世界のあちこちを旅する一風代わった魔術師師弟のアキとサクラは、本日思いもよらない人物と再会することとなった。 彼女の名前はヒメ。アサシンという職に就く、サクラ御用達の情報屋だった。 きつめの顔立ちの美人で、長い黒髪を頭の上でくくりさらさらと風になびかせる様は相変わらず見とれるほどに綺麗だった。 サクラが転生していたことも知っていて、「またお傍で使ってくださいな」と彼女は押しかけてきたのだ。 一緒のホームで暮らしていた心許せる人物との再会にアキは安堵したのだが、それだけではない不可思議な気持ちに襲われていた。 この気持ちはなんだろう。 サクラが火の壁を張ってモンスター達を静めていくのを二人して見守る。 いくら転生してその能力が落ちても戦闘技術は体が覚えている。全く危なげがなかった。 そんな余裕からかぼんやりと自分の中でわだかまる感情の事を考えていると隣にいた姫が顔を覗き込んできた。 「アキ、どうかしまして?何だか…変な顔してますわよ?」 「へ、変な顔?え?」 気持ちが表に出てしまっていたのだろうか。 思わず顔に両手を当てる。 「……」 その様子に何か思い当たったのかぽんっとヒメは手を叩く。それにアキは驚いて一歩下がった。 「分かりましたわ!…なるほど、そういう事ですの…ふーん」 ニヤニヤと笑うのでアキはいやな予感がした。この年上の女性は人をからかうのがうますぎるのだ。 「…分かったって…何が?」 「心配しなくとも悪い事ではありませんわ。むしろ、今までそうならなかったのが不思議なくらいですもの。サクラ様ってば本っ当ーに!ロクデナシですから」 「…?」 力いっぱい言い切ってころころと笑うヒメは、アキの手を握る。 その優しさにアキは驚いた。 「だって初めてでしょう?サクラ様と二人きりなんて。ホームではいつも誰かしらいらっしゃいましたから。ようやく好きな人を独り占めにしておいて、そこに私が来たんですもの。焼き持ち焼いて当然ですわ」 「え!!!!?」 さっきから胸に宿る暗い思いを指摘されてようやく、アキはその正体を知った。 羞恥からかぁっと頬を染めるアキを親愛の目で見つめる。 サクラに拾われた小さなマジシャンだったアキは、ろくでなしの元で育ったとは思えないほど純粋で綺麗な心をそのまま持ち続けている。 「大丈夫。私お邪魔なんてしませんわ。むしろ応援しましてよ。サクラ様ってばアキにベタボレですもの。思う存分振り回してあげてくださいな。何ならサクラ様の過去の悪行いくつかばらして差し上げますわ。アキが知ってると分かったらきっと慌てましてよ〜」 ちなみに、その悪行とは女性(男性)関係を指す。 だがアキの表情は硬く、首を横に振った。 「でも、やきもちとか知られたら…きっと嫌われるから」 縛られることが何より嫌いな人だということは知っている。 それで何人もの人が捨てられてきたのを自分は見てたのだ。 「そんなことありませんわよ。サクラ様はそりゃもう度の過ぎた執着を嫌う人ですけど、好きな人からの可愛いやきもちに怒るほど心の狭い人ではありませんわ。むしろ喜びましてよ。アキはこういう事には本当に諦めのいい子だからと、サクラ様も常々仰ってましたから」 「……」 「恋の駆け引きってご存知ですか?時には相手にやきもち焼かせる事も大事なんです。刺激は恋を燃え上がらせますもの」 そう言って、アキのあごに手を添える。いたずらっぽい目に、抵抗する気もおきなかった。 その艶やかな微笑につい見とれた。 そしていきなりちゅううううっとキスされてアキは目を白黒させた。 「こらーーーー!!!そこ!!!離れんかい!!!」 びくっと肩を震わせるアキから、ヒメは離れた。 怒髪天届かんばかりのサクラにアキは真っ青なった。 怒られると思って肩をすくめると、体ごと抱かれて引き寄せられた。 「ヒメ!どういうつもりだ?」 「ふふふ。ご馳走様」 ヒメは悪びれることもなく、綺麗な笑顔で二人から離れた。 「サクラ様におしおきですわ。サクラ様、アキに無理ばっかりさせるんですもの。毎晩毎晩あんな後無体な仕打ち。アキの体が壊れましてよ?」 「………毎晩毎晩?」 「あ」 「お前…今日俺達を見つけたとか言ってなかったか…?」 「えーと……あ、私、情報集めてまいりますわね!!!??」 「待ちやがれ!このピーピングトム!!!」 「ほほほ」 黒い尻尾を風に舞わせ、一瞬で消えた覗き屋に歯軋りする。 気配がないことがわかると、今度はアキに向かう。 「アキも油断するんじゃない!」 「っ」 「あーちくしょう、消毒しないとな」 そう言って背伸びしながらアキの唇を奪い、犯されもいない口内まで舌で愛撫される。 「・・・・んっ・・・・」 「・・アキ・・・・・・俺以外の人間にこの体触らせるなよ」 うっすらあけた目に飛び込んできたのは嫉妬の色を写しこんだサクラの目。 『恋の駆け引きってご存知ですか?時には相手にやきもち焼かせる事も大事なんです。刺激は恋を燃え上がらせますもの』 真剣な眼差しを嬉しいと思いながら、アキは上気した顔で頷いた。 +++++++++++++++++++++++++++++++ ■ちょっとした小話。 トナミミナト拝 |