夕日の色






ブラックスミスはドアがノックされる音に顔を上げた。
僅かな躊躇いはその向こうの人物に心当たりがったからだ。もとより、隠れ家のようなこの工房に用がある人物などほとんどいない。
だが、ドアを開けたのは脳裏に思い浮かべていた騎士ではなかった。
「よう。元気にしてるか」
「・・・・・・・・・・師匠」
入ってきた30代半ば程のホワイトスミスにブラックスミスはわずかにほっとしたような表情を見せた。そんなわずかな表情の変化にホワイトスミスは気づき、工房の中を見渡した。そして、火の入っている炉のそばにある鉄くずを見つけて目を細めた。
「しくじったか」
ホワイトスミスは鉄バサミでいまだ熱を持つ鉄を挟んで顔の前まで持ち上げる。
「風属性のクレイモア・・・・の、なりそこないか。星入れたな?いくつだ?」
「・・・・・二つ」
素直に言うと、ホワイトスミスは眉間に皺を寄せた。そして鉄くずを元に戻し、黙って自分を見る弟子に視線をやった。
ブラックスミスは何を言われてもしかたないことと黙っている。
だいたいがプリーストの支援抜きで高レベルな製造を行おうと言うのがまず正気の沙汰ではない。
だが、ホワイトスミスは何も言わずブラックスミスの前に立って首を傾けた。
「溜まってる顔してやがんな」
そしてブラックスミスの胸倉を掴んで作業机に上半身を押し付けた。乱暴なその行動にブラックスミスは顔をしかめるが、ホワイトスミスの手がベルトを外してズボンの中に入ってきても何も言わなかった。
急所というべきところを握られて、反射的に肩を竦める。ホワイトスミスは馴れたように手を動かす。
「いっぺん抜くか」
意地悪げな微笑と耳元で囁く低い声は男臭い色気の中に野性味を感じさせる。
だがブラックスミスは呆れたように目を伏せて口元を押さえる。
「・・・・・・・師匠・・・・。気持ち悪いんでやめてください」
「今にも吐きそうな顔してんじゃねーよっ。すっげー傷つくんだけどっ」
「・・・すいません・・・」
いくら摺り上げても一向に立ち上がる気配の無いものからホワイトスミスは手を離した。
「不感症はあいかわらずか」
「・・・・・・・・・・・」
机に寄り掛かりながらえづきそうになるのを堪えるブラックスミスにホワイトスミスは呆れたようにため息をついた。
「鉄打つときにしか快感を得られないなんて、どんな製造だよ・・・・」
「ほっといてください」
「師匠としてほっとけるか・・・。お前支援したプリースト達は軒並みお前の製造に酔っ払うわ、それで修羅場に発展するわ、当事者だけが無事だわ・・・・」
ホワイトスミスが額を抑えつつ当時を思い出して嘆くが、その声はブラックスミスには届かない。
しかしその騒動でブラックスミスは工房に篭り一人で製造することを選んだのだ。修練を積んだだけあり、一人でも大概の武器は作れてしまう。
だが、とブラックスミスは目を細めて鉄の残骸を見た。
ホワイトスミスも弟子の表情の変化に口調を改めた。
「・・・・・わかってんだろお前も」
ただでさえこれで2回目の失敗なのだ。前回、そうと知った騎士は気にしないでと笑っていたが、その表情が自分の矜持に傷をつけた。
ブラックスミスの腕がいくらよくても・・・・一人で属性に加え星二つ入りを作ろうと思ったら奇跡を起こすしかない。
ブラックスミスは唇を噛んだ。
溜まっているといったホワイトスミスの言葉は的を射ていた。武器の製造によって性的達成感を得ていたブラックスミスは、連続の失敗に焦らされていた。
「・・・・・・・師匠・・・・。誰か、支援をしてくれる人に心当たりはありませんか」
ブラックスミスの言葉にホワイトスミスはさもありなんとニヤリと笑った。

「顔の広い師匠でよかったな。俺の恋人以外だったら、よりどりみどりでつけてやるよ」







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実は騎士にブラックスミスを紹介したのはこのホワイトスミスだったり。焦れているだろう弟子の様子を見に来た師匠の思惑は。























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