TALKING WORKER 2 プロンテラほど人が多いわけでもないが、有名な地下ダンジョンの一つがあるだけに多くの冒険者達が集まってくるフェイヨン。 そんな長閑な町並みの中で露店を出しているBSがいた。 先日上位職の試験に合格したばかりのピジョンだった。 少年というには少々男らしさを顔に刻みながらも、その表情はあいも変わらず子供っぽい。 しかも今少々困ったように眉尻を下げていたりするものだから余計だ。 そんなピジョンの横には今膝を抱えて地面にのの字を書いているアサシンがいた。 ピジョンと同じギルドのメンバーのアサシンで、名前をオウルと言う。 「ツバメは・・・やはり後悔してるんじゃないかな」 さっきからどんより雲を背負っている年上のアサシンの肩をピジョンはどついた。 「後悔って・・・、式はもう明後日でしょ?ツバメさんはプロポーズも受けてくれて、ウエディングドレスもタキシードも指輪も何もかも準備してるんでしょ?後は当日迎えるだけだって言うのに、何を後悔するっていうんだよ」 「だって・・・・・・俺、弱いし。珍ステだし。ツバメは美人だし、支援もうまくてさ」 「気も強いけどね」 「臨公とかで一緒になった男とかから耳打ち頻繁にかかってくるし・・・心配なんだよ」 「・・・・・・だからってあんたがマリッジブルーになってどうすんだよ。ツバメさん今何処?そんなに言うなら一緒にどっか狩でも行ってきたら」 「・・・・・・この間プロポーズしてきた同じギルドの騎士と臨公中・・・。ツバメもうすぐ次のレベルだし、効率は向こうがいいから・・・」 言って、さらに落ち込むアサシンに、ピジョンも絶句した。 通りで落ち込んでいるはずだ。 自分たちの目の前でやった騎士のプロポーズに、あの時は心底驚いたのだ。 ツバメは即座に断ったが、あの騎士がこのアサシンのオウルを意識してやったことは明白だった。 そんな相手と一緒では、こんなにいじけていても仕方ないのかもしれないが・・・。 「でも、同じギルドのあの騎士野郎より、ツバメさんはあんた選んだんでしょ」 違うギルドであるにも関わらずだ。出会いはたまたま一緒になった臨公だったようだが、それからどういう経路があったのか知らないが付き合うようになり、ここまで来たらしい。結婚の報告を幸せそうにしてくれたのはついこの間だと言うのに・・・。 「何でかなぁ・・・」 煮え切らない態度に思わず、その丸まった背中を再度どついてしまったピジョンである。元より気は長い方ではないのだ。 「痛い・・・」 「珍ステだろうとなんだろうと、その時はそれでいいと思って自分で振ったステだろ!それに助けられた事だってあるだろ!自信持ちやがれ!!それにあんたまだレベル99にもなってないくせに、弱い弱いって嘆いてるんじゃないよ!まだどうとでもなるだろーが!!」 「うう〜」 「その情けない顔どうにかして、フェイヨンダンジョンにでも篭ってレベル上げてついでにカード一つでも取って来い!」 無理やり立たせて、売り物の牛乳持たせる。そしてその尻を蹴り飛ばすように送り出した。 まだ情けない顔して何か言いたそうにしているオウルに、ピジョンは眉間に皺を寄せて自前の斧を構えた。とたんに逃げるように走り去っていったオウルの背中に一つため息をついて、口を開いた。 「ツーバメさん」 「は・あ・い」 ピジョンが元の位置に座って口に出した人の名前に、木の陰から顔を出てきたのは今話しに上がっていたプリーストだった。 長い髪と法衣をひらりとさせてくすくす笑うその姿はピジョンから見ても可愛くて、魅力的だった。 「やっぱりピジョン君にはばれていたわねぇ。オウルなんて気がつきもしないままだったのに。もう情け無いったら」 「臨公は?」 「今さっき終わったばかり。無事レベル80の大台に乗りましたv」 ツバメはVサインをする。 さっきまでオウルが座っていたところにぺたりと座り込んで、ツバメは懐から出したお財布からお金を出してピジョンに渡す。 「今さっきオウルに渡した牛乳のお代ね」 「いいよー、別に」 「いいからとっといて。こういう事今回が初めてじゃないんでしょ?結婚資金結構かかってるからあいつ今、本当貧乏なのよねぇ…。私も半分出すっていってるのに、あいつ頑固だから全額自分が出すなんて言って引かないんだもん。・・・本当馬鹿」 そう言いながらも、その目は優しい。 ピジョンは空を見て微笑むツバメを見ながら、何気なく口を開いた。 「あのさー・・・聞いてもいい?」 「何?」 「ツバメさんが今レベル上げ頑張ってるのって、オウルさんの為じゃないの?」 それに、ツバメは驚いたようにピジョンを見た。 「やだ、どうして」 「だって、ツバメさんってもともと効率とか気にしない人だからさ。だったら、あのへぼアサの為かなと」 そういえば、ツバメは組んだ指を膝の上に置いて、一つため息をついた。 「・・・・・やっぱり足手まといにはなりたくないじゃない?・・・・・・本当、分かって欲しい人にはわかってもらえないのにねぇ・・・」 「言わないと、気が付かないと思う。鈍いから」 「言わないわよ。恥ずかしいじゃない。あなたの為になんて」 ほんのり頬を染めてツバメは立ち上がる。聖衣の埃をパタパタと落としながら、 「式には来てくれるんでしょ?」 「うん。楽しみにしてる」 「もちろんあなたのダーリンも一緒よね?」 「ダ・・・っ」 思わず絶句するピジョンに、コロコロと鈴が鳴るように笑う。 「ホーキングさんだったかしら。会うのは初めてだけど、楽しみだわ。ブーケは君に投げるから受け取ってねv」 「いらない〜!!!男が受け取ってどうするのさ!」 いくらピジョンでもブーケが「次の花嫁になれる」という意味を持っていることくらい知っているのだ。 笑いながら手を振ってフェイヨンダンジョンの方へ向かうツバメに、ピジョンは表情を緩めて振り上げていた拳を下ろした。 「幸せものじゃん」 情けない顔したアサシンの姿を思い出しながら、ピジョンはくすりと笑った。 「誰が幸せもの?」 「うわぁぁぁ!」 背後からタイミングよく背中を叩かれて、仰け反る。振り返ると今話しに上がっていた吟遊詩人のホーキングがいた。 ピジョンの慌てぶりに、ほけっとした顔で手を合わせる。 「え・・・と、ごめん。そんなにビックリするとは思わなくて。・・・・・・今のもしかして、オウルの相手だったのかな?美人だったね」 そう言って彼女が去った後をちらりと見る。 それにピジョンは片眉を上げた。 「・・・・・・ふうん・・・。ああいうのがあんたの好み?」 何でもないように言いつつも、さり気ない嫌味が入ってるのは修行が足りない所為だ。 冒険者としてのレベルは上がっても、恋愛に関してはまだまだ目の前の人物にはかなわない。 ホーキングと初めて会って、その日に同意無しで押し倒され、そしてプロポーズまでされるという思い出深い怒涛の一日から1年が過ぎようとしていた。 あれからの腐れ縁は今尚現在進行形である。 というか、周囲から見ても立派な恋人同士という関係に落ち着いてしまった。 まぁ。ああ、畜生なんだってこんなのと・・・と思わないわけではないが。 そりゃ、体の相性も良くて(良すぎて困るくらいなのだが)。少々欝気味なのは相変わらずだがピジョンに関しては積極的で(迷惑なほどに)。悪い人間でもないし(手段を選ばないところは相変わらずだが)。あの声にはどうしてか逆らえないし(分かっててやってるし)。 そしてそれ以上に。 「・・・・・・情が移ったんだよなぁ・・・」 もしかして、ツバメさんも同じだったのかなぁ・・・などとオウルが聞いたら怒り出しそうな事を考えてしまったピジョンだった。 ガックリと肩を落とすピジョンをホーキングは不思議そうに見ていた。 だが、何かを思い出したようにズボンのポケットを探る。 そして、座り込んでいるピジョンの手を取って立たせた。 「ピジョン」 「・・・なに・・・?」 やけに真剣な声で名前を呼ばれて、思わずどきりと胸が鳴ってしまったピジョンだった。 ホーキングの端正な顔を見上げる。 「付き合って一年。そろそろ自分達も正式に身を固めてもいいんじゃないかって思うんだ」 「は?」 突拍子もないことを言うのはいつもの事だが、今回のは今まで以上だとピジョンは固まった。 正式に身を固める? それが意味する事などピジョンは一つしか知らない。 開いた口が塞がらないとはこういう事をいうのだろうか。 「・・・・・・同姓の結婚は認められてないんだけど」 「分かってる。だから形だけだけどね」 そう言って、ホーキングはピジョンの左手を取った。 ホーキングの指に挟まれた丸いリングが見えて、ピジョンは慌てた。 「何お前っ・・・人の結婚に触発されてんだよっ。ちょっ・・・」 左手の薬指にするりとリングが通される感触に顔を真っ赤にして肩をすくめる。 こういう強引なところはあいも変わらず。腹立たしいと思うことはあっても、ホーキングは何時も自分の事を真剣に考えているとわかっていた。だから怒りたくても怒れないのだ。 だって・・・嬉しいと思う自分もいるから。 今更だと思いつつ、こうして形にしてくれようとするホーキングに、こういう所が好きなんだよなぁ・・・などともう片手で赤くなった顔を覆う。 そうしてピジョンは恐る恐る薬指に嵌められた指輪を見た。 そこには、金色や銀色に輝くリングではなく、シャレコウベを象った骸骨の指輪があった。 「ふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁああ!!!ごるあぁぁぁ!!!」 思わずその指輪を即座に引っこ抜き勢いよく地面に叩き付ける。ピジョンの剣幕に、ホーキングが目を丸くした。 ピジョンはその胸倉を掴んで捻り上げる。 「骸骨の指輪って、どおいう事ですかっ。積載量一杯でカーレボ食らわすぞ!!!このやろう!!」 「え。いや、死んでも永遠に・・・って意味が凄くいいなぁと思ったんだけど・・・気に入らなかった?」 「気に入る気に入らない以前の問題だ!!!しかもこれ、今さっき採れ立てだったりするんだろ!?」 「あ、さすが。ピジョン。よくわかったねぇ。今ダンジョンで偶然ペアで取れたんだよ♪」 ほええと暢気そうな顔をしたまま拍手されてしまい、ピジョンはがっくり肩を落としてしまった。 どこに永遠の愛を誓うのに骸骨の指輪を送る馬鹿がいるんだ。 いや、もう。こんな奴、お前だけで十分だ。こんちくしょう・・・。 まじめに喜んだ俺の気持ちを返せ、すっとこどっこい。 さっきまでの幸せな気持ちも跡形も無く砕け散り、何だか情けなくなって涙まで込み上がってしまった。 「・・・ピジョン?」 世間の斜め45度を地で行くホーキングでも、ピジョンがどうやら怒っているらしいという事はわかったらしい。 「どうかした?具合でも悪い?」 だがその心配はやはりというか、斜め45度だった。 「・・・・・・・・・・・」 ピジョンはカートを握ってホーキングに向かって振り上げた。 「銀の指輪持ってくるまで、宿に戻ってくんなこのトントンチキーーーーーー!!!!!」 ドガシャーーン!!! カートに吹っ飛ばされ盛大に飛んでいったホーキングは、空にきらりと光るお星様になった。 ぷりぷりと怒るBSは周りに視線を受けつつ店じまいをし、カートを引いて町を出て行った。そんな彼が吟遊詩人一人でピラミッドなど行ける筈が無いと思い出すまでもう少し時間が必要だった・・・・・・。 後日、何故だか腑に落ちない顔をしているBSと、嬉しげに笑っている吟遊詩人の姿がピラミッドで見られたらしいがそれはまた別の話で。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ アホ話大好きなんです。 ピジョン君は、戦闘BSです。ううむ、戦闘BS受け萌え。 強気嫁大好き。笑 |