誰かがこう言った。

この世には「良い逆毛」と「悪い逆毛」がいる…と。

「良い逆毛」は人々を愛し、そして人々から愛された。
過去には名にsakageの異名を持ち、発する言葉の語尾に「逆毛」を付けたと言われる純血種もいたが、もう既に絶滅種とされ過去に彼らに会った事のある人達は「惜しい人達を無くした…」と揃って涙した。
一方「悪い逆毛」は人々を嫌い、そして人々から嫌われた。
原因として気性が荒く、短気で自分だけがいいように振る舞う人間が多かった。
またそれに伴う誤解もあった。
そして「良い逆毛」もそんな人々からの偏見の目から逃れるように消えていったのである。

この話は、そんな世界の中で生きる一人の逆毛の物語である。











STEADY














「何をしている?」

表通りから外れた裏路地で、レンガの壁に押し付けられるように男たちに囲まれていたハンターの少女はその声に助けを求めるように顔を向けた。
そして、何故か余計に泣きそうな表情になる。
胡乱気にそっちに目を向けた男たちは声をかけた男の容姿に、ほっと肩の力を抜いた。
「なんだ?見りゃわかるだろ?それとも何かい。お兄さんも仲間に入れて欲しいって訳か?」
男たちは嫌がるハンターの少女の肩を掴みニタニタと笑う。
「いや!離して!!!」
「・・・・・・そうだな、離してもらおうか」
少女の叫びに始めに声をかけた男の声がかぶさった。
現れた男は赤い髪を逆立てたモンクだった。
破戒僧特有のローブのような聖衣の下には鍛え上げられた筋肉質な体が見える。
しかし顔にはファントムマスクと酸素マスクで覆われており、素顔は窺い知れない。
少女から言わせれば今自分を囲んでいる男たちと変わらないくらい十分怖い上に得体の知れない男だった。
むしろ少女の勘はできるならこの人とも関わりたくないと訴えている。
だがその口から出たのは信じられない事に自分を救う言葉だった。

「・・・・・死にたくなかったら、消えろ」

不意にモンクの体から拳大の青白いオーラの塊が現れる。それはすぐに数を増やし5つの塊が彼の身を守るように周囲を回る。
その一つが横の建物の壁を抉った。
男たちがそれに視線を取られた時だった。

「警備隊の皆さんー!こっちですー!!!ここに女の子が!」

建物の向こうから突然降って沸いた声に男たちがギョッと目を剥いて、慌てたように少女を突き飛ばすように放して逃げた。
いきなり突き飛ばされた少女は地面に膝を付いて座り込む。
「ちきしょう、覚えてろ!」
ばたばたと慌しく去っていく方を呆然と見ていた少女は助かったんだとほっと息をついた。
だが妙な威圧感と自分にかかった影に忘れていたもう一人の存在を思い出して座ったまま後ずさる。
「痛っ!」
だがすぐに立てた膝から伝わる痺れる様な痛みに顔をしかめた。足に力を入れようとするとすぐにがくがくと震えてしまう。
男達に突き飛ばされた時に擦った膝頭は小石にでも引っかかったのか赤い血が溢れるように出ていて、それが地面に伝うほどだった。
逃げたくても逃げられない。
少女は青ざめた顔で目の前に立つモンクの男をキッと睨むようにして見上げた。
「私に変な事したらただじゃ置かないわよ!警備隊の人だってすぐ来るんだから!」
虚勢だと自分でもわかっているのだがそれ以上は何も言えずに睨み上げる。
だがモンクの男は黙って自分のポーチを探り何やら出して地面に膝を付いた。

しゅごー
しゅごー

酸素マスクから呼吸音が聞こえる。それは少女に得体の知れない恐ろしさを感じさせた。
モンクの男が出したのは透明な水が入った瓶だった。それの蓋を歯で開けてハンターの少女の怪我をした傷口にかけて付いていた砂や血を洗い流す。そして新しい血がじわりと浮かびだす前にその上に手を翳した。
何も言わずともすぐに白いオーラが立ち上り見る間に膝の傷は小さくなって消えていった。
少女は驚いてそれとモンクの男を交互に見る。
反対側の足も同じように癒されて、その頃には少女もこの胡散臭さ爆発の男があのろくでもない連中とは違う事は理解できていた。

「…あの……ありがとう」
「……いや」

小さな、だが静かな声がマスク越しに聞こえる。それにものすごく罪悪感を感じてしまって少女は上目でモンクの男を見た。

「……助けてくれたのに、怖がってごめんなさい」
「……気にしてない……早く、この町を出たほうがいい」

しゅーごー
しゅーごー

モンクの青年は立ち上がり、少女が彼の名を聞く前に立ち去ろうとした。
だが途中で眩暈でも起こしたようにその体がふらりと傾く。

「え?」

少女が驚いたように手を伸ばした先で体勢を直したモンクは、また一歩踏み出したところで止まってしまう。それに少女が慌てて駆け寄ってその肩に手を添えて顔を覗き込もうとした。その時、モンクの大きな体がびくっと痙攣を起こしたかのように震えた。

「ちょっと・・・っ。大丈夫!?」
「・・・・・いい・・だい・・・じょう・・・だから・・・・離れて・・・・」

声が途中で途切れて、モンクの男はがくっと手を地面に付いて体を支えた。
気が付かなかったがモンクはぜいぜいと浅く苦しげに息をしていた。だが表情までは酸素マスク越しでよくわからない。

「え!?何?どこか悪いの!!?大丈夫?」

少女が慌ててモンクの青年の酸素マスクに手を伸ばそうとした時、その手が男に触れる前に明るい声がかけられた。

「はいはいはい。そこまで、そこまで。これ以上だと、うちのかわいい兄貴が死んじゃうから勘弁ね」

「え?」

突然現れたのはこれはまた目の覚めるほど明るい青髪の青年だった。
身に纏ってるのはプリーストの衣装だった。このモンクを兄だと言うのならいくらか下なのだろうが、同じ年頃にも見える。
そのプリーストは倒れかけたモンクをひょいっと横抱きにして抱え上げると建物の壁になるところに連れて行ってそこに寝かせた。
お姫様抱きだわ…などと呆然とする思考のままそれを眺める。
「ああ、気にしなくていいから。これ持病なのよ。助かったんならもう行っていいよ」
「その声…」
少女はさっき警備隊を読んでいた声だと気が付いた。
「ん、まぁ。そお。でもって警備隊は来ないから、さっさとこの町から出るなり何なり…」
「その人、大丈夫?」
プリーストの声を遮って少女は聞いた。
「持病って…どこか悪いの?さっきヒール使ったから?」
不安げな少女にプリーストの青年は吹き出すように笑って手を横に振った。

「違う違う。こいつ、対人恐怖症なの」

「え?」
「他人の前に出ると顔はこわばるし、言葉は出ないし、終いには息も出来ないくらい緊張しちゃうんだよ」
「ええー!?」
でもだって、さっきはそんなことなくて。
むしろ堂々としていたあの姿からは考えられない。
怪訝な顔をする少女にプリーストは苦笑しながらモンクの赤い髪に指をもぐりこませて優しく撫でる。
「あんたが囲まれるようにして連れ去られようとしたのを見たらしくてさ。心の準備もなくここに飛び込んだもんだから、多分最初から呼吸困難起こしていたんだろ。ここまできたら酸素マスクとか役に立たないやーねー」
プリーストは手馴れたようにモンクからファントムマスクと酸素マスクを外そうとする。
「………そんな人、外に出して大丈夫なの?」
町にはたくさんの人が溢れていると言うのに。
呆れると言うよりもむしろさっきと今のあまりのギャップに呆然とする少女にセージの青年はカラカラと笑った。
「しょうがないさ。こいつが閉じこもる事を望まないんだもん」
そうして装備を剥ぎ取られた気を失っているモンクの青年を少女は覗き込んで息を止めた。
「・・・・・・・っ!!!?っ!!!!」
「あははー。怖いっしょ」
マスクから出てきたのは般若もかくや・・・むしろ鬼瓦並に怖い顔だった。しかもうなされているのか眉間に皺は寄り、口元はきつく締められている。ぎりぎりと歯軋りまでしている。
痙攣しているせいでよけいに恐ろしい。夢にまで出てきそうだ。

「こいつガキの頃からこうでねぇ・・・・緊張するとこうなるんだわ。ガキの頃からこれのせいで遠巻きにされちゃっててさ。そんな中正義の味方に会っちゃったわけよ。死にそうになったところを助けて貰ったんだって。で、よりにもよってその英雄は赤毛の逆毛騎士さまだったわけよ。もうその人はこの世界にはいないみたいなんだけど・・・・その意思を継ぎたいって思っちゃったんだ。この馬鹿兄」

「・・・・・・・・・・・」

「まぁ、対人恐怖症対策のせいで余計怖くなっちゃったんだけど・・・・」

ファントムマスクと酸素マスクをかざして、はははと乾いた笑みを浮かべるプリーストに少女も引きつったような笑みを浮かべた。
しかしいくら怖くても助けてくれた人には違いない。
額にかいている汗をハンカチでそっと拭いた。
その姿を驚いたようにみたプリーストは目を細めてくすぐったそうに笑った。





「そうか・・・・・」
介護してくれたハンターの彼女がギルドのメンバーに呼ばれたといって礼を言っていなくなってからすぐモンクは目を覚ました。
彼女が礼を言っていたというと、モンクは小さく頷きながらファントムマスクを装着した。
「無事でよかった」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
プリーストはその姿を見ながら諦め気味にため息をついた。
言ってることもやっていることもまともなのだが・・・・酸素マスク(酸素缶入)着装で、周囲に警戒しながら歩く逆毛…。
この姿が回りに与える印象という物を考えた事があるのだろうか。この男は。
いや、考えていてもきっとたいしたことはない程度にしか思ってないだろう。

こういう所がまた可愛いんだけど…。

プリーストはため息をついた。
「・・・・言っとくけどな。兄弟じゃなかったらお前とっくに俺に傷物にされてるからな。何なんだその可愛さは」
モンクはその台詞に思うところがあって一瞬口を噤んだが、別のことを口にした。
「・・・・・・男に傷物って言うものなのか?」
「あんたならOK」
「・・・・・・・・・」

断言されてしまった。

「・・・・・俺に付き合ってくれなくともいいんだぞ?・・・・」
「ばっか。俺いなかったらあんた街中で倒れて死んじまうぞ?え?それでもいいってのか?」
「・・・・・・それは困るんだが・・・・」
「だろー。頼っとけよ。二人きりの兄弟じゃん、遠慮なんてするなよ」
「でも・・・・俺とお前は本当の兄弟じゃ・・・・・」
そう言いかけたモンクは、だが、正面からの視線に口を閉じた。

「お前、そんなに俺に犯されたい訳?・・・・・兄弟だろ・・・・・?俺ら」

プリーストの目はきつく細められており、途切れた言葉を繋ごうものなら何をするかわからないと思うに十分だった。
この血の繋がらない弟は、昔から怒らせると大変怖いのだ。
「・・・・・・・・・・・ああ」
「ほら、またあんた迷子になるから」
返事に満足したように頷いたプリーストはモンクの手を引いた。

「迷子になどなってないぞ。お前が先に行くから・・・」
「はいはい」

プリーストは適当に返事を返してモンクの手を握り直した。
こうして繋いだ手が震えたことは一度もない。


プリーストがこのモンクに付き合う理由。
それは。

対人恐怖症の兄が昔から自分にだけは平気だったから。


「・・・・・・・・・・・・・・・」

プリーストは心持ち握る力を込めた。


「今日はどこ行く?」
「・・・・そうだな」



そうして正義のモンクは今日も行く。
人々に誤解と恐怖を振りまきながら。
















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タイトルを『ああっ!SAKAGEさま!』にしようか本気で10分ほど悩んだ。けどあんまりなんで・・・。
ちょっとでも楽しんでもらえたら嬉しいです。
トナミミナト拝














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