レッケンベル社の地下に建設された生体工学研究所の地下2階。 そこはつい先日まで人体実験場として使われてきた場所だけあってあちこちでその凄惨さをうかがい知ることができた。 そしてそこには今も犠牲者が魂となって漂っているのだという。 LOOP〜力強き瞳〜 「また、来たんですか」 「・・・・・・・・そう言わないでほしいのだが」 ソードマンの少女イグニゼム=セニアは、警ら中通路の真ん中で少女二人と座り込んで談笑していたアサシンクロスの青年を見つけて眉をひそめた。 このアサシンクロス、名をエレメス=ガイルという。 腰まで伸ばした青紫色の髪から覗く深柘榴色の瞳で困ったように自分より背の低い少女を見上げる姿はどこか情けない。 「最近侵入者が現れるようになったゆえ、拙者心配で・・・・」 「そう言って〜。また、ハワードさんから迫られて逃げてきたんでしょう〜?」 談笑していた一人、あははとのんびりと笑うシーフの少女は名前をヒュッケバイン=トリスという。 トリスの言葉にぎくりと肩を震わせるエレメスは情けなくも恨みがましい視線を少女に向けるが、ポニーテールがかわいらしいこの少女に悪気は無いのはわかっている。ただ一言多いだけなのだ。 その隣でマーチャントのアルマイアはエレメスが持ってきたお餅を携帯コンロで焼いていた。 ちなみに餅は先日地下3Fにまで入り込んだ冒険者が落としていったものである。 「なっさけないでー、エレメスにーちゃん。男なら嫌なら嫌とはっきり言いやー」 「はっきり言うのだが、相手が聞く耳をもたんのだ」 ぷくーっと出来上がった餅をアルマイアから受け取ったエレメスは、それを薄い布に乗せてセニアに渡す。 兄というのはただの敬称でトリスとアルマイアは好んでエレメスのことをそう呼んでいた。 ハワードというのはエレメスが通常いる地下3Fに共にいるホワイトスミスのハワード=アルトアイゼンのことで、この男は常々エレメスの尻を付けねらう変態ストーカーだった。 常に貞操の危機に陥っているエレメスは時折こうして2Fに逃げ上がってきていた。 2Fと3Fを繋ぐ階段は崩壊で潰されており、エレメスもそこをクローキングで上がってくるのでハワードはここまで来れないという訳である。 2Fから3Fに行く方法はもう一つあるものの、それには冒険者証が必要で彼女達もエレメス達もそれを持っていないためそれが使えない。 3Fには他に男ロードナイトのセイレン=ウインザー、女ハイプリーストのマーガレッタ=ソリン、女スナイパーのセシル=ディモン、そして女ハイウィザードのカトリーヌ=ケイロンがおり、少女達も彼らの話をエレメスから聞いて知っている程度だった。 そして計6人が暮らす3Fと同じように、ここにもこの一次職の少女3人とは別に少年があと3人と、リムーバーと呼ばれる赤い服を着た無口なゾンビ、それに・・・・・。 「きゃはははははははは」 突然遠くから聞こえてきた甲高い笑い声にびくっとエレメスは肩を震わせる。 いつものこととはいえビックリするこの女の笑い声にその方向を見ながらエレメスは眉尻を落とした。 「・・・・・・ジェミニ殿は相変わらずか」 「相変わらずです。こちらのことはお構いなしに勝手にここを歩き回ってはいきなり笑い出す。夜中もこうなんですから、非常識です」 セニアは眉間に皺を寄せてむすっとそんなことを言う。 非常識というのなら自分達の存在も非常識だと思うのだが・・・・。 エレメスたちは幽霊と呼ばれてもおかしくない存在なのだから。 半分実体が残っているため、壁抜けもできないので不便だが、それでもこうやって食事を取ることが出来る。 熱々の餅を頬張る4人はやがて遠くからにぎやかにやってくる3人組の声を聞いた。 「だからイレンドもラウレルもやめてよー。侵入者はやっつけたんだからいいじゃないかぁ」 「うるせーなっ。カヴァクは黙ってろ。この馬鹿、毎回毎回ぶち切れてソウルストライク連発しやがって、さっきはこっちまで巻き添えくらいかけたんだぞ?」 「ふん。すまんな、わざとだ」 それにがんっと壁を破壊する音が聞こえる。 きっとアコライトのイレンドがマジシャンのラウレルに殴りかかったのだろう。 アコライトという職業にありながら支援に徹することなく鈍器で殴る道を選んだイレンドは口も早いが手も早い。 「お前ら!うるさいぞ!」 さすがにセニアが怒鳴ると、その声に気がついた3人が壁の向こうから顔を出して餅を焼いて食っている4人に目を丸くした。 戦闘後というだけあってか少年達は傷だらけになっていた。 「エレメスさん、こんにちはー」 アーチャーのカヴァクがエレメスの姿を見て駆け寄ってくる。 「うわ、お餅だー。どうしたの、これっ」 「さっきエレメス兄ちゃんがハワードさんから逃げてきたんだけど、おみやげに持って来てくれたの〜」 「トリス殿っ」 前半は実に余計な一言なのだが、相変わらずトリスに悪気は無い。 「またですか」 人畜無害なほえほえとした笑顔と容赦の無いイレンドの突っ込みに情けない顔をしたエレメスだったが、気を取り直して立ち止まっているイレンドとラウレルを手招きした。 「皆の分あるから」 「・・・・・・・いただきます・・・・」 「・・・・・・・・」 イレンドも通常はわりと乱雑な言葉遣いだが、エレメスには一応敬語を使う。 見た目が少女のようにかわいらしい少年だがその瞳だけはきつい。 エレメスの姿を見たとたんイレンドもラウレルも多少態度が硬くなるのだがイレンドは特にそれが顕著だった。 エレメスは特に気にすることなく単に人見知りだろうかと思っていた。 先日お菓子の差し入れで仲良くなった一次職のこの6人とエレメスはこうやって話すことが多くなった。 特に3Fの『人として暮らせる環境整備の改善』計画のため、彼女達に1Fにあるシーツや日用雑貨等を取ってきてもらったりしていたのだ。毎日会っていれば仲良くもなる。 それに3Fメンバーに渡ったものは手を加えたりしてまた2Fメンバーに回る。 特に先日ハワードが作った携帯コンロは好評で、重宝がられていた。 「そういえばマーガレッタ殿からこれを預かってきたのだ」 エレメスは往復する時に物を詰めて使う特製サンタ袋(見た目と用途からトリスが名前をつけた)から人の頭ほどの熊のぬいぐるみを出してセニアに渡した。 「こっ、これは!?」 セニアは慌ててエレメスを見上げる。その頬がうっすら赤い。 「この間もって来てくれたタオル生地から作ったらしい。すまないな今回は一個だけだが、二人の分は今作ってるそうだから」 「セニアちゃん照れてる〜」 「うまいこと作るなぁ。抱いて寝たら気持ちよさそうや」 「アルマイア!やっ、やるっ」 セニアはアルマイアに熊のぬいぐるみを渡す。 「ええの?」 「私はっ、こういったものは、あ、あまり好きではないのだっ」 そう言いつつセシルは自分のスカートを握ってそっぽを向く。 その眉間を寄せて口惜しそうなその表情と、熊を必死で見ようとしないその姿に、『ああ、好きなんだな・・・・』と6人は思った。 きっと剣に生きる誓いを立ててからはそういったものを遠ざけようとしてきたのだろう。そういう不器用さがこの少女にはあった。 「後でセニアちゃんのベットに置いてあげよう〜」 「・・・せやな・・・」 こっそりトリスとアルマイアが小声で話している。 「さっき、侵入者が来たとか」 エレメスはイレンドを見る。イレンドは餅のついた指に歯を立てながら頷いた。 「来たのは騎士とウィザードとプリーストでした。研究資料が目的というわけではなく、単に力試しっぽかったですね」 「そうか・・・・最近そういう輩が増えたな」 エレメスは最近3Fにもたまに現れる侵入者に頭を痛めていた。だがそれ以上に自分達より冒険者に接する機会が多いこの2Fのこの6人の少年少女たちが気になっていたのだ。 しかしここで大丈夫かと聞けばこの気の強い6人の心を傷つけることにもなりかねない。 伊達にこうして冒険者達を追い払っているわけではないのだからプライドもあろう。 「またこうやってちょくちょく顔を出すゆえ、何かあったら言ってくれ」 「・・・・はい」 来ればざっと見回ることは出来る。その時見つけた冒険者を自分が開いてすることになっても仕方の無いことだろう。 「冒険者も最近はパーティで来ることが多くなった。自分達もパーティプレイで対応していった方がいいのだろうが」 そう言うセニアはこの6人のリーダーとも言える存在なのだが、どうにもこうにもアクの強い5人にため息をつくことも多い。 中でも口の悪いアコライトのイレンドと気難しいマジシャンのラウレルは犬猿の仲で、よく対立していた。 特に自分の血を見ると我を忘れるラウレルは、切れたとたん周りの見えない砲台と化す。これでは危なくて仕方ない。 アーチャーのカヴァクは気が弱くそんな二人に振り回されることも多い。 マーチャントのアルマイアは冒険者が落とすポーションやその他もろもろを拾いに回るので忙しく、下手をすると倒れている冒険者から金を巻きあげてそれをメマー代にあてていることすらある。 シーフのトリスはそんなアルマイアと結託して、冒険者から小銭や道具をこっそり盗んだりして遊んでいた。 もちろん真面目に戦えば並みの冒険者と対等に戦える。 そう。一次職とは思えないほど彼女達は強かった。 しかしこれを無理にまとめようとすると話は別だ。 「てめぇ、俺に逆らうとどうなるかわかってんだろうな・・・。ヒール無しブレス無し速度無し。それでも俺は慈悲深いからな、速度減少くらいはかけてやるよ。ありがたく思え」 「貴様の貧弱な支援などもとから期待しておらんわ。馬鹿者めが」 「いい加減にしろ!エレメスさんが来てるんだぞ!」 いつの間にやらまたにらみ合っているイレンドとラウレルをセニアは怒鳴りつける。 するととたんにふんっとそっぽを向いて離れる二人にセニアはこめかみを押さえた。 「・・・・・・セニア殿も頭が痛いな」 「いえ・・・・。いつものことですから。・・・・あの・・・3Fではセイレンさんはどのようにして皆をまとめているのでしょう」 セニアは3Fメンバーをまとめているロードナイトのセイレンのことを常々気にしていた。 話を聞く限り3Fのメンバーも個性はぞろいでさぞかし苦労しているのだろうと思っていたのだ。 それに、これでもかなり強いエレメスが以前セイレンのことを臆面もなく『信用に足る男だ』といった言葉にセシルはまだ見ぬセイレンに尊敬の念を抱いていた。 エレメスの口から伝えられるセイレンの姿は、自分もそうありたいと願う理想そのもののように思えたのだ。 「セイレンも苦労しているようではあるよ。だが、拙者達は彼を信頼し、彼もまた拙者達を信用してくれている。口には出さないが互いにそう思いあっているからな」 「・・・・・・・私もそうありたいです」 セニアは顔を上げてこくりと頷く。 「なら、セニアも肩を張らずに彼らを信用すればいい。拙者の見る限り、あの二人はああでいいと思うがな。喧嘩するほど仲がいいと言うし」 「だよね〜」 エレメスの言葉にほえほえ顔のトリスが頷く。 「大丈夫だよ。あの二人なら〜だってこの間も・・・・・・・・・・・」 「っ!」 トリスが何かを言おうとしたとたん、慌てて飛んできたイレンドとラウレルの手で口をふさがれた。 ふがふがと言っているトリスを、耳を赤くした二人は両脇から抱えて立ち上がらせて引きずっていく。 「侵入者がいないか見回ってくる」 顔をこわばらせたままのラウレルがそう言うのにカヴァクが慌てて立ち上がる。 「待って、僕も行くからーっ」 4人がそう言って消えていくのをエレメスたちは呆けたように見送った。 「・・・・・この間?」 「何かあったのか?」 「なーんか、弱み握れそうな気ぃするなぁ・・・・ふっふっふっふ・・・」 アルマイアだけがにやりと笑って使い終わったコンロを片付ける。 「エレメスにーちゃんも、はよ3Fに戻っとった方がええで。恐ーい侵入者に会うかもしれへんしぃ。後はうちらにまかしときっ。目にもの見せたるわ!」 ぐっと拳を振り上げるアルマイアにセニアが慌てる。 「アルマイアっ、失礼だろうっ」 「あはは。餅ごちそーさんでしたー。じゃ、エレメスにーちゃんまたな。今度また1Fから仕入れてほしーもんあったら言ってや」 「気をつけてな」 アルマイアも明るく手を振りながら4人の後を追い、セニアもエレメスにぺこっと頭を下げてアルマイアについていった。 一人残されたエレメスはサンタ袋を片手にゆっくりと立ち上がる。 「・・・・・・・・・・・」 そしてエレメスの姿はそこでふっと掻き消えた。 次に彼が現れたのは、10メートル先の壁の影だった。 手にしていた袋を落として腰のカタールを抜いた。 「何用かは知らぬが、ここに踏み入った報いは受けてもらう」 それまでとは違う冷たい氷のような声と瞳。 高速移動で流れる青紫の髪。 「!!!!!!?」 それまで壁に隠れて様子を見ていた聖騎士、プリースト、ハンターとウィザードの4人の侵入者は突然現れたエレメスの姿に声にならない悲鳴を上げる。 一次職の6人は全く気が付いていなかったようだが、エレメスは彼らの気配を敏感に察知していた。ただ仕掛けてくる様子が無かったので黙っていたのだ。 「ソニックブロウ」 聖騎士が前に出るより早く、エレメスのカタールがウィザードを一瞬にして八つ裂きにした。 「・・・・・・・っ!!!!!」 悲鳴が上がらないのは一太刀目でその喉を切り裂いたからだった。 ここで悲鳴を上げられてはまだ遠くまで行っていないだろう6人に気がつかれてしまう。 返す刀で近くにいた聖職者を聖騎士に向かって弾き飛ばす。 ハンターに向かおうとしたエレメスは、だがハンターが仕掛けた罠に足を取られた。 「今のうちにっ」 ハンターは二人に向かって声をかけた。 それが今のうちに逃げろということなのか、戦えということなのかわからない。 だが、立ち尽くすかに見えたエレメスは、地中に姿を消した。 「裂けろ」 冷たい氷のような声と共に割れた地面のひびが硬直していた聖職者と聖騎士を襲った。 「!!!」 連続して襲う地表の鋭い槍は二人を串刺しにした。 「・・・・・・・・そんな・・・・っ」 血まみれになって地面に倒れた二人をハンターが唖然と見る。 一人残ったハンターの胸からずぐりと鈍い音を立ててカタールが突き出た。 「・・・・・え・・・・」 血にまみれて胸から生えたカタール。 ハンターはそれを信じられないように見つめ、そしていつの間にか罠を外して背後に立っていたエレメスを振り返ろうとした。 だが、その目は徐々に力を失い、そして崩れるように地面に付した。 ずるりと抜けたカタールをエレメスは空気を切るようにして振り、血を飛ばした。 「・・・・・・・守ると誓ったのだ・・・・」 エレメスはぽつりと呟いた。 赤い瞳が血を写して冷ややかに輝く。 もう、何も失わせはしないと。 それが3Fのメンバーのことだけなのか、それともこの2Fのメンバーも含まれるところなのか自分でも良くは分からない。 記憶を無くしてしまった自分達は、どうして今ここに存在するのかすらもわからないのだから。 だけど、守らなければというこの気持ちは偽りの無い本心だった。 守らなければならない。 そう。 ・・・・・・・・そのために自分はいるのだから。 「お前らよくあの人と話せるな」 イレンドがそう言うと、アルマイアが小首をかしげた。 「あの人ってエレメスにーさんのことかいな?ええ人やないの。年上やけどちょっとかわええとこあるし」 「それにえらぶったりしないもんね〜。怒らないから大好き〜」 トリスも笑ってそう言う。 それにイレンドは一つため息をついた。 「俺はあの人を始めてみた時、死神かと思った」 イレンドがそう言うと、それに同意するかのように皆が黙り込む。 それは初めてエレメスを見た日のこと。 自分達を見つけて追いかけてきたエレメスから自分達は逃げ出した。 それはまるで兎がライオンを恐れて逃げるかのように。 命の危険を本能で感じてしまったのだ。 あの時エレメスに殺気は無かった。 だがその姿を見ただけで、恐怖に襲われたのだ。 冒険者を相手にしてもたじろがない自分達が。 「僕は・・・・そんなに恐くなかったよ。皆が逃げたからついていったけど・・・・」 カヴァクだけがそう言って上目使いでみなを見る。 それにラウレルが呆れたようにため息をついた。 「鈍すぎるんだ、お前は」 「そういやお前穴に落ちそうになったの助けてもらってたもんな」 2Fには床が抜けて穴が開いている箇所がいくつもある。それは地下3Fに落ちるものではなく、もっと下の空洞に繋がっているらしい。 前に穴から石を落とした時、底に当たる音がしなかったことからその深さはうかがい知れた。 「そうじゃなくってさぁ」 どう説明すればいいのか、困ったカヴァクの横でアルマイアが小さく頷いた。 「でも話してみたらええ人やで。イレンドも二人で話してみたらええのに」 「・・・・・・何か首あたりが気持ち悪くなるんだ・・・・・あの人の近くにいると。悪魔に会ったみたいに気持ち悪くなる」 イレンドは眉をひそめて首をかく。それにセニアが不可解といった表情を浮かべる。 「悪魔・・・・・?・・・・・彼は人間だろう?」 「・・・・・・・・・人間でも、かつて悪魔に魂を売った者もいる」 ラウレルがそうぼそりと呟く。 立ち止まった6人は互いに顔を見合わせた。 妙な空気がそこにはあった。 確かに自分達はもう生きてはいない。だが、それでも自分達は人間だという意識があった。そして悪魔は敵だという認識も。 「それでも・・・・・・私は、彼が悪いものには見えない」 セニアが一人紺の瞳をきつくしてそう言った。 「最初こそ恐ろしい存在のように見えた。だが、彼は自分達には害をなすことはない、と思う。・・・・・仮に、もし我らに害を与える存在なのだとしたら・・・・その時は私は何が何でも彼と戦う」 自分の言葉の重みを分かっていてそういうセニアをイレンドは黙って見つめた。 自分より少し小柄な、それでもこの中で唯一まっすぐに物事を見つめる少女。 「・・・・・お前がそう言うのなら」 「うむ」 こくっと頷くセニアにトリスがぎゅっと抱きつく。 「セニアちゃんかっこいい〜。大丈夫、その時はエレメス兄ちゃんをね穴に落としちゃえばいいと思う。私も手伝うから、ね」 「トリスが恐い・・・」 ほえほえと言いながらその内容のえげつなさにカヴァクが震え上がる。 「でもどうやって落とすんや」 そのようなことにはならないとは思うが、あのエレメスを穴から落とすその手段が気になった。 「えっとね。穴を地面と同じ石で軽く塞いでおけばいいと思うんだー。あ、侵入者用にひとつやってみようか」 「いや・・・・間違ってカヴァクが落ちかねないから止めておいてくれ」 セニアが真面目くさってそういうと、どっと笑いが起こり、カヴァクだけがひどいよ〜っと泣きそうな顔で拗ねていた。 「・・・・・・・ふう」 長く暗い通路をクローキングでくぐっていくのももう何度目か。慣れたこととはいえ、抜けるとほっとしてエレメスは肩を落とした。 「エーレメス♪」 「ぎゃああああああああああ!!!!!!」 いきなり背後から抱きつかれたエレメスはまるで断末魔のような叫びを上げて身を震え上がらせた。 「会いたかった!!!!エレメス!!!!!」 エレメスを抱き込んでいたのはホワイトスミスのハワードだった。 もちろんエレメスの悲鳴はそれが分かってのことである。 エレメスにとって侵入者よりも恐ろしいこの男はどうやら崩れた岩に隠れて自分が帰って来るのを待っていたらしい。 なんともけなげで・・・・・はた迷惑なことである。 「な、何だ!?」 エレメスの悲鳴を聞いて慌てて駆けつけてきたのはセイレンだった。 遅れてその後から他の3人の女性陣も顔を出す。 だが涙目のエレメスがハワードにほお擦りされている光景を見て生ぬるい笑みに変わる。 「チャージアロー」 気の抜けた声でセシルが放った矢は、声とは正反対に鋭くハワードの脳天にぶち当たりエレメスから引き剥がした。 「エレメス。さぁ、こちらに」 「かっ、感謝する・・・・・っ」 マーガレッタが手招きするのにエレメスは慌てて駆け寄る。 もはや情けないとか言っている場合ではない。 「・・・・・・ハワード・・・・」 セイレンが眉間の皺に指を当てる。 「自由恋愛の邪魔は馬にけられるんだぜ?」 ハワードは頭に刺さった矢を抜きながらぶちぶちとそう言った。 「だがなぁ・・・・エレメスはこんなに嫌がってるんだから、お前もちょっとは控えろよ」 連日の騒ぎにさすがの4人も最近はエレメスの味方になりつつあった。 というかこの二人、変に力はあるせいて暴れられると周囲の被害がすごいのだ。 ハンマーフォールを使ってエレメスと捕まえようとハワードが斧を振り回せば、その範囲の広さに隣の部屋にいたものまで巻き込まれる。 この間はハワードの魔の手から逃げようとしたエレメスがクローキングを使い偶然その下にあった電気ケーブルを引っ掛けて停電を起こした。 昨夜はエレメスの部屋に夜這いにいったハワードが開かないドアを破壊し、その轟音に皆がたたき起こされ侵入者の仕業かと仰天した。 二人の問題と言ってすむ問題をはるかに超えていた。 「とにかく昨夜の騒ぎのこともあるし、罰としてハワードは1週間エレメスの半径3メートル以内に近づくな」 「えー?」 「一週間といわず、一生近づいて欲しくないのだが」 マーガレッタに頭を撫でられ慰められていたエレメスがぼそりと呟く。 だがそれは当然ハワードに無視される。 「エレメスから離れてるといらいらしてくるんだけど、俺」 「その苛立ちは侵入者にぶつけておけ」 八つ当たりされる侵入者は実に災難である。 「ちなみに視姦はOK?」 「それも止めてほしいのだがっ!」 セイレンが何か言う前にエレメスがそうこわばった声で言うが、やっぱり無視される。 自分の自由意志はどこにあるのか。 泣きたくなったエレメスの腕をぽんぽんっとカトリーヌが叩いて励ます。 「押せ押せばかりでは、落ちるものも落ちなくなってしまいますよ。ほら、押しても駄目なら引いてみろというではありませんか。時間を空けて相手を焦らすのも恋の駆け引きでしてよ?」 にっこり笑って入れ知恵を授けるマーガレッタにハワードもしぶしぶと頷いた。 「・・・・・・・・・・・・・」 しかしじっと見つめてくるその視線に危険なものを感じてしまい、恐ろしさのあまり守りたいと思う仲間の中でハワードだけは外してもいいだろうかと泣きたくなったエレメスなのだった。 それから一週間。 4人につかの間の平安が訪れたのではあるが、エレメスに至っては日に日に力強くなって来るハワードの眼光が衣類を透過しているのではないだろうかと思うようになり、逆に気の休まる時は無かったのだという。 一週間後、解禁となったハワードにエレメスの悲鳴がまた復活し、半裸で2Fに逃げ出す姿が目撃されたらしい。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 過去編とは別物として考えてもらった方が言いような気がする今日この頃。 今回は2Fのメンバー紹介を。 イレンドはかわいいあこきゅんなの!という方すいません。 2Fメンバーは転職できたら新二次職系に進みそうだなぁと勝手に思ってます。なんかね、そんな感じ。 |