それには気がついていたが、無視することにした。 準備は周到すぎるほどに用意して、今夜は念願成就の夜なのだ。 今夜はプロンテラで人が死のうが枝テロが起ころうが、仕事の知らせは一切受けないと部下のグリーンには言ってある。それはつまりそれがわかっていて知らせてくるほどなのだから、何か重大な事件が起こっている証でもあった。 だが。 「ああっ・・・・・いやだ・・・・・スオウ、やめて・く・・・っ」 うつ伏せにして、覆いかぶさるようにカイトの前と後ろを同時に指で嬲る。 最初は痛いと言っていたのに、すでに溶けた秘孔は指に食いついて離そうとしない。 目の前で快楽に身を震わせているプリーストを今やっと手に入れようとしているのに、そんなのに構ってられるかというのが自分の素直な思いだった。 だがベットの下に転がっている服の影でちかちかと光る冒険者カード。これが光り始めて20分は立つ。そのうち消えると思っていたのだがしつこく光っているのにさすがに気になった。 「んっ・・・・・あっ」 「ごめんカイト」 意識が朦朧としているカイトのうなじに唇を落とす。 秘部に埋めて慣らしていた指を引き抜き、前を扱っていた指を強くすると、一際甘い声を出して張り詰めたそこから白い体液を吐いた。 入れるまでは我慢させておくつもりだったのに、これで本当にたいした用事じゃなかったら呼び出した奴は城壁につるしてやる。 びくびくと痙攣して脱力していくカイトの背中は、やけどらしき引きつった痕があった。癒しを司るプリーストでありながら癒しきれなかった傷跡。そこに口を寄せて吸うと、顎を上げて握ったシーツを引いて過剰な性感から守るように身をよじった。 その姿を堪能しながらベットの下のカードを拾い上げた。とたんに入ってきたのは、意外な知らせだった。 「・・・・・・・・・・・」 ぐったりと赤い布の上に身を沈めるカイトと、部下からの報告と天秤にかけて職務が辛うじて勝ってしまう。 「カイト・・・・ごめん。仕事が入った・・・・」 「・・・・・・・・・?」 ぎりぎりまで高ぶらせられた欲望を吐き出してぼんやりしているカイトは、素晴らしく無防備で色っぽい。 男同士というのが気に掛かっているのか素直になれないカイトは、こうして抱いてみると感じやすい素直な体をしていた。執拗に嫌がる言葉を口には出すけれどもそれは騎士団に属しているという自分の立場を気にしてくれているからで。そう思うと尚更愛しさが増した。 多少口が悪いがそれもまた気恥ずかしいからだろう。 脱力する様子や上気した肌は自分が愛した証拠なのだと思うと誇らしげな気分になる。それと同時に最後まで抱けなかったことが悔しい。 ようやく手に入れられると思ったのに・・・・・。そしてカイトに愛しているのだと実感して欲しかったのに。 カイトの腕を拘束していた手錠を外した。擦れて赤くなった皮膚が痛々しくてそこに口付ける。 ヒールクリップで癒したその手を取って、用意していた指輪を左手の薬指にはめた。 銀の土台に小さな宝石を1点あしらっただけのデザインの指輪は、これから一緒に生きる為の約束のようなものだ。本当なら明日の朝にでも渡そうと思っていたものだった。 しかし、こうなったとしても本当に愛しているのだという証拠を残しておきたかった。 思ったとおりカイトの指によく似合う。 「・・・・・・何・・・・?指輪・・・?」 朦朧とした意識が戻ってきたのだろう。はっきりしないまでも、自分にはめられた指輪を見て戸惑いを浮かべるカイトの指にキスをした。 「何があろうとも僕が選ぶのは君だから」 そう言って、乱れた服を直してマントを拾い上げる。 最後に起き上がろうとしたカイトの唇にもキスをした。 Adopted son 〜 不可思議な家族計画 3 〜 プロンテラをぬけて、東にあるイズルードまで来ると、この時間にいるはずの無い人数でそこはごった返していた。こういったことに対応する騎士団や聖騎士団、教会関係者だけではなく、騒ぎを聞きつけてやってきた冒険者たちまでいる。 百人近くといったところだろうか。 これだけいるんだったら自分など後1時間は要らなかったのではないだろうかと思うと不機嫌も増していく。 集合場所だといっていた騎士の像の前に行くと、同じ第五騎士団の面々が集まっていた。こちらに頭を下げるのを素通りして像の前で地図を広げていたグリーンの元へ行く。 金の髪を横に撫で付けて草の葉を加えた騎士だ。森を思わせるその綺麗な緑色が悪戯気に笑った。。 「お楽しみのとこ悪いねぇ・・・。20分も鳴らしっぱなしにされるほどだ。もしかしていいところ邪魔しちゃったかな?」 「グリーン・・・・それ以上軽口叩くと、逆さにして城壁につるすぞ」 「うわ。目がマジだ、こっわー」 ふざけるグリーンを横に、広げられた地図を見下ろした。 「・・・・それで?・・・・・攻城戦の練習に開放していた場所をモンスターが占拠してるって?」 「どうやら誰か枝で召還した馬鹿がいてそれがきっかけになったらしい。そのせいでおいていた要石が壊れてこの有様。北と東の開放地域はほぼ全滅だ」 「数は?」 「占拠しているというくらいだから、お察し。あの場所に所狭しといるんだから50・・・もっといるだろうな。・・・・それに上級モンスターは下級のモンスターを呼び寄せるかなら、きりが無い。今大聖堂の方が人を出して北と東に入って要石の復旧をしようとしている。第三と第六騎士団、第二聖騎士団と魔術師教会から派遣された一団体と有志の冒険者がその警備と補佐につく。とにかく溢れてくるのを止めないとどうにもならないからねぇ。上は今会議中。作戦突撃命令はそれで決まるだろう。さっきここの隊長様はどこに行ったんだとさんざん嫌味言われたよー。もう怖いの何の」 お前は嫌味程度で困るほどかわいいたまはしていないだろう。 「それでうちの状況は」 「奇数小隊は全員こっちに揃ってる。非番入っていた偶数小隊の半分は今収集かけてる。他はプロに残してきている」 おそらく自分と同じ時間から呼び出しをかけたのだろう。考えるまでも無く口を開く。 「第五部隊の本分はプロンテラの街を守ることだ。これに乗じて町で何かあるかもしれない。偶数小隊はお前が取り仕切って引き続き街の警備に。無理にここに集める必要はない。奇数小隊は自分が仕切るから小隊長を集めておいてくれ。自分はこれから上層部の作戦会議に行ってくる。参加しとかないとろくでもないタイミングで送り込まれないからな」 こんな事で自分の騎士団から死人は出したくない。 「了解。スオウ第五騎士分団長さま」 嫌味のように区切って言うグリーンに、その役職を忌々しく思う。 騎士団は六つの分隊に分けられていた。その中のひとつ第五分隊の分隊長という肩書きは自分にとっては邪魔でしかない。こんなものがなかったら今頃はカイトと・・・・。 そう思うと苛立ちは更に増した。 「こんな役職いつか絶対辞めてやる・・・」 「何。まだ言ってるの?愛しのカイトちゃんと夢の冒険者生活?あんな男、お前が還俗するほどまでの価値あるもんかね」 「それを決めるのはお前じゃない。それ以上にカイトを侮辱する発言は許さない」 冷ややかに見つめると、グリーンは肩をすくめた。 「そういう所、お前は本当に王子様なんだと思うわ。・・・・カイトちゃんお前の事ぜんぜん知らないんだろ?」 「知る必要ないからな」 もうその地位も捨てた。 元々16番目の王子なんて元々王族にとってはいてもいなくてもいい存在なんだから。 「国王様まだお前の事諦めてないんだろ?死んだお妃さまに瓜二つのお前の事すごくかわいがってるし。還俗と同時に調査隊に放り込んだのだって、危ない目にあえばすぐにお前が冒険者になることを諦めると思ってたからで。謝ってくるのを待っていたんだと思うがな。それがまさかわざわざ手柄まで担いで帰ってくるし、それならそうでお前昇進させちゃうし・・・。俺はまたお前と一緒に働けて嬉しいけどさ。お前が上司なら絶対死ぬ事ないし」 スオウはその言葉に一瞬足を止めた。 「・・・・・そんな俺にしたのは、カイトなんだ」 「スオウ?何か言ったか?」 「なんでもない」 スオウは2,3指示を言い残して会議が行われているという剣士ギルドへ足を向けた。 昔の自分は、いっそわかりやすいほどに他人を見下していた。 いやこの世界すべてをくだらないと思っていた。 どんなものにも無駄が多く、それを正そうとしても昔からのしきたりだからなんだと邪魔するものはそれ以上に多かった。王の子供として生まれてきても、妾の一人の子供など地位は低くそのせいで蔑まれる事もあった。あからさまではないものの陰湿きわまりなく執拗だ。そんな場所に生まれ生きてきた自分の性格が悪くなっても仕方の無いことだろう。 口はうまくなったが、その分面倒な事はやらずにすませる。使えるものは何でも使え。 どのようにすれば効率が出せるのか、どうすれば失敗は無いか。考えることを覚えた自分は、今から思えば人の心すら持たない冷たい人間だった。 ある日、プロンテラの一角でカイトに出会うまでは。 その時自分はプロンテラを守る第五騎士団の一隊員にしか過ぎなかった。 あの日古木の枝で召還されたモンスター達が暴れ周った。その場に居合わせた冒険者達と鎮圧はしたものの、建物が数件破壊された。運悪くその一軒が火を出し、しかもその中に幼い子供がいたのだ。 自分の目から見て燃え盛る火の手の中でその子供が生きているとは到底思えなかった。母親が火に包まれた建物を見上げて泣き崩れていた。重苦しい現場にその報が入ってきたのはその時だった。 「隊長!!!裏から今プリーストらしき男が飛び込みました!!!」 裏に回っていた隊員が慌てて隊長に報告するこの内容にその場にいた全員が絶句した。 「ばかな・・・・死ぬ気か」 もう屋台骨も折れかけている建物の中に飛び込んだというプリースト。 いくら癒しを使えるといっても限界はある。確実に死にに行ったようなものだ。 もう一人犠牲者が出たか。まったく面倒くさい事をしたものだ。 俺はそう思っていた。 だが、崩れ落ちる寸前でプリーストは出てきた。 墨で汚れ、衣服を燃やす火は肌を焼き、とても無事とはいえない状態で、その男は出てきたのだ。 一番近くにいた自分がバケツにためていた水を男に浴びせ、崩れ落ちるその体を支える。 ショック症状で痙攣が始まりかけ、髪が焼け焦げた匂いに顔をしかめる。 酸素不足で意識が朦朧としているのか、何度か声にならないうめき声を上げていた。 「・・・・・・なんて馬鹿な事を」 思わず出た本音。 だがその小さい声はこの男にだけは聞こえていたらしい。 片腕で胸倉をぐっと掴み挙げられた。その力強さに驚く。 「・・・・・・何が・・・馬鹿なんだよ・・・・。救いを待ってる人を黙って見てる事のほうが賢いって言うのか・・・・っ?お前らどっかおかしいんじゃないか・・・・っ?・・・それでもてめえ・・・この町を守る騎士団かよ!!!!」 とても死にかけの男の声とは思えなかった。生命力の塊のような瞳に俺は圧倒された。 叫んだ事で体を貫く痛みに耐え切れなくなったのだろう。うめき声を上げて男は気を失った。 その男の腕の中にあった毛布を他の隊員が取り上げる。 火の中で癒しの力をすべて注いできたのだろう。 そこからでてきたすやすやと眠る子供を認めた時、自分は生まれて初めて敗北という気持ちを知ったのだった。 カイトは覚えていない。 恐らく視界もはっきりしていなかったのだろう。 僕も言う気は無い。 だけどあの出来事が確かに自分を変えたのだ。 そして数週間後、臨公広場でPTを探しているカイトを見かけた時、思わず声をかけた。 あの日の衝撃が恋になるまでそう時間はかからなかった。 不器用なくらいまっすぐで、要領が良いと思えばいきなり無茶な事もやって、そのくせ臆病で。 涙もろくて自分より弱い者には手を差し伸べずにはいられない。 口も悪くて手も早くて素直じゃなくて。 それでも愛しい人。 当たり前のことを当たり前のようにやる。 それがどれだけ難しい事なのか俺は知っている。 世の中当たり前のことをやれない事態の方が多いことを俺は知っていたから。 それなのにカイトのその行動の源は優しさにある分、素直で純粋で。 その分自分の命すら時としてかけられる。 前に聞いた事がある。 「たとえば迷いの森に子供が入ったとする。一歩でも入れば死ぬかもしれないところで子供の生死すらわからない。カイトは探しに行く?」 「んー・・・・・?あそこマジあぶねぇしなぁ・・・一人じゃ無理だろ。俺臆病だし。強そうな人探して一緒に行ってもらうかな」 そう。基本的なところでカイトは臆病だ。だけどいざとなったとき、もし本当に助けを求めたものが居た時は・・・・その時カイトは一人で助けに行ったのだ。 そういうところを俺は気に入っている。 口先だけの優しさじゃない。 行動にこそ見えるカイトの魅力。 それは尊敬に近く、何よりも愛しいと思うもの。 この手で守りたいと、そして自分の手で幸せにしてやりたいと思うもの。 「・・・・・・・・せっかく手に入れられるとこまで来たってのに・・・・っ。それを・・・っ」 ぎりっと奥歯をかんで握っていた鞘を掴みなおした。 今日という日をずっと待っていたのだ。 「・・・・うわっ・・・・黒っ」 グリーンは上司の後姿を見送りながら、その背が放つ禍々しいまでの黒のオーラに引きつった笑みを浮かべた。 きっと今回の犯人が捕まったら、法の裁きの前にひっそりと殺されてしまうかもしれない。 グリーンがスオウのことを『王子様』と言うのは、何も皮肉を込めているわけではない。 通常はクールで冷酷なくせに、本命には一本気で直情的で、欲しいものは何があろうと手に入れないと気がすまない。そんな我侭を我侭とも思わないで突っ走る、そんなところがグリーンにそんな感想を抱かせるのだった。 「カイト君・・・南無」 グリーンはパーンッと手を合わせて逃げ切れないであろう哀れなプリーストを思い浮かべながら月夜を拝んだのだった。 アリーナが制圧されたのは、空が朝焼けに染まる頃だった。 後始末は他の部隊に任せ、グリーンに連絡を取り騎士達の今日の見回りのローテーションを確認したスオウは自分の薄汚れた姿を見てため息をついた。 こんな姿では愛しの人の所に行けない。 愛しい人の前ではできるだけかっこいい自分でありたいと思うのは恋する男の考え。しかし、その一方でかまわないからカイトの家に行って抱きしめたい気持ちもある。 「・・・・・・・どうしようかな・・・・。もしかして、心配してくれるかな・・・」 涙目で自分の名前を呼びながら心配そうに駆け寄ってくる茶髪のプリーストの姿を思い浮かべてスオウはそんな自分に都合のいい想像にちょっとした幸せをかみ締めていた。そこに、鬼の第五番騎士団長の姿はない。 「スオウ!」 名前を呼ばれてぎょっとしたのは、想像が現実になったからだ。 数時間振りの姿に目をむきながら立ち尽くすスオウに、カイトは涙目で走ってきた。 「スオウ!スオウ!」 「・・・・え・・・・」 その指には別れ際に渡した指輪が光っていた。 ああ、思った通り良く似合う・・・。 「スオウ・・・・っ!」 「カイト・・・・」 思わず両手を広げて駆け寄ってくるカイトを抱きしめようとしたスオウは、だがしかし、胸にではなく顔面に衝撃を受けた。 「ぐはっ!!!?」 拳で騎士の顔を殴ったプリーストは、仁王立ちしたまま俯きながら肩で息をする。 「ふぁ・・・・ふぁいと・・・?」 カイトと本人は言っているらしい。スオウは顔面を押さえながらプリーストを見た。 「・・・・・シアンが・・・っ」 「・・・・・・・・・?」 シアンとは、今は亡きカイトの姉夫婦の忘れ形見で、今はカイトが引き取って育てている子供だった。子供ながらもアサシンの称号を手に入れている戦闘のプロでもある。 昨夜はカイトを手に入れるため薬で眠ってもらったが、どうやらあれからなにやらあったらしい。 カイトは青い顔をしならがら焦燥した顔で言った。 「どうしよう・・・・。シアンがいないんだっ・・・・・っ。家の周りいくら探してもいなくて・・・・っ」 目にいれても痛くないほど可愛がっている甥が消えたのことに、青白い顔で今にも崩れ落ちそうなカイトをスオウは支えてやりながら新たな事件に表情を真剣なものに変え目を細めた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |