ロードナイトは両手の指を組みながら神に祈るように空を仰いだ。

その表情はどこまでも清らかで、清廉。
短い髪は逆立てて凛々しさを絵に描いたような男は遠い目をしながら呟いた。

「俺・・・・・三次職になったら、上への訴えも含めて裸で竜に乗るんだ」

「行う前にギルドだけは解体してくれ。頼む」

「裸一貫。まずはそこから三次という道を歩こうと思う。裸は男のフル装備って言うもんな」

ハイプリーストの訴えなど聞いていないこの男こそが、ハイプリーストとアサシンクロスのギルドマスター、諸悪の権現なのだった。
















 大惨事 2













「腰巻ないとやだやだやだやだやだやだ―――!!」

今日も今日とてアサシンクロスはギルドのたまり場であるプロンテラの一角、木箱の上でごろごろと駄々を捏ねていた。
その木箱の傍らでハイプリーストは腕を組んだまま黙っている。目を閉じたまま俯いているところを見ると眠っているのかもしれない。
その前で石畳に座る一人の男。二人のいるギルドのマスター、ロードナイトがからからと笑っていた。

「街の中で衣装を飾ってるところ見たけど、結構いいじゃねーか。シンプルで。俺も聖闘士になりてぇなぁ」

「俺は暗殺者なの! アテナを守る聖闘士なりたくてこの職についたんじゃないもんんんん!!」

アサシンクロスがごろごろごろごろと転がる。
相変わらず木箱から落ちるギリギリのところを見極めている男だ。
はっはっはと爽やかに笑うギルドマスターの横には、石畳にのの字を描いて膝を抱えているチャンピオンがいる。

「なんで、修羅・・・・いきなり露出狂になるん・・・? でもあれよね。上着肌蹴てるだけやから、羽織ってもええよね。わい、腹冷えるとすぐ下痢するんやもん。最悪、上着ズボンに縫い付けててもサラシ巻くくらいならしてもええよね・・・・」

のの字が何個もできているさらに横でホワイトスミスが中腰で座り、ペロペロキャンディを舐めながら遠い目をしている。

「ジーパン・・・・染めるか・・・」

「こらこらお前らー? さっそく服の魔改造はやめとけー?」

HAHAHAHAと笑うギルドマスタに、チャンピオンとホワイトスミスは顔を歪めながら中指を立てたまま拳を突きつけ、さらにその腕をもう片手でぱぁんっと叩く。
なりたくもない三次職に無理やりさせようとするのはこのギルドマスターなのだ。
二人は歯切りしながら唸った。

「俺・・・発光するまでこのままでいいやと思ってたのによ!」

「わいもー!」

「皆で揃って仲良く三次職になりたい。この俺の気持ちがわからないとは貴様らそれでも人間か!?」

「「黙れ、非人間」」

ホワイトスミスとチャンピオンは顔を引きつらせてギルドマスターを足蹴にして転がす。

「一人でなればえーやん!」

「やだやだやだやだ!! みんな一緒じゃなきゃやだ――――!! あんな羽織にダサい蛍光色の宝石、皆で転職するって思わないと踏ん切りつかないんだもん ―!!」

ギルドマスターは石畳の上でアサシンクロスと同じようにごろごろ転がる。
子供の駄々を繰りかえしているギルドマスターは立派な成人男性だ。
そしてその大人もどきはキリッとかっこつけながら二人を見上げた。

「恥ずかしい思いは皆で分かち合おう!! 今まで喜びも悲しみも苦しみも共に分かち合ってきた仲じゃないか!!」

「「一人で恥ずかしがってろ」」

二人は同時にギルドマスターの顔面に蹴りを入れる。
そのまま踏み潰されたギルドマスターはぴくぴくと痙攣して動かなくなった。
ホワイトスミスが目を閉じたままのハイプリーストの肩を叩く。

「お前も何とか言えよ。マジで三次職になる気か?」

「ん・・・・?」

ハイプリーストは本気で寝ていたらしい。
だが、ホワイトスミスが同じ事を言うと、頭を掻きながら眠そうな顔で言う。

「俺はまだなる気は無いぞ」

「「「「えええええええええ!!!?」」」」

驚いたのはアサシンクロスも含めた残りの4人だ。

「だってもう一週間切ってるんだぞ? こいつマジで俺たちドナドナする気でいるんだぞ!? すでに俺たちの隠れ家や常勤の狩場をチェックしているどころか、顔写真入りの手配書まで作成してて、消えると同時に懸賞金かける気でいるんだぞ!? しかもその懸賞金で家が買えるんだぞ!?」

「テヘ。がんばっちゃった☆」

かわいらしくぺろっと舌を出したギルドマスターが拳で自分の頭を軽く叩いてみせる。
その顔面にホワイトスミスとチャンピオンの拳が埋まって再びギルドマスターは倒れた。

ホワイトスミスが詰め寄っても、ハイプリーストはたじろがない。
むしろ顎をしゃくって不敵に笑う。

「お前ら聖職者にとってJOBがどれだけ大事かわかるか? 三次職でのJOB上げがどれだけ大変かもう一度経験値テーブル眺めてみろ? 無駄なものなど欠片もない、むしろ隙間も無いんだ。JOBも半端に転職すればお前らの支援に差し支えるが、それでも三次職になれというのか? なぁ、ギルドマスター?」

腰を屈めてまだ倒れ付しているギルドマスターに詰め寄るハイプリーストにアサシンクロスが木箱の上から叫んだ。

「てめぇ!! ずいぶん余裕だなと思ったらそれかあああああ!! ずるい!! このずるがしこさ王があああ!!」

「無い頭で考えた悪口がそれか。中2でもまだマシだぞ。この耐久値1の貧弱紙装甲が」

「わあああああああん!! 耐久性ないのは男の浪漫なんですううううう!! ひらひら避けるのがかっこいいのおおおおお!!」

「そういうことはソードガーディアンを避ける様になって言え」

「わあああああああんっ!!」

返り討ちにあって泣き崩れるアサシンクロスは放っておこう。
ハイプリーストは最初からこのタイミングで三次職になる気は無かったのだろう。
いつかはなるとは思っていたが、上記の理由で今はまだならない気でいた。

「ん」

体を起こしたギルドマスターは、くりっとした丸い瞳をして、ハイプリーストを見上げた。

「お前、今JOBいくつだっKE☆?」

「え・・・・65だけど」

なぜかギルドマスターの声が読み慣れない台本を読むように片言だ。
帆の表情とあいまって何故だかアマツフィールドの団子童子を思い出す。

「JOBおいしい所ってどこかNA☆」

「俺行かないからよくわからないけど生体3・棚・名無し・狭間とか聞くNE☆」

傍らでホワイトスミスが口元を引きつらせてペロペロキャンディを噛み砕きながら言う。
ハイプリーストを見る瞳は何故だかギルドマスターを同じだった。

「声かければ他のメンバーも集まるんちゃうかNA☆」

同じように片言のチャンピオンのこめかみにも青筋が浮かんでいる。
ホワイトスミスもチャンピオンも意外なところにいた裏切りものに顔を引きつらせていた。

毒食らわば皿までって素晴らしい格言だよNE☆とギルドマスターが呟く。

「もうちょっと軽いとこでもいいんだけど・・・NA」

アサシンクロスがあわせてお願いすると、三人の銃弾のような視線がアサシンクロスを蜂の巣にした。
木箱の上で、アサシンクロスは死体のように崩れる。

三人は気にせずに乾いた笑みを浮かべながら、・・・・・・・・やはり顔を引きつらせて眉間に皺を寄せていた。

「そういえばあと4日あるNE☆」

「そうだNE☆ カートに保存食積めばしばらく帰らなくてもすむYO☆」

「あ、WISしたらプロフェッサー捕まったYO☆ もういっそG狩りでええんとちゃうかNA☆」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ギルドチャットでも、三次職に好意的なチェイサーとレベル的に関係ない輩を除いて参加する気満々の台詞が並ぶ。
その声はハイプリーストに対する怨嗟の念が込められている。

「今、経験値換算が甘いらしいSHI☆? 寝ないで狩り続けたらどこまで行けるかNA☆?」

「ちょっと待て・・・」

状況が読めて青褪めたハイプリーストがギルドマスターの肩を掴むと、ぐるんっと首だけが180度回転して振り返った。
その目は相変わらず丸いままで、ハイプリーストの背後でアサシンクロスがピギャアと叫んで頭を抱えて何かに謝っている。

「受付始まったら問答無用だからNE☆ がんばRO―☆」

おーっと腕を空に向けて振り上げるギルドマスターの目は笑っていない。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

この男はマジだ。

ハイプリーストだろうとなんだろうと関係ない。
JOBが足りなかったらマジでそのまま転職させる気だ。

「JOB惜しい子はおいでNE☆? 楽しい楽しい耐久レースだYO☆?」

ギルドマスターがギルドチャットにそう発言を投げ落としている間に、ホワイトスミスはHAHAHAとヤケで笑いながらカートを引いて倉庫に向かっている。

「時と空間の神々に・・・・むぐっ」

ワープポータルを開いて逃げようとしたハイプリーストは、がっしりとギルドマスターとチャンピオンから羽交い絞めにあった。

「HAHAHAHAHAHA☆ 楽しい4日になりそうだNE☆! ・・・・何人発光できるかなあああああああああああ!?」

あははははは!と笑うギルドマスターの言葉はあながち間違いでもなかった。






4日後、三次職の受付が始まった時、底抜けにテンションの高いロードナイトと一緒にやってきたハイプリーストはずいぶんと憔悴しながらも発光した上でJOBまでカンストしていた。
その背後にいた他の転生職もまたほとんどがが発光していて、何故か体を縄で括られたまま恐ろしいものを見たかのようなトラウマに怯える目をして震えていた。
その中でもアサシンクロスが一番怯えながら「生きていてごめんなさい。耐久力が無くてごめんなさい。腰巻が無くてごめんなさい」と何度も呟いていたという。











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三次職前の悪夢。






















































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