレメスはそれを思い出してハワードを見上げる。
「まさか・・・・・お前の言う『小さい』のが気に入らなかったのか」
「だってよ・・・・・やっぱりなぁ・・・・・」
微妙なこだわりがそこには在るらしいのだが、エレメスにとっては馬鹿らしいの一言に尽きる。
だが、次に言ったハワードの言葉にエレメスは目をむいた。
「それでも小さい頃からあそこを慣らしていくのもありかとは思ったんだけどな。少しずつ拡張していけばエレメスも苦しくな・・・・」
ハワードはすべてを言い切る前にエレメスからベットから蹴り落とされた。
「どうしてお前はいつもそう一言多いのだ!?」
珍しく真っ赤になっているのは本当に怒っているからで。
それを宥めてハワードがお許しをもらうまでまだ少し時間が必要だった。




夜も深け、月明かりが窓のカーテンの隙間から入ってくる。
そのわすかな光に汗ばんだ肌を浮かび上がる。
重みと動きにぎしぎしと軋むベットに二人の荒い息がかぶさる。

「んっ・・・・・」

鼻にかかるような声は枕の中に消えた。
うつ伏せに腰だけを高く上げさせられた体勢に最初こそ非難の声を上げていたエレメスだったが、いつの間にかハワードの愛撫に悲鳴以外の声を上げさせられていた。
さすがに慣れているだけあるのか、的確で抵抗を抑えるだけのしつこさと焦らすテクニックにどうしても流されそうになる意識をエレメスは必死になってシーツもろとも掴みとめていた。
「あっ・・・・・いっ・・・・いいかげんに・・しろっ」
すでにエレメスはハワードの精を2度受け止めさせられていた。
前の悪夢の再来だけは避けなければならないと、潤んだ目で睨み上げるがそれはむしろ逆効果だった。
襞を擦る熱いものが更に大きくなった気がしてエレメスは肩をすくめて堪える。
エレメスのものを抜きながら、緩やかに抜き差しを繰り返していたハワードも実は余裕など殆どない。
エレメスの内部は熱くて慣れないがゆえに締め付けがきつい。そのくせ時折無意識に誘うように内部が動いてハワードのものを中に招こうとする。
本人は素直じゃないくせに、体だけは素直で困る。
「・・・・・この体知ってるのは・・・俺だけなんだよな」
転生を果たし、かつて刻んだ情痕や愛した傷跡も跡形もなく消えたものの、それはかつて肌を合わせた他人の跡すらも消しているということ。
それはこの体を知っているのは自分だけなのだという征服欲にも似た心地よさを感じさせてくれた。
長い青紫の髪を手で払うと現れるしなやかに伸びる背筋や、きめの細かい肌に舌を這わせる。

「・・・・・っ・・・」

エレメスの太ももが痙攣するかのように振るえ、それがハワードにまで伝わった。
達するのを我慢するのも互いにそろそろ限界だった。

「お前もいい加減・・・・はっ・・・・ぁ・・・俺のことどう思ってるかくらい言ってくれてもいいんじゃね・・・・?」

ハワードの吐息が首筋を掠めて耳元で囁かれる。それだけの刺激ですらびくんっと震えてしまう。
甘く息を乱すハワードは、一度ぎりぎりのところまで抜いて更に奥深くまで突いた。それに堪え切れなかったエレメスは嬌声を上げて吐精し、それに釣られるようにハワードも熱を吐き出した。
「・・・・・ぁっ・・・っ」
エレメスは体の奥に飲み込まされる精に、身体を小刻みに震わせて嗚咽を漏らす。その身体を抱きしめて一緒にベットに沈んだ。
二人は荒い息が落ち着くまで黙ってそのまま身体を重ねていた。
「・・・・・・・・・ん」
ずるりと中から出て行く感覚に思わず腰に力が入る。きゅっと締め付けてくる中から出すのは名残惜しかったが、ハワードはくすりと笑ってエレメスの肩を掴んで自分の方へ向かせた。
まだぼんやりしている深柘榴色の瞳にまた飢えが蘇りかけたが、今は求めていたものを得ようと唇を重ねた。
「そんなに名残惜しそうにされると期待に応えたくなるんだけど?」
「・・・・・・・・応えんでいい」
もっとキスをと迫ってくるハワードの額をぺしっと掌で押しのける。
つれない人に苦笑しながらも、ハワードは簡単に後始末をして汚したタオルだけをべットの下に落として毛布を引っ張りエレメスを抱き込んだ。それにエレメスは眉をしかめる。
「・・・・狭い」
「今夜はこのまま寝ような」
「なっ・・・・・」
エレメスは冗談ではないと抵抗したが、ハワードは先にエレメスを腕の中に抱き込んでしまった。
となるとハワードの片腕を枕にしてしまう体勢になってしまいそれはひどく恥ずかしいものだった。だが赤くなるエレメスにハワードは平然としたもので『大丈夫だって。俺の腕頑丈にできてっから』とおかしな勘違いをしていた。
狭いベットで落ちないように二人で寝るには確かにこうするしかないのだろうが、かなりの羞恥心を感じる。
「後ろからだとエレメスが楽なんだけどなー・・・・最中に顔見てキスできないのが辛いな」
そういいながらまたキスされる。
ハワードはとにかくキスがうまい。キス自体もだが、とにかく間の取り方がうまいのだ。エレメスはいつも抵抗する前にされてしまい、結果毒気を抜かれてしまうことになるのだ。
強引なくせに人を気遣う余裕のある男。
彼がどうして自分に執着するのかがわからない。彼ならもっといい相手がいるだろうに。
口に出せばそれは即座に否定されそうなことを思いながらエレメスは疲れから目蓋が重くなるのを感じた。
「・・・・・・・・・・・」
まだだるい腰と倦怠感、そして暖かな腕の中で感じる安堵感。
髪を梳かれる感触に、人がいると熟睡できない自分が不思議と眠りに誘われる。
不意に、ハワードの明るい声が耳を打った。

「・・・・・・エレメス・・・・・なぁ、俺のこと好きか?」
「・・・・・・・・・・・・」

「何だ。寝たのか・・・?」
沈黙で返すエレメスに、少し拗ねたような声の持ち主は、だが無理に聞き出そうとはせずに額にキスをした。
まだ意識は起きてはいたが、応える返事が見つからずエレメスは目を閉じたまま何も言わなかった。
ハワードが気にしているのはセイレンのことなのだろう。
あれからセイレンとマーガレッタは表面上何も無かったかのように付き合っていた。だが、セイレンの気持ちはまだマーガレッタにあると思う。振られたからといって人の気持ちは綺麗に割り切れるものではない。
それは、自分がそうだから良く分かる。
そしてハワードはそんなエレメスの心情に気が付いていた。

「・・・・・・・・・いつか、俺に惚れてるって言わせてやるよ」

そう言ったハワードの声が遠くに聞こえた気がした。

「・・・・・・・・・・・・」

言えるだろうか。
いつか、そんな日がくるだろうか。

仲間たちともセイレンに感じていたものとも違うかもしれない気持ちをハワードに持っていることをエレメスは感じていた。
でなければこうやって肌を重ねることすら拒否していただろう。
だが、エレメスの中で生まれ始めていた気持ちをハワードに伝えるには、まだ羞恥心が大きすぎて言葉にならない。

だけど、いつか・・・・・・。
素直に伝えれたらいいと思う。
もう少し・・・・形になった時にでも。
この強引な男を前にしていつまでも黙っていられるわけがないのだから。
そう思うと不思議と気持ちが穏やかになれた。

もう少し、このまま・・・。

だが後に、エレメスはこのことを後悔することになる。

エレメスもハワードも、明日も明後日もずっとこんな日が続くと信じていた。
もちろん二人とも冒険者が常に死と隣りあわせであるとはわかっていた。
だけども・・・・・、このベットの中の小さな世界はひどく心地よく、そう遠くない未来なら信じられるような気がしていたのだ。


「おやすみ・・・・・エレメス」

エレメスの切れ長の瞳は目を閉じるとまつげが強調されるためかひどくあどけない。
ハワードが起こさないように抱き寄せて目を閉じると、エレメスの目から一つ涙が零れて頬を伝ってシーツに落ちた。









マーガレッタがリヒタルゼンにおける信仰の布教を教会から依頼されたのは、その3日後のことだった。











+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

転生して上位二次職になりました。
そして過去編もここでひとまず一区切り。次回からまた生体研究所の6人に戻ります。
次からは1次職の面々もどんどんと出して・・・いけたらいいな?









PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル