夕日の色







壁に寄り掛かるように座った騎士は鞘に収められた風属性のクレイモアを顔の前に掲げた。
ゆっくりと剣を引き抜くと、鏡のような表面に火花が散るようなきらめきを持った刀身が現れる。
実用性を重視した飾り物ではけしてない、だけども美しい属性のきらめきを持った刀に騎士は感嘆する。

自分ではまだこの刀に相応しいとは言えないかもしれないが、それでもこの剣に相応しい騎士になろうと思う。

それはついさっきこの剣を受け取った時にブラックスミスに言った言葉だった。
それを聞いたブラックスミスはわずかに目を見張り、微笑んだ。
いつもの皮肉気な笑みではなく、優しく弧を描いた口元と細められた瞳は保護者が子供を見るようなものではあったが、それでも騎士は初めて見た彼の微笑みに心臓が掴まれるかのような気持ちになった。
「・・・・・・・・・やばい・・・よなぁ・・・・」
先日、ブラックスミスがこの剣を打っている場面に出くわして以来、騎士は調子を狂わせていた。
赤く上気する頬、熱の篭った目に濡れた目元、汗の伝う鎖骨、張りのある腕、荒い呼吸。
昨日は夢にまで見てしまい、騎士は飛び起きたのだ。
しかもブラックスミスは製造ではなく・・・・その、自分に押し倒されて喘いでいるような、そんな夢で。飛び起きた後、自分の股間がしっかり反応しているのを見て心底死にたいと思ったのだ。
だからブラックスミスに申し訳なくて顔なんて出せるかと思っていた矢先、『耳打ち』で強引に呼び出され、この剣を受け取ったのが今しがた。
一昨日見た時はたしかに鉄でしかなかったそれが磨き上げられて目の前にあるのに感激したものの、ブラックスミスの微笑みに慌てて工房から飛び出した。
「・・・・・・絶対変に思われた・・・・」
工房から出てすぐ曲がったところで騎士は蹲って頭を抱える。

変だよなぁ。
俺って変態だよなぁ。
年上で、結構男前な男の人なのに。
あんな夢見るわ、どきどきするわ。

「・・・・・・・・・・・うー・・・・」
騎士はクレイモアを抱きしめて唸る。
だめだ。
考えてはいけない。
もしこれを認めたら自分は変態さんまっしぐらではないか。
これは若気の至りとかいうやつなのだ。きっと。うん。
いっそ尊敬の念とかそういうやつでもいい。

騎士は目の前を通り過ぎる影に、ふと顔を上げた。
見上げると、一昨日工房で見た青髪のプリーストが角を曲がって消えたところだった。
その先には工房がある。
騎士は思わず立ち上がって後を追いかけた。
プリーストは迷わず工房の中に入った。
ドアを閉められ、騎士は戸惑った。自分の剣を作る手伝いをしてくれたプリーストに礼を言う為に入ることは別段おかしいことではないだろう。だが、さっきのプリーストの横顔は何か真剣な思いを秘めたような顔をしていた。それが気になった。
ドアに耳を当てるが中の声は聞こえない。たしか、窓が開いていたはずと、騎士は壁伝いに回って開いている窓の下に隠れてそこからこっそり中を覗き見る。はっきり言って怪しさ満点だが、騎士は気が付かない。
中でブラックスミスとプリーストが会い向かっていた。騎士からはブラックスミスの後ろ姿とプリーストの横顔しか見れない。
「・・・・・・なんだって?」
「もう一度言います。貴方には専属のプリーストがいないと聞きました。俺を専属にする気はありませんか?」
「・・・・・・・・・・」
ブラックスミスは小首を傾げる。だが、腰に手を当てて肩の力を抜いた。
「教会の聖歌隊に属するプリーストのグロリアは、唯の冒険者のものと比べものにならない祝福を与えるという。あんたの歌声は今まで聞いた誰よりもよかった。光栄というべきなんだろうな」
「ならっ」
「だが、あと2回手伝ってもらえれば、それだけでいい」
「・・・・・なんで・・・っ」
断られるとは思わなかったのだろう。プリーストは傷ついたような顔をした。だがブラックスミスは頭の後ろをかきながらため息をついた。
「お前こそ、何でこんなむさくるしい男の専属支援を買って出ようってんだ?」
「・・・・・・・・確認したかったんです」
「・・・・・・・・?」
騎士は目を見張った。
プリーストは歩み寄ってブラックスミスの前に立つと、腰に手を回して自分に引き寄せた。長身のプリーストは驚いて顔を上げるブラックスミスの口に自分の唇を重ねた。
ブラックスミスの手がプリーストの腕を掴むが、徐々に深くなる口付けに動けないようだった。
「・・・・・・・・・」
血の気が引くと言うのはこういうことなのだろうか。
騎士は唖然とする一方で、無意識に掴んでいた剣の柄を爪が白くなるまで握りこんでいた。
「・・・・・・ん・・・っ・・・・」
騎士にとっては長く感じた口付けも、漏れる吐息が終わりを告げる。
二人の顔の間に隙間が出来、ブラックスミスは一歩下がってプリーストから離れた。
プリーストは足元がおぼつかないのか、ガタッと机に寄り掛かって唖然とした顔でブラックスミスを見ている。どうやら足腰が立たないらしく、頬を染めて震えていた。
「・・・・・・・・・・」
一方のブラックスミスは口を手の甲で拭うと、目を細めてプリーストを見てにやりと笑った。
「坊やにはまだ早かったな」
「―――――っ!!!」
仕掛けたキスを返り討ちにされて、しかも冒険者としての経験も年齢もそれなりに重ねているにも関わらず子ども扱いされて、耳まで真っ赤にしたプリーストは悔しそうに歯を食いしばって工房から出て行った。激しいドアの開閉音に騎士の方がびっくりして窓辺に隠れるように座り込む。
ブラックスミスはなんでもないように首の裏をかいて結局閉まることのなかったドアを閉めた。

「・・・・・・・・・・・・・・」

格が違う。

壁に寄り掛かりながら騎士は剣を両手で握って思った。
これは、せめてチェリーのヘタが舌で結べるくらいにならないと太刀打ちできない・・・・・と。


そう思っているあたり手遅れなのだが、まだ騎士は気が付いていないようだった。





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