昔、神と人間、そして魔族による戦争があった。
その長きにわたる聖戦の末、壊滅的な打撃を受けた3つの種族は滅亡を避けるために、互いのひそやかな休息を得る事になった。
1000年の平和‥‥ 。
この長い休息によって得られた平和は、ミッドガルド大陸で生活している人類から悲惨な戦争と、過去に受けた傷を忘れさせてしまっていた。
彼らは過去の過ちを忘れ、己の欲望を満たすために自らの文明を発展させていった。
そしてある日、少しずつその平和のバランスが崩れる異常気象がミッドガルド大陸の所々で現れ始めた。
人間界と神界、魔界を隔離する魔壁から響いて来る轟音、凶暴化する野生動物、頻繁に起こる地震と津波。そして、いつの頃からか広まっていった魔物たちの噂。

だが、人々はその本質を忘れ、それぞれの利益のため、
その正体と富を求めて冒険へと旅出っていった‥‥。

過去の記憶を忘れて‥‥。


(ラグナロクオンライン公式より)












TRADITION






とまぁ、やってる人たちも忘れているかもしれないが、そんな世界の終末を旅するどこにでも居る二人がいた。


一人は痩身の24,5の青年。名前をアキと言う。
魔術師独特の瞳の装飾をほどこしたマントを身につけている。
蒼銀の髪を前髪だけ半ば顔を隠すように伸ばし、それに見え隠れする瞳は灰褐色。
背も175前後。美男子というよりは優男という風情だが、優しげな顔立ちはどこか人に温かみを持たせる。
だがその目は芯のしっかりした物を感じさせた。

もう一人は17歳程のマジシャンの少年。名をサクラと言う。
癖のある短い黒髪が歩くたびにふわふわと揺れる。漆黒の瞳はどこか理知的で大人びて見えた。
成長期を思わせる伸びやかな手足が印象的で、今でも十分美少年といわれるに値するが後3年もすれば周りがほっとかないであろう美丈夫になるだろう事は間違いない。
そしておそらくはこの魔術師の弟子なのだろう。
その特殊な職業から、マジは魔術師の弟子になる事が少なくない。


記帳している青年の隣でサクラは今夜泊まる宿屋の受付嬢と話していた。
「食事は一階で取りますか?軽いものでよければ部屋までお持ちしますけど?」
「んーと。…出来たらお部屋までお願いできませんか?お師さまを早く休ませて上げたいので」
少年は心配げに師と仰ぐ青年を見上げる。
青年は血の気が引いていると言ってもいいくらい青白く、受付嬢から見ても具合が悪そうだった。
「あら、本当に…。大丈夫ですか?お医者様に来ていただきましょうか?」
受付嬢が心配げに問い掛けるのに、青年は引きつった笑顔を浮かべて首を横に振る。
「長旅で疲れただけだから。…ありがとう」
笑うと人懐こくなるその優しげな顔に受付嬢はぽっと頬を染める。
それにぴくっとマジシャンの少年の片眉が上がった事にこの二人は気が付かない。
「し…いや、サクラ。お前は下で食事を頂きなさい。久しぶりのまともな食事なのだから」
「いいえ!僕、お師さまの看病をします!僕を守ってお疲れなのですから、せめてお世話させてください!」
目に涙を浮かべ懸命に訴えるその姿は容姿も相まって健気で、受付嬢も心打たれてしまった。
何より二人ともなかなかに見た目がいい。
こういう師弟関係っていいかもしれない、となにやら心ときめかせたのかどうだか知らないが受付嬢は慌ててツイン部屋の鍵を一つ用意する。
「鍵はこちらです。お部屋は2階の奥の部屋をお使いください。少しは静かに眠れると思いますよ」
「ありがとうございます。お姉さん」
自分より年下の人懐こい笑顔に「こんな弟が欲しかった」と思い受付嬢は笑顔を返す。
「後でサンドイッチを持っていきますね」
「はい、お願いします」
弟子は足元がふらついている師匠の腕を自分の肩にかけて支えるようにして歩き出した。
「お師さま。今夜はやっとベットで寝れますね♪ここ一週間野宿で体が固まってしまいそうでしたよ、僕」
「そうですか…」
弟子がかわいらしい顔一杯に嬉しいと書いて笑っているのに、師匠と呼ばれた青年の方はさらに顔色が悪くなっているようである。
この町に付いてからこの魔術師はこんな調子だった。
「今夜はゆっくり出来ますね♪」
「……そ…そうですね」
少年の言葉に青年はもはや蒼白に近い顔色で頷く。



宵も半ば。
用意された部屋は見た目は薄汚れていたけれども清潔に掃除が行き届いていて不快には思わない。
一階の酒場兼食堂から一番遠い位置にあるのだろう。喧騒は本当に小さくしか聞こえなかった。
隣接されている部屋にも人が入っている気配は無い。
部屋に入ってすぐ、青年は突き飛ばされるようにベットの上に倒れこんだ。
予想はついていたのだろう。青年に驚いた様子はないがやはり眉を潜めて体を起こす。
そんな魔術師の上に少年が覆い被さった。魔術師が逃げないようにマントを膝で抑えて身動きまで制限させる。

「ねぇ…。お師さま。何女の子に色目使ってるんですか?」

その目にさっきまでの無邪気さはない。
飢えた獣が小動物を目の前にしたような愉悦に満ちた男の目だった。
整った顔立ちをしているためそれがやけに冷たく見える。
「何言ってるんですか!色目なんて使ってませんっ」
「いーや。あの受付嬢顔を赤くしてましたよ。結構タラシですねーお師さま」
くすくす笑いながら追い詰めるように魔術師に唇をせがむ。
嫌がって暴れる体を押さえつけて馴れた仕草で魔術師の唇を味わい口内を蹂躙していく。
影が二つに分かれた頃には魔術師の青年は頬を上気させて息も絶え絶えに、うっすらと涙の滲んだ目で自分を見下ろすマジシャンの少年を見上げた。
その姿はどこか扇情的だった。

「…っ。あなたほどじゃないですよっ!もう人目がないからその呼び方も止めてくださいっ。今日は誰かさんの所為で具合が悪いんです、休ませてください!――――――師匠!!」

魔術師の抵抗と叫びに少年はゆっくりと笑みを浮かべた。

「誰かさんって俺の事?そういやさっきも俺の事、師匠とか言いかけてたよなぁ…アキ…?」

言葉づかいすらもガラっと変わっている。いや、元に戻ったと言えばいいのか。
隠されていた本性が現れていくのに嫌な予感がしてまだ年若い魔術師は小さく震えていた。
蛇に睨まれた蛙と言えばいいのか。まな板の上の鯉といえばいいのか。そんな心境である。
一方マジシャンの少年は楽しげにくつくつと笑って自分のマントを外して隣のベットに放り投げた。

「駄目だろう?まだ俺のような存在は皆には内緒なんだから。ウィザードがマジに師匠だなんて言ったら皆何事かって思うじゃないか」

少年ではありえないほど深い瞳と底の無い低い声にアキと呼ばれた魔術師は怯えてしまって声も出ない。
それを宥めるように彼の蒼銀の髪を撫でてやりながら、青年から師匠と呼ばれた少年は優しく甘い声で彼の耳元で囁いた。

「イケナイコにはお・し・お・き・な・?」

「――――――っ!!」
逃げようとするアキの体を難なくねじ伏せる。体術も体力も何もかも一辞職では在り得ない力をこの少年は持っていた。
「今夜は…っ。ゆっくりって…」
「うんうん。良かったなー。ここだったらゆっくり時間かけてできるな。外だと周りが気になってどうしても集中できなくて短時間で済ませてしまうからお前も満足できなかっただろう?」
「何言ってるんです!!そう言って一週間毎晩毎晩盛ってたのはどこの誰ですか!!」
しかも下だけくつろげて交わるという見もふたも無い抱き方をされてアキの体はがたがただった。
だがサクラはアキの抵抗も何のその。満面の笑顔を浮かべた。
「いやー若いってのはいいもんだね。50近いとこうはいかない」



えー…。もう既に混乱している皆様の為に魔術師が服剥かれている間に少々説明してもいいだろうか?(笑)


この世界が日々変わっていることはご存知だろう。それは新しい世界が解放されたり、魔物が見つかったりと言う事でも分かるのだがそれに併せて人間の方にも新しい摂理が出来ることもある。
そして今回関わってくるのがその摂理の一つ『伝承システム』である。
伝承システムは最高レベルに到逹した特別な戦士たちのためにもう一度世の中に生まれ変わり、しかも転職を通じて2次職業郡の 上位職業郡に新しく就く事が出来るという画期的なシステム。
つまり簡単に言えばそれまでの人生をリセットする事によって「そして伝説へ…」と言いたくなるような人物が生まれる事になるのだ。
ただし今はまだ一般の人々には知られていない。
より強大な力を持つ人々が生まれる事により世界がどう変化するかそれは諸刃の剣でもあるからだ。
下手に導入して混乱させる前にこの世界の最高指導者たちは試験を行う事にした。
最高レベルの人間を幾人か集めて彼らを一次試験体として扱い、そのデータをもとに調整をはかろうとしたのだ。
このマジシャンのサクラもその伝承を行った一次試験体の一人。ハイウィザード候補だった。

サクラは今でこそ17ほどの美少年マジだが元は齢49の大魔術師だった。
外見は30後半に見え、この少年から分かるように10人いれば9人ともがその姿と生気に溢れた彼に目を奪われるほどのかなりの美丈夫だったのだ。
だがこの男。血の気が多く色と騒ぎを好み、騒動が起こらなければ自分で起こすようなとんでもない性格をしていた。
術の腕も天才的でこの世界でも指折りの魔術師だったのだからその騒ぎといったら…過去に国を傾けかけた事もある言うからとんでもない御仁だった。
彼は弟子も幾人か取っていて、今彼に食われそうになっているアキもその中の一人だった。

伝承にはただでさえ対象者の命の危険が伴う。
何せ今まで培った力を全部捨て去る事になるのだから。特殊な人間ゆえに魔物はもちろん人間からも害を与えられないとは限らない。
そして、このサクラと言う人物は…厄介な事に元々敵を作るのが趣味のような人間だったのだ。
恐らく向こうからの一方的な知人を含め、声をかけられる人間の9割9分5厘(笑)は敵だろうといった具合だ。
『伝承システム』はトップシークレットの扱いを受けていたがそんな情報はどこからともなく漏れるもの。
転生して一週間ほどたった今までに襲撃を受けること4回と言うすさまじいペースで襲われていたのだ。それからアキは師を必死になって守っているというのに、この人と来たら若返った事をいいことに弟子に毎晩無体な事をなさっているご様子。これではこの若い魔術師が顔色を悪くしているのも頷けると言うものだ。

と言うか自分の命にも関わってくると言うのにこんな事していていいんですか?お師匠…。
あんたまだ自分の身も守れないくせに。

(ああん?何か文句あるってか?)

し…失礼いたしました〜(に…睨まれちゃいましたよ…泣)
魔術師が綺麗に剥かれてしまったようなので元に戻りますね。



「止めてくださいっ…。師匠っ……やっ」
銀青の髪をシーツの上で振り乱し嫌がる姿はかなり必死で、それに少年も眉を潜める。
「お前…俺がこの姿になってからやけに嫌がるな……。前の方が良かったか?」
ん?っと子供に聞くように目を合わせこつんと額を合わせて聞く。
アキは頬を染め目にたまった涙を頬に零した。
「……アキ?」
優しく、だが問い詰めるように愛弟子の名を呼ぶ。
「…………他人に…」
「ん?」
「他人に抱かれてるようで…嫌なんです……。前のあなたとは…違うから」
顔を赤らめて怯えるアキに、サクラもおやまぁと毒気を抜かれたようにぽかんとして。
また何やら意地の悪い笑みを浮かべた。
姿はまだ若造と呼ばれても仕方ない頃なのにその笑みは老獪した人間のそれだ。
傍目から見れば違和感も甚だしかったが生憎それを気にする人間は居なかった。
「違う?どこが?姿形?声?」
「っ」
わかっててからかうその声にアキは目を閉じて肩をすくめる。
まるで薄い殻に閉じこもる小鳥のようだ。
両手で握り締めてしまいたくなる。
その姿でさえも愛らしいと思ってしまうのだから自分もかなり毒されている。しかも重症と自分でも思うがここで逃がせるほど人間の質はよろしくない。

「体が少し小さくなってるからなぁ。……今まで入っていった奥まで貫いてこない事がイヤ?」

「――――っ」
「アキのH――― v」
今度こそ耳まで赤くなって首をそむけるアキをくつくつと意地悪げに笑いつつ見下ろす。その白い肌に手を這わせながら、その姿をシーツに貼り付ける。
「お前は本当に可愛いね。ああ、確かにお前は俺以外知らないもんな。そう思うのも仕方ない。……ふむ。アキ、目を閉じて?」
目の前にある耳に注ぎ込むように甘い声を送り込む。
まるで毒でも注ぎ込まれたかのように体を震わせて、だけども師の言うように目を閉じた。
閉じられたまつげが小さく震えているのを愛しげに見ながら髪を撫でる。
「お前の性感帯は全部知っているんだ。それを全部当てる事が出来たら信じてくれるかな?」
「…っ。しなくていいですっ」
「お前に拒否権はないよ?なんてったってこれは御仕置きだからなぁ…」
いつの間に用意していたのか。タオルでアキの両手首を縛ってベットの端に括る。
「痕を付けるなよ?」
それは暗に暴れるなと言う忠告だった。この人の忠告を破ればさらに手ひどいお仕置きを受けることになる。
「師匠っ」
少年の手が下部に落ちる。すでに熱くなっているそれを握りこまれアキの体が跳ねた。
「その呼び方もいけない。いつも名前で呼び慣れないといざと言うときにボロを出すぞ。俺の名前は何だっけ?アキ」
「………サクラ」
「いい子だ」
「あっ…っく」
いきなり上下に摩られる。その甘い刺激に足でシーツを蹴った。
「ほら、目は閉じて」
「……やっ…あっ」
「まず上からいってみるかな。アキは耳の裏が弱いんだ。それとこのうっすら見える頚動脈の上も」
ねっとりと舐め上げて上がる声を楽しむ。
動かしている右手はそのままに唇を合わせる。
最初は軽く吸い付くように重ね合わせ、震える唇に舌を這わせてその中に滑り込ませた。開いている左手は胸の飾りに悪戯に触れて、わずかに反応する感触を楽しむ。
右手の中のものも涙を流しているのを感じてそれをくぼみに塗りこめるように指先を使った。
「ああっ…あっ」
「ここも弱い」
「んっ…ふっ…」
嫌がる仕草をするアキを逃がさないように胸で遊ばせていた手で顎を摘む。 顎の下を撫で回すように這わせて尚且つ音を立ててアキの舌を自分の舌で絡め取る。卑猥な音を立てる事が恥ずかしいのか逃げようとするがそれを許さない。
もう限界が近い事を知らせるかのようにアキが体を震わせてベットきしませた。
逃げる事も出来ない熱いうずきにアキはベットに括られたままの腕を引き身を上に逃がそうとする。
だがそのまま弱い部分を爪先で引っかかれ、その衝撃に達した。
「――――っ!!!」
サクラは口元を上げてシーツを汚さないように手の平でアキの熱情を受け止める。さらにそれを零さないように残滓を促した。
その間も唇は合わせたままで叫びすら閉じ込めて角度を変えて味わう。
最後の開放に身悶えているアキの様子に気がついたのか舌を抜いてその鼻を軽く摘む。
「こら、夢中になってると息を止める癖は止めろと言ってるだろう?」
くすくすと笑えば気が付いたのか体の力を抜いてアキは息を吸った。
体が息をする事を思い出したかのように酸素を求める。
「お前のキスはいつも命がけだね」
悪戯な子供を叱るような目で、しかし優しげに笑ってその頬を撫でる。
それにアキの目が懐かしげに細められた。
視線の向こうにかつての師の姿を見ているのだろう。
「姿が変わっても俺は俺だよ…アキ」
小鳥が啄ばむ様に軽いキスを繰り返す。アキもそれに落ち着いたのか目を閉じ、体の力を抜いてそれを受け止める。
やがてサクラの腕がアキの片足を引っ掛けて持ち上げる。
いきなり暴かれた箇所にアキが慌てて足を閉じようとするが遅かった。
「ししょ…っ…やぁっ…ああっ!!」
アキが放った体液に濡れたサクラの指が赤く色づく窪みに入り込む。
ここ一週間ですっかり馴らされていた其処が熱く指に絡むのにサクラが笑う。
「アキのここ…熱持ってる…」
「あなたが…っ。無理やりするから…もうっやだっ…あっ」
「俺のせいか?だったら傷はないか確認しないと…な」
「あっ…やっ…やだって…やぁっ」
中の熱をかき回すようにゆっくりと快楽に導いてやるサクラに、身悶えるアキの前もまた熱をもち始めていた。
体の中で生まれる熱に体中が桃色に染まり、まるで香るような痴態を見せる。
それに喉を鳴らしながら身を乗り出して甘い声を上げる唇を再び自分それで塞いだ。
体を動かした事によってさらに奥に入り込んだ指が確かな意思を持って奥の一点を擦った。
「――――っ!!!」
雷を受けたようにびくびくと体を震わせて仰け反るアキの唇を防ぎきり、サクラは悪戯が成功した子供のように笑った。
それにアキは気が付かない。
体の芯に火を付けられたかのような熱さに目をうっすらと開けて無意識に続きを促そうとしていた。

コンコンとドアをノックされたのはその時だった。

驚いたアキが目を見開いて目の前の少年を見る。
「はぁーい」
サクラはニヤニヤしながらドアの向こうに返事をする。
まるで扉を叩かれるのが分かっていたかのような反応だ。
「!!!?」
「受付のものですけど。先程お約束していたサンドイッチお持ちしました」
ドアの向こうから聞こえてきたのは受付にいた女性の声。
今のこの状態でもしドアを開けられたら何をされているか一目瞭然である。
しかも声。あれ?今上げたっけ?どうだった?聞こえた?
混乱してるアキに比べてサクラは平然としている。
「ちょっと待ってください。今開けますから〜」
マジですか!!
アキはもう血の気が引いて口をパクパクさせている。驚きのあまりに声帯まで麻痺したらしい。
体の中から指が抜けていくのを名残惜しいとばかりに無意識にアキの内壁が締め付けた。
それに笑みを浮かべてサクラは体を起こしてベットの柱に括っていたタオルを解く。
ついでに濡れていた自分の指もそれで拭いて隣のベットに放り投げていたマントを羽織った。
おそらく衣類の乱れとしわを隠すためなのだろう。
どうやらサクラは本気で開ける気で居るらしい。
自由になったアキも慌ててシーツの中に潜り込んで丸くなっていた。もはや服を身につけている余裕は無い。
だが一度感じてしまった体のうずきは本人の意思とは関係なく奥の確かな刺激を欲して止まない。 せめて寝た振りをと目を瞑るが心臓の音が耳について離れなかった。
カチャッと音を立ててドアが開く音がしてアキはシーツの中で肩を震わせた。
「ごめんなさい。お待たせして」
さっきまで聞いていた声とは違う17歳の声。
純朴そうにおどおどと聞こえた声に女性の声が重なった。
「いいのよ。はい、これ。サンドイッチ。オレンジもそのまま潰してジュースにしてるから飲んでね」
「うれしいなぁ。僕オレンジジュースって大好きなんです」
「ふふふ。他の人には内緒ね。…あなたの先生は?もう具合はいいの?」
「今眠った所です…。それで、あの…明日は目が覚めるまで寝かせてあげようかと思ってるんですけど…いいですか?」
「じゃあ、明日目が覚めたら下りてきて。それまでここには誰も入らないようにしておくから。あなたも疲れてるでしょう?ゆっくりおやすみなさいね」
「ありがとうございます。お姉さん」
最後のおやすみなさいの挨拶まで見事なまでに演じきったサクラがドアを閉めた。
とたんにはぁ…っとアキは体の力を抜いた。
少しだけ開けられたドアからは中の様子はあまり見られなかったらしい。
まだ心臓がばくばくと音を立てる。張り裂けそうに痛い。しかも緊張感から開放された体が甘い痺れをまた思い出させようとしているのである。もう泣きそうだった。
「ちょろいな」
原因を作った少年の方はと言えば…相手の気配が消えたとたんにこれである。
サンドイッチの一つを摘んで食べながらサクラはもう一つのベットの向かいに座る。
「結構うまいぞ。アキ。食べるか?腹減ってるだろ?」
さっきまでの事が嘘のようににこやかに笑って、シーツの中から顔を出したアキの鼻先にみずみずしいレタスとハムを挟んだサンドイッチを近づける。
それに居たたまれなくなって顔を赤く染めたまま、また頭までシーツを被る。
一週間前までは確かに自分より背も高くたくましい人であったのに、今のこの姿は明らかに少年で。 そんな彼にイロイロとして欲しいと思うのはやはり自分の中の理性が歯止めをかけるのだ。 同一人物だと分かっていても、やはり自分から言えるはずがない。

続きをして欲しいだなんて。

でも一度生まれた体の熱は治まる気配も無く、そそり立ったままの自分自身は吐き出さないと治まりそうに無い。
サクラがいなければ自分で慰める事も出来ただろうがそういうわけにも行かない。
「アーキ。アキ。アキちゃーん。どうしたー?」
サクラは冷たいオレンジジュースを飲みながら楽しげにシーツの塊を見る。
アキが19の頃に拾ってそれから6年。
その性格から体の隅々まで、このみの虫状態の愛弟子の事で知らない事は無いと断言できる。
体のうずきが止まないようにしてわざと放置したのだ。
『お仕置き』はいまだ実行中なのである。
彼が欲しいものは今の自分が与えたいものでもあるのだけれど、それを素直に渡すのもつまらない。
「アキ、食べたくない?ほかの物用意してもらう?肉でも魚でも。ああ、酒がいい?」
「………」
尚黙り込むみの虫に我慢できずにサクラが立ち上がる。
ただでさえ若いこの体になってから性欲が増しているのだ。
前は我慢できた熱情が簡単に我慢できなくなっている。
手を出せば届く位置に居る彼を目の前にして堪えきれない自分に内心笑う。
アキの横たわるベットに座りその体の線をなぞるように掌で撫で下ろした。
「……っ」
かみ殺した声が耳に届く。それにごくりと喉を鳴らした。
そっとシーツ越しに耳の中に囁きかける。
「アキ…欲しいものは無い?」
甘い声にぴくんっと手の下の肩が震えた。
低く甘い声で名を呼ばれる事にこの魔術師が弱いことは百も承知だ。サクラはさらに笑みを深めて名を呼ぶ。
だがアキは身を固くして顔を出そうとしない。
それを宥めつつようやく頭を救出する。
「アキ、こっち向いて」
そう言って仰向けに寝かせる。
そしてサクラは手にしていたコップからオレンジジュースを一口口に含んで口移しでアキに飲ませた。
一度間近にいるサクラを驚いたようにみつめてからゆっくりと目を閉じた。
アキの喉がこくりとなったのを確認して、少しだけ顔を上げる。再びそっと触れるように唇が重ね、次にチュッと音を立てて唇を吸った。答えるように薄く開けたアキの唇の間に、サクラの熱い舌が挿し込まれて咥内を弄り、舌を愛撫するように絡みついてきた。
気持ち良いのか夢中になって答えてくるアキの腕がサクラの背中に回りギュウッと服を握り締めた。
 キスの合間に吐息が零れる。唇が離れる事が名残惜しいというように追ってくるのを意地悪気に見下ろしながらサクラは口元を上げた。

「…アキ…何が欲しい…?」
「………」
その目にはまだ欲が色濃く残っているのだけど、それを口に出せないで居る様子にサクラも意地悪げに笑う。
「奥にまで入る『お道具』がいい?」
それにアキが驚きに目を見開いて首を横に振る。
当然だ。そんなもので満足できるはずが無い。
「だったら…」
問い掛ける前に アキが泣きそうな顔で自分の師の肩に腕を回していた腕の力を入れた。
それにサクラは満足げに目を細めた。
「良く出来ました」




引かれたカーテンの向こうがぼんやりと明るみを帯びてくるのをぼんやりとアキは見ていた。
シーツに包まれた体はもう自分のものではないように重くて指一つ動かない。泣きすぎで目蓋も熱を持ってしまっている。頭も痛い。あまりの快楽に短い間気を失っていたけれどさっきまで体を支配していた熱さがまだ甘く体に残っている。
「…師匠…」
「サ・ク・ラ」
隣で楽しそうに呼び方を訂正するのは散々自分に無体な事をした少年。満足したようにすっきりした顔をしている。
あれから感じる所ばかりを確認するように何度もイかされ、泣かされて、恥ずかしい事まで言わされてめちゃくちゃにされて、気を失っても叩き起こされて。手首に薄くうっ血した痕が出来ているのを見つけられて、さらに口では言えない『御仕置き』までされて。半分は意識が完全に飛んだ状態で、気が付けば夜明けが近いなんて…良く出来た悪夢だと思う。
もう何もかもが自分をいじめてるような錯覚まで覚えてその元凶の師に涙まで浮かべた恨みがましい視線を向けた。
「どっちでも良いです…っ。何で伝承なんてしたんですか…っ?……その所為で…命まで狙われてまで…っ」
転生して一週間、気の休まる暇もなかったのだろう。
ようやく体を休められる場所にいる安堵感とかつての師の温かみを思い出して、子供のように泣きじゃくるアキの髪をサクラは優しく撫でる。
「それに…俺なんかじゃなくてもっと頼りになる兄弟子達が居るのに…」
サクラには何人もの弟子が居た。
アキが知ってるだけでも4人。いずれも格が高く頼りになる人たちだった。逆にいうとアキが一番格も下だったのだ。
それなのに師は自分の身を守らせる相方に自分を選んだ。
頼られる事は嬉しかったが、アキにはそれが不思議でならない。
「まぁ、あいつらに身を守らせるくらいなら伝承なんて面倒な事はしなかったがね」
「……?どういう事ですか?」
ちょっと考えれば分かる事だろうが、疲れた体が睡眠を求めて頭がボーっとしているのだろう。
サクラは黙ってアキの額に口付ける。
「…師匠…?」
「お休み、アキ。いい夢を」
「…や…」
急に眠くなったことに抵抗する事も出来なくて目を閉じるアキをサクラはかつてそうしてやったように抱き締めてやる。
眠りの園に旅立った彼を確認して、そしてほっとため息を吐いた。
眉を潜めてぼそっと呟く。

「かっこ悪くて言えねぇよなぁ…。お前ともう一度生き直して見たかったなんてさ」

伝承の話が来た時には断る事も出来た。
最初はそのつもりだった。だが、目の前に新しい人生があると知った時、アキの顔を思い浮かべた。自分に残された時間はこの愛弟子より短い事は分かりきった事と思っていたというのに欲が出たのだ。

もし…人生がリセットできるなら。

頭の中に危険の信号は確かに点滅していたけれども、それすらも枷にならずに自分は前に踏み出してしまった。

父と子の様に年の離れたこの子に惚れて、年甲斐もなく夢中になっている自分がいる事に苦笑する。
だが悪い気分ではない。
どんなに鬼よ悪魔よ悪党よと謗られても、腕の中のこの子に泣かれる事の方がどんなに辛いか自分は知っている。
それを知る前に戻りたいとも思わないのだから自分もそうとうとち狂っていると思うのだ。

だが、そんな自分が過去の自分より好きだと思うのも確かだ。


「…しっかり俺を守ってくれよ」


朝焼けが部屋に差し込んでくる。
安らかに目を閉じるアキの目蓋の上にもう一度そっと口付けながらサクラも一度欠伸をして目を閉じた。











それから2年後。
世界に初めてのハイウィザードが誕生する。
態度も言葉使いも不遜で堂々たる姿の 彼の隣には蒼銀の髪を持ったウィザードが微笑んでいたと言う。



そんなちょっと未来の話。















++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

皆様の…「もう異色過ぎてどう反応すればいいのやら?」としている姿が目に浮かぶようです。混乱させてごめんなさい。親父のセクハラ発言にもごめんなさい。イロイロと際どいセリフがありますが深読みしてやってください。その通りの意味です。(オイ)そして本番は逃げる小心者。
最初はマジウィズ下克上やりたいなーとか思ってただけなのに…。

韓国サクライで今試験やってる『伝承システム』話です。知らない人居たらどうしよう…。本来の伝承の意味はどうぞご自分で確認してくださいね。丸ごと信じちゃ駄目ですよ〜。


ちなみに弟子の中には体の付き合いの人も結構いたと思います(好色爺…いや、元のサクラの見た目は30後半なんですけどね)。男も女も。命狙ってる側に付いてる弟子もいそうだよなぁ…。笑)サクラ的にそういう骨のある人間が好みかも。
アキはウィズ転職前の19歳の時にサクラに拾われました。狩り中体力回復している内に寝てしまっていた所をサクラが見つけて自宅に保護したようです。(…拉致?)
アキは素直で芯の通った大和撫子タイプで書いてます。が、エロが多くて訳分かりません。泣きっぱなしだよ…。でも本当はもっと鬼畜入る予定だったんだよ…何て言えません。 名前はコスモスからもらいました。秋桜でアキとサクラ。



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