夕日の色





ブラックスミスは不機嫌だった。
何でこんなことにと思いながら、原因である師匠の顔を思い出し歯噛みする。
今日は工房の二階にある自室で読書をしようと思ったのに。ジュノーで借りた本は自室に積み上げられたまま、今自分はイズルードの海底洞窟にいた。
「えと、大丈夫ですか?」
「・・・・・・・こっちに構わなくていい」
ブラックスミスは海流で削れて丸みを帯びた岩に座る。
「ここで見てるから、適当にやってろ。30分したら帰る」
それで義務は終わるといわんばかりだ。せっかく一緒に狩りに出かけられたのになぁと騎士はちょっと拗ねる。
「本気でやる気ないですね」
「・・・・・・・作った後は興味無いんだ」
まったく戦う気もないブラックスミスに騎士は切なくなりながらも諦め気味にため息をついた。
こうして二人が狩りに出ているのは理由がある。今、騎士が持っている風のクレイモアはこのブラックスミスが作ったものだった。今日はその試し切りに来ているのだ。
『どうせならお前も一緒に行け。そいつに作ったのは既製品じゃねぇ、その騎士だけの剣だ。その場で調整してやるのも鍛冶屋のアフターサービスってやつだろ』
師匠であるホワイトスミスはそう言って、いやがるブラックスミスを騎士と一緒に工房からたたき出した。
高レベルのブラックスミスと、まだ駆け出しの騎士ではレベルが違いすぎるが、一応パーティを組んでここまできたのだ。しかし、ブラックスミスは一向に武器をもつ気配も無く、敵が沸いたら騎士に押し付ける勢いだった。
製造だからきっとか弱いんだろうなぁ・・・と思い、騎士は進んでブラックスミスを守るように動いていた。しかし、自分のレベルではまだちょっと囲まれると痛い。白ポーションいっぱい持ってきてよかった。
それに、このクレイモアの切れ味はすごかった。属性の相性がいいのもあるのだろうが、マルクや半漁人が自分一人でも狩れてしまう。何よりわずかなダメージでもちゃんと当たるのが嬉しい。
騎士はできるだけ一対一で戦えるように立ち回るが、急に横から沸いた半漁人とソードフィッシュに騎士は表情を険しくした。
「ツーハンドクイッケン!」
丁度切れたスキルをかけなおして、ブラックスミスに気が付いた半漁人を斬る。こっちに向かってくるモンスターたちに心持下がると、出来るだけ固めるようにして足を踏みしめた。両手で柄を握って騎士は自分の気を属性の力に添わせて振るった。
「ボウリングバッシュ!!」
気の塊が竜巻のような風になり、敵を巻き込み吹き飛ばす。
一度では倒れない。何度も繰り返し叩き込んで一匹残らず沈めた。さらさらと砂となって消える敵に、騎士は安堵したように頬をつたう汗をぬぐった。
ブラックスミスはそんな彼を手招く。
「貸せ」
見ているだけだったブラックスミスが手を差し伸べる。
騎士は握っていたクレイモアを渡して隣に座った。立て続けのスキルにかなり疲れていたのだ。
ブラックスミスはクレイモアの柄に包帯のような布を巻く。そしてしっかりむすんだ。ブラックスミスは刀身に走るわずかな戦闘傷に目を細め、そのまま騎士に渡した。
「持ってみろ」
「え・・・うん」
騎士は素直に握りなおした。すると、さっきまでと握る感じがわずかに違う。
「握りやすい・・・?」
「お前の手のでかさを考えてなかった。帰ったら柄だけ作り直してやる」
「え?どういうこと?」
「その柄じゃお前には細過ぎたんだ。だから余計肩に力が入ってた。それで振ってみろ」
「はい・・・・・」
丁度沸いたソードフィッシュに向かって剣を振り下ろす。するとさっきまでと違う感覚で剣が楽に振れた。
「うわっ」
ブラックスミスの言うことが理解できた。さっきまでの自分は確かに柄を握る手に力が入りすぎて肩にまで力が入っていたのだ。
自分の戦っている姿だけでそれを見極めるなんて・・・・。
騎士の中でブラックスミスへの尊敬度がまた一段と上がる。
「そろそろいいだろ。帰るぞ」
ブラックスミスは立ち上がる。騎士はクレイモアを鞘に収めてポーチから蝶の羽を取り出そうとした。
「っ」
岩場の影からブラックスミスの背後に寄ってきた半漁人に騎士が気が付いた時には、槍がブラックスミスのわき腹を掠めていた。
鮮血が地面を濡らす。
「っ!」
ブラックスミスは目を見張り、舌打ちする。
「やってくれる」
ブラックスミスはカートの持ち手を殴るように叩く。すると、てこの原理でしりが弾き上がったカートから一本の斧が宙に飛び出た。ブラックスミスが腕を伸ばし斧の柄を手の甲に乗せるようにすると、回転しながら斧はすんなりとその手の中に納まった。
その間に流れるようにラウドボイスからマキシライズパワーまでの戦闘スキルを使ったブラックスミスは、無表情で半漁人に向かって斧を振り下ろした。
「・・・・・・・・・・・」
重い一撃が半漁人だけでなく、地面を揺らした。半漁人が重圧に身体を揺らすのでそれがハンマーフォールだと騎士にはわかった。
ブラックスミスは意識の飛んでいる半漁人に何度も斧をふり下ろした。無表情な男の一方的な虐殺の図に騎士は唖然とする。半漁人の姿が消え、ブラックスミスはやっと肩の力を抜き、そして赤く染まるわき腹を押さえながらカートの中を物色し始めた。
「あ!こ、これ!」
我に返った騎士は慌てて持っていた白ポーションを出した。ブラックスミスは、カートの中にあるヒールクリップに手をかけながら目を丸くする。
「・・・・・・・・・・・・・」
騎士は心配そうにしながらも彼が手を離せないことに気が付いたのだろう。ブラックスミスが片手でも飲めるよう白ポーションの蓋を取ってもう一度差し出した。
「・・・・・・ああ。・・・・・・・・ありがとう」
ブラックスミスは、ヒールクリップをカートの下に隠して、それを受け取る。ポーションを飲むと騎士は嬉しそうに笑った。
「強いんですねっ。びっくりしました!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ブラックスミスは的確に急所を狙う戦い方で力のなさを補っていた。
きっと攻撃力重視なのだろう騎士を職業とする人間に言われると嫌味かと思うのだが、この騎士は本気でそう思っているようだった。ブラックスミスは嫌味の一つも言おうかと思っていた口を閉じる。
騎士は風のクレイモアを大切そうに触れる。
「俺もがんばりますっ!」

『自分ではまだこの刀に相応しいとは言えないかもしれないけど、それでもこの剣に相応しい騎士になろうと思います』

脳裏に浮かぶのは、先日の騎士の言葉。
「・・・・・・・・・・・・・・・帰るぞ」
調子が狂う。
ブラックスミスは蝶の羽を指先で割る。
騎士も慌てて蝶の羽を握りつぶすのがかろうじて見えた。
「・・・・・・・・・」


さっき見たクレイモアの刀身。
この騎士に渡したクレイモアはきっとこれからも傷だらけになっていくのだろう。
飾り物ではないのだからそれでいい。出来上がったばかりの美しさはなくなったが、傷だらけの刀身はそれ以上の輝きがあった。
自分の手を離れた武器が人の手によってかわるのを見て、ブラックスミスはホワイトスミスが自分とこの騎士とを狩りに行かせた理由がわかったような気がした。





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戦闘萌




















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