少し前まで、街中で、製造鍛冶屋や製薬関係者の間で話題になっていた話があった。

曰く、今生に『バド・クォル』が現れたと。

『バド・クォル』とは、天の声を表す言葉であり、天の声を授かった者のことを言う。
『バド・クォル』の条件は一つ。

その歌声で上級天使を呼び出すこと。

日常で祝福を与えてくれる天使とは違う。更に上級の天使をだ。
その声は清らかで美しく、人々に大いなる祝福を与え、時に争いすらも沈める。
当然そんな声を持つものなどそうめったに現れるものではない。現に以前『バド・クォル』が現れたのは200年も前だという。
それが今この世界に現れた。しかも教会の聖歌隊に属するプリーストだと。
当時、製造に関係するものはこぞってこの話題を持ち出した。それはそうだ。『バド・クォル』のグロリアは並みの冒険者のものとは格が違う。もしバド・クォルを手に入れることが出来ればどんな難しい製造も思うがままだ。

しかし、やはり奇跡はそうめったに起こるものではなかったらしい。
一度は呼んで見せたのだが、『バド・クォル』の候補者は最後の審判で上級天使を呼べなかった。その噂と共にそのプリーストの話も聞かれなくなった。
そして俺たちは日常を手に入れた。

俺の名は、カーマイン。
この世界のトップランカーの製造ホワイトスミスだ。

そして、一緒に暮らしている白銀髪のプリーストこそが、件の『バド・クォル』候補生だった男。
その実、上級天使を実体化させた奇跡の歌声を持つ、間違いなく今生の『バド・クォル』だった。












天空の福音













さて、平穏を取り戻して1カ月。
俺たちがどうしているかと言うと。

プロンテラの街中で露店を出しつつ、暖かい日差しに陥落した白銀髪のプリーストに俺が膝枕してやってます。
実に微笑ましい光景です。
かーんかーんと協会が祝福の鐘を鳴らしまくっていると言うのに、俺の心は晴れない。

「なんでなんだろうなぁ・・・」

露店で武器を並べ、ため息をつく俺の頭の中は、あどけない表情ですやすやと眠っている件のプリースト、エルクの事でいっぱいだった。
あれから1カ月経った。
再び共に暮らすようになった俺たちだが、進展と言えばガリッガリだったエルクに少しだけ肉がつき始めたことだろうか。しかし相変わらず食が細いので触って分かる程度だ。

「触るって言っても、本当に触るだけなんだけどな」

一緒に暮らして、一緒に飯食って、一緒の布団で寝る間柄にも関わらず、俺はエルクに指一本入れられずにいる。自分の理性に感動するわ、こんちくしょう。
「俺の事好きか?」と問いかければ頬を染めておずおずと頷くし、普通に頭を撫でたりするのは大丈夫なんだが、夜、布団の中で抱きしめたり触ったりすると体を強張らせて怯え、泣きだしてしまう。まぁ、こいつも初めてだからと気を使って宥めすかして、続きをと思えば泣き疲れて寝た後とか、もうな。
いや、やり進めれば起きるだろうが、さすがにエルクの初体験を見れるのは1度だけだ。反応が欲しい。
覚悟が足りないのかと思い、「今夜抱くぞ」と予告してみても逃げはしないのだが、白い風切り羽根を握ったままで放そうとしない。この羽が何なのか知っている自分としては、行動に起こせば次の日が非常に面倒くさいことになるのでそれ以上無理強いができなかった。
結果、持て余した性欲は外で発散させることになる。でなければ本気で理性が切れてエルクを無理矢理襲いそうだ。

「なんで本命が横にいて、我慢させられてるわけ? 俺」

今も無邪気にあどけない表情で眠っているエルクに手を出したくて仕方ないというのに。
さらっとした肌触りも、イッた時の反応も知っているだけに、これはちょっとした拷問だった。
正直、いろいろと堪っていた。

「がっつきすぎだ。ろくでなし。襲う前に、言う事があるだろう。言う事が。ついでに顔と行動がおかしい」

不意にできた影と同時にかけられた声に、気分が更にドス暗く落ち込んだ。
顔を上げると、太陽を背にし、無駄に只者ではないオーラを放っているハイプリーストが立っていた。
すらりと伸びた肢体。派手な黄金の髪に天使の輪っかをのせ、整った顔にスピングラス、白ひげを完備した、見る者すべてを怪訝な顔にする変人ハイプリーストは、その実人間ですら無かったりする。

「とっとと、天界に帰れ。バカ・ドアホ」

「バド・クォルだ。いい加減覚えろ。その頭には性欲しかないのか、ろくでなし」

まごう事なき天使、それどころか神の声を地上に伝える役目を持つ上級天使であるバド・クォルは変人の格好をすることがステータスらしい。
そう、この天使の名こそ、バド・クォル。
世間一般のいわゆる『お役目』としての名前は、この天使の名から取られている。
そして何故その天使様がハイプリーストの姿で実体化して居るのかと言うと、それこそがエルクの歌声が起こした奇跡らしい。
この変態上級天使を召喚したばかりに、エルクは大聖堂から軟禁され、同僚から殺されかけたわけだ。
そしてこの天使はあろうことか、めったにない事だからと言って、そのまま下界を満喫している。
バド・クォルは膝をついてエルクの頬に手を伸ばして撫でる。愛しげに触れるその指先を、俺はしっしっと払った。

「わざとだよ。だいたいてめーが、エルクに入れ知恵したんだろう。いくら言っても羽根を放そうとしない」

エルクには天使である事を内緒にしているこの変態は、大聖堂に情報通な親戚がいるただのハイプリーストで、名前はバドということで通している。エルクの事を心配して助けになることはできないか心砕いていた好青年という役柄をエルクの前で演じた時には、寒イボがたった。
だがそれも自分が天使だとばれたら、せっかくエルクが『バド・クォル』の重圧から逃れられたというのに元のもくあみだというのが理由なのだから、自分としてもこいつの正体を黙っていることしか出来ない。
たしかにばらしたら、素直で信心深いエルクのことだからいろいろと悩みだすだろう。
しかしこの変態は正体を隠してもエルクを構い倒す事までは辞める気が無いらしい。おおらかに親しく接してくるハイプリーストに、エルクも徐々に打ち解けてきていた。

「私はただ、お前とエルクがうまくいくように念を込めた守り羽根だから、夜の間しっかり握っておくんだよと助言しただけだが」

「確信犯じゃねぇか」

白い羽根はこの変態天使の羽根だ。どういうシステムかは分からないが、本人と繋がって情報筒抜けな羽根をエルクに握らせるなんざ、嫌がらせもいい所だ。
守り羽根というが、その実災厄の塊にしか見えない。

「人の性欲を否定する気はさらさらないが、我が愛し児を貴様のようなろくでなしに預ける事が今更ながら心配でな。ろくでなしの中でもろくでなし。キングオブろくでなしなのに、それでもいいという、天界でもまれな心優しき児が幸せになれるよう企んで何が悪い」

それに、俺はカチンと来た。頭突きする勢いで、変態天使に顔を寄せた。

「企んだって言ったか。今企んだって言いやがりましたか? お前それでも天使か。実は堕天してんじゃねーだろうな」

ガンつけて脅すように言っても、たじろぎもしない。

「守護天使としての役目を全うしているだけだが」

「だったら、両想いな恋人を祝福してさっさと天界に帰っちまえ」

面突き合わせて顔をひきつらせる俺に、エルクの守護天使様とやらは不敵に微笑んだ。

「その時は、エルクを連れて帰ってやる」

「てめぇは俺に喧嘩売ってんのか・・・?」

こいつはエルクの意に染まない事はしない。とは、言いきれないところがある。
人と同じ姿、言葉を持っていても、人間じゃない。人の価値をどこまで理解しているのか、俺はまだわかりかねていた。
目の前の天使は嫌味な笑みを浮かべていたが、賑やかな声が聞こえてきた方に顔を向けた。
花嫁と花婿、そして彼らを祝福する友人達が歩いてくる。
さっきの教会の鐘は、彼らへの祝福の鐘だったらしい。
通りすがりの冒険者たちが祝福の言葉や花を投げかけて、より一層賑やかになる。

「結婚式か。・・・ふむ。なるほど、愛しい者同士、良い気を放ってる」

妙に優しげに呟かれた言葉に驚くが、次の瞬間、俺の膝で寝ていたエルクを持ち上げて立ち上がらせた。

「え? え?」

眠っていたところを無理矢理起こされたエルクは、現状が理解できないようで、顔を手で擦りながら目の前のハイプリーストを見てキョロキョロと周りを見る。
そして俺を見つけて、ほっとしたところで、顔を両手で挟まれて無理矢理ハイプリーストの方へ向かされていた。

「エルク。聖歌381番だ」

「え?」

「彼らを祝おう」

ハイプリーストは花嫁と花婿を指差した。
しかしエルクはまだ呆然としている。それも当然だろう。
寝ていたところを起こされて、さぁ、歌おう、はないだろう。
しかも天使が歌うだと? そんな馬鹿な真似・・・。
しかし妙に嬉しそうな、浮足立ってるとでも言えばいいのか、テンションが高くなっているこの大馬鹿者は、構わずに街中で歌いだした。




たとえ
人と天使のことばを話しても
愛がなければ 鳴るどらのよう



一節を歌いだした時点で、町中の視線を集めた。
張りのあるバリトンは、アルトにも近いのか若々しくも柔らかい。歌劇でいえば間違いなく主人公や英雄が張れると思わせるものだった。
初めてこいつの歌声を聴いた俺は、呆然とするしかなかった。
同じように、ただバド・クォルを見上げるエルクは、ぱんっと軽く背中を叩かれて促されたが、たどたどしく小さくつぶやくだけだった。
その顔は耳まで赤い。
そりゃそうだ、内向的なエルクがこの観衆の前でまともに歌えるわけがない。
しかし、人の皮をかぶった天使という名の変態は、エルクの耳元で何やら囁いた。
エルクは目を丸くして、瞬いた後、何故か俺を見て俯いた。
そして目を閉じて息を吸いながら、顔を上げた。



また 預言する力を持ち
すべての知識に通じていても
山を移すほどの深い信仰を持っていても

愛がなければ無にひとしい



優しい爽やかな風のようなアルトが晴天の下で遠く伸びて行く。
この細い体のどこにその声量があるのか。
エルクの歌声を一ヶ月ぶりに聴いた俺は、歌いだしたことに驚き、その歌声に聞きほれた。
大聖堂で聞いた事がある歌と違うように聞こえるのは、光の違いか、自分の心の違いなのか。
今よりは拙いというのに、始めてジュノーで聞いたエルクの歌声を思い出した。
戦闘ホワイトスミスになろうとした俺を心変わりさせた、あの歌声。
満足そうに微笑むバド・クォルは、その声が大変お気に召したらしい。エルクの隣に立ち、前方で立ち止まっている花嫁と花婿に向かって手を差し伸べた。



また 持っているものすべてを施し
体を焼かれるために渡しても

愛がなければ むなしい



二人の歌声が心地よく絡み合い、耳に届く。

人の事が大好きだという、聖職者が呼び出す幼い小天使が現れてエルクや変態ハイプリースト、そしてその場にいる者すべてに祝福の花を撒く。

ああ、これは。どんな低レベルの戦闘ブラックスミスでもアルケミストでも製造に成功するレベルの祝福じゃねぇかな。
しかし、そんな無粋な音を鳴らす真似をする者はここにはいなかった。
天使と、天使の加護を受けた聖職者の歌声のハーモニーって言うのはそう聞けるものではないだろう。
バド・クォルの歌声が戦を止めた事があるというのもわかる。
確かな圧量を持って胸に来るこの歌声は、ただ聞き惚れることしかできない。
今この場にいるものすべてが立ち止まり、その歌声に耳を傾けていた。
通りすがりのバードが、うっとりとした表情でハープを奏でる。



愛は 心ひろく なさけあつく
愛は ねたまず、高ぶらない

礼にそむかず 利をもとめず
いきどおらず 恨みをいだかず
不正をよろこばず 真実をよろこび

すべてを包み すべてを信じ
すべてを希望し すべてを耐え忍ぶ

愛は いつまでも 絶えることがない。



変態ハイプリーストは最期の一節を歌いながら歩み出す。
歌の終わりに拍手喝采が一斉に沸き起こった。
エルクが驚いて飛び跳ねた猫のようになっている。
思わぬ祝福の歌に呆然としている花嫁と花婿の前に立ち、スピングラスとひげをとると、その素顔をさらした。女の黄色い悲鳴が上がる。
現れた絶世の美形を目の前に唖然とする2人に、バド・クォルは優雅に微笑みかけた。

「人を支え導くものは信仰、希望、愛、この3つだ。このうち、最も優れているのは、愛であると、私は思っているよ」

そして花婿と花嫁それぞれの頬に口づけを与えた。


「君達は末久しく、幸せに」


そう言った変態ハイプリーストの表情は見えなかったが、俺はその言葉が気にかかった。
しかしバド・クォルに視線が行っているうちに、俺はさっさとこの場を去ろうとし、露店を畳んで、人に囲まれかけたエルクもカートに回収した。
エルクは真っ赤な顔をして大人しくカートの中で正座している。

「派手にやらかしたものだな。あのハイプリーストは」

「お前もいたのか」

女アサシンのアリエスが横に現れて一緒に歩き出す。
彼女は俺のお得意様であり、友人でもある。
さっぱりとした気質が好ましい、きつい顔立ちの美人だ。
エルクを襲ったのが自分のギルドの者だったという事でその者達を粛清をかけ、事件の真相を突き止めるまでエルクの保護を俺に依頼した人物でもあり、エルクに片思いしていたのを俺が横からかっさらった間柄でもある。
しかし、そのことはエルクの意に沿うとあっさりと言って、それまでの関係と変わらず付き合ってくれている。

「しかし良い声だ。さすが、本家本元のバド・クォルはまた一味違うな。私はエルクの声の方が好みだが」

先日の一件があり、アリエスにはこの変態ハイプリーストの正体を話している。
というか、バド・クォルがあっさりとばらした。エルクと大聖堂にばれなければいいのだよと言って。

「あんまり外で言うなよ。噂は下火とはいえ、目を付けてくる奴がいてもおかしくない」

こんな公共の場で人目憚らず歌うような馬鹿を守る義理などまったくないが、エルクに害が及びかねない。
ひそひそと呟く俺たちの耳に、とんでもない言葉が飛び込んでくる。

「ハイプリースト様。お、お名前をお聞かせ願えませんか」

花嫁の言葉に、あの天使様はあっけらかんと言ったのだ。

「バド・クォルだ」

前につんのめりかけた俺と、ついこの前まで街中で囁かれていた人物の名前に、一気に場の音が消えた。その中で、機嫌がいい大天使様の笑い声が響き渡る。

「ただし、私のは本名だがね」

あはははと笑うハイプリースト様は、踵を返してこっちに向かって歩いてきた。

「さぁ、帰ろうか。ろくでなし。今日はいいことをして気分がいいな」

衆人環視の中、唖然として逃げ遅れた俺に声をかけたこの馬鹿野郎を殴りたい。ぶん殴りたい。蹴り倒したい。
カーマインだと、自分の名前を呼ばれたのを聞いて、顔をゆがめつつ、さくさくと歩き出す。
この世の中で一番名前を知られている製造人ってのは、こういう時やっかいだ。
しかし、名を呼んでみても俺達を追ってこないということは、それが抑止力ともなっているわけで。有名人程遠巻きにされるものである。

しかしこれはどうするんだ。
カートの中でエルクは目を丸くしているし、こんな街中で派手な真似をしておいてしかも本名を名乗って大聖堂の興味を引かないわけが無い。
この天使は正体を隠すことすらどうでもよくなったのか?
わからん、この男だけはわからん。

できるだけ他人のふり他人のふりと念じながらカートを鳴り響かせて歩く。アリエスも付いてきた。
ぶっちぎって置いて行くつもりだったのに、元の変人の姿になったハイプリーストはかかとを鳴らしつつ後を追ってきていた。

「おい、ろくでなし。あまり早いとカートの中のエルクがかわいそうだろう」

一応少しだけスピードを落とすと、バド・クォルがすぐに追いついてきた。

「ろくでなし。今日の夕飯はなんだ」

「てめぇに食わせる飯はねぇ」

「何を怒ってるんだ。変な男だな」

「カーマイン」

アリエスが俺の怒りのリミッターが振り切れる寸前、声で制した。
俺は一息ついて、自分を落ち着かせる。
側道に入って運よく人気が無くなっていた。

「俺に殴られる前に、さっさと家に帰れ。お前がいるとエルクに迷惑がかかるんだ。わかるだろ? ついでに俺にとっても大迷惑だ」

「お前にかかる迷惑は私にとって笑いの種なのだが、エルクにかかる迷惑は本意ではないな」

ああ、殴りたい。
ひたすらぼこりたい。
天使だろうと何だろうと構うものか。
そのお綺麗な面をぼこぼこにしたい。
震える腕で拳を作る。

「なるほど。人間、性欲を溜めると怒りやすくなるというのは本当なのだな」

「―――――っ!」

諸悪の権現がぬけぬけと言った言葉に、俺は拳を振り上げた。
ほくそ笑んでいる天使の横っつらをぶん殴ろうとしたその腕は、しかし途中で誰かの手によって掴まれた。
アリエスじゃない。反対から伸びた太い腕は鎧に包まれている。
何だと思う前に、目の前の変態天使が珍しく驚いたように目を見開いたので気を取られた。

「ザキエル・・・」

「・・・?」

いつも飄々としている変態天使が言葉に詰まるところなど初めて聞いた。
バド・クォルの視線の先を見ると、黒髪に色黒の、がっしりとしたロードナイトが立っていた。
精悍な顔立ちを彩るのは深い蒼の瞳。
ただし、その頭には天使の輪っかが乗っている。
普通ならただの飾りに過ぎないのだが、俺はこいつも天使だと思った。
ザキエルと言われたロードナイトは俺の手を放し、バド・クォルに体を向けた。

「バド・・・」

これまた低い良い声だ。
天使というのは皆こんなに良い声をしているのか。

「なるほど。先程のエルクの歌声か・・・」

冷静さを取り戻したバド・クォルは、面白くなさそうに口をへの字にまげた。そして懐から掌で包みこめるほどの白い玉を取り出す。
ザキエルは口を開いた。

「お前に伝言を預・・・」

「よし、取ってこーい!!!」

人の話を聞く事を知らない変態天使は、いきなり空に向かって白い玉を放り投げた。色黒のロードナイトが顔を上げて、飛んでいく玉の方角に向かって走り出した。
まるで飼い主が放ったボールを嬉々として追いかけていく犬のように。
玉は建物の屋根を乗り越えて遠く飛んで行った。
牛が突進していくかのように突進していくロードナイトの背中を俺たちは唖然と見送ることしかできなかった。
その背中が見えなくなり、バド・クォルは踵を返して男とは反対側に歩き始める。

「私はしばらく消える。あの男には関わるな」

「おい、あいつ何か言いかけてたぞ。いいのか?」

「構わん。どうせ戻って来いとかそういう事だろう。ではな、ろくでなし。辛抱溜まらんと言ってエルクを泣かせるような真似をしたら遠くにいても天罰落とすからな。エルクも羽根は身から放すなよ」

面白くなさそうに、そう言って角を曲がって消える。
俺とアリエスは顔を見合わせ、ザキエルといったロードナイトが消えた方角を見た。

「・・・アリエス。頼みがある。今の男、探して俺の所に連れてきてくれねえか?」

「心得た。報酬は弾んでもらうからな」

本当に良い女だ。
理解が早くて助かる。

「くっくっくっく・・・・」

ああ、おかしい。
なんだこの事態は。利用させてもらうしかないじゃないか。

あの傍若無人の天使様の弱点らしきものを掴んで、俺はほくそ笑んだ。



しかし、それがまた新たな災厄の始まりだったのだと、俺はまだ気づかずにいた。













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カーマインさんが実に悪い男で、ひどい目にあっていただきたいところなのですが、この話のリクエストテーマが「変態天使がひどい目に合う話」なのでちょっとだけにしといてやろうと思っています。

















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