夕日の色






「・・・・こんにちは」
「・・・・こんにちは」

時間通りにブラックスミスの工房に来た青髪のプリーストに、先に来ていた騎士は軽く頭を下げた。
プリーストは何故ここに人がと怪訝な顔をしたがすぐに納得した。
「今日作るのはあなたの剣なんですね」
「はい。今日は宜しくお願いします」
騎士はそわそわする心を隠して礼をとる。
そこで奥からブラックスミスがやってきた。袖をまくりながらプリーストに声をかけた。
「今日はよろしく頼む。最初に鋼鉄を作って、その後にクレイモアを一本作る」
ブラックスミスは一日に作るのは一本だけと決めていた。それに拵えと研ぎもするので実際にはもう少しかかる。鞘は自分では作れないので知り合いの専門家に頼むようにしている。
ブラックスミスは炉の様子を見ながら必要なハンマーを並べていく。
「すまないな。火が馴染むまでもう少し時間がかかりそうなんだ。それまでコーヒーでも飲んでくつろいでてくれ」
ブラックスミスの言葉に、騎士はサーバーのコーヒーをカップに注いでプリーストに渡した。プリーストはためらいながら礼を言ってそれを受け取った。豆から挽いているのか香りがいい。
「・・・・・・彼とは昔からお知り合いなんですか?」
プリーストは伺うように騎士を見る。
「いえ。この製造を頼みに来たのが最初で・・・」
騎士がそう言うとプリーストは少し安心したようだった。
「お客さんですか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ええ、まぁ」
確かに今現在はそうである。
胸にどうしようもないもやもやはあるものの、まだそれを形にもできない今は。
「どうして彼に?」
「最初はホワイトスミスさんに頼んだんです。だけど、俺の注文を聞いたあの人が、自分より向いているのがいると言って彼を紹介してもらいました」
「何だ。そうだったのか」
作業しながら聞いていたのか、ブラックスミスが振り返る。
「通りで、師匠が最近よく来るわけだ。お前も最初にそれを言え」
「言う前に、製造材料を見てすぐに承諾した人は誰ですか。ちなみに俺は言ったんですよ?でもあんた材料を見ながらなんかトリップしてたし、こりゃ聞いてないかもなとは思ってたんですが・・・・本当に聞いてなかったんですね」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
半目で、あきれている騎士の言葉に、ブラックスミスはそっぽを向いてまたごそごそと鉄の数を数え始めた。おそらく決まりが悪いのだろう。
「あなたは・・・・その・・・」
騎士はどうしてこのプリーストが今回支援を志願したのか気になっていた。
キスを仕掛けてブラックスミスに返り討ちにあい、それでも懲りなかったということなのだろうか。それとも別に理由があるのか。
だがあれを見られているとは知らないプリーストは、自分と彼らの関係を聞かれているのだろうと思った。
「あのろくでなしホワイトスミスの支援をしているプリーストが、聖歌隊で俺の先輩だった人なんです。今はやめちゃったんですけど・・・・・それをいいことにあの野郎、先輩を独占しやがって・・・」
何かを思い出したのか青髪のプリーストはなにやら闇を背負って口元を引きつらせていた。
「プリースト・・・・。もしかして銀の髪の綺麗な人?」
そう言うとプリーストは髪を跳ね上げるように顔を上げた。
「そうっ。会いました?すごく綺麗な歌声の・・・俺の一番尊敬する先輩なんですっ!」
騎士はサラサラした髪の笑顔の綺麗なプリーストのことを思い出していた。年は20過ぎくらいに見えた。見た目このプリーストより年下に見えたが、先輩というのだから実際はもっと上なのかもしれない。
歌声は聴かなかったが、このプリーストがここまで惚れこんでいるのだ。きっとすばらしいものなのだろう。
嬉しそうに笑うプリーストの姿は、強い騎士にあこがれる自分と重なって見えた。とたんに親近感が沸いて、それから騎士とプリーストは肩の力を抜いて話すことができた。
話を聞けばレベルもそう違わないらしい。今度一緒に狩りに行こうかと話しているうちにブラックスミスの方も準備ができたらしい。
プリーストの支援を受けて慣らしに鋼鉄を作り、山のようにできたそれを更に選分ける。そしてブラックスミスは騎士に向かって手招きした。
「・・・・・・・・・ちょっとそこに立て」
「はい」
目の前に立たされ、緊張している騎士の方から指先までを見て更に指先から地面までの距離も目測で測る。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
正面からと横からと計り、すでに出来上がっている剣を両手で握らせてそれをまた見ながら頭の中で計算していく。
「・・・・・・・・水と風、どっちが使いやすい?」
前にイズルードの地下洞窟で柄を直してもらった後、戻ってすぐに水属性も直してもらった。
「水の方が・・・・振り回した時に力がのるというか」
「両方出せ」
騎士が差し出した剣を比べるように持ち、やがて納得したように鞘に収めた。
「あとで風も調整してやる」
「え、いえ。その、別に扱いづらいってこともないんで・・・」
騎士が慌てた様に両手を横に振るが、ブラックスミスが下から睨み上げるように見るので言葉を濁らせた。
「お、お願いします」
勢いに押されるように騎士は頭を下げた。
ブラックスミスは騎士にクレイモアを返す。
「そういやお前、武器を頼む時に師匠に何て言ったんだ?」
「・・・・・・・・・・」
ブラックスミスの問いに騎士はわずかに目を見開く。
そして表情を改めて言った。

「世界に一つだけの・・・・俺の命を預けることが出来る武器が欲しい」

「・・・・・・・・・・・・・・そうか」
一瞬黙り込んだブラックスミスは腰に手を当ててニヤリと口元を上げる。
皮肉気とも取れる笑みだが、ブラックスミスを知っているものであれば珍しく嬉しそうだと驚いたことだろう。

「造ってやる。誰でもない・・・・お前だけの武器を」

そしてそれはブラックスミスが始めて最初から目的を持って造ろうと思った武器でもあった。
製造で快感を得るブラックスミスが自慰のように造る剣とは違う。
適当に露天に並べて売るものとは違う。

本当に唯一、この騎士が持つためだけの武器を。
















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